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明治・大正期
日本軍艦 機関部データ集
戦艦 安芸。日本戦艦で初めてタービン主機を搭載。
3-3.基本仕様
3-3-1. 戦艦
Name | Qd | Ty | P | Tm | Ne | Ns | Shafts | Re | Rs | |||||||
PW | PI | SI | SW | |||||||||||||
Dread- nought | P | HL | D | 2 | 4 | H+AH | L+AL | L+AL | H+AH | 320 | 320 | |||||
安芸 | 10,800 | C | - | D | 2 | 2 | M+A | - | - | M+A | 255 | 255 | ||||
河内 摂津 | 12,500 | C | - | D | 2 | 2 | M+A | - | - | M+A | 245 | 245 | ||||
Orion | P | HL | D | 2 | 4 | H+AH | L+AL | L+AL | H+AH | 320 | 320 | |||||
扶桑 山城 | 11,500 | BC | HIL | D | 2 | 4 | I+AH | H | H | I+AH | 280 | 280 | ||||
12,500 | L+AL | L+AL | ||||||||||||||
伊勢 | 14,650 | BC | HL | PG | 2 | 4 | H+AH | CH | CI | CI | CH | H+AH | 290 | 290 | ||
13,350 | L+AL | L+AL | ||||||||||||||
日向 | 13,250 | P | HL | PG | 2 | 4 | H AH | CH | CI | CI | CH | H AH | 300 | 300 | ||
14,750 | L+AL | L+AL | ||||||||||||||
Queen Elizabeth, Warspite, Malaya | P | HL | PG | 2 | 4 | C | L+AL | L+AL | C | 275 | 275 | |||||
H AH | H AH | |||||||||||||||
Valiant, Barham | BC | HIL | D | 2 | 4 | I+AH | H | H | I+AH | 275 | 275 | |||||
L+AL | L+AL | |||||||||||||||
長門 陸奥 | 20,000 | KT | HL | AG | 4 | 4 | L | H+A | H+A | L | L | H+A | H+A | L | 2,750 | 230 |
20,000 | RG | RG | RG | RG | ||||||||||||
加賀 | 22,750 | BC | HL | AG | 4 | 4 | L+A | H | H | L+A | L+A | H | H | L+A | 2,200 | 210 |
22,750 | RG | RG | RG | RG | 1,270 | |||||||||||
土佐 | 22,750 | PIR | HL | AG | 4 | 4 | 2,393 | 210 | ||||||||
22,750 | RG | RG | RG | RG | 2,025 |
Name: 艦名
Qd: 1軸計画出力 [shp]、2段併記の上段は翼軸、下段は内側軸を示す
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、C: カーチス式、BC: ブラウン・カーチス式、KT: 艦本式トリプルフロー、PIR: パーソンズ・インパルス・リアクション式、2段併記の上段は高圧、下段は低圧を示す
P: 圧力方式、HL: 高低圧、HIL: 高中低圧を示す
Ne: 主機数、Ne=2, Ns=4は高(中)低圧2基4軸(2軸併結)の並列cross compoundを示す
Ns: 推進軸数
Tm: 伝達方式、D: 直結式、PG: 巡航タービンのみ部分歯車減速式(パーシャル・ギヤード)、AG: 全歯車減速式(オール・ギヤード)を示す
Shafts: 推進軸、PW: 左舷翼軸、PI: 左舷内側軸、SI: 右舷内側軸、SW: 右舷翼軸、ケーシング一体は( )+( )、別ケーシング・並列は2列併記、別ケーシング・タンデムは2段併記(上段艦首寄り・下段艦尾寄り)、M: 主(全圧)タービン、C: 巡航タービン、CH: 巡航高圧タービン、CI: 巡航中圧タービン、H: 高圧タービン、I: 中圧タービン、L: 低圧タービン、A: 後進(全圧)タービン、AH: 後進高圧タービン、AL: 後進低圧タービン、RG: 減速歯車装置(オール・ギヤード)を示す
Re: タービン軸回転数 [rpm]、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Rs: 推進軸回転数 [rms]
<解説>
