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日本の蒸気機関車データ集


第3章 性能関係

ここでは、日本国鉄蒸機の実際の性能を、公式の定置試験、および本線走行試験の成績を中心に扱います。


1. 定置試験成績


1914年に大井工場内に完成した試験室における定置試験の成績をベースに、日本国鉄蒸機各形式のエネルギー変換システムとしての性能を見てみましょう。データはすべて「業務研究資料」各巻によっています。

1-1. 8200形/C53形

ClassVNCutoffRcCWPiPeCcCwEbEcEm
820030100403171,2058,7701,1171.087.8561.211.4
C5391403661,1908,8231,1191.067.8865.211.0
820050167405642,14210,9501,5541,3441.387.0543.012.986.4
C53152304741,53910,5811,4831.047.1360.812.0
820070233253971,5099,8901,3931.087.1054.912.7
C53212203981,2929,4681,3220.987.1664.811.9

V: 相当速度 [km/h]
N: 動輪回転数 [rpm]
Cutoff: 締切率、カットオフ [%]
Rc: 燃焼率 [kg/m2/h]
C: 投炭量 [kg/h]
W: 蒸発量 [kg/h]
Pi: 指示出力 [PS]
Pe: 引張棒出力 [PS]
Cc: 指示出力当り石炭消費量 [kg/PSi-h]
Cw: 指示出力当り水消費量 [kg/PSi-h]
Eb: 缶効率 [%]
Ec: シリンダ効率 [%]
Em: 機械効率 [%]

<解説>
8200(→C52)形は8201(→C522)、C53形はC5318が選ばれ、試験台に上りました。缶圧は8200形が当初の12.7kg/cm2、C53形は14kg/cm2の設定でした。
使用炭は、限界性能を見るため、いずれも国産最高級の夕張切込炭で、発熱量は8200形用が7,605kcal/kg、C53形用が7,934kcal/kgでした。
なお、他の形式についても同様ですが、火夫のコンディションを一定に保つため、試験は原則的に1日1回、連続1時間ずつでした。

速度30km/hでは、ほぼ同一の投炭量(入熱)に対して、指示出力もほぼ同一です。機械効率が同等であれば、引張棒出力も同等となります。8200形は缶効率ではC53形に4ポイント劣っていますが、シリンダ効率では0.4ポイント上回っています。

速度50km/hでは、両形式とも最大指示出力を記録しています。8200形は火床面積が3.80m2有るので、燃焼率550kg/m2/hのときの投炭量が約2,100kg/hとなり、これは日本人火夫の限界とされていました。後年、D52形が火床面積を3.85m2としたのも、これに制約されたためです。
一方、C53形の火床面積は3.25m2ですから、投炭量2,100kg/hのときの燃焼率は約650kg/m2/hとなり、投炭量から見ると余裕の有るところで使われています。もし、燃焼率を8200形と同一の550kg/m2/hとすると、蒸発量は約15%増となり、カットオフは35%、指示出力は約1,700PSと見積られます。なお、シリンダ効率では8200形のほうが0.9ポイント上回っています。

速度70km/hでは、期せずして燃焼率が同一の約400kg/m2/hとなっており、8200形は缶効率でC53形に約10ポイント劣る一方、シリンダ効率では0.8ポイント上回っています。

総じて、8200形は缶効率でかなりC53形に劣っていますが、この理由は第1章1-1項で明らかなように、火床面積が大きい割に火室容積はC53形と同等にとどまっていたことです。メーカーのアルコが燃焼室付きを推奨したのに対し、鉄道省サイドで拒絶したとされており、「お任せ」ついでにメーカーにもっとフリー・ハンドを与えていたら、当然燃焼室付きとなり、燃焼率の大きな領域での缶効率向上につながったものと考えられます。
なお、シリンダ効率では全速度域を通じて8200形のほうがコンマ数ポイント(相対比では4〜8%)上回っており、この理由は第1章2-2項で明らかなように、C53形のシリンダのクリアランス・ボリュームが8200形の約18%増となっているのが関係しています。


1-2. C59形/D51形/D52形 (その1)

ClassGVfbLcLtA/S
(T)
A/S
(F)
FARcNote
400500600
C593.274.8806,0001/4701/5550.441565044Eb
1.311.631.96C
8.910.211.3W
D513.274.8105,5001/4331/5050.441615549Eb
1.311.631.96C
9.110.511.7W
D523.857.01,0005,0001/3921/4500.5056559-Eb
1.541.93-C
10.912.3-W

G: 火床面積 [m2]
Vfb: 火室容積 [m3]
Lc: 燃焼室長 [mm]
Lt: 煙管長 [mm]
A/S (T): A/S比(小煙管)
A/S (F): A/S比(大煙管)
FA: 煙管ガス通路総断面積、フリー・ガス・エリア [m2]
Rc: 燃焼率 [kg/m2/h]
Eb: 缶効率 [%]
C: 投炭量 [t/h]
W: 蒸発量 [t/h]

