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【書評】「重ね塗り」の暗澹
■鉄道ジャーナルNo.432(平成15(2003)年 8月号)「こちらジャーナル編集室」より
(No.474(平成18(2006)年 4月号に再掲)
カタカナ文字の氾濫と本誌の反省
(前略)
次にこれは民間の例ですが、先日、私の住んでいる大衆マンションで「エキスパンジョンジョイント工事」という表示が出されました。外来語辞典を見ても意味がわからず、なんの工事だ!?と管理人に問い合わせたところ「廊下の補修工事」とのこと。外来語のカタカナ表記の弊害はついにここまで及んだか!と、慄然としました。
(後略)
■コメント
この文章が掲載された当時にも強い驚きを感じたものだが、さらに 3年近くを経て再掲されるとは、まったく想像もできなかった。外来語由来のカタカナ表現氾濫を憂う本旨についてはひとまず措くとして、引用した箇所には驚きあきれたものだし、再び掲載するという神経の太さにはもはや言葉を失うしかない。
「エキスパンジョン・ジョイント」とは、要するに「伸縮継目」のことである。橋梁・高架橋構造で一般的に使われているもので、特に道路で幅広く使われている。鉄道の世界ではレールがつながっているため本体構造でこそ例が少ないものの、高架コンコースなどではよく見られるものである。
何故敢えて「エキスパンジョン・ジョイント」を「伸縮継目」と呼ばないのか、と指摘するならば、本旨によくかなう話題であったといえる。しかし、引用文の著者は明らかに「エキスパンジョン・ジョイント」という言葉を知らなかったし、自ら調べて、管理人に教わってもなお正解に辿り着いてはいない。その点に筆者は驚きを覚えたものだし、再掲されたということは今日でも同じ認識にとどまっているとしか考えられない。恥を「重ね塗り」しているという自覚があるならば決して再掲などしないだろうし、少なくとも改稿くらいはするだろう。
引用文の著者は「鉄道の将来を考える専門情報誌」の編集長、であるならば少なくとも「趣味誌」の編集者より広い知見が求められるはずだが、現実には「エキスパンジョン・ジョイント」という用語を知らなかった。この一事のみをとりあげる批判は避けるべきだとしても、この一事が示唆する背景は存外深いと指摘しなければならない。詰まるところ、列車・車両・営業という「鉄道趣味の本流」を逸脱した領域に対する関心の薄さが透けて見えるのである。以前本稿で採り上げた
「胸をはってクルマに乗れますか?」
に見られる興味や視点の幅広さと比べると、相当な懸絶があるといわざるをえないところだ。
鉄道ジャーナル誌は昭和50年代に先進的かつ充実した内容の記事を多数世に問うていたものだが、国鉄分割民営化前後に息切れし、近年では往年の輝きはまったく失せ、精彩を著しく欠いている。この凋落ぶりは第三者的には不可思議なほどだが、引用記事の内容、そしてそれが再掲された現実を見ると、「趣味誌」が「趣味誌」から脱却するのはよほど困難であると思い至ってしまい、暗澹たる気分を抑えられないのである。
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