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「スーパーカムイ」とその周辺の話題





■「スーパーカムイ」の意義

 JR北海道は平成19(2007)年10月 1日から 789系1000番台を投入し、石狩平野で長年活躍してきた 781系を引退させた。さらに「ライラック」と「スーパーホワイトアロー」を統一する形で、「スーパーカムイ」なる新しい特急列車として世に送り出した。

789系1000番台
二編成並んだ 789系1000番台「スーパーカムイ」
岩見沢にて 平成19(2007)年撮影

  先の記事 では的外れなことを書いてしまったが、「スーパーカムイ」の意義はひとえに老朽劣化著しい 781系の置換に尽きる。さらに「ライラック」「スーパーホワイトアロー」「すずらん」の共通運用化により、列車編成の効率的な使い回しも可能になったはずだ。

789系1000番台
札幌駅に進入する 789系1000番台「スーパーカムイ」
札幌にて 平成19(2007)年撮影

 「スーパーカムイ」という名称にはキャッチーな響きがあり、利用者の心を魅きつける要素を秘めてはいる。しかしながら、以上まで記してきたJRサイドのメリットを超える意義があるかといえば、実はかなり怪しい。利用者にとっては、特に旧「ライラック」との比較において、所要時間が短縮され内装レベルが向上した点は確かに福音といえよう。しかしながら、後者については今までがひどすぎたと評することも可能なのである。

 世評を獲得したという意味において、「スーパーカムイ」の新名称を打ち出したことは巧妙な手法と評価できる。その一方で、今までの「スーパーホワイトアロー」のサービスレベルがかなり高かっただけに、それ以上の進歩・発展を訴求しにくい点は苦しいところで、利用者が鋭敏に反応するとは想定しにくいのが実態であろう。





■「スーパーカムイ」の本質

 筆者は今年に入ってから、少なくとも 6回「スーパーホワイトアロー」「ライラック」に乗車している。残念ながら「スーパーカムイ」の営業運転には未だ乗車していないが、 789系1000番台に置換されたとはいえ、列車としての本質には変化がないという前提で、いくつか思うところを記しておきたい。

 というのは、鉄道ジャーナル 494号(平成19年12月号)の「スーパーカムイの神通力を量る」の記述はひどいと感じたからである(そもそも題名からして奇を衒いすぎで空疎な内容を誇大な表現で補う印象が伴う)。明々白々に間違っている点はないとしても、表面を撫でただけの文章が目立ち、的確な分析とは到底いえない。以下、「スーパーカムイ」の本質を理解するポイントをいくつか挙げておこう。

789系1000番台
789系1000番台「スーパーカムイ」
岩見沢にて 平成19(2007)年撮影

 利用者の太宗はいうまでもなく旭川−札幌間である。旭川発の列車に乗車すると、席は4〜7割ほどが埋まる。深川・滝川・砂川・美唄と順次乗車があり、砂川あたりでは空席を見出すのが難しいこともある。札幌都市圏輸送が充実しているはずの岩見沢からも実は、旭川に次ぐまとまった乗車があり、立客が出ることもままある。

 車内検札は岩見沢を過ぎてからで、即ち旭川−岩見沢間の区間利用はあまり考慮されていない。しかしながら、同区間の普通列車が極端に少ないため、例えば滝川−深川間など短区間のチョイ乗り利用者も散見される。いうまでもなく比率は全体の数%にも満たないと想定されるが、行動様式が特異なため目立つのである。地方においては、たとえ短距離であろうとも特急料金支出をいとわない利用者層が確実に存在する。

781系
785系「スーパーホワイトアロー」
深川にて 平成19(2007)年撮影

 東室蘭での段落ちが顕著な「北斗」系統などとは異なり、利用者の多くが起終点を乗り通す「スーパーカムイ」はまさにJR北海道の看板列車といえる。その一方で、高速バスとの競合から、割引率が高い企画乗車券をデフォルトとして提供せざるをえず、収益力が高い列車とまではいえない点が実に苦しい。JR北海道は基本的に経営安定基金から内部補助される会社であって、ほんらい大黒柱であるはずの特急列車であろうとも、その例外として逃れることは難しいはずだ。列車単体で見て収支トントンであれば、まずは上々といえようか。

