このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
父親が息子に買いあたえた、
七色の鉛筆。
息子はたいへん喜んで、まいにち画用紙に絵を描いた。
それは、息子のいる部屋の窓からみえる、外の風景。
太陽。空。雲。鳥。樹木。花。土。
息子は、同じ風景の同じ絵を、飽きもせず、
まいにち、まいにち、描きつづけていたが、
どの絵も、同じ風景なのに、あきらかに違っていた。
一日目は、太陽が緑色で、空が白。雲が黄色で、鳥が青。樹木は黒くて、花は茶。赤い土。
二日目は、太陽が茶色で、空が黄。雲が青くて、鳥が緑。樹木が赤くて、花は黒。白い土。
三日目は、太陽が黒くて、空が茶。雲が黒くて、鳥が赤。樹木が白くて、花は緑。青い土。
四日目は、……
ある夜、息子がふと目を覚ますと、机の上の色鉛筆が。
箱のすき間から洩れ出る、まばゆい光り。
息子は、おそるおそる近づいて、そっと箱のふたを、とる。
部屋にあふれる、光り。
やがて、光る鉛筆の一本が、ゆっくりと宙に浮き、窓のところへ動いていった。
鉛筆が窓に当たるか否かで、いちめんに光りを放って、
窓のそとに、一匹のカメレオンがあらわれた。
机の上の鉛筆は、一本いっぽん宙に浮いて、窓のところで光り、
たちまち窓には、七匹のカメレオン。
息子はしばらく驚いたようすで、
七色の鉛筆が化けたカメレオンを眺めていたが、
七匹のカメレオンが、まったく同じだと知ると、
ひとつあくびをして、また布団に潜って、眠ってしまった。
息子は色盲で、色の区別がつかなかったのである。
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