このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


白石フェリー
(笠岡〜白石島)

 広島県と岡山県の県境にある笠岡市。「カブトガニ」で有名な場所でもある。私は小学生のとき、「学研の学習と科学」でカブトガニの卵をもらったことがあったが……。それはさておき。この笠岡市の沖合に浮かぶのが、笠岡諸島だ。かつて、島対抗の運動会を「島リンピック」と名付けようとして、JOCから意見が出されたことが全国紙に掲載され、一時話題になった島々である。余談ではあるが、第1回「島の大運動会」(島リンピックから改称)は、平成10年5月に、諸島最大の島、北木島で盛大に開催されたそうである。
 閑話休題。笠岡駅のやや東、国道2号線沿いに、その笠岡諸島行きの船が出るフェリー埠頭がある。
笠岡港風景 接岸しているのは北木島行きフェリー
埠頭と言っても、待合室が一つと、むき出しの固定岸壁があるだけの港だ。特に職員が居るわけでもなく、客待ちのタクシーと、船に用事のある車が時折入ってくる他には人の出入りもあまりなく、閑散としている。
 8時過ぎに到着したフェリーからは、制服を着た高校生が大量に吐き出されてきた。島には高校がなく、毎日船で通学しているようだ。それぞれ、港に停めてあった自転車に乗ったり、駅への道を歩いたりして、あっという間にいなくなってしまった。
 ローカル航路だけあって、これまで乗ってきた大手フェリーでは考えられないような雰囲気が漂っている。岸壁を離れかかっていても車が来れば乗せてしまうし、来るはずの荷物が来なければ出発時間になっても悠然と待ち続ける。まるで時刻表は目安、と言わんばかりだ。まぁ、島の生活になくてはならない生活物資を運ぶ役割も兼ねているのだから、それはそれで当然と言えば当然なのかもしれない。しかし、大手フェリーとのあまりの違いに慣れるには、少々時間がかかってしまった。
 
笠岡港に入港するフェリーしらいし
午前10時。「フェリーしらいし」が笠岡港を出航。車両甲板には私のバイクが一台だけだ。客室にも人影はまばらで、全体にとろけてしまいそうなのんびりとした雰囲気が満ちあふれている。このフェリーが私たちを乗せたまま、ずっと岸壁に繋がれていても何とも思わないかもしれない、そう思ってしまうくらいだ。
 ゆっくりとした速度で船は進む。しばらくは湾内を行く。両岸では車や人が忙しく動いているのが見えるが、船の中だけは時間の流れが遅くなっているように思える。しかも段々と時間の流れが澱んで行くかの様に思えてくる。このまま行くと、島に着く頃には時間が止まってしまいそうだ。
 やがて瀬戸内海に出る。相変わらずたくさんの船と、いくつもの島影が見える。これまでの船に比べるとスピードが遅いだけあって、景色をゆっくりと眺めるゆとりが持てる。時間はますます澱みを深め、今にも止まってしまいそうだ。
 いつの間にか島が近づいてきた。時間の感覚は、もうない。今が何時か、そんなことはどうでもいい、という気持ちすら起こってくる。
白石港全景
 笠岡港以上に何もない白石港に入港。人と荷物を下ろしてしまった途端に、船は深い眠りに落ちてしまったかのように見えた。
 島を散策する。全体が眠ってしまっているようだ。まだ日中だというのに、すでに長い昼寝に入ってしまっている。起きて、動いている私までもが昼寝をしているかのような気分だ。帰りのフェリーまで、わずか3時間余りしか滞在していなかった(持参した時計による)が、1週間の旅行の中ではもっとも長い時間を過ごしていたような気持ちがしている。
起きながらにして昼寝の出来る白石島全景
 帰りのフェリーから、島を見つめる。島影が段々と小さくなっていくにつれて、止まっていた時間が徐々に溶けはじめてくるのが感じられた。笠岡港から上陸したとき、時間の流れはすっかり本来のそれに一致していた。
 もう午後3時を回っているというのに、まだ朝、港に着いて間もない時のような気がしている。それなのに、島では非常に長い時間を過ごして来たかのような気もする。一度時間が止まってしまうと、過去の時間感覚が狂ってしまうようだ。これを元に戻すには「時間」がかかるだろう……。
 えっ?戻さない方が幸せではないかって?……。



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