タービン主機の形式呼称は上表のTyからTmまでで、艦艇では主機数と推進軸数を併記します。例をドレッドノートに取ると、「パーソンズ高低圧直結タービン2基4軸」、長門級では「艦本トリプルフロー高低圧オール・ギヤード・タービン4基4軸」となります。
蒸気タービンは動翼(回転翼)の角度が固定のため、翼車の回転は一方向のみです。従って動力伝達方式が直結式、または歯車減速の場合は、前進用と後進用の両方の翼車が必要となります。通常、前進に比べて後進は速力(所要出力)が小さいため、後進タービンは翼列数が著しく少なくなっています。なお、動力伝達方式が電気推進式、または流体変速式の場合は、後進タービンは不要となりますが、日本海軍の艦艇ではごく一部を除いて用いられませんでした。
直結式は、初期のタービン主機に用いられた動力伝達方式で、タービン軸をそのまま推進軸と直結したものです。
このうち安芸と河内級がカーチス式2基2軸、扶桑級と伊勢がブラウン・カーチス式2軸併結タービン2基4軸、日向がパーソンズ式2軸併結タービン2基4軸です。反動タービンのパーソンズ系は段落当りの圧力降下が小さいので、翼列数が多くなり、通常は2軸併結としますが、衝動タービンのカーチス系はよほど大出力でなければ1軸で全圧を吸収でき、左右2軸で済ませられるわけです。一方、カーチス系は外径が大きいため、タービン軸の位置が高く推進軸の傾斜が急になるのと、機関室の高さも大きく防禦上不利となることが欠点に挙げられます。
安芸の主機は、わが国最初のタービン推進艦である伊吹の主機と同一のもので、米国におけるカーチス式のライセンシーであるフォアー・リヴァー造船所から製造(特許実施)権とともに海軍自体の手で購入(1906年)されたものです。
これと前後して、民間のニ大造船所である三菱長崎、川崎神戸も1911年にパーソンズ式とブラウン・カーチス式の製造権契約を締結しています。両社は以後しばらくの間、自社建造艦にパーソンズ式(霧島、日向など)とブラウン・カーチス式(榛名、伊勢など)の主機を搭載しています。
扶桑級は、内側軸を高圧・低圧のタンデム、翼軸を中圧とした、比較的珍しい高中低圧タービン搭載艦で、同じ方式の英国巡洋戦艦タイガー、英国戦艦ヴァリアント、同バーラムより早く起工されています。伊勢級は内側軸に歯車減速装置を介して巡航高圧および同中圧タービンを付加し、巡航時の燃費改善を図っています。なお、扶桑級は計画出力を40,000shpと公表した関係で、翼軸9,450shp・内側軸10,550shp、また伊勢級は計画出力を45,000shpと公表した関係で、翼軸11,780shp・内側軸10,720shp、日向は各軸11,250shpとされていました。
タービン機関は、当初は全て特許で守られていましたから、各方式の考案元とライセンシーとのつながりを把握しておくことが重要です。主なライセンシーを以下に列記します。
カーチス系
米国: フォアー・リヴァー造船所(ボストン)
英国: ジョン・ブラウン社(グラスゴー)
ドイツ: ヴルカーン社(シュテティーン)
日本: 川崎造船所(神戸)1906年〜
ラトー式
フランス: ブルターニュ造船所(ナント)
英国: ブリティシュ・ウェスティングハウス社(マンチェスター)※のちにヴィッカーズ社に買収されてメトロポリタン・ヴィッカーズ・エレクトリック社となる
スイス: エリコン造機(チューリヒ)
チェコ: スコダ社(ピルゼン)
ツェリー式
スイス: エッシャー・ヴィス社(チューリヒ)
ドイツ: クルップ・ゲルマニア造船所(キール)
フランス: シュナイダー社(ル・クルーゾー)
米国: ウィリアム・クランプ造船所(フィラデルフィア)
日本: 石川島造船所(長崎)1918年〜
三菱造船所(長崎)1925年〜
パーソンズ式
米国: ウェスティングハウス社(ピッツバーグ)
スイス: ブラウン・ボヴェリー社(バーデン)
ドイツ: ブラウン・ボヴェリー社分工場(マンハイム)
メルムス・プェニンガー社(ミュンヒェン)
日本: 三菱造船所(長崎)1903〜1925年
蒸気タービンが効率最大となるオプティマム・スピード・レンジは3,000〜4,000rpmとされており、発電用 (3,000または3,600rpm) はまさしく効率最大のスピード・レンジで使用しているわけです。一方、艦船の推進器は100rpm前後がオプティマム・スピード・レンジであるため、タービン主機と推進器との間に減速装置を介在させることは早い時期から考えられてはいましたが、大馬力を伝達可能な歯車減速装置の実用化は、歯形理論の確立や鋼材・工作機械の性能向上を待つ必要が有りました。そのため当初は、高速回転の巡航タービン(おおむね1基当り2,000shp以下)のみ歯車減速装置を介した部分歯車減速式(パーシャル・ギヤード)が用いられました。艦艇で全歯車減速式(オール・ギヤード)を採用した世界最初のものは
英国駆逐艦レオニダス
(1912年度計画)、わが国最初のものは軽巡天龍級(1915年度計画)とされています。なお、減速歯車は毎回同一相手と噛み合うのを避けるため、減速比(=歯数比)を整数比としないよう設計されますので、表中のタービン軸回転数で切りの良いのは適宜丸めた数値です。
以下にオール・ギヤード・タービン各型式の基本構成を簡単にまとめておきます。
なお<艦名>は未成艦を示し、搭載艦には昭和期のものも含みます。
Type | HP | LP | Ships | ||
初段のみ衝動 | 衝動 | 反動(双流) | 衝動 | ||
改パーソンズ | ○ | − | ○ | − | 鳳翔、迅鯨、長鯨 菱、蓮、朝顔、早苗、早蕨 |
艦本トリプルフロー (改ウェスティングハウス) | ○ | − | ○ | − | 長門、陸奥 |
パーソンズ・インパルス・リアクション (三菱パーソンズ) | − | ○ | ○ | − | <土佐> <高雄> 古鷹、青葉 夕張、那珂、川内 峯風級、神風(Ⅱ) 楡、栗、柿、栂 |
技本 (シリーズ/パラレル) | − | ○ | ○ | − | <天城>、赤城 球磨級(除大井)、長良級(除鬼怒) |
ブラウン・カーチス | − | ○ | − | ○ | 加賀 <愛宕> 加古、衣笠 天龍、龍田、大井、鬼怒、神通 谷風、江風 樅、カヤ、蕨、蓼、若竹 |
ラトー | − | ○ | − | ○ | 弥生(Ⅱ) |
ツェリー | − | ○ | − | ○ | 菫、蓬、夕顔、長月(Ⅱ) |
艦本オール・インパルス | − | ○ | − | ○ | 妙高級以降 追風(Ⅱ)以降 |
3-3-2. 装甲巡洋艦/巡洋戦艦
Name | Qd | Ty | P | Tm | Ne | Ns | Shafts | Re | Rs | |||||||
PW | PI | SI | SW | |||||||||||||
Invinci- ble | P | HL | D | 2 | 4 | H+AH | C | C | H+AH | 275 | 275 | |||||
L+AL | L+AL | |||||||||||||||
伊吹 | 10,800 | C | - | D | 2 | 2 | M+A | - | - | M+A | 255 | 255 | ||||
Indefati- gable | P | HL | D | 2 | 4 | H+AH | L+AL | L+AL | H+AH | 275 | 275 | |||||
Lion | P | HL | D | 2 | 4 | H+AH | L+AL | L+AL | H+AH | 275 | 275 | |||||
金剛 比叡 霧島 | 17,900 | IP | HL | D | 2 | 4 | H+AH | L+AL | L+AL | H+AH | 290 | 290 | ||||
19,600 | ||||||||||||||||
榛名 | 17,900 | BC | HL | D | 2 | 4 | H+AH | L+AL | L+AL | H+AH | 290 | 290 | ||||
19,600 | ||||||||||||||||
Tiger | BC | HIL | D | 2 | 4 | I+AH | H | H | I+AH | 275 | 275 | |||||
L+AL | L+AL | |||||||||||||||
Renown | BC | HIL | D | 2 | 4 | I+AH | H | H | I+AH | 275 | 275 | |||||
L+AL | L+AL | |||||||||||||||
Furious | 22,500 | BC | HL | AG | 4 | 4 | L+A | H | H | L+A | L+A | H | H | L+A | 2,580 | 330 |
22,500 | RG | RG | RG | RG | 1,380 | |||||||||||
Hood | 36,000 | BC | HL | AG | 4 | 4 | H | L+A | L+A | H | H | L+A | L+A | H | 1,497 | 210 |
36,000 | RG | RG | RG | RG | 1,098 | |||||||||||
天城 赤城 | 32,800 | G | HL | AG | 8 | 4 | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | 3,000 | 210 |
32,800 | RG | RG | RG | RG | 2,400 | |||||||||||
H | H | H | H | H | H | H | H | |||||||||
愛宕 | 32,800 | BC | HIL | AG | 8 | 4 | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | L+A | 3,000 | 210 |
32,800 | RG | RG | RG | RG | 2,400 | |||||||||||
I | H | H | I | I | H | H | I |
Name: 艦名
Qd: 1軸計画出力 [shp]、2段併記の上段は翼軸、下段は内側軸を示す
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、C: カーチス式、IP: 改良パーソンズ式、BC: ブラウン・カーチス式、G: 技本式、2段併記の上段は高圧、下段は低圧を示す
P: 圧力方式、HL: 高低圧、HIL: 高中低圧を示す
Ne: 主機数、Ne=2, Ns=4は高(中)低圧2基4軸(2軸併結)の並列cross compoundを、Ne=8, Ns=4は高(中)低圧8基4軸のツイン(双子)・タービンtwin turbineを示す
Ns: 推進軸数
Tm: 伝達方式、D: 直結式、PG: 巡航タービンのみ部分歯車減速式(パーシャル・ギヤード)、AG: 全歯車減速式(オール・ギヤード)を示す
Shafts: 推進軸、PW: 左舷翼軸、PI: 左舷内側軸、SI: 右舷内側軸、SW: 右舷翼軸、ケーシング一体は( )+( )、別ケーシング・並列は2列併記、別ケーシング・タンデムは2段併記(上段艦首寄り・下段艦尾寄り)、M: 主(全圧)タービン、C: 巡航タービン、CH: 巡航高圧タービン、CI: 巡航中圧タービン、H: 高圧タービン、I: 中圧タービン、L: 低圧タービン、A: 後進(全圧)タービン、AH: 後進高圧タービン、AL: 後進低圧タービン、RG: 減速歯車装置(オール・ギヤード)を示す
Re: タービン軸回転数 [rpm]、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Rs: 推進軸回転数 [rms]
<解説>
世界最初の巡洋戦艦インヴィンシブル級では内側軸を巡航タービンとタンデムにしていましたが、次のインデファティガブル級では高圧タービンのケーシング内に巡航段落を設けています。ライオン級もこれを踏襲し、ヴィッカーズ社で設計・建造の金剛も同様となっています。榛名は建造所が川崎神戸のため、ブラウン・カーチス式(巡航段落無し)を採用しました。なお、金剛級は計画出力を64,000shpと公表した関係で、翼軸15,300shp・内側軸16,700shpとされていました。
タイガーは建造所がジョン・ブラウン社のため、主機もカーチス式のライセンシーである同社が考案したブラウン・カーチス式を採用し、過負荷で1軸平均27,000shpが期待されたことより、内側軸を高圧・低圧のタンデム、翼軸を中圧とした、高中低圧タービンを採用しています。次のレナウン級もこの基本計画を踏襲し、蒸気性状同一で1軸平均28,000shpとしています。
天城級はわが国で初めて1軸30,000shpを超えたため、減速歯車装置の前後に低圧タービンと高圧タービンを2基ずつ配したツイン(双子)・タービンとしています。ツイン・タービンは、後年の一万トン型巡洋艦(いわゆる条約型巡洋艦)妙高・愛宕両級(1軸32,500shp)や、戦艦大和型(1軸37,500shp)にも採用されています。
愛宕は建造所が川崎神戸のためブラウン・カーチス(高中低圧)式を搭載し、減速歯車装置の前方に低圧タービン2基、後方に高圧タービンと中圧タービンを1基ずつ配しています。
3-3-3. 防禦巡洋艦/軽巡洋艦
Name | Qd | Ty | P | Tm | Ne | Ns | Shafts | Re | Rs | |||||||||
PW | PI | C | SI | SW | ||||||||||||||
Amethyst | P | HL | D | 1 | 3 | L+A | - | H | - | L+A | ||||||||
筑摩 平戸 | 11,250 | BC | - | D | 2 | 2 | M+A | - | - | - | M+A | 340 | 340 | |||||
矢矧 | P | HL | D | 2 | 4 | H | CH | - | CI | H | 465 | 465 | ||||||
L+AL | L+AL | |||||||||||||||||
Arethusa | BC | HL | D | 2 | 4 | H | L | - | L | H | ||||||||
天龍 | 17,000 | BC | HL | AG | 3 | 3 | H | L+A | - | H | L+A | - | L+A | H | 3,000 | 400 | ||
17,000 | RG | RG | RG | 1,800 | ||||||||||||||
球磨級 (除大井) | 22,500 | G | HL | AG | 4 | 4 | H | L+A | L+A | H | - | H | L+A | L+A | H | 2,770 | 380 | |
22,500 | RG | RG | RG | RG | 2,266 | |||||||||||||
- | - | C | - | - | C | - | - | |||||||||||
大井 | 22,500 | BC | HL | AG | 4 | 4 | H | L+A | L+A | H | - | H | L+A | L+A | H | 380 | ||
22,500 | RG | RG | RG | RG |
Name: 艦名
Qd: 1軸計画出力 [shp]、2段併記の上段は翼軸、下段は内側(中央)軸を示す
