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明治・大正期
日本軍艦 機関部データ集

第3章 主機(レシプロ機関)



装甲巡洋艦 鞍馬。日本軍艦では最大出力のレシプロ機関(11,250ihp)を2基搭載。


3-1.基本仕様


3-1-1. 戦艦

NameQdAPeRvdsNaVp
HILHIL
Royal Sovereign11,000210.512.184.8410161499223513721084.94
富士13,500210.512.184.8410161499223511431204.57
Majestic12,000210.512.184.8410161499223512951004.32
Canopus13,500217.612.677.117621245203212951084.66
敷島14,500214.812.436.108641346213412191204.88
Formidable15,000217.612.677.118001308213412951084.66
朝日15,000217.612.647.068131321215912191084.39
三笠15,000217.612.607.007871270208312191204.88
Duncan18,000217.612.657.0785113841600160012191204.88
King Edward VII18,000214.812.657.0785113841600160012191204.88
Africa18,000214.812.496.2296515241702170212191204.88
香取16,320214.112.496.3090214221600160012191204.88
鹿島15,600214.112.426.1391414221600160012191204.88
Lord Nelson16,750217.612.596.7183213401524152412191204.88
薩摩17,000214.812.546.3694014991676167612191204.88

Name: 艦名
Qd: 計画出力 [hp]、指示馬力ihpを示す
A: 主機数
Pe: 主機初圧力 [kg/cm2]
Rv: シリンダ容積比、H: 高圧シリンダを1とし、I: 中圧シリンダ、L: 低圧シリンダを示す
d: シリンダ内径 [mm]、低圧シリンダ2基は4気筒3段膨張を示す
s: シリンダ行程 [mm]
Na: クランク軸回転数 [rpm]
Vp: ピストン速度 [m/s]

<解説>
この時代の舶用レシプロ主機は復水式の複式(2段以上)膨張で、主機初圧Pe・膨張段数Es・シリンダ容積比Rvの目安は次表のようになっており、上記の日英戦艦の主機もおおむねこのガイドラインに沿って同一手法で設計されているため、各部寸法数値に共通点が多く見られます。

Pe
(psi)
Pe
(kg/cm2)
EsRv
HIL
604.321-3
805.621-3.5
1007.021-4
15010.5312.245
20014.1312.456
25017.6312.657

ピストン速度は、クランク軸が最大回転数のとき1,000ft/min = 16.67ft/s (5.08m/s) を超えないよう、シリンダ行程が決められます。例えば、クランク軸回転数が120rpm (2rps) でシリンダ行程が4ft (1219mm) の場合、ピストン速度は16ft/s (4.88m/s) で上記以下に収まります。

1基当りの出力が7,500ihp以下は3気筒直立3段膨張ですが、それを超えるダンカン級以降は4気筒直立3段膨張としています。
薩摩の主機は国産ですが、表中より香取の主機のシリンダ内径を約5%サイズアップしたものであることが読み取れます。


3-1-2. 装甲巡洋艦

NameQdAPeRvdsNaVp
HILHIL
浅間・常磐18,000210.912.044.9310671524167616769911354.46
出雲・磐手14,500214.812.486.398381321149914999911555.12
Drake30,000217.612.667.02110518032070207012191204.88
Monmouth22,000217.612.636.9694015241753175310671404.98
八雲15,500214.012.335.4095014501560156010001404.67
Liberte(仏戦艦)18,500312.115.3086012501400140011501104.21
吾妻16,765215.012.106.1698014201720172010501254.38
Giuseppe Garibaldi14,0002106
春日・日進13,500211.612.194.5410801600230011701064.09
Antrim21,000214.812.496.27105416641867186710671404.97
Minotaur27,000212.606.7410321664189518951219
筑波19,500214.812.445.8310411626177817789911504.95
生駒20,500
鞍馬22,500214.812.445.8310411626177817789911605.29

Name: 艦名
Qd: 計画出力 [hp]、指示馬力ihpを示す
A: 主機数
Pe: 主機初圧力 [kg/cm2]
Rv: シリンダ容積比、H: 高圧シリンダを1とし、I: 中圧シリンダ、L: 低圧シリンダを示す
d: シリンダ内径 [mm]、低圧シリンダ2基は4気筒3段膨張式を示す
s: シリンダ行程 [mm]
Na: クランク軸回転数 [rpm]
Vp: ピストン速度 [m/s]

<解説>
クランク軸回転数が一般的に戦艦よりもやや大のため、シリンダ行程は3.25ft = 39in (991mm) 前後とし、ピストン速度が一部を除き1,000ft/min (5.08m/s) を超えないようにしています。

また、往復部質量の釣り合わせ(不釣合質量の影響は角速度つまり回転数の自乗に比例して増大)に配慮し、1基当りの出力が7,000ihp以下は3気筒直立3段膨張、それを超えるときは4気筒直立3段膨張としています。

ドイツで建造の八雲、フランスで建造の吾妻、およびイタリアで建造の春日・日進の主機はミリサイズ(メートル法)で設計されています。春日・日進の主機は3気筒直立3段膨張で、低圧シリンダ内径は日本軍艦中最大でした。

筑波級の主機は香取級用をベースにしたとの説も有るようですが、香取と鹿島とではシリンダ内径や滑弁の数が異なりますし、より本質的なところでは装甲巡タイプ (150rpm) の前者と戦艦タイプ (120rpm) の後者とでシリンダ行程(=クランク円直径)が大きく異なっている点が挙げられます。むしろ手本としたのは、同一使用圧・同一シリンダ行程の出雲型用の主機と考えられます。なお、筑波級の主機はわが国初の強圧注油方式でした。

