このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
「常識の実現」に戸惑い〜〜東武鉄道ダイヤ改正短信
■半蔵門線との連動
東武伊勢崎線がダイヤ改正を行うためには、当然ながら相互直通相手のメトロ半蔵門線及び東急田園都市線とのダイヤと連動する。
久喜行メトロ8000系急行(錦糸町)
半蔵門線の日中ダイヤは、伊勢崎線との直通前段階では 6分間隔の運行であったのが、直通開始後は 5分間隔になっている。半蔵門線内相互の利用者にとっては大きな差としてとらえにくい変化であるが、所要運用数が増えるという意味において、かなり思い切った施策といえよう。もっとも、半蔵門線ダイヤが 5分単位となったことで、10分単位が基本の伊勢崎線ダイヤとは整合が良いはずなのに、やたらと時間調整が多いダイヤ(特に日中)となったことは不可解千万であった。
このたびのダイヤ改正では、隅田川以東の利用者数の段落ちは清澄白河折返で調整する格好で、清澄白河−押上間では運行間隔が10分となることもある。あるいは、渋谷−三越前間の利用者数が日中でも相当に増え、その一方で隅田川以東の利用者数があまり伸びていない、といった実態を反映している可能性もある。
ともあれ、半蔵門線直通列車の時間調整は気にならない程度にまで圧縮され、基幹系統としての地位を確立した。どのような改善があったのか、細かな点が積み重ねられたものと思われるが、今までがひどすぎた観があるだけに、素直には喜びにくい。
■上り朝ラッシュ
利用者の流れというものは一朝一夕にして大きく変わるわけではないが、それでも以前と比べれば「だいぶ変わったなあ」という印象は伴う。
左:東武 10030系他の浅草10連区間急行 中:東武8000系の北千住10連区間急行 右:東武 30000系の半蔵門線直通10連準急
(後方 4連は北千住切り落とし) (いずれも西新井)
まず、やってくる列車がことごとく10連という安心感はかなり大きい。勿論、北千住口ではどうしても混雑率 150%を超えてしまうとしても、短い編成に寿司詰めという事態はかなり少なくなったと見てよい。今まで6〜8連の浅草準急が半蔵門線直通10連に変わったことで、輸送力は大幅に向上した。
また、以前にはまったく見られなかった利用者の動きが認められるようになった。上の3葉の写真は、浅草区間急行→北千住区間急行→半蔵門線直通準急の順で出発しているが、北千住区間急行を見送って半蔵門線直通準急を待つ利用者が少なからず見受けられたのである。半蔵門線直通が選択肢としての地位が上がったと解釈できる現象で、注目に値するところである。
ちなみに半蔵門線直通列車の混雑状況は、筆者が試乗した(平日朝 7時台前半)ところでは、西新井出発時点で混雑率 150%弱、北千住到着時点で一旦50%強となるほど降車があり、直前の北千住区間急行などから受けた乗車とあわせ 100%弱程度で出発、曳舟からの乗車で 100%強、という具合であった。北千住での乗降のバランスがなんとも絶妙で、輸送力確保と混雑平準化という二つの命題に充分対応していると感じられた。
また、ラッシュ時専用の輸送力列車には8000系など旧型車が集中的に充てられており、車両の「使いこなし」が巧いとも感じた。ただしこれは、ダイヤが旧型車の性能に合わせられていることの裏腹でもある。8000系は確かに名車であるが、加減速性能も最高速度も今日的水準からは劣る車両であり、都心側は新型車両に統一したいところだ。
■上り朝ラッシュ(補遺)
別の日に試乗した(平日朝 7時台後半)結果についても記しておこう。西新井出発時点で実に混雑率 200%強、まったく寿司詰め状態となった。北千住到着時点で一旦 100%弱となるほどの降車があり、直前の北千住区間急行などから受けた乗車とあわせ 120%程度で出発、曳舟からの乗車をあわせても 120%強であった。錦糸町では乗降が交錯、混んでいる車両では 200%弱であった(列車全体で均せば 150%程度)。
北千住到着までは極めて厳しい状況であった。乗降があっても利用者の動きが扉付近の狭い範囲に限られ、しかも乗りこもうとする列は長く、まさに寿司詰め。とはいえ、その混雑も北千住で一段落してしまうあたり、東武にとっては痛し痒しというところ。利用者にとっては、北千住までの輸送力拡充をさらに望みたいところだ。
また、利用者が乗り換えていく先は、千代田線かあるいは日比谷線か。利用者の目的地が再配分されるまでには相当な長期間を要する。東武にとっては、現段階で既に押上口でのそれなり以上の利用者数を確保できている現実を喜ぶべきかもしれない。
■日比谷線の比重は?
