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平成29(2017)年・交通とサッカーの論点
■天皇杯決勝戦をTV観戦して
平成28(2016)年サッカーJリーグのシーズンは、新年明けて平成29(2017)年元旦の天皇杯決勝戦を以て完了した。決勝戦のカードは鹿島アントラーズ対川崎フロンターレ。未だ無冠のフロンターレを応援しながらも、「やはりアントラーズは強いのだろうな」と予感したとおりの結果に終わった(苦笑)。
アントラーズはJ1を制したばかりか、その後FIFAクラブワールドカップにて決勝進出を果たし、かのレアル・マドリード相手に一時は勝ち越すという大善戦を示した。前年のサンフレッチェ広島三位も素晴らしい躍進だったところ、日本のチームが準優勝とは実に感慨深い。開催国枠に助けられているとはいえ、日本のチームの強さが示された。
ともあれ、平成28年は鹿島アントラーズの年だった。
平成28年は、鉄道の世界では北海道新幹線開業とJR北海道経営悪化問題以外に大きなエポックがあったとはいえない。そのため、サッカーと交通に話題を敢えて絞っておく。いささか時期外れの話題提供と自覚しつつ……。
■J1チームの変調【名古屋編】
Jリーグ平成28(2016)年シーズン大きな話題の一つは、名古屋グランパスのJ2陥落である。グランパス陥落により、J1オリジナル10のうちJ1の地位を維持し続けているチームは鹿島アントラーズと横浜マリノスの二チームだけとなった。
名古屋グランパスは平成22(2010)年シーズンに初優勝を果たしている。当時の監督はピクシーことドラガン・ストイコビッチで、人気とカリスマ性は絶大だったものの、 6年間(平成20〜25(2008〜2013)年)務めた任期の後半にはすでに綻びが顕在化していたという。
しかも近年、親会社(トヨタ自動車)がチーム経営に積極的に関与するようになったという。それじたいは会社経営の姿としてはよくある話としても、現場派と親会社派で軋轢が生じ、弊害が大きかったと伝えられる。複数の報道を総合すると、名古屋グランパスでは経営の迷走というよりむしろ、現場(選手・スタッフ)の心を経営陣がとらえられず、現場の士気低下を招いたように見受けられる。
闘莉王に対する待遇が典型例といえよう。シーズン途中にJ2陥落の危機に直面した際、闘莉王を地球の反対側から呼び戻し、獅子奮迅の奮闘をさせながら、J2陥落後は契約を打ち切るという仕打ちに出た。
筆者は闘莉王をあまり好きではないし、J2陥落した以上は従前の色彩を払拭したいとの経営意図はいちおう理解できる。それでもなお「闘莉王への仕打ちは酷い」と受け止めざるをえない。理を重んじる筆者にして、この情には納得しがたいものがある。
否、情実に基づく理念なき御都合主義の放漫経営が行き着いた先、と表現するのがより正確か。闘莉王が平成27(2015)年シーズン末で退団となったのは、経営サイドから見て「必要な選手」ではなくなったから(具体的な理由は推測が多くなるので控える)。その闘莉王を呼び戻したのは、J2陥落の恐怖にとらわれた、まさしく御都合主義の弥縫策。結果としてJ2陥落後、闘莉王は改めて「不必要な選手」の地位に戻った、ということであろう。
理詰めで考えれば、経営サイドはあんがい合理的に動いていることが理解できる。とはいえ、振り回される選手側はたまったものではない。好悪を措いて闘莉王には同情する。新天地京都サンガでの活躍を願う。
■J1チームの変調【横浜編】
名古屋グランパス以上の不協和音が聞こえてくるのが横浜マリノスだ。平成26(2014)年以降、シティ・フットボール・グループ(CFG)が経営に参画するようになり、経営のトーンがだいぶ変わったと伝えられる。
