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 港湾改革・ニッポンの夜明け(全)(2003.10.27)日本経済新報(朝刊)平成15年10月24日付け
=郵船のコンテナターミナル改革=

 東京港・大井埠頭。バース沿いの大通りには様々な色のコンテナを積んだトレーラーが行き来する。品川方面からこの通りに入ると左側には各船会社の所有するコンテナターミナル(CT)が軒を連ねている。“K”LINE(川崎汽船)、商船三井、そしてその奥には日本郵船「東京コンテナターミナル」が275,400平方メートルもの広大な敷地を構えている。
 通りから敷地内に入ると無数のコンテナの山が連なり、その合間を縫ってそれぞれの役割を担ったトレーラーが行き交う。輸出許可を経て、船積のために国内からの陸送でCTに入るもの。入港した本船から卸されるコンテナを積み取るために岸壁で待機するシャーシー(台車)を牽いたもの。逆に本船積込みのためのコンテナを搭載して岸壁で行列をつくるもの。そして輸入の許可が下り、ヤードに積み置かれたコンテナを積み取ってCTを出ていくもの。
 このCTは郵船が所有しているが、東京港を利用する海外の船社にも施設を提供している。OOCL(香港)、P&O NEDLLOYD(英国)、MISC(マレーシア)、Hapag-Lloyd(独)など。複数の船社がアライアンス(業務提携)を組み、日本の港だけではなく世界各地の港で互いにCTの提供や施設の融通をしあっている。だから大井から入出港する本船も積卸されるコンテナも多種多様である。
 コンテナが積み置かれるヤードの向うは岸壁だ。対岸はお台場にほど近い青海埠頭のCT。EVERGREEN(台湾船社)の緑色のコンテナ群が目を引く。岸壁とヤードに挟まれた敷地のことをエプロンと呼ぶが、ここはコンテナを積卸すためのクレーンが移動する軌道にもなっている。ガントリークレーンと呼ばれるコンテナ専用の巨大クレーンがこの東京CTには6基配置されている。阪神大震災級の地震にも耐えられる免震構造、そしてすべてがオーバーパナマックスと呼ばれる大型船型に対応した「スーパーガントリークレーン」だ。
 ガントリークレーンは支柱と腕からなり、支柱に取り付けられた台車でエプロン上を移動する。ワイヤーでフックを下降させ、岸壁にあるコンテナを引っ掛ける。ワイヤーを巻き取ってコンテナを持ち上げると、フックは腕をつたって岸壁に横付けされた本船の上部まで達する。そして再びワイヤーを伸ばして船倉内にコンテナを収める。1基のクレーンで積卸しできるコンテナの数は一時間あたり20本〜30本。海運のコンテナリゼーション(コンテナ輸送化)と天候に影響されない荷役のおかげで、本船入港から出港までの時間はこれまでの2,3日から数時間へと大幅に短縮された。

 郵船東京CTはNYTTという郵船の子会社によって運営されている。従事している社員の数はおよそ200名で欧米CT従業者数の7分の1以下。コンテナ荷役のプロフェッショナルだ。現在ではCTの管理運営はコンピューター・システム“TOPS”によるところが大きく、コンテナ貨物の出入から、効率的なヤードへの積置き・本船積卸しの計画(ストウェイジプラン)まで、TOPSによって一元管理がなされている。
 荷役が行われる時間は午前8時半から翌午前5時まで。本船は絶えず入出港し、また天候によっては遅れることもしばしばなので、荷役は早朝から深夜まで行われる。しかし24時間体制の荷役、迅速な通関システムが普及している香港やシンガポール、釜山などの港湾に比べて日本の港湾は遅れをとっており、アジア地域で取り扱われる貨物は近年日本から、韓国や東南アジアなどの港湾に流出している。これらの貨物をいかにして日本の港に取り戻すか。我が国に突き付けられた大きな課題のひとつだ。
 また最近、世界各国の船社から従来の積載量を大幅に超える7,000〜8,000TEU(20フィートコンテナ換算)級のコンテナ船発注が相次いでいる。これらの船が日本向け日本出し航路に投入されるようになれば従来のコンテナ荷役にもさらなる変革が求められるだろう。
 郵船は昨年、欧米の港を中心にコンテナ荷役を請負う大手・セレス・ターミナル社を買収した。日本以上に巨大な船が大量投入され、迅速な荷役システムが普及している欧米港湾の荷役業者を買収したことで、日本の港湾でも効率的で先進的な荷役システムの研究開発、導入が急速に進むとみられる。
 郵船東京CTもここ数年で将来の大型船入港に備えて、岸壁水深を15メートルまで深くし、またヤードの拡張、設備の増強などCTの大幅改良を行ってきた。歩みはゆっくりだが、日本の港湾改革は確実に進んでいる。


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