ちょっとした驚きが伴ったのはこの列車。
北千住行東武 10000系普通(竹ノ塚−西新井間)
週末とはいえ朝のうちである以上、東武動物公園や竹ノ塚などから列車を送りこむ必要のある時間帯だというのに、日比谷線直通列車の数はむしろ少なく、何本か北千住止まりの普通列車がやってきた。日比谷線に直通する利用者が少ないという実態に合わせたのか、列車運用の全体の都合に合わせただけなのか、たいへん興味深いところである。
■下り夕ラッシュ(直前)
撮影のため陽光がある時間帯での観察となったが、極めて興味深い状況が見てとれた。
左:東武8000系の太田 6連区間急行 中:東急5000系の久喜10連急行 右:東武 30000系の久喜10連急行(いずれも梅島)
半蔵門線直通の急行は、全般に空いていた。まだ夕ラッシュには早い時間帯とはいえ、先頭と後尾は立客が少なく、中間車と合わせ均しても混雑率は高々90%程度というところだろう。こんなに空いていて東武の経営は大丈夫なのか、と不安がよぎりかねない状況といえる。
もっとも、以前の 6連に単純換算してみれば混雑率は 150%に達する。それを定員乗車に近づけたという意味において、東武のサービス水準向上にかける良心は実に素晴らしいと評するしかあるまい。
その一方で、定員乗車という交通事業の「常識」が実現しただけでたいへん良い出来事と受け止められてしまうとは、利用者としてはよほど「馴らされた」という感覚が伴う。そもそも「定員乗車」といったところで立客(吊革)定員を含めてのことで、着席可能な利用者は定員の五割を切るのだ。日本全体の人口が減少に転じた今日になって、ようやく「常識が実現」しつつあることに、複雑な思いを禁じえない。
■東武の新車 50000系
何故かいままで出会う機会がなかったのだが、ようやく偶然にも乗車できたので、その感想を記しておこう。ただし、まったく身構えていなかったので、写真を撮ることはできなかったのが残念である。
端的にいって、加速力が素晴らしかった。ぐいぐいと加速し、すぐにトップスピードに乗る感じだ。このダイヤ改正では、半蔵門線直通用車両の加減速性能を活用し、所要時間短縮を図ったというが、体感として納得できる加速力であった。
その一方で、同じ半蔵門線直通用車両でも、他の形式にこれほどの加減速性能があったのか疑問に思える。具体的にいえば、東急8500系やメトロ8000系などは設計思想が一世代前の車両で、今日的常識と対比すれば加減速性能には遜色がある。特に東急8500系は製造初年が昭和50(1975)年と、もはや旧型車に区分すべき車両であって、現に廃車・他社への移籍も始まっている。
いまのダイヤが成立している以上、旧型車の性能でも対応しているはずで、東武 50000系は性能にさらに充分な余裕があるだけなのかもしれない。それにしても、この性能差は乗車している利用者にとってさえ明瞭であり、旧型車の置換を進めるバネになる可能性を指摘できるだろう。
■快速列車
ある意味において、このたびのダイヤ改正で最も象徴的な列車である。
左:朝のうちに残る快速(西新井) 右:区間快速(梅島)
快速をほぼ全面的に格下げしたことは、東武が如何にその意義を強調しようとも、栗橋以北利用者のJR逸走を許容したとしか考えられない。しかしながら、東武動物公園以南の利用者にとっては、今までとはなんら変わっていない点に留意する必要がある。また、どのみちダイヤ改正前の準急では栗橋で逸走していたわけだから、五十歩百歩という判断もあったかもしれない。
野岩鉄道沿線への観光客の受け皿としても、日帰りであればかなり早い時間帯の列車を選択せざるをえないという状況がある。筆者は以前、浅草から東武日光行始発準急(快速車使用)に乗車した経験があるが、早朝ゆえに利用者数じたいはまばらであっても、その相当部分を観光客が占めていたものである。どのみち鬼怒川のように単独で特急を仕立てられない(需要の絶対数が少ない)不利は否めず、JR直通特急による掘り起こしに期待したくなる発想は理解できる。
以上のように考えれば、快速格下げは最善手とまではいえないにせよ、試行錯誤としてはまずまずの線といえよう。ただ、中長期的に考えれば、更新車が主力というのは明らかに遜色がある。ダイヤ構成上も明らかに苦しいところであろう。ならばいっそ、区間準急を北千住・越谷・春日部・東武動物公園停車とし、輸送力調整とダイヤ構成上の性能調整を同時に図ったうえで、うち毎時一本を日光線に回す(出来れば速達運転を行う)という選択もあるだろう。
現状の快速・区間快速は位置づけが中途半端という観が否めない。大都市圏列車としては輸送力も性能も不足、観光列車としては設計思想が旧いうえつくりが窮屈だ。そもそも東武のように多様な性格を持つネットワークを一つの車両でこなそうとする点に、根本的な無理がある。スペーシアを置換する際、編成を小単位に分割可能にし、野岩線直通列車を優等系統に組みこむ(ただし下今市以北優等料金不要とする)くらいのことをしなければ、巧く整理できないように思えるが、如何なものだろうか。
■快速列車間合使用への不満
以上のように考えるのは、快速車の都心側での間合使用に無理を感じるからだ。快速の大部分が区間快速に格下げになったとはいえ、今回のダイヤ改正においても快速車の浅草直通が存置されていることから、当然といえば当然ながら、夜間の浅草発区間急行の一部に快速車が充当されたままとなっている。
半蔵門線直通急行が前後を固めているため、ダイヤ改正前と比べれば混雑は確かに緩和されている。しかし、二扉クロスシート(しかも短い編成)という設備は都市圏輸送にはあまりにも不適であって、混雑率の割に扉付近の寿司詰め状況にはひどいものがある。
この状況を改善するためには、快速車の四扉ロングシート車への置換が必須条件といえよう。四扉ロングシート車が広く普及している現状を考えれば、日光線沿線の利用者にもさほど抵抗感なく受容されるはずである。ただし、野岩鉄道への直通をにらむと、ロングシートでは設備が貧弱すぎるため、これには優等列車を充てるべきという発想に至るわけである。
これは、車両の間合使用を行うにしても、それぞれの車両の適性に合わせたものにしてほしい、という要望でもある。車両を大事に使いたい発想は理解できるが、都心側に快速車を充てる無理は、なるべく早く解消してもらいたいものだ。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |