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書評(平成19年06月26日)

『蒙古襲来−海から見た歴史』
(白石一郎著・講談社文庫)

(付属)最近立て続けに読んだ蒙古襲来関係本5冊の簡略紹介

 最近、蒙古襲来関係の本をよく読む。先日も続けて5冊その関係の本を読んだ( この頁の下の方で紹介 )。
 蒙古襲来は、日本にあって未曾有の事態であっただけに、昔の日本人がどう対処したかなど非常に興味あるテーマである。白村江の戦いという外的の脅威から6百年ほど経過して、国際感覚も無くなり、平和ボケしていた鎌倉時代の日本の危機という点では、現代でも非常に参考になると思う。

 著者の白石一郎氏は、私が好きな作家の一人でもある。彼の他の蒙古関係本、例えば『蒙古の槍−孤島物語』(文春文庫)、『玄界灘』(文春文庫)なども読んでいる。白石氏自身、1931年韓国釜山生まれで、その後元寇の2度の襲来を受けた壱岐(福岡県)で育ったようだ。今回の本は小説ではなく、歴史読物である。歴史専門書ほど難しくはないし、蒙古襲来の歴史入門書としても最適ではないだろうか。日本史を履修している高校生なども、参考になる。教科書や参考書程度で満足せず、是非この程度の本を積極的に読んでほしいものだ。

 この本は、蒙古襲来の歴史読物であるが、その背景を説明する必要もあり、蒙古サイドでは、匈奴の勃興から説きおこし、日本サイドでは鎌倉幕府の成立から説いている。歴史上の重要な事件を非常に上手く纏(まと)めてあり、滑らかに読める。歴史読物なので創作部分は少ないが、結構面白く仕上がっていると思う。

 白石氏の考えとしては、文永の役は、戦いの最中暴風雨は吹き荒れた記録は無いとしていることだ(勿論他にもこのような指摘を言う人がいるから、氏も賛同し述べているのだろう)。蒙古が風波の災難に見舞われたのはその帰路のことであり、日本での陸上戦とは関係ないとしている。
 またIFの歴史が許されるとするならば、暴風雨が吹かなくとも、蒙古襲来は結局失敗したのではないかという考えを示している。たとえ九州を一時的に占領できても、補給など続かず蒙古は最終的に敗退しただろうという考えだ。
 文永の役で戦いの最中風が吹いたかどうかは、私はまだ勉強不足で何ともコメントできないが、白石氏のIFの考えは、私も全くの同感である。
 
 平和ボケになり国際感覚も戻ったとは到底いえぬ現代日本にあって、この蒙古襲来の歴史を、一人一人の日本人が自分なりに見直すことは、非常に大事なことだと思う。蒙古襲来に関わらず、戦国時代、幕末、日清・日露戦争、太平洋戦争など歴史を学んで、その原因・経過・結果・意義などを自分なりに深く考えてみることは、現代日本人に必須なことだ。

 最近の日本の若者の学力不足が叫ばれるが、何も数学など理系的能力や、国語力(漢字知識や読解力など)、英語力だけでない。非常にまずい事態は、歴史をよく知らない人間が増えたことである。歴史が教養の基礎にない人間は、思想的に非常に浅薄なものを感じる。近頃の評論家がどうも、その学識など浅く感じるのは多分に歴史的視点を昔の思想家と呼ばれる人ほど持っていないからではなかろうか。そもそも現代の評論家で思想家と呼べるほどの人もいなくなったと思う。

 もはや国際感覚ではなく、環境問題なども含めた国益を超えたグローバル(地球的規模)な視野と、なおかつ貿易など日本の国益も見据えた思想をもった人材を養い確保するに事が、将来の日本の繁栄のために必須事項である。そのためには、何度も言うが鋭い歴史的視野を持った人間を育てることが、条件の1つであり、そのために是非とも多くのこのような歴史本を読んでもらいたいと思う。

