このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

 

 

長い長いトンネルの先に〜〜北神急行

 

■北神急行のあらまし

 北神急行は、いささか風変わりな鉄道である。総延長は 7.5km。ほとんど全区間が六甲山地を貫くトンネル内にある。駅は起点の新神戸に終点の谷上の2つしかない。

 だから、新神戸から北神急行に乗るとちょっとした奇妙な経験を味わえる。窓の外にはトンネルの壁が延々と続くだけ。途中駅はなく、列車は速度を緩めることなく淡々と進む。他の地下鉄に慣れた身には、そろそろ減速するはずなのにと、いぶかしく思えてしまう。北神急行のトンネルは、かほど長い。窓の外が明るくなると、すぐ谷上に着く。地上区間はあっけないほど短い。

 北神急行は、神戸市と相互直通運転を行っていることから、いわゆる第3セクター会社と目されがちである。しかし、同社の筆頭株主は神戸電鉄及び阪急電鉄(株式保有比率は各19.9%)であり、株主の上位者に自治体は存在しない。さらにいえば、神戸電鉄の筆頭株主は阪急電鉄(株式保有比率32.1%)である。このことから、北神急行は阪急グループの一部を形成し、かつ神戸電鉄と密接な関係を持つことがわかる。

 この事実は、北神急行の性格を端的に示している。北神急行は神戸市が主導したというよりむしろ、神戸電鉄が輸送力増強を図るために発起した鉄道とみなす方が、より実相に近いといえよう。神戸電鉄は、鈴蘭台−湊川−新開地間において有馬線・粟生線両系統の列車が線路を共有しており、輸送力には一定の限界が伴っていた。また、神戸市の有力な都心のひとつ、三宮へのアクセスが悪いという弱点もあった。

 北神急行をつくり、神戸市と相互直通運転を行えば、有馬線の利用者をバイパスできるうえ、新神戸・三宮などへのアクセスが飛躍的に改善される。神戸市の路線が伸びてくるのを待つより先に、自ら計画を興したのも、当然といえば当然だったかもしれない。ただ、改めていうまでもなく、新線建設には巨額の初期投資が必要となる。資金調達や初期投資の価格転嫁などの課題を鑑みたのであろう。神戸電鉄は自社事業として新線をつくるのでなく、北神急行という新会社を興し、事業の推進を図った。

 

谷上にて

 

■営業成績は日本最良だが

 鉄道事業としての北神急行は、優良な成績をおさめている。償却前営業収支率は約25%。1の費用で実に4もの収入を得ている恰好で、極めて効率的な営業を行っているといえる。ところが、償却前営業利益に対する営業外費用の率は約 111%である。即ち、手許に残る営業利益よりも債務償還に充てる費用の方が1割ほど大きいわけで、いわゆる雪だるま式に債務が膨張していく財務体質となっている。

 かような状況に直面せざるをえないのはなぜか。それは、総資本に対する自己資本比率が過小であるためである。北神急行の固定負債のうち、仮に20%ほども株式に転換できれば、経営をごく収益的な水準に導くことができるだろう。しかし、財政設計を中途で変更するのは容易でないし、かような株式の引き受け手が出現するとはそもそも考えにくい。

 日本で最も効率の良い経営を行いながら、初期投資の償還負担に喘がなければならないところに、鉄道整備の難しい課題がある。鉄道整備の将来を展望するにあたっては、財政設計を含め、制度の見直しは必須であろう。とはいえ、当事者たる北神急行は現状のままで奮闘しなければならない。一度歩き出した以上は、歩き続けるしかない。

 北神急行の長い長いトンネルの先には、明るい終着駅、谷上駅が控えている。同じように、長い長い苦労の末には明るい未来が待っていると、信じたい。

  

谷上付近にて(左:北神車/右:神戸市車)

 

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■参考文献

 (01)「平成十年度鉄道要覧」 (運輸省鉄道局監修)

 (02)「鉄道統計年報(各年度版)」(運輸省鉄道局監修)

 

 

■執筆備忘録

 初訪問  :平成10(1998)年秋

 再訪問  :平成11(1999)年春

 本稿の執筆:平成13(2001)年初頭

 

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