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書評(平成18年09月28日)

『南極大紀行』(NHK「南極」プロジェクト編著・NHK出版)

『南極からのメッセージ—地球環境探索の最前線—』(NHK出版編) は、この書評の下にあります。
  実は、私はNHKスペシャルで2003年7月に放送されたというこの番組を再放送も含めて観ていない。宣伝していたのは知っているが、もともとあまりテレビを観ない(ここ数年一日平均1時間以下ではなかろうか)ので当時は特に観ようとも思わなかった。
 
 先日(中能登町鹿島)図書館で、ペラペラこの本を斜め読みしているうちに、興味が沸いて借りてきて、読んだという次第である。

 NHKの「南極」プロジェクトのメンバーが主な執筆者(12人中9人)である。残りは実際の第44次越冬隊の隊長と副隊長、それに総括として国立極致研究所所長が執筆している。
 本の末尾で執筆している国立研究所所長とNHKのプロデューサー以外は、実際に南極へ行った人々で、彼らが、それぞれレポート提出したような形でこの本は纏められている。

 私は、NHKの放送の方を観ていなかったので、この本で初めて知ることが多く、驚きが結構あった。
 小学生の頃、アムンセンとスコットの南極の探検を描いた伝記を読んだことがある。また小学校だったか、中学校だったかの教科書で日本の観測隊が初めて南極点到達した時のドキュメントが載っていたのを覚えている。今回、この本を読んでまず感じたのは、現在の南極観測はその頃と随分変わってしまったのだなー、という事だ。

 今では南極点にアメリカの基地が出来て、しょっちゅう飛行機で行き来しているらしい。観光もできるというのは驚きだった。また夏の人口が約1100人いるとかいうアメリカのマクマード基地は、ボーリング場や教会、床屋、病院、消防署、銀行のキャッシュコーナーまであるという話だった。いかにもアメリカらしく感じた。

 日本の観測隊の様子も、実際の隊員やNHKの取材班のレポートで、その日常活動まで含めてよくわかり、良かった。日本が昭和基地以外にも、南極の奥地の山頂に「ドームふじ観測拠点」を設置し、極寒の中、8人の日本人が詰めて観測しているのには「あー日本も意外と頑張っているんだ」と感心させられた。

 また家のような雪上車や橇で何十台もの隊列を組み移動する最新鋭重機による物量作戦のアメリカと、まるでスコット隊の時と、大して差がないのではと思われるイギリス、ノルウェー、スウェーデン協同のBAS隊の装備の違いなども面白かった。

 BAS隊の基本人数は、2人だそうだ。NHKが観測模様の同行取材をした時は、その2倍の4人だったが、科学者とその案内者というコンビが基本で、少数精鋭で数十もの隊を各地に派遣して多くのデーターを得ようとするイギリス人の隊には、完全にアメリカとの思想の違いを感じた。

 「伝統は安全なり」と言ってはばからない。スコット隊の時との違いは、犬橇が、スノーモービルに変わり、パソコンや少しコンパクトな観測などに使う機器類があるだけ。橇や箱まで昔ながらの木製だったりする。またテントも、昔ながらの三角テントやランプ兼暖房。それでいて最新の道具より使い心地や居心地が良かったりするという。何ともイギリス人らしい感じがした。植民地時代、植民地で色々苛斂誅求ともいえる圧政を行ったイギリスではあるが、日本人にもアメリカ人にもない、尊敬できる面はやはり多々あるなーと感じた。
 
 南極の積雪だが平均2450mもあり、それがそれ自身の重みで徐々に流れて海の方へ移動しているそうだ。南極点も、毎年正月に計測しなおすそうで、その度に記念のポールを建てているそうだが、毎年約10m移動しているという。海の近くの流れの速いところでは毎年何百mも流れているという。そして大きな湾などで棚氷として海を覆い、その棚氷の下からは冷やされて比重が重くなった海水が物凄い勢いで、海底を北へと流れているという。それが地球温暖化に一役買っている、などという話なども面白かった。

 その他にも、オーロラ、オゾンホール、南極周極流、海中の生物の話、カバト風やブリザードなど風の話などなど色々出てきます。複数の隊員によるレポートなので重複する話もありますが、内容が面白いので、飽きません。
 

南極からのメッセージ —地球環境探索の最前線—』(NHK出版編)

   この『南極からのメッセージ—地球環境探索の最前線—』(NHK出版編)は、先にあげた本(『南極大紀行』(NHK「南極」プロジェクト編著・NHK出版))と重複する内容が多い(文章は同じではないが)。
 先にあげた本が、南極の現地からのレポートが多く、自分が取り組んでいる仕事内容や特異な南極生活体験報告といった生の南極というか新鮮な感覚に溢れていたが、こちらは、普通の南極の紹介といった感じがする。

 でも続けて2度読んだので、復習のような感じで、良かったと思う。

 ここで南極について、理屈を説明されればわかるが、なかなか常識では理解できない南極の不思議な現象を幾つか紹介したい。
 ●南極点では、一年のうちに日の出日の入りは各一回で一年の半分は昼、残りの半分は夜。その上、太陽が登っている半年は、太陽は水平線を水平に時計と反対周りで移動するという。帰納的に考えれば、確かにそうなるかなとは分かるが、なかなか常識的には気づかない事である。

 ●ウイルスが外気では絶対生存できないので、少人数の隊では、最初のうちは風邪が発生しても、しばらくすると風邪は発生しなくなるという。つまり少人数が持ち込んだウイルスしかなく、しばらくすると全員に抗体が出来、免疫がつくからだという。

 ●大気は湿度5%ほどで、大気中にほとんど不純物はないため、晴れた日は遠くまで見渡せ、数十キロ先にある高い山もすぐ近くに見える。また南極には臭いというものがほとんど無い。などなど。まだ勿論色々ある。

 また南極が北極以上に寒くなった理由などもなるほどと思わせた。南極が1億5千年ほど前だったかに、他の大陸から切り離され、それ以降南極の周りをまわる南極周曲流という風が吹き、海にも気温の壁ができ、北からの暖かい風や海流が南極の側までこれなくなる。これによって急激に気温が下がり、南極の気温が下がる。なおかつ氷の大陸になると、ただでさえ日射量が少ないのに光を多く反射してしまう。また平均積雪量2450m、場所によっては標高4000mほどあり、高地であるので、なおさら気温が下がる・・・・・etc。
 
 人によっては、「まだ南極観測をやっていたの」という声もあるそうだが、そんな馬鹿な事を言う視野の狭い人など気にせず、地球のために、日本のために、南極観測を今後も続けていってほしいものだと思いました。
とにかく前掲の本を含めたこの2冊を読めば、南極について現状がよくわかります。また地球の将来、現状、未来について、南極から多くのことがわかるという事が、非常によくわかります。皆さんも、この本を読んで、南極のことや地球環境保護について考えてみませんか。

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