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、IP: 改良パーソンズ式、BC: ブラウン・カーチス式、G: 技本式、2段併記の上段は高圧、下段は低圧を示す
P: 圧力方式、HL: 高低圧を示す
Ne: 主機数、Ne=1, Ns=3は高低圧1基3軸(3軸併結)、Ne=2, Ns=4は高低圧2基4軸(2軸併結)の並列cross compoundを示す
Ns: 推進軸数
Tm: 伝達方式、D: 直結式、AG: 全歯車減速式(オール・ギヤード)を示す
Shafts: 推進軸、PW: 左舷翼軸、PI: 左舷内側軸、C: 中央軸、SI: 右舷内側軸、SW: 右舷翼軸、ケーシング一体は( )+( )、別ケーシング・並列は2列併記、別ケーシング・タンデムは2段併記(上段艦首寄り・下段艦尾寄り)、M: 主(全圧)タービン、C: 巡航タービン、CH: 巡航高圧タービン、CI: 巡航中圧タービン、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、A: 後進(全圧)タービン、RG: 減速歯車装置(オール・ギヤード)を示す
Re: タービン軸回転数 [rpm]、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Rs: 推進軸回転数 [rms]
<解説>
筑摩級の筑摩は佐世保工廠、平戸は川崎神戸で建造され、ともにブラウン・カーチス式を搭載しましたが、矢矧は建造所が三菱長崎のため、筑摩級で唯一パーソンズ式を搭載しています。
防禦巡洋艦 平戸。川崎神戸造船所でブラウン・カーチス式タービンを搭載中。
天龍級は、わが国最初のオール・ギヤード・タービン搭載艦で、英国の高速軽巡アレシューザ級に範を採り、オール・ギヤード・タービンの採用によってその性格を一層強めたものと言えるでしょう。天龍級のタービンは翼軸が横須賀工廠、中央軸が川崎神戸、歯車減速装置は予備3組を含めた計9組のうち6組が三菱長崎、残り3組が英国キャメル・レヤード社の製造でした。なお、タービンはブラウン・カーチス式で、オール・ギヤードになった際に全翼車構造となっています。のちの艦本式オール・ギヤード・タービンはこれに範を採ったものです。
大井は建造所が川崎神戸のため、球磨級で唯一ブラウン・カーチス式を搭載しています。
3-3-4. 駆逐艦
Name | Qd | Ty | P | Tm | Ne | Ns | Shafts | Re | Rs | ||||||||
PW | C | SW | |||||||||||||||
Afridi (Trival) | P | HL | D | 1 | 3 | L | H | L | |||||||||
海風 山風 | P | HL | D | 1 | 3 | CH | H | CI | 700 | 700 | |||||||
L+A | L+A | ||||||||||||||||
浦風 | 11,000 | BC | - | PG | 2 | 2 | M+A | - | M+A | ||||||||
天津風 時津風 | BC | HL | PG | 1 | 3 | CH | H | CI | 750 | 750 | |||||||
L+A | L+A | ||||||||||||||||
磯風 浜風 | P | HL | PG | 1 | 3 | CH | H | CI | 750 | 750 | |||||||
L+A | L+A | ||||||||||||||||
桃、樫 | 8,350 | KI | - | PG | 2 | 2 | CH | - | CI | 700 | 700 | ||||||
M+A | M+A | ||||||||||||||||
檜、柳 | 8,350 | BC | - | PG | 2 | 2 | C | - | C | 700 | 700 | ||||||
M+A | M+A | ||||||||||||||||
楢 | 8,750 | BC | - | PG | 2 | 2 | C | - | C | 700 | 700 | ||||||
M+A | M+A | ||||||||||||||||
谷風 | 17,000 | BC | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 2,937 | 400 | ||||
RG | RG | 1,797 | |||||||||||||||
樅、カヤ、 梨、竹 | 10,750 | BC | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,254 | 400 | ||||
RG | RG | 2,272 | |||||||||||||||
楡、柿、 栗、栂 | 10,750 | PIR | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,750 | 400 | ||||
RG | RG | 3,000 | |||||||||||||||
菱、蓮 | 10,750 | IP | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,750 | 400 | ||||
