このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


78 殺人狂時代 MONSIEUR VERDOUX 1947

Cast
アンリ・ベルドウ…Charles Chaprin
娘…マリン・ナッシュ
アナベラ…マーサ・レイ

「私はまた、みなさんにお目にかかる。すぐに。ほんとにすぐに。」
 時は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に挟まれた、世界中の国民が疲れ切っている時代。そこにさらに追い打ちをかけるように株の暴落と金融危機、そして不景気の波が押し寄せる。世界恐慌である。「殺人狂時代」はそんな時代背景をもとに創られた、戦後初の作品である。
 この物語はあまりに冷笑的というか、身震いがするというか、そして薄気味の悪い物語である。だいいち金持ちの女性を殺し、その金を奪って平気な顔をしていられる主人公ベルドウが非常に気味が悪い。気味が悪いというのは、頭の中でベルドウが女性をまさに殺している場面を想像してのことである。この作品には殺しの場面はいっさい出てこないどころか、死体も出てこない。おまけに殺人鬼ベルドウは、ふだんは紳士で、家族思いで、心の優しい、真っ正直な男なのである。殺人鬼とフランス紳士、このギャップが観るものを恐怖のどん底に陥れる。
 最後にベルドウは法の裁きによってギロチンによる死刑を言い渡されるが、判決後の弁明で彼はこう言ってのける。「何人もの女性を殺し、金を奪った許しがたい大量殺人鬼だ、とのお言葉ですが、世界では大量殺人を奨励しているのです。しかも科学的な方法で何の罪もない女子供を殺している。それに比べれば私などはまだまだ大量殺人のアマチュアです」もちろん現実にこんなことを言おうものなら無茶苦茶なこじつけだ、それで自分の罪を正当化しているつもりか、と、後ろ指を指されるに決まっている。しかしここでは、正当化だとかそういう意味でベルドウがこう語ったのではない。この物語に一貫して流れている、静かながらも激しい抗議なのだ。そしてもうひとつ法廷で彼は語る。「私は死刑になり、この世を去るが...私はみなさんにまたお会いする。すぐに。ほんとにすぐに」この言葉をきいて、背筋が凍り付いた。作品中にはイタリアのムッソリーニやナチスのヒトラーの映像が映し出される場面がある。もう皆まで言う必要はない。ベルドウがこの世を去った直後に訪れたのは、狂気の世界。ファシズム。世界大戦。そして、ベルドウの予言した大量殺人。大量虐殺。「一人殺せば殺人で、百万殺せば英雄だ」ベルドウが死の直前に残したとおり、二つの大戦でもやはり百万人殺した殺人鬼=英雄の図式がまかり通り、敗戦国の首脳は戦犯といわれ犯罪者扱いだが、戦勝国の首脳は英雄呼ばわりである。そして、人類の戦争と大量殺人の衝動はまだ終わらない。

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