<解説>
ここでは煙管長の大小と、燃焼室の有無による、缶効率への影響を見てみましょう。
C59形のボイラはD51形のボイラをベースに、缶圧を16kg/cm2に増大し、煙管長を500mm延伸したもので、火室は基本的に同一と見て差し支えないでしょう。
一方、D52形のボイラは全くの新設計で、日本国鉄の標準型蒸機で初めて燃焼室を正式採用したものです。缶胴径もワンランク上で、煙管本数も多いため、フリー・ガス・エリアはD51形・C59形よりも約15%増大しています。
定置試験にはC591, D51198, D521が選ばれ、缶圧はD51形が当初の14kg/cm2、他の2形式は16kg/cm2の設定で、使用炭はいずれも夕張切込炭、発熱量はC59形用が7,745kcal/kg、D51形用が7,420kcal/kg、D52形用が7,185kcal/kgでした。

燃焼率の増加に伴って通風力が増大するため、石炭が完全燃焼せずに煙突から排出される未燃損失(シンダロス)が増大し、缶効率(投入全熱量に対する発生蒸気のエンタルピ=温度と圧力の関数)は低下します。
燃焼率400, 500, 600kg/m2/hのときの缶効率と蒸発量の実測値を、D51形を基準として比較してみると、C59形は同一燃焼率における缶効率が5ポイントずつ低く、燃料の発熱量がその分無駄になるため、蒸発量が劣っていることが判ります。理論上は煙管伝熱面積が増えるほど缶効率が向上することになっていますが、実際は煙管が長くなるに従って燃焼ガスの通過抵抗が大きくなり、煙管内径を増大してA/S比を改善するか、ブラストノズル口径を絞って通風力を大きくするかしないと、燃焼ガスの通過量が確保できないわけです。つまり、上記の理論は「燃焼ガスの通過量が煙管長にかかわらず不変」という前提そのものが誤っていることになります。

一方、D52形は同一燃焼率における缶効率が逆に4〜5ポイント高く、燃料の発熱量がその分有効利用されるため、蒸発量が優っていることが判ります。のみならず、ほぼ同一の投炭量(入熱)に対しても、やや大きな蒸発量が得られていることが判ります。缶効率の向上は、火床面積の増大による燃焼率の低減と、火室容積の増大による燃焼効率の向上の相乗効果によっています。

このように、燃焼室付きとすることによってボイラ資材の節減と燃料の節約が図れ、煤による煙管の詰まりも軽減されるわけですが、日本国鉄ではドイツ流儀に忠実なあまり、火床面積に対する蒸発伝熱面積の比率を大きくすることに拘泥し、米国では1910年代、英国でも広火室機は1920年代から一般的となっていた燃焼室の採用が第2次大戦中の1943年と遅れたため、もともと乏しい資材と燃料をさらに浪費することになったのは、資源小国の立場から見て一大痛恨事と言えるでしょう。


1-3.C59形/D51形/D52形 (その2)

ClassNVCutoffCWPiPeCcCwEbEcEm
C5910033602,23211,6461,4421,3071.527.9246.311.690.6
D5126601,60410,1501,3851,3131.167.3256.413.194.7
D5226601,80612,2101,5331,4651.167.8062.012.395.5
C5915049.5502,33512,2321,7441,5611.347.0047.212.991.1
D5139.5501,84811,0191,6211,5451.136.7953.514.095.3
D5239.5501,91812,3001,7661,6291.076.8358.914.092.2
C5920066301,6429,7061,442-1.126.6052.5--
D5152401,6859,9291,5941,3101.066.2252.115.482.2
D5252401,50210,9221,656-0.896.4766.4--

N: 動輪回転数 [rpm]
V: 相当速度 [km/h]
Cutoff: 締切率、カットオフ [%]
C: 投炭量 [kg/h]
W: 蒸発量 [kg/h]
Pi: 指示出力 [PS]
Pe: 引張棒出力 [PS]
Cc: 指示出力当り石炭消費量 [kg/PSi-h]、主機のみ
Cw: 指示出力当り水消費量 [kg/PSi-h]、主機のみ
Eb: 缶効率 [%]
Ec: シリンダ効率 [%]
Em: 機械効率 [%]

<解説>
C59形・D51形・D52形の最大出力を比較してみましょう。被験機の条件、缶圧などは前記と同一です。

3形式とも、動輪回転数150rpm、カットオフ50%で最大出力を記録しています。しかし、最も出来栄えが良いはずのC591号機のシリンダ効率と機械効率が他の2形式に比べて低いのは不可解です。

