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Q&Aコーナー (3)

皆さんからのご質問やご意見に一問一答の形でお答えします。


Part 3. 初期タービン推進艦 に関するQ&A

首記に関して、新見 志郎氏より掲示板にご質問をお寄せいただきましたので、当ページにて回答します。以下、Qは志郎氏のご質問、Aは髙木の回答を示します。

Q.1
蒸気タービンを装備したフネとしては、タービニアを筆頭に、戦艦ドレッドノート、駆逐艦ヴァイパー、コブラが有名です。
これらのタービンが推進器直結であったために効率が悪かったのは、このHPのコンテンツでも明らかですが、実際これらはどの程度の回転数だったのでしょう。こちらで判るのは、ドレッドノートの330回転ほど(全速)だけです。

A.1
まず、表.1 に英国の初期タービン推進艦の試験成績をまとめてみました。

表.1 英国初期タービン推進艦 試験成績

NameBEADateTDPHPNaVC/hr
TurbiniaNormand?
(14.8)
13 on
1 axle
(0.76)
c2,0003,00018
Turbinia
(rebuilt)
1 HP
1 IP
1 LP
9 on
3 axles
(0.46)
44.51,20018
2,00030
2,23034.5
Viper4 Yarrow
(17.6)
2 HP
2 LP
8 on
4 axles
(1.02)
1899.113-hr3931,04633.838
1-hr36.58
Short370c13,0001,18037.118
1900.63-hr40134.32
Cobra4 Yarrow
(17.6)
2 HP
2 LP
12 on
4 axles
(0.84)
1900.83-hr40130.1813.67
1901.6401c13,0001,05034.89
Velox4 Yarrow
(17.6)
2 HP
2 LP

Cruising
2 VTE
? on
4 axles
(0.99)
4-hr449c7,50089327.124c10
VTE only10.36
Eden4 Yarrow1 HP
2 LP
6 on
3 axles
1904.14-hr57593926.2297.65
Amethyst10 Yarrow
(18.3)
3 axles3,00014,200450
490
23.4
Dread-
nought
18 Babcock
& Wilcox
(17.6)
2 HP
2 LP
4 axlesFull
Power
26,35032821.6
Invinci-
ble
31 Yarrow
(17.6)
1908.11c17,40046,50029526.64
Inflexi-
ble
190846,94729126.48
Indomita-
ble
31 Babcock
& Wilcox
(17.6)
1908.417,43547,87929626.1

典拠:
 E. March, British Destroyers. Seeley, UK, 1966
 O. Parks, British Battleships. Seeley, UK, 1970
 Conway's All the World's Fighting Ships 1860 - 1905. Conway, UK, 1979
 Conway's All the World's Fighting Ships 1906 - 1921. Conway, UK, 1985
 A. Roberts, Battlecruisers. Chatham, UK, 1997
 蒸気タービン 内丸最一郎 丸善 1916
凡例:
 B: 主缶形式、()内は缶使用圧力 [kg/cm2]
 E: 主機形式、すべてパーソンズ式、HP: 高圧、IP: 中圧、LP: 低圧
 A: 推進器/推進軸数、()内は推進器外径 [m]
 Date: 試験年月
 T: 試験種類
 DP: 排水量 [T]
 HP: 軸馬力 [HP]
 Na: 推進軸回転数 [rpm]、同一艦で2段記載は上段が中央軸、下段が翼軸
 V: 速力 [kt]
 C/hr: 毎時石炭消費量 [T/h]

エデン以前の各艦は全速時の推進軸回転数が800rpmを超えるため、1軸当り2基または3基のタンデム・スクリューとしていましたが、推進効率は相当悪いことが推測されます。タービニア開発時の有名なガラス張りの水槽実験でも、1,500rpm以上ではキャビテーションが顕著であることが観測されています。
なお、ヴェロックスはご高承のように、巡航用に3気筒直立3段膨張機関を併設した珍しいタービン推進艦です。
軽巡洋艦アメジストでようやく500rpm以下になりましたが、それでも推進器のオプティマム・スピード・レンジである100rpm前後からはだいぶ離れています。ちなみに、蒸気タービンのオプティマム・スピード・レンジは3,000〜4,000rpmとされており、発電用 (3,000または3,600rpm) はまさしく効率最大のレンジで使用しているわけです。


次に、表.2 に量産型として最初のタービン推進航洋型駆逐艦である、英国のトライバル級(初代)の6時間試験成績をまとめてみました。表中より、最大速力(33〜35ノット)では推進軸回転数680〜770rpmに達していることが判ります。

