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日露戦争黄海海戦に見る機関部の実相
2-2. 軽快艦・第二線艦
続いて両軍の軽快部隊/支援部隊に所属していた防禦巡洋艦、およびその他の艦艇を起工順に見てみましょう。
2-2-1. 日本の防禦巡洋艦
和泉 Izumi 英国アームストロング社エルジック造船所建造、1884年竣工
2,920T, ? rpm, 5,500ihp, 18.0kts (計画値)
2,967T, 101rpm, 3,385ihp, 16.5kts (強圧通風)
同上、84rpm, 1,811ihp, 13.3kts (自然通風)
主缶: 両面焚き円缶4基、使用圧力100psi (6.3kg/cm2)
もとチリ海軍エスメラルダEsmeraldaを1894年に購入したものです。
本艦の主機は2気筒横置2段膨張、2基2軸です。
缶室は前後2室で、両面焚き円缶2基ずつ収め、缶は2基ずつ並置していました。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
なお、本艦は1898年に缶を換装しています。
松島型
松島 Matsushima 仏国ラ・セーヌ鉄工造船所建造、1891年竣工
橋立 Hashidate 横須賀造船部建造、1894年竣工
4,217T, 105rpm, 5,400ihp, 16.0kts (計画値)
4,278T, 105rpm, 6,519ihp, 16.778kts (松島/新造時)
同上、100rpm, 3,777ihp, 14.7kts (松島/強圧通風)
同上、91.9rpm, 3,118ihp, 14.1kts (同/自然通風)
同上、105rpm, 4,573ihp, 15.97kts (橋立/1902.10換装後/強圧通風)
同上、89.8rpm, 3,041ihp, 14.6kts (同/同/自然通風)
主缶: 片面焚き円缶12基、使用圧力12.0kg/cm2 (新造時)
主缶: 片面焚き宮原缶8基、使用圧力12.0kg/cm2 (橋立/1902換装後)
松島型の主機は3気筒横置3段膨張、2基2軸で、前後2室の機械室に、前から左舷機、右舷機を収めていました。
缶室は前後2室で、各室に片面焚き円缶6基を収め、3基ずつ横一列に並べ、背中合せとしています。
煙突は1本で、前後缶室の隔壁直上に位置し、煙路導設は両缶室から逆Y字状に導いていました。逆Y字状の理由は、煙路の合流部を隔壁上端(中甲板)よりさらに上方とするためです。ちなみに、本艦の防禦甲板は下甲板です。
なお、橋立は1902年に宮原缶に換装されています。主缶配置は各室に片面焚き宮原缶4基を収め、焚口(1基当り3個)を舷側炭庫に向け、2基ずつ背中合せとしていました。煙路導設は両缶室から逆T字状に煙突に導いています。
公試成績ですが、松島は新造時に比較して著しく低下しており、円缶の炉筒圧壊に対する危惧から大負荷を掛けなかった可能性が有ります。本級は仏蘭西流儀により、缶使用圧力を12.0kg/cm2 としていたため、缶使用圧力150〜155psi (10.5〜10.9kg/cm2) の英国製艦艇に比べて炉筒圧壊の傾向が顕著であったとされています。
橋立は日本軍艦で初めて宮原缶を搭載したもので、それまで問題の多かった円缶を廃するとともに、換装後の公試運転では好成績を収めました。これは同艦が第五戦隊の旗艦に選ばれた一因と考えられます。
なお、本海戦に不参加の厳島も主缶をベルヴィール式に換装していました。
IJN 2nd Class Cruiser HASHIDATE. (Auther's Collection)
秋津洲 Akitsushima 横須賀造船部建造、1894年竣工
3,100T, 154rpm, 8,400ihp, 19.0kts (計画値)
3,172T, 116rpm, 4,198ihp, 17.3kts (強圧通風)
同上、111rpm, 4,371ihp, 16.1kts (自然通風)
主缶: 両面焚き円缶4基、使用圧力150psi (10.5kg/cm2)
本艦の主機は3気筒横置3段膨張、2基2軸です。
缶室は前後2室で、両面焚き円缶2基ずつ収め、缶は2基ずつ並置しています。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
IJN 3rd Class Cruiser AKITSUSHIMA. (Auther's Collection)
高砂 Takasago 英国アームストロング社エルジック造船所建造、1898年竣工
4,160T, ? rpm, 15,500ihp, 22.5kts (計画値)
4,227T, 154.3rpm, 13,143ihp, 22.9kts (強圧通風)