有力選手の流出が続くなか、中村俊輔のジュビロ磐田への移籍には驚いた。中村俊輔は横浜マリノスで選手生活を全うする、と誰もが思っていただろうから、移籍を決断させた要因にはかなり重いものがあったのだろう。中村俊輔本人のインタビュー記事を見ると、横浜マリノスの現場の雰囲気が大きく変わっている様子がわかる。
残った選手を見渡すと、中澤・栗原のような大ベテランのほかは、中町・扇原・伊藤ら若干名の中堅選手が目立つ程度、大部分の選手が20代前半か10代という、ずいぶんと若いチームとなっている。若い選手が伸びれば凄いことになるが、そうでなければ低空飛行を余儀なくされる陣容といえよう。
最大の不安要因は「背番号1」が今も不在という点。正GKを定めていないとは尋常でなく、他チームのGK陣と比べだいぶ遜色ある。特に中澤・栗原を負傷等で欠いた場面において、守備陣崩壊(失点急増)が容易に想像できてしまう。堅固な守備陣はJ1残留の必須要件であり、現状はきわめて心許ない。
横浜マリノスは現状をどう考えているのか。J2陥落の危険を冒しながら、敢えて若手育成にシフトする、……とまで思い切っているならば、尊重すべき見識ではあるのだが。J3にU-23チームを参加させていない現状では説得力があるとはいえない。
来期以降の横浜マリノスの行く末には要注目である。
■J1チームの変調【浦和編】
わが浦和レッズはまたしてもJ1優勝を逃した。ルヴァン杯で優勝したとはいえ、年間勝点一位のJ1において優勝を逃したのは実に痛い。昨年までのような「失速」ではないとはいえ、応援する側からすれば切ない状況である。
しかも浦和レッズは体制を大きく変えないという。ペトロヴィッチ監督は六季目に入り、有力選手の流出・引退はなし。オナイウ阿道とラファエル・シルバが加入するほか、矢島慎也が岡山から復帰する。ほとんど二チームを構成できるほど豪勢なメンバーといえるが、ACLまで勝ち抜こうと考えればそれでもまだ心許ないくらいだ。
相変わらず手堅いチーム編成ではある。しかしながら「高止まり」状態ともいえ、今後の上積みまで期待できるのかどうか。昨年も論評したとおり、官僚的な硬直を感じざるをえない。チームの親会社は変わったといいながら、三菱グループの本質は変わらない、というべきか。
そうはいっても、浦和レッズのチーム編成はJ1屈指のレベルにある。他チームを応援する側から見れば、贅沢な悩みといえようか。とはいえ今年は正念場。J1・ルヴァン杯・天皇杯・ACLいずれも無冠に終われば、何かを変える必要に迫られるはずだ。手堅さからだけでは最上の成果は生まれないことはここ数年の実績が物語っている。浦和レッズの場合はむしろ、変調してほしいものだが……。
■交通との関連
本稿で言及した三チームは、いずれも自動車メーカーを親会社としている点が共通している。……否、「共通していた」と過去形にしなければならない。
過去記事でも言及した
とおり、浦和レッズの親会社三菱自動車は燃費データ偽装が発覚し、過去の不祥事の上に更なる不祥事を重ねてしまった。三菱自動車は、何故か日産自動車の傘下に入り、二つのクラブを一つの親会社が保有する形になることから、浦和レッズの親会社は三菱重工業を中心とする持ち株会社に移行した。
それゆえ「交通とサッカーの論点」という表題を掲げることにしたわけだ。とはいえ、今まで記したとおり、浦和レッズ親会社から三菱自動車が退き、名古屋グランパスがJ2陥落したまま定着し、さらに横浜マリノスまで低迷におちいるようだと、J1から自動車メーカーの色が消えていくことになる。ちなみに、サンフレッチェ広島は平成24(2012)年に99%減資及び第三者割当増資という破綻清算に近い措置を経て、マツダの株式比率は16.7%となり、前身である東洋工業の色はすっかり消えている。
Jリーグの背景から自動車メーカーの存在感が薄らいでいくとすれば、何やら示唆的ではある。ただし、それが良いことかどうか、筆者にはまったく判断がつかない。
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