このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
チャップリンと田舎とは切っても切れない関係にある。チャップリンの作品世界では、田舎で畑を耕して暮らすことが、ほかのどんなことよりも幸福になっている。例えば、「犬の生活」では、チャップリンはエドナ扮する街の娘とともに、有閑紳士からうばった(うばったのはチャップリン自身ではないが)大金で田舎に家を買い、畑を買って暮らそうと誘い、実現したし、「ライムライト」では、踊り子テリーはバレエをふたたび再開したことで、ダンサーとしての名声を得たにもかかわらず、それを捨てて道化師カルベロと田舎で暮らそうと言いだす。
当時は「愛する人と田舎で畑を耕し、幸せに暮らすこと」が本当の幸福だったのかもしれないし、それはまた、世界の喜劇王になったことで金も名誉も地位も手に入れたチャップリンが夢見た一種の疑似精神世界の幸福とでもいうべきものだったのかもしれない。
しかし、現実は農民達だって相当な苦労があったはずであり、現代でも... 現代人が夢見るような幸福ともだいぶかけ離れているような気がする。
いきなり批判的な冒頭になってしまったが、「サニーサイド」もチャップリンの田舎生活の美しさ、素晴らしさを描いた作品である。これを観るとのんびりした、のどかなチャップリン流田園生活が手放しで味わえる。チャップリンの田舎生活のバイブル、ということもできるかもしれない。
一見ドタバタのようにも見えるが、そこには森の妖精(?)達との楽しいひとときや、エドナ・パーヴィアンス扮する村の娘との熱烈ながらも、笑わずにはいられないロマンスなど、チャップリンの田舎生活に対する思いがめいっぱいに凝縮されている。
チャップリン自身は64歳でスイスの片田舎に邸宅をかまえ、そこで妻のウーナ・オニールと子どもたちとで幸せな老後を過ごすことになるが、「サニーサイド」ができた頃にはもうすでにそのような田舎での暮らしに憧れていたのだろうか? そのあとの彼の活躍ぶりからはあまり考えられないことではあるが。
いずれにしても、「サニーサイド」が都市生活に少し疲れた人たちのための、いっときの清涼剤になる、と言ったら言い過ぎだろうか。
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