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 耳・残酷物語(2003.03.26)
1.春は早うから川辺の葦に
 蟹が店出し 床屋でござる
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
2.小蟹ぶつぶつ石鹸を溶かし
 親爺自慢で鋏を鳴らす
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
3.そこへ兎がお客にござる
 どうぞ急いで髪刈っておくれ
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
4.兎ァ気がせく 蟹ァ慌てるし
 早く早くと客ァつめこむし
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
5.邪魔なお耳はぴょこぴょこするし
 そこで慌ててチョンと切りおとす
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
6.兎ァ怒るし 蟹ァ恥ょかくし
 しかたなくなく穴へと逃げる
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
 しかたなくなく穴へと逃げる
 チョッキン チョッキン チョッキンナ
(北原白秋・作詞『あわて床屋』より)


平家の亡霊に誘われて琵琶の弾き語りをしている芳一を目撃した和尚は、驚いて二度と誘いにはのるなと固く芳一に申し渡した。そして和尚は芳一の全身に般若心経の経文を書き綴り、平家の亡霊が寄り付かぬようにした。夜、亡霊は姿を現したが、全身に経文を綴られた芳一の姿を見つけることができない。「これは困った。ならばせめてこれだけでも持ち帰ろう」と武士の霊は刀を抜き、芳一の耳を切り取った。迂闊にも、耳にだけ経文を書き忘れており、亡霊には耳だけの芳一が見えていたのだ。
(赤間神宮の伝説『耳なし芳一』より)


戦国時代の兵士は、敵方の武将の首を捕り、それを御主人様に捧げては御恩を得ていたが、そのうちに首をまるごと持ち帰るのが面倒になり、かわりに敵の両耳を切り取って持ち帰るようになった。しかしそのために武将でもない雑兵の耳を切り取って、敵方の武将の耳だと偽り、御恩を得る者が横行した。敵の首を埋め供養した墓を「首塚」というが、耳を埋めて供養した「耳塚」というのもやはり存在する。


従妹・ケー・フォスに自分の思いを告げようとしたが聞き入れられず、食卓の蝋燭に手をかざしたゴッホは言う。「耐えられた時間だけいいからケーに会わせてくれ」
しかし願いかなわず傷心のゴッホの前にあらわれたのが、娼婦・シーンだった。ふたりは同棲するが長くは続かなかった。ゴッホが自分の耳を切り落とし、その一部を手渡した相手がこの、シーンである。ゴッホは日常に生きようともがきながら、日常に生きられる術を知らなかったのではないか。それでも日常に生きようとして苦しみ抜いた挙句とったのが、蝋燭に手をかざしたり、耳を切り落として手渡したりという行為ではなかったか。これらの行為ははたからみれば異常だが、ゴッホにとって精一杯日常に生きようとした結果なのだ。正常に生きようと苦しんでもなお異常にみられてしまうゴッホの生きざまがここにある。
そして、弟テオが家を出て行くのを引き留めようと、自分の脇腹に銃弾を撃ち込んだゴッホは、その二日後、テオに看取られて息を引き取った。


今日も通勤電車は満員だった。右の中年男性のスポーツ新聞がぼくの顔をまさぐって、うざったい。左の女はやたらケバくて香水臭い。その時。列車が急停車した。ぼくの左手が反射的に吊り皮をつかむ。その瞬間、左の女がぎゃっ、と悲鳴をあげた。ぼくが吊り皮だと思って掴んだのは、ケバ女の巨大ピアスだった。形状は吊り皮に酷似。紛らわしい。彼女の右の耳たぶは当然ちぎれ、痛みに傷をおさえている指のすき間からは、大量の血があふれだしている。


1997年6月28に米・ラスベガスでおこなわれたWBAヘビー級タイトルマッチで、前王者マイク・タイソンは対戦相手イベンダー・ホリフィールドの耳に噛み付き、反則負けとなった。3回、クリンチに乗じて相手の右耳に噛み付き、耳の一部を噛みちぎった。
私はテレビのスポーツニュースでこの事件を知ったのだが、ニュースのインタビューに応じていた観客らしき米国人が、
「おれはマイクのことをずっとベジタリアン(菜食主義者)だと信じ込んでいたよ!」
と揶揄していたのには、大笑いした。
さすが陽気なアメリカン、である。


日本残飯協会の調査によると、平成14年に残飯として廃棄されたパンの耳の総量は1257万トンで過去最高となり、飽食の国日本の世相を色濃く反映した。なかでも学校給食におけるパンの耳の廃棄量が812万トン(64.6%)と最も高く、給食の献立から食パンを外すべきとの与党文教族議員からの要請に、文部科学省も検討を始めている。
(平成15年2月29日付・朝立新聞朝刊より)


22世紀、不良品の安売り処分ロボットとして売りに出ていたドラえもんは、貧乏な野比家の家庭用ロボットとして引き取られた。貧乏だから正常品は購入できなかった。当時のドラえもんは体色が黄色で、猫型ロボットよろしく耳もあったが、老朽化の進む野比家に棲み付いていたネズミに耳をかじられ、耳なしとなった。自分の変わり果てた姿を鏡で見たドラえもんは、全身真っ青になり、青い体色のまま、二度と元の色には戻らなかった。もちろんネズミは苦手になった。
ドラえもんは耳のなくなった頭で考えた。何故野比家はこんなに貧乏なのか。貧乏でなければ家も新築できて、憎きネズミに耳をかじり取られることもなかったのに。原因は野比家の御先祖様である野比のび太にあった。
ドラえもんは思い立った。御先祖様野比のび太を改心させよう。のび太がまともになれば末裔である今の野比家もきっとまともな日々を過ごせる。悲愴な決意を胸に秘め、ドラえもんは奮発して購入したタイムマシンに乗り込んだ。向かうは20世紀。
これは、耐え難いトラウマを背負いつつも、長く苦しい旅に出た猫型ロボットの、知られざる熱き闘いのドラマである。
(中島みゆき…、以下略)


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