 従前は「スーパーホワイトアロー」と「ライラック」との間に有意な所要時間差があり、より速い「スーパーホワイトアロー」に利用が集中する傾向があった。「スーパーカムイ」化で所要時間が統一されたことにより、利用平準化に確実に寄与するはずだ。さらに 4両編成「ライラック」を 5両編成「スーパーカムイ」に増強したことで、利用者数そのものの増加も期待できる。

 なお、旭山動物園需要に関しては、別項にて記述したい。「スーパーカムイ」は旭川−札幌間の「普段着の列車」のような位置づけに近い。普通列車が選択肢になりえない以上、「スーパーカムイ」に乗らざるをえないともいえる。その意味において、利用者は新車を好感することはあっても、冷めた目で評価をくだしているのかもしれない。あくまで実質本意、所要時間と編成両数統一が主目的のダイヤ改正といえるわけで、利用者動向は漸変的に推移すると考えるべきであろう。

789系1000番台
789系1000番台「スーパーカムイ」のuシート車(平成19(2007)年撮影)





■781系の引退

  781系の製造初年は昭和53(1978)年、函館本線での営業運転開始は翌昭和54(1979)年のことで、経年は実に30年近い。単に旧くなったというだけでなく、厳寒豪雪地域での高速運用は 781系の車体を痛めつけた。特に条件が厳しかったのは 「ドラえもん海底列車」 に改造された編成で、高温多湿の青函トンネルでの運用はもともと想定されていなかった環境だけに、まさに責め苛むような過酷さが伴っていた。

781系
残雪を踏みつつ走る 781系「ライラック」
平和にて 平成19(2007)年撮影

 あと10年もすれば、北海道に新幹線がやってくる。本州以南では未だ 485系が残存している状況を考えれば、 781系を新幹線開業まで使い倒してから廃車する、という選択肢も一応は考えられたに違いない。実際にそうならなかったということは、 781系の老朽劣化がよほど深刻であることの証左といえよう。

781系
筆者が最後に乗った 781系「ライラック」
美唄にて 平成19(2007)年撮影

 JR北海道は国鉄時代からの旧い車両を使い倒す傾向のある会社であるが、こと 781系に関していえば、さすがに限界に達したといえようか。





■指定席供給(旭山動物園需要)対応

 「スーパーカムイ」が「スーパーホワイトアロー」の列車編成をそのまま踏襲したため、ちょっとした問題点が残ることになった。 5両編成のうち指定席(uシート)車はわずか 1両しかない。札幌−旭川間の日常的利用者はともかくとして、観光目的の利用者(特に外国からのパッケージ旅行参加者)にとって、指定席は必須条件である。しかも、旭川には旭山動物園という、近年とみに名声高く、抜群の集客力を発揮する一大観光地が控えている。

261系
6両に増結された 261系「スーパー宗谷」
平和にて 平成19(2007)年撮影

 つまり札幌−旭川間には、旭山動物園を主たる目的地とする多数の観光客をさばくため、相応の指定席車供給が求められる時間帯が存在している。かような周辺状況があるというのに、「スーパーカムイ」は観光需要を念頭に置いた列車に設計されているわけではない。「スーパーカムイ」は観光需要に対応できないし、また対応しようともしていないのだ。そこに「スーパーカムイ」の本質があり、旭山動物園に代表される観光需要に対しては、まったく別の手当が必要になってくる。

261系と785系
261系「スーパー宗谷」と 785系「スーパーホワイトアロー」
旭川にて 平成19(2007)年撮影

 札幌 8時30分発→旭川 9時51分着「スーパー宗谷 1号」は、札幌宿泊→旭山動物園観光に絶好な時間帯に設定されている。実際のところ、所定 4両編成が 6両に増結される日も多く、指定席車に外国からの観光客があふれ、旭川でどっと降車していく光景も見られる。「スーパー宗谷」が稚内行列車である以上、旭川での大量降車は決して本来の姿とはいえないはずである。しかし、JR北海道はこれを許容し、かつ「スーパーカムイ」にこの任を負わせるつもりもない様子がうかがえる。

旭山動物園号−スーパー宗谷
261系「スーパー宗谷」と 183系 0番台改造の「旭山動物園号」
札幌にて 平成19(2007)年撮影

 その傍証となるのは、札幌 8時26分発→旭川10時 7分着の臨時特急「旭山動物園号」で、このダイヤは明白に「スーパー宗谷 1号」を補完・補強するものである(※臨時列車とはいえ特急どうしで追抜・待避がある珍しいダイヤ)。運転日から判断する限り、主に札幌都市圏発着の利用者を吸収する意図があるようだ。道外からやってくる観光客の受け皿となるのは、年末年始に雪まつり、五月連休に夏休み・春休みというところか。