同上、129.4rpm, 8,182ihp, 20.3kts (自然通風)
主缶: 片面焚き円缶4基、両面焚き円缶4基、使用圧力155psi (10.9kg/cm2)
缶室は前後2室で、各室に片面焚き円缶2基、両面焚き円缶2基を収め、2基ずつ並置し、片面焚き円缶2基(第1缶室後側、第2缶室前側)は背面を隔壁に対接しています。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
公試成績ですが、強圧通風では計画値より2,000馬力以上小さい出力で計画速力を上回っています。これについては、次項で検証します。
IJN 2nd Class Cruiser TAKASAGO. (Auther's Collection)
須磨型
須磨 Suma 横須賀造船部建造、1896年竣工
明石 Akashi 横須賀造船廠建造、1899年竣工
2,657T, 170rpm, 8,500ihp, 20.0kts (須磨/計画値)
2,756T, 160rpm, 8,000ihp, 19.5kts (明石/計画値)
2,700T, 120rpm, 3,072ihp, 15.4kts (須磨/強圧通風)
同上、118rpm, 3,650ihp, 15.0kts (同/自然通風)
2,800T, 151rpm, 7,396ihp, 19.5kts (明石/強圧通風)
同上、136rpm, 4,984ihp, 17.0kts (同/自然通風)
主缶: 片面焚き円缶8基(須磨)、同9基(明石)、使用圧力150psi (10.5kg/cm2)
須磨型の主機は3気筒直立3段膨張、2基2軸で、機械室に並置されています。
須磨の缶室は前後3室で、主缶をそれぞれ2基、3基、3基収めていました。
煙突は2本で、煙路導設は不詳です。
明石の缶室は前後3室で、主缶をそれぞれ4基、1基、4基と配置していました。
煙突は2本で、煙路導設は第2煙突の有効断面積が第1煙突の1.31倍であることより、それぞれ4缶、5缶に対応と推定できます。
公試成績ですが、須磨は新造時に比較して著しく低下しており、円缶の炉筒圧壊に対する危惧から大負荷を掛けなかった可能性が有ります。なお、同艦は本海戦で機関部故障のため後落し、第二合戦でアスコリトとノーヴィクの狙うところとなっています。
IJN 3rd Class Cruiser SUMA. (Auther's Collection)
笠置型
笠置 Kasagi 米国クランプ社建造、1898年竣工
千歳 Chitose 米国ユニオン鉄工所建造、1899年竣工
4,900T, 165rpm, 17,000ihp, 22.5kts (笠置/計画値)
4,760T, 153rpm, 15,500ihp, 22.5kts (千歳/計画値)
4,978T, 161rpm, 13,680ihp, 22.8kts (笠置/強圧通風)
同上、138rpm, 8,595ihp, 19.0kts (同/自然通風)
4,836T, 154.4rpm, 12,741ihp, 22.9kts (千歳/強圧通風)
同上、133.8rpm, 9,149ihp, 19.4kts (同/自然通風)
主缶: 片面焚き円缶12基、使用圧力155psi (10.9kg/cm2)
缶室は前後2室で、それぞれ片面焚き円缶6基を収め、2基ずつ並置し、うち2列を背中合せとしています。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
公試成績ですが、強圧通風では計画値より約3,000馬力小さい出力で計画速力を上回っています。これについては、次項で検証します。
IJN 2nd Class Cruiser CHITOSE. (Auther's Collection)
2-2-2. 日本の通報艦
八重山 Yaeyama 横須賀造船所建造(主機ホーソーン・レスリー)、1884年竣工
1,584T, ? rpm, 5,400ihp, 20.75kts (計画値)
1,609T, 156rpm, 5,067ihp, 19.4kts (強圧通風)
同上、144.5rpm, 3,735ihp, 17.9kts (自然通風)
主缶: 両面焚き円缶4基、使用圧力150psi (10.5kg/cm2)
本艦の主機は横置2段膨張、2基2軸で、前後2室の機械室に収められていました。
缶室は前後2室で、片面焚き低円缶を3基ずつ並置し、中間の隔壁を挟んで背中合わせとしていました。
煙突は1本で、煙路導設は缶の背面から逆Y字状に煙突に導いていました。逆Y字状の理由は、上記の松島型と同様です。
なお、本艦は1900年に二クローズ缶に換装されています。ベルヴィール缶との比較検討の結果、占有容積が小で舷側炭庫に影響を及ぼさないことが決め手となりました。
