このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

グルノーブルへの旅〜〜パリを発つ

 

■パリ・リヨン駅

 

 パリ市内の鉄道ターミナルは、分散して立地している。これには歴史的経緯と思想的な背景があるとされている。北方面には北駅、大西洋沿岸方面にはモンパルナス駅、そして南東方向へのターミナルはリヨン駅である。

 リヨン、との命名は面白い。目的地の地名をそのまま駅名に戴いている。日本でいえば、品川あたりに「名古屋」と命名するようなものだ。「パリにあらねばフランスにあらず」という表現もあるように、フランスなる一極集中の国の実相が、この駅名からもよみとることができようか。

 

■リヨン駅に居並ぶTGV列車

 

 リヨン駅はTGV南東線の起点、そして南東線はTGVきっての大幹線でもある。この南東線はTGV最初の路線であり、この国第二の都市リヨンを擁するうえに、支線を通じ地中海方面各都市にも通じている。そのため、TGV列車の運行本数が最も多く、容量が逼迫しつつあるという。パリ−リヨン間の列車にフル・ダブルデッキのDuplexが導入され、定員が40%も増強されたのは、この容量逼迫に絡んでのことなのであろう。

 

■ル・トラン・ブルー

  

 しかし、この国の鉄道には、余裕のなさを感じさせる部分がほとんどない。リヨン駅舎内にあるレストラン「ル・トラン・ブルー」に入ればわかる。なんという豪壮。美しいと形容することさえ憚れる、この圧倒的な存在感は、いったいどこに基づいているのか。

 日本の鉄道の駅は、一部の例外を除いてごく機能的である。ところが外国の鉄道の場合、駅は国や都市の象徴として扱われることが多い。リヨン駅は、まさしくその典型とみなすべきなのであろう。

 

■TGV南東線

 そのリヨン駅から、TGV列車に乗ることにしよう。目的地はグルノーブル。支線系統に入りこむためだろうか、最新のDuplexでなく、大西洋線以来の主力である銀色の編成が充てられている。TGV最初期からおなじみのオレンジ色の編成は近年では置換が進み、そのうち全編成が廃車もしくは更新されるという。

 この時期のヨーロッパは朝が遅い。出発する間際、8時半にもなってようやく、風景が白んできた。日の出を拝んだのは車中からである。

 

 南東線の沿線には、ほとんどなにもない。一面に畑地や牧場が広がり、人家は少ない。まとまった数の人家があっても、集落のオーダーにとどまり、市街地を形成してはいない。ほんの少しパリを離れただけで、もはや完全な別世界である。

 南東線の最高速度は 270km/h。東海道新幹線と同じである。おそらく最高速度を発揮し続けているはずだが、風景が広すぎるためか、高速度を感じにくい。揺れが少ないということも、あるいは効いているのであろう。

 2時間ほど走ると、リヨン市街を横目に見つつバイパス線に入る。この列車は驚くべきことに、リヨン近傍を通過しながらもリヨン市内に停車せず、グルノーブルまで無停車を貫く。日本では考えられないセンスである。リヨンに止めれば確かに時間は余計にかかる。しかし、パリ−リヨン間の利便性向上につながるし、数の多寡はともかくとしてリヨン−グルノーブル間の利用者も拾えるので、メリットが大きいはずだが。TGVは、ひょっとすると列車ではなく、航空機に近いセンスの交通機関なのかもしれない。

 列車は在来線に入る。速度は途端に鈍る。谷筋の道、その沿線はどことなく日本と似ている。宅地や工場が無秩序に並び、雑然とした趣がある。今までの広闊な景色は、どこにいってしまったのだろうか。

 空気の感触が次第に冷たくなってきた。終点グルノーブルは、もう間近だ。

 

■グルノーブル駅

 

 列車はグルノーブルに到着する。山峡の小さな都市の玄関、落ち着いた雰囲気がそこにはある。列車から降りた利用者は、決して多くはなかった。2編成をつなげた列車にしては、いささかさびしい状況ではあった。

 

 

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