このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


 カメレオン(2003.03.11)
 父親が息子に買いあたえた、
 七色の鉛筆。

 息子はたいへん喜んで、まいにち画用紙に絵を描いた。
 それは、息子のいる部屋の窓からみえる、外の風景。

 太陽。空。雲。鳥。樹木。花。土。

 息子は、同じ風景の同じ絵を、飽きもせず、
 まいにち、まいにち、描きつづけていたが、
 どの絵も、同じ風景なのに、あきらかに違っていた。

 一日目は、太陽が緑色で、空が白。雲が黄色で、鳥が青。樹木は黒くて、花は茶。赤い土。
 二日目は、太陽が茶色で、空が黄。雲が青くて、鳥が緑。樹木が赤くて、花は黒。白い土。
 三日目は、太陽が黒くて、空が茶。雲が黒くて、鳥が赤。樹木が白くて、花は緑。青い土。
 四日目は、……

 ある夜、息子がふと目を覚ますと、机の上の色鉛筆が。
 箱のすき間から洩れ出る、まばゆい光り。
 息子は、おそるおそる近づいて、そっと箱のふたを、とる。
 部屋にあふれる、光り。

 やがて、光る鉛筆の一本が、ゆっくりと宙に浮き、窓のところへ動いていった。
 鉛筆が窓に当たるか否かで、いちめんに光りを放って、
 窓のそとに、一匹のカメレオンがあらわれた。

 机の上の鉛筆は、一本いっぽん宙に浮いて、窓のところで光り、
 たちまち窓には、七匹のカメレオン。

 息子はしばらく驚いたようすで、
 七色の鉛筆が化けたカメレオンを眺めていたが、
 七匹のカメレオンが、まったく同じだと知ると、
 ひとつあくびをして、また布団に潜って、眠ってしまった。


 息子は色盲で、色の区別がつかなかったのである。


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