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 意味のない遊びというのがある。
 ある、はずである。
 今年の夏、友達と四人で湘南の海岸に遊びに行った時。
 砂浜で昼食をとり、午後の眠気が襲う頃、日焼けがてら横になった。
 横になったのは、僕ではない。友人である。僕は布団に入らないと眠れないからだ。
 皆が横になったので、僕は手持ち無沙汰になった。
 こういうときに限ってたいてい悪戯心が沸沸と沸いて来るのが、僕の悪い癖だが、あまり他人が不快になるような悪戯はしないので、未だ救いようがある。
 砂浜なのだが、石ころが多く、海に浸かるとごろごろしていて躓きそうになる。
 勿論海水の届かない縁の部分もそうなのだが、このあたりに転がっているのは主に泥岩である。
 高校で地学を学んだ人は御存知だろうが、泥岩は堆積岩の一種で、最も粒子が細かいものである。砂岩、礫岩、の順に粒子が粗くなっていく。
 粒子が細かいので、少々強い衝撃を与えただけで、ぼろぼろ、と崩れる。
 掌も粉塗れになる。
 「泥岩だな」僕が、ぼそ、と呟く。
 傍らに横たわっている友人が、まどろみ乍ら、くす、と笑う。

 * * *

 数分後、男四人が湘南の海岸で、円座になって泥岩を砕いている。
 黙々と平岩に泥岩を撃ち付ける。
 ぼそぼそ。ぼそ。ぼそぼそ。ぼそぼそぼそ。ぼそ。ぼそぼそぼ。ぼそぼ。
 白い粒子が、もくもくと辺りに立ち込める。
 夏の陽を浴びてきらきらと煌きながら、白煙が大きな空へと立ち昇る。
 僕らは見えなくなる。
 真っ白になる。
 そして虚無になる。

 「違い棚ゲーム」というのがある。
 その前に、「違い棚」を説明しなければなるまいが、これは書院造りなど、日本の代表的な和室に度々存在する。
 室の壁を挟んだ柱と柱の間に、丁度柱と垂直になるように長板を取り付ける。
 こうである。
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 この時、気をつけなければならないのは、この長板を、決して反対側の柱と結んではならないということである。次の工程に移る。
 今度は、先に取り付けた板と、異なる高さで、反対側の柱から同じ様に板を取り付ける。するとこうなる。
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 あとは、柱側を始点として、双方の長板の終点にあたる位置から、両長板に対して垂直に、即ち、柱とは並行に板をあてて、長板同士を結ぶ。
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 完成である。実際には、柱に垂直な長板の上に、壷等を置いて楽しむ。遊び心を存分に含んだインテリアだが、棚としての、実用的な強度には疑問がある。
 不安である。三〇吋型テレビなどは置けまい。

 話を元に戻す。「違い棚ゲーム」とは、この違い棚の様に、紙の上に鉛筆で只管、違い棚を造ってゆくゲームである。何人ででも遊べる。
 まず紙に、鉛筆で柱にあたる、平行な二本の直線を引く。
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あとは、只管、違い棚を、造る。造る。
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 賢明な読者諸氏はもうお気付きであろうが、実はこのゲームには終わりがない。
 つまりこれはゲームとは言えないのである。
 しかし、誰かが終り方を考えてくれれば、これはゲームに成り得る。
 つまり、将来的にはゲームとなる可能性があるのだ。
 未来的にゲーム、である。

 ……いいのか、こんなんで。


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