表.2 トライバル級(初代) 試験成績

NameBPbEDPHPNaV
Afridi5 Yarrow15.73 Parsons
1 HP
2 LP
84521,32074833.254
Cossack5 Laird68034.019
Ghruka5 Yarrow77033.910
Mohawk6 White Foster84575134.245
Tartar6 Thornycroft76835.360
Amazon98824,57072033.217
Saracen6 White Foster95074233.168
Crusader1,04027,71776034.833
Maori6 Yarrow1,07226,19968633.244
Nubian6 Thornycroft1,00774834.704
Viking6 Yarrow22,80673633.405
Zulu1,04522,41970633.345

典拠:
 E. March, British Destroyers. Seeley, UK, 1966
凡例:
 B: 主缶形式
 Pb: 缶使用圧力 [kg/cm2]
 E: 主機形式、すべてパーソンズ式、HP: 高圧、P: 低圧、3軸
 DP: 排水量 [T]
 HP: 軸馬力 [HP]
 Na: 推進軸回転数 [rpm]
 V: 速力 [kt]


Q.2
また、これは巡航時には200回転ほどでしかなく、タービン屋さんが泣き出すような回転数です。そこでなのですが、この当時の蒸気タービンが、材質などから制限される範囲での最大効率は、どの程度だったのでしょう。実際に発電機などでの使用例と比べて、船舶用はどのくらい低効率だったのでしょうか。

A.2
舶用主機の熱効率thermal efficiencyのデータは蒸気機関車と比べて発表されたものが少ないのが残念ですが、日本の戦艦・巡洋戦艦で直結タービン(伊勢・日向のみ巡航タービンに歯車式減速装置を介したパーシャル・ギヤード・タービン)のものに関して、計画値、全負荷 (10/10) 、部分負荷 (6/10) 、および巡航時 (10kt) における軸馬力毎時当り蒸気消費量Csから、主機の熱効率Eeを非常にラフな計算で求め、表.3 にまとめてみました。
ご指摘のように、全負荷において熱効率最大となるように仕様が決められているため、巡航時には回転数の低下に伴って熱効率が急激に低下するのが読み取れます。なお、伊勢・日向では巡航タービンの効果により、熱効率の低下傾向が小さいことも判ります。

表.3 本邦初期タービン推進主力艦 試験成績

NameEAiAwPlan10/106/1010 kt
CsEeCsEeCsEeCsEe
伊吹カーチスAP7.0514.47.4813.614.047.2
安芸6.5415.57.0114.512.378.2
河内6.5715.46.2816.26.8714.811.418.9
攝津5.7217.76.2016.411.558.8
金剛パーソンズLPHP5.2119.55.1719.65.7217.713.277.6
比叡5.3918.86.0216.912.628.0
霧島5.0420.25.3119.110.729.4
榛名ブラウン・カーチス5.1419.75.2119.512.588.0
扶桑HP
LP
IP5.0720.05.2719.39.8310.3
山城5.1819.611.029.2
伊勢CHP
CLP
LP
HP5.2019.55.4518.66.8714.8
日向パーソンズ5.0520.15.1919.66.6515.3


典拠:
 軍艦機関計画一班 改訂増補三版 海軍機関学会 1918
凡例:
 E: 主機形式、「パーソンズ」はすべて初段にカーチス(衝動)段落を設けたコンパウンド(衝動・反動複合)・タービンの改良型パーソンズ式、「ブラウン・カーチス」は前段を翼車列、後段を胴車構造としたブラウン・カーチス式
 Ai: 内側(内舷)軸、HP: 高圧タービン、LP: 低圧タービン、CHP: 巡航高圧タービン、CLP: 巡航低圧タービン
 Aw: 翼(外舷)軸、AP: 全圧(単胴)タービン、HP: 高圧タービン、IP: 中圧タービン、LP: 低圧タービン
 Cs: 軸馬力毎時当り蒸気消費量、蒸気消費率 [kg/shp-hr]
 Ee: 主機熱効率 [%]
前提:
 主機初圧: 12.0kg/cm2
 蒸気温度: 飽和温度(187℃)
 蒸気エンタルピis: 665kcal/kg
 復水エンタルピiw: 35kcal/kg(35℃)
 1hp-hr = 641kcal
 機関熱効率Ee = 正味毎時出力/全入熱 = 641/Cs・(is -iw) [%]

なお、発電用の蒸気タービンの熱効率については、1967年改訂「電気工学必携」(三省堂)によると、膨張段の途中から給水予熱のため抽気する再生タービンで約36%というデータが載っています。


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