鞍馬はレシプロ主機の日本軍艦としては最大出力でしたが、初圧力・シリンダ内径・同行程は筑波級と同一で、クランク軸回転数を相対比で約7%増大し、かつカットオフを延伸してシリンダ内の平均有効圧力を高めることによって約10%の出力増大を実現したものと考えられます。これは主缶の力量増大によって可能となっています。


3-1-3. 防禦巡洋艦

NameQdAPeRvdsNaVp
HILHIL
和泉5,50026.31-3.641092-2083914962.93
浪速7,50026.31-3.411168-21599141223.72
畝傍6,00026.01-3.001040-1800950
千代田5,600211.212.174.6367399114486862064.71
松島5,326212.012.5313.63390620144010001083.60
秋津洲8,400210.512.145.43826120719248891303.85
須磨8,384210.512.295.37820124019007201704.08
明石7,890210.512.295.37820124019007501503.76
吉野15,500210.512.255.4510161524167616768381654.61
高砂15,500210.512.255.4510161524167616768381654.61
笠置17,000210.512.135.1110801575172717278381654.61
千歳15,500210.912.255.4510161524167616769141534.66
Topaze9,800212.526.07616978107310736092505.08
新高9,400214.812.285.587491130125112517621854.70
音羽10,000214.112.285.587491130125112517622005.08
利根15,000212.486.408381321149914998381604.47

Name: 艦名
Qd: 計画出力 [hp]、指示馬力ihpを示す
A: 主機数
Pe: 主機初圧力 [kg/cm2]
Rv: シリンダ容積比、H: 高圧シリンダを1とし、I: 中圧シリンダ、L: 低圧シリンダを示す
d: シリンダ内径 [mm]、低圧シリンダ2基は4気筒3段膨張式を示す
s: シリンダ行程 [mm]
Na: クランク軸回転数 [rpm]
Vp: ピストン速度 [m/s]

<解説>
初期のものは、機関室の高さに制約があるため、2気筒横置2段膨張、または3気筒横置3段膨張のレシプロ機関が採用されました。

松島型は、低速域では3段膨張で運転し、10kt以上の高速域では高圧・中圧両気筒に直接給気し、2段膨張として運転するため、低圧気筒の直径が著しく大となっています。2段膨張時の膨張比は、1:3.87です。

須磨と明石は横須賀工廠(当時は造船部または造船廠)の建造ですが、主機はミリサイズ(メートル法)で設計されているところを見ると、幕末以来のフランス流儀の名残とも考えられ、これら以前の同所建造艦の主機の詳細に興味が持たれます。ちなみに、同所で建造された新高級以降は主機がインチサイズ(ヤードポンド法)となり、英国流儀に変わっています。

吉野から利根までは4気筒直立3段膨張機関が定着し、クランク軸回転数は150〜200rpm程度と装甲巡洋艦よりさらに大のため、シリンダ行程はおおむね2.5ft = 30in (762mm) ないし3.0ft = 36in (914mm) とし、やはりピストン速度が1,000ft/min (5.08m/s) を超えないようにしています。表中では音羽がまさしくピストン速度1,000ft/minでした。


3-1-4. 駆逐艦

NameQdAPeRvdsNaVp
HILHIL
Desperate
(30-knotter)
5,700215.5390
東雲5,400215.512.104.505087377627624574006.10
6,000217.612.365.505218008648644573905.94
6,500217.612.365.505218008648644573905.94
白雲7,000215.911.803.965597497877874833906.28
春雨6,000217.612.365.505218008648644573805.79
神風6,0002
9,500317.612.365.505218008648644573905.94
9,500317.612.365.505218008648644573905.94

Name: 艦名
Qd: 計画出力 [hp]、指示馬力ihpを示す
A: 主機数
Pe: 主機初圧力 [kg/cm2]
Rv: シリンダ容積比、H: 高圧シリンダを1とし、I: 中圧シリンダ、L: 低圧シリンダを示す
d: シリンダ内径 [mm]、低圧シリンダ2基は4気筒3段膨張式を示す
s: シリンダ行程 [mm]
Na: クランク軸回転数 [rpm]
Vp: ピストン速度 [m/s]

<解説>
駆逐艦の主機は、信頼性(経年変化に対する耐性)を多少犠牲にしても短時間の高速力発揮が必要なため、当初から重量を極力抑えつつ、高速回転時のダイナミック・バランスを重視した4気筒3段膨張のレシプロ機関が採用されました。

クランク軸回転数は380〜400rpmで、ピストン速度は一部を除き1,200ft/min = 20ft/s (6.10m/s) を超えないよう、シリンダ行程は1.5ft = 18in (457mm) 前後となっています。表中では東雲級がピストン速度1,200ft/minでした。

白雲級は東雲級と同じくソーニクロフト社の建造ですが、後者のほうがシリンダ容積比を小さくしていることより、主機初圧力を低く設定し、その代わりシリンダの内径と行程を少しずつ拡大して、出力を1基当り500ihpずつ増大していたものと推定されます。

桜級・樺級は3軸で9,500ihpですから1基当り3,167ihpとなり、主機自体はヤーロー社建造の雷級と基本的に同型です。

船体が小さく重量制限の厳しい駆逐艦においては、レシプロ主機の大幅な能力向上は困難であり、別項で述べるタービン主機の採用は他の艦種に増して大きなメリットとなったと考えられます。


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