このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

人事システム殺人事件 〜複雑な連鎖〜


ちゃんちゃらおかしいぜ。

何が面白くてこんな仕事をしなきゃならねえんだ。

ったく、残業、残業、徹夜、徹夜、休日返上で働きづめ。

やつらは好き勝手言うし、うちのお偉方さんは無関心と文句だけ。

きっと、この恨みいつか晴らしてやるぜ。

一生、このことは忘れないからな。

そして、この仕事で出会った思い出と、様々な人たちのことも、

決して忘れない。いつまでも。



プロローグ


 明るく真っ白な壁で統一された、清潔感のあるオフィス。その三分の一ほどをガラスで仕切った一角には、真ん中と隅にテーブルが置かれ、その上にはコンピュータのディスプレイとキーボードが整然と置かれている。窓際には大きなプリンターが設置され、反対側には細長い事務用ロッカー。どの端末の前にも人が座り、これ以上物が置けないくらい、端末と端末の間には資料が積まれている。
 部屋の中はキーボードを叩く音と資料を捲る音、そして、時たま動くプリンターのガッガッガッという音しか聞こえず、会話もほとんど無い。誰もが黙々と仕事をおし進めている。
 その一種の静寂を破るように電話が鳴った。今時存在するだけでも珍しいベージュ色のダイヤル電話だ。電話の側にいた石川が受話器を取り対応した。
「土田君、下から電話」
「はい、すいません」
 土田と呼ばれたが男はそう答えながら、キーボードのキーを一つ叩いた勢いで、席を立ち受話器を受け取った。
「もしもし、土田ですが・・・・・・はあ・・・・・・」
 その時、室内の電灯がいきなり消えた。
「ごめんなさい」という、土田の言葉と共に再び明かりが灯った。
 電話のある入口のところにこの部屋の電灯のスイッチがあり、もたれ掛かった土田の肩がそれを押してしまったのだ。
 誰もかも土田を一瞬凝視したが、よくあることなので、恥ずかしそうに頭をかく土田の顔を見て、皆仕事に目を戻した。
 笑っていた土田の顔が急に険しくなり、声をひそめだして、他の人に顔が見えないように立っている向きを変えた。
 何気なく見ていた佐藤寿晃は、何だろうと思いながらもディスプレイに表示されたバグに意識を引き戻した。
 一分かそこらで土田は電話を切り席に戻った。しばらく、何かを考えているようだったが、スーッと席を立ち部屋を出ていった。誰もそのことを気に留めている様子はない。
 佐藤はバグの一つを修正し終え、一時、気を抜いた。そして、空腹感を感じ、時計を見て夕食にでもしようかと思い、連れの土田を探したが、部屋にはいないことに気付いた。さっき、出ていったような気がしていたのだが、トイレだと思っていたのだ。下にでもいるのかと思いエレベータで降りてみることにした。
 十一月十一日、月曜日、午後五時四七分。いつもと変わらない一週間の始まりと、誰もが慣れた日常の日々と思っていた。しかし・・・・・・。

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