  183系 0番台改造という 781系に次いで経年が進んだ車両を充てた理由は、初期投資を抑制しながら指定席車を提供する、ただ一点に尽きると思われる。「スーパーカムイ」のうち特定時間帯列車のみ指定席車を増やすという芸当は、実はかなり難しい。それよりも余剰気味の老朽車を専用編成として改造した方が、はるかに低コストですむうえ、しかも話題性まで獲得できるのだ。

旭山動物園号 旭山動物園号
183系 0番台改造の「旭山動物園号」
左:平和にて 右:札幌にて 平成19(2007)年撮影

 個人的に 183系 0番台は好きな車両ではあるが、なにしろ量産先行車の製造初年は昭和55(1980)年であって、特急列車としては明らかに角を曲がっている。加速度も最高速度も低いし、旧式の座席は利用者からの評判がすこぶる悪い。あるいは、「旭山動物園号」の利用動向を見極めるという意味における、ショートリリーフに終わるかもしれない。

 なお、「旭山動物園号」に 781系が充てられなかったことは、 781系老朽劣化の深刻さを裏づける傍証の一つといえる。今後の可能性としては、 785系による置換がありうるかどうか。もっとも、より高い可能性としては 183系 500番台による置換であろう。





■リゾート特急

 JR北海道は現在、 3編成のリゾート特急を保有している。

   ニセコエクスプレス(昭和63(1988)年)
   クリスタルエクスプレス(平成元(1989)年)
   ノースレインボーエクスプレス(平成 4(1992)年)

 デビューから15〜19年という年月を経て、高出力の強制振子気動車特急による高速化が拡充している今日では、中途半端な存在になっている観は否めない。稼働率は決して高くない様子だし、充てられている列車が盛況というわけでもなさそうだ。それゆえ、「旭山動物園号」にいずれかを充てる可能性があると見たが、実際にはそうならなかった。

流氷特急オホーツクの風−スーパーホワイトアロー
183系5000番台の「流氷特急オホーツクの風」と 785系「スーパーホワイトアロー」
旭川にて 平成19(2007)年撮影

 JR北海道はこの 3編成を現状のまま使いこなしていくつもりらしい。それぞれが定番的臨時列車を抱えている点に加え、需要に応じた波動輸送を分担するという意義が大きい。典型的なのは「フラノラベンダーエクスプレス」で、リゾート特急 3編成が全て揃う繁忙期が存在する。どの編成も単純に富良野へ往復するだけの運用なので、充当基準は明確でなければなるまい。即ち、最も利用者の多い列車には 5両編成のノースレインボー、最も利用者の少ない列車には 3両編成のニセコ、その中間には 4両編成のクリスタル、という基準があるものと想定される。

ニセコエクスプレス
183系5000番台の「ニセコエクスプレス」
札幌にて 平成19(2007)年撮影

 輸送力が大きいノースレインボーは、季節に応じた観光需要にあわせ、各地に出張って活躍している。ニセコは小回りをきかせて稼いでいる。クリスタルは中距離運用が多く、函館山線を一日 2往復するニセコ、はるか網走まで遠征することもあるノースレインボーと比べればやや影が薄い。

 なお筆者は、「北斗」の代走にニセコが、「スーパー宗谷」の代走にノースレインボーが、それぞれ起用された現場を目撃したことがある。機動性に大差ないはずなのに、なぜかクリスタルは定期列車代走となる機会が少ないようだ。ただし、これは余談。

 もう一点余談をいえば、代車として 183系 0番台が充てられる事態を想定しているせいか、ほんらいの性能を発揮しているとはいえない鈍足ダイヤが組まれることが多いのも、恵まれているとはいえない状況だ。

フラノラベンダーエクスプレス
183系5100番台の「フラノラベンダーエクスプレス」
苗穂−白石間にて 平成19(2007)年撮影

 定期特急に充てられている編成は長距離を駆け回ることが多いだけに、リゾート編成がたっぷり余力を残している様子は、いささか勿体ない感じがする。このまま不完全燃焼に終わってしまえば、鉄道車両として幸せとはいえまい。残されたわずかな時間のなかで、 3編成はどのような輝きを示すのだろうか。





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