 また歴史教育は、歴史を単に暗記するのではなく、もっと本を読ませ感想を書かせたり、自主的に調べさせたりといったことを行うべきだ。たとえば私がやっているように地元史も調べだし学びながら、郷土の一連の事件の日本史全体におけるその意義などを考えることにより、歴史のダイナミズムを改めて実感することが出来ることがある。現代の歴史教育の改革としては、たとえばそのようなことをやってほしいと思う。

 本の紹介のはずが、話がほとんどこの本の内容自体とは違うことを書いてしまった。とにかく日本の歴史を見直す上では、手ごろでいい本です。勿論お薦めの一冊です。 


  (上記の本以外で、最近読んだ蒙古襲来ものの本)

 ●『蒼き海狼』(火坂雅志著・小学館文庫)
 北条氏に滅ぼされた三浦一族の支族・朝比奈三郎義秀が、鎌倉さらには日本を追われ朝鮮の耽羅島(済州島)にわたる。しかし元のフビライが高麗を征服、反抗を続ける三別抄の軍は、耽羅に拠って最後の抵抗をするがそれも潰える。朝比奈義秀の孫・朝比奈蒼二郎は、三別抄に味方し父と戦うが、父は戦死し、彼は捉えられて造船所で働かされる。隙をみて逃げ、鎌倉の地までくるが、祖先の国も彼を反乱者の子として扱い、捕らえる。斬首される寸前のところを平頼綱に助けられ、謀者として大陸に渡る・・・・
 流鬼国(カラフト)や大越((北)ベトナム)や占城(チャンパ(南ベトナム))までも舞台となり、世界史的なスケールで描かれいる。弘安の役以後の動きもよく描かれていて、ベトナムでの戦いも結構詳しく非常に勉強になり、面白かった。

 ●『元寇』(伴野朗著・講談社文庫)
 伴野氏は、北条時宗が国際常識・国際感覚に欠けており、たとえば国書というものに対してきちんとした対応をすれば、日本は元と戦争することなく元と戦いをせずに付き合うことができたのでは・・・・といった考えを示しているが、私はこの考えには全然同意できなかった。別に作家としては嫌いなわけでなく、過去にも何作も伴野氏の作品を読んでいるが、この作品に著された考え方だけはどうしても納得がいかなかった。

 ●『蒙古襲来』(菊池道人著・PHP文庫)
 元寇で有名になった肥後の国の御家人竹崎五郎季長とその兄(架空の人物)竹崎四郎季光が活躍する小説。この小説の中では、竹崎季光・季長は、領地を持たない無足御家人となっており、長兄の竹崎太郎経時だけが(ほかの二兄はすでに死亡)領地を持つ御家人としてでてくる。

 ●『風濤』(井上靖著・新潮文庫)
 これも以前一度読んだ本である。再度読んでみた。主に高麗の側から見た目で描かれており、当時の高麗の悲惨な状況もよくわかった。史実にもおそらくかなり忠実で、多くの事件が盛り込まれているようなので、読むのはこれで2度目ではあるが、かなり勉強になったように思う。しかし朝鮮の悲劇が、日本のせいだとするのは大きな間違いだろうと自分では思った。

 ●『北条時宗』(浜野卓也著・PHP文庫)
 まあまあの内容。日蓮については、以前からの考えと変わらないが、どう考えても私はペテン師としか思えない。こちらの作品は菊池氏の『蒙古襲来』とは違い、竹崎季長は少ない土地ではあるが最初から土地持ちの御家人として出てくる。いったいどちらの方が正しいのだろうか?
 上の何作かには、一遍上人なども登場する。最近は時宗にも興味が出てきた。そのうち彼に関しても読んでみるつもりでいる。

 私は蒙古襲来に関しては以前も何作も読んでいる。これら以外でお薦めなのは、海音寺潮五郎の『蒙古来る』(文春文庫)山田智彦の『蒙古襲来』(毎日新聞社)である。
 山田智彦氏も日蓮宗門徒なのかかなり日蓮びいきの描き方がしてあった記憶があるが、僧侶関係の情報網で仕入れた蒙古襲来の可能性の情報を元に、わしの教えを聞かなかったら、蒙古襲来など天罰があたると民衆を脅しながら教線を広げる姿は、私としてはどうしても宗教者として信用できないものがある。

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