D51形で動輪回転数240rpm以上、他の2形式では動輪回転数200rpm以上のシリンダ効率はどうなのか、残念ながらデータが公表されていません。引張棒出力も実測値が公表されていませんが、高速域では前後動が増大するため、引張棒引張力を測定する動力計(ダイナモメーター、機関車後端に接続)の指針がぶれて、指示値が読みにくかったと考えられます。D51形の試験報告書には「今回の試験では動力計を油圧式に改造し使用した。高速度に於ける作用は未だ充分でない」、C59形の試験報告書には「本機関車は動輪回転速度約170rpm以上となるときは前後動揺著しく大となるため引張棒引張力を測定出来なかった」、またD52形の試験報告書には「引張棒引張力の測定は動輪回転速度150rpm迄で夫以上では動揺大なるため測定出来なかった」との記述が有ります。

日本国鉄蒸機は、3シリンダ式のC52形・C53形を除き、定置試験で動輪回転数200rpm以上の領域における性能が精確に実測されておらず、性能面の国際比較をやや困難としています。
英米が定置試験において動輪回転数360〜400rpmまで性能を実測できていたことを考え合わせると、かえすがえすも日本国鉄蒸機の往復部不釣合質量が大きく、前後動が激しいのが悔やまれます。

※この件については、

Q&Aコーナー (3)

を併せてご覧ください。


1-4.C59形/D51形/D52形 (その3)

ClassNVCutoffCWPiPeCcCwEbEcEm
C5910033309516,7439678660.986.9759.214.089.6
D5126408856,9151,011-0.876.8368.2--
D5226307185,8168107480.887.1872.113.792.2
C5915049.5301,3878,3561,2861,1101.076.4051.314.786.3
D5139.5308416,4089689190.866.6166.814.794.9
D5239.5308376,7731,0279320.816.5973.114.890.8
C5920066301,6159,5221,442-1.126.6052.4--
D5152401,6859,9291,5941,3101.066.2252.115.482.2
D5252309887,5831,189-0.836.3869.3--

<解説>
C59形・D51形・D52形のシリンダ効率が最大となるところを調べてみましょう。被験機の条件、凡例などは前記と同一です。

シリンダ効率が最大となるところは、指示出力当り水消費量が最小となるところとほぼ一致していると見て良いでしょう。C59形では動輪回転数150rpm前後、他の2形式では200rpm前後で最高となると見られ、数値自体は下記の近代英国蒸機(ワルシャート式弁装置・ピストン弁付き)と比べても、見劣りするものではありません。ただ、機械効率は動輪回転数200rpmでもかなり低下しており、近代英国蒸機に比べるとやや低下の度合が大きいようです。


ちなみに英国鉄では、標準設計の蒸機について、下記のような定置試験成績を得ていました。

ClassNVCWPiPeCcCwEbEcEmQ
BR81,37010,3401,9801,4400.695.227215.772.77,530
408903,11015,4302,6302,1001.185.875014.579.8
BR71,1108,6201,5751,2800.706.037714.281.37,670
295651,96014,3402,2201,8000.886.466812.981.1
BR51,0708,7601,3501,1000.796.497413.381.57,670
340751,76011,9701,7601,4201.006.806412.480.7
BR41,2258,0001,2901,0300.956.206814.179.87,060
350651,3758,3301,3201,1201.046.316114.084.8
BR9F1,2859,4401,5301,2250.846.177313.980.17,060
365652,07013,3702,0701,7801.006.466412.686.0

N: 動輪回転数 [rpm]
V: 相当速度 [mph]、1mph = 1.6093 km/h
C: 投炭量 [kg/h]
W: 蒸発量 [kg/h]
Pi: 指示出力 [HP]、1HP = 1.014 PS
Pe: 引張棒出力 [HP]、1HP = 1.014 PS
Cc: 指示出力当り石炭消費量 [kg/ihp-h]
Cw: 指示出力当り水消費量 [kg/ihp-h]
Eb: 缶効率 [%]
Ec: シリンダ効率 [%]
Em: 機械効率 [%]
Q: 石炭発熱量 [kcal/kg]

<解説>
各形式とも、上段が指示出力当り水消費量が最小、つまりシリンダ効率がほぼ最大の状態、下段が指示出力最大の状態です。動輪回転数300〜400rpmの高速域でも、シリンダ効率と機械効率がさほど低下していないのが判ります。なお、BR8のみ単式3シリンダ、カプロッチ式ロータリーカム弁装置、ポペット弁付き、他形式はすべて単式2シリンダ、ワルシャート式弁装置、ピストン弁(ロングラップ・ロングトラベル)付きでした。
日本国鉄蒸機が動輪回転数200rpm前後でシリンダ効率が最大となる傾向を持つのに対し、近代英国蒸機は動輪回転数350rpm前後が平均像で、本質的に最適速度領域(オプティマム・スピード・レンジ)に差異が有ったようです。


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