RG | RG | 3,000 | |||||||||||||||
菫、蓬 | 10,750 | Z | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,750 | 400 | ||||
RG | RG | 2,750 | |||||||||||||||
若竹、芙蓉、 呉竹、刈萱 | 10,750 | BC | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,250 | 400 | ||||
RG | RG | 2,270 | |||||||||||||||
朝顔、早苗、 早蕨 | 10,750 | IP | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,750 | 400 | ||||
RG | RG | 2,750 | |||||||||||||||
夕顔 | 10,750 | Z | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,250 | 400 | ||||
RG | RG | 2,750 | |||||||||||||||
峯風 | 19,250 | PIR | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 3,250 | 400 | ||||
RG | RG | 2,750 | |||||||||||||||
神風(2代) | 19,250 | PIR | HL | AG | 2 | 2 | H | L+A | - | L+A | H | 2,750 | 400 | ||||
RG | RG | 2,250 |
Name: 艦名
Qd: 1軸計画出力 [shp]、2段併記の上段は翼軸、下段は中央軸を示す
Ty: タービン型式、P: パーソンズ式、IP: 改良パーソンズ式、PIR: パーソンズ・インパルス・リアクション式、BC: ブラウン・カーチス式、KI: 艦本式オール・インパルス、Z: ツェリー式、2段併記の上段は高圧、下段は低圧を示す
P: 圧力方式、HL: 高低圧を示す
Ne: 主機数、Ne=1, Ns=3は高低圧1基3軸(3軸併結)の並列cross compoundを示す
Ns: 推進軸数
Tm: 伝達方式、D: 直結式、PG: 巡航タービンのみ部分歯車減速式(パーシャル・ギヤード)、AG: 全歯車減速式(オール・ギヤード)を示す
Shafts: 推進軸、PW: 左舷翼軸、C: 中央軸、SW: 右舷翼軸、ケーシング一体は( )+( )、別ケーシング・並列は2列併記、別ケーシング・タンデムは2段併記(上段艦首寄り・下段艦尾寄り)、M: 主(全圧)タービン、C: 巡航タービン、CH: 巡航高圧タービン、CI: 巡航中圧タービン、H: 高圧タービン、L: 低圧タービン、A: 後進(全圧)タービン、RG: 減速歯車装置(オール・ギヤード)を示す
Re: タービン軸回転数 [rpm]、2段併記の上段は高圧タービン、下段は低圧タービンを示す
Rs: 推進軸回転数 [rms]
<解説>
わが国最初のタービン主機搭載の駆逐艦は1907年度計画の海風級で、主機は英国のパーソンズ社から三菱長崎造船所によって購入されたものです。また、最初のパーシャル・ギヤード・タービン搭載の駆逐艦は浦風級で、英国ヤーロー社に建造委託されたものです。磯風と浜風は、海風級の巡航タービンのみ部分歯車減速式としたものと見ることができます。
直結式タービン搭載の駆逐艦では、推進軸回転数が700〜750rpmとレシプロ機関の2倍近くにはね上がりました。これは推進効率を相当悪化させるため、谷風級以降のオール・ギヤード・タービン搭載艦では推進軸回転数400rpmとレシプロ機関なみに戻しています。
桃と樫の主機は艦本式オール・インパルスで、ブラウン・カーチス式に範を採り、動翼に独自の改良を施したものです。出力の割に小型で、蒸気消費率も比較的良好なため、のちに日本海軍タービン主機の主流に定着しました。
蓬と菫の主機はツェリー式で、蓬はエッシャー・ヴィス製、菫は石川島製でした。
菱と蓮の主機は改良パーソンズ式で、キャメル・レヤード社からの、また蕨と蓼はブラウン・カーチス式で、ジョン・ブラウン社からの輸入品でした。ともに故障の発生は報告されていません。
わが国の駆逐艦で、オール・ギヤード・タービンを採用した最初のものは谷風級(1916年度計画)で、主機1基は軽巡天龍級のものと基本的に同一ですが、歯車減速装置はジョン・ブラウン社からの輸入品でした。
船体が小さく重量制限の厳しい駆逐艦においては、レシプロ主機の大幅な能力向上は困難であり、タービン主機、特にオール・ギヤード・タービンの採用は他の艦種に増して大きなメリットとなったと考えられます。なお、オール・ギヤード・タービンの駆逐艦で船体断面中央寄りに低圧タービンを配するのは、通常その直下に復水器を設けるためです。
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