缶形式 | 火床面積G (m2) | 伝熱面積H (m2) | 比 H/G | 重量(T) | 価格 (佛) | |||||
缶・付属品 | 煙路 | 煙突 | 缶水 | 石炭 | 予備缶水 | |||||
低円缶 | 27.97 | 878.47 | 31.4 | 120 | 17 | 8 | 70 | 275 | 0 | - |
ベルヴィール | 35.96 | 1104.52 | 30.7 | 441,200 | ||||||
二クローズ | 33.12 | 931.76 | 28.1 | 75 | 5 | 8 | 12 | 339 | 38 | 333,750 |
換装後の主缶配置は、第1缶室に3基、第2缶室に5基とされましたが、炭庫が前方に偏していて石炭繰りが大変なのと、後部缶室が著しく高温となったため、その後本艦の座礁に伴う船体修理と併せ、1903年に前後4基ずつの配置に改められました。缶は2基ずつ並置し、4基を背中合せとしています。
煙突は2本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
通報艦の主任務は、戦闘中の各戦隊/駆逐隊/水雷艇隊相互の連絡・誘導であり、長時間高速で疾駆するため、機関部の性能と信頼性には格別の配慮がなされたものと考えられます。
IJN Despatch Vessel YAEYAMA. (Auther's Collection)
2-2-3. 露西亜の防禦巡洋艦
パラーダ級
パラーダ Pallada 露国海軍ガレルニ島造船所建造、1902年竣工
ジアーナ Diana 露国ガレルニ島造船所建造、1902年竣工
6,731T, ? rpm, 12,000ihp, 19.0kts (計画値)
6,823〜6,657T, ? rpm, 12,000〜13,000ihp, 19.0〜19.3kts (新造時)
主缶: 片面焚きベルヴィール式水管缶24基、使用圧力17.0atm (17.5kg/cm2)
本艦の主機は3気筒直立3段膨張、3基3軸で、前部機械室に両舷機、後部機械室に中央機を収めています。シリンダは内径965mm+1420mm+2130mm、行程990mmで、蒸気分配は高圧シリンダのみピストン弁、中圧・低圧シリンダはD形弁によっています。
缶室は前後3室で、主缶をそれぞれ8基ずつ収め、艦中心線を挟んで半数ずつ背中合わせに配し、焚口を舷側炭庫に向けています。
煙突は等径のもの3本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
Russian Cruiser PALLADA. (Auther's Collection)
アスコリト Askold 独国クルップ社ゲルマニア造船所建造、1901年竣工
5,905T, 100rpm, 19,000ihp, 23.0kts (計画値)
? T, ? rpm, 20,434ihp, 23.83kt (新造時)
主缶: 両面焚きシュルツ・ソーニクロフト式水管缶9基、使用圧力17.0atm (17.5kg/cm2)
本艦の主機は4気筒直立3段膨張、3基3軸で、前部機械室に両舷機、後部機械室に中央機を収めています。シリンダは内径930mm+1440mm+1630mm(×2)、行程950mmで、蒸気分配は各シリンダともピストン弁によっています。このため、低圧ピストン弁は非常に大径となり、主機全長の短縮のため、ピストン弁を各シリンダと同一線上とせず、その側面に配しています。写真の手前横一列の円筒が向かって左から高圧、中圧、低圧(艦首側)、低圧(艦尾側)の各シリンダー、その奥の右端が低圧ピストン弁です。弁装置はブレム式と推定されます。
Main Engine of Russian Cruiser ASKOLD.
缶室は縦一列に5室で、主缶を第1缶室に1基、第2〜第5缶室に2基ずつ並列に収めていました。なお、第1・第2缶室は横幅が狭いため、3基の缶はやや力量が小さくなっています。
煙突は5本で、煙路導設は缶室ごとに分け、煙突の断面は第1・第2煙突を楕円、第3〜第5煙突を円形としていました。
本艦は緊急時以外は原則自然通風のため、煙突は非常に高くなっています。
Russian Cruiser ASKOLD.
ノヴィーク Novik 独国シーヒャウ社建造、1901年竣工
3,080T, ? rpm, 17,000ihp, 25.0kts (計画値)
? T, ? rpm, 19,000ihp, 25.6kts (新造時)
主缶: 片面焚きシュルツ・ソーニクロフト式水管缶12基、使用圧力18.0atm (18.5kg/cm2)
本艦は軽構造・高速を主眼とし、缶−缶−機−缶−機の特異な交互配置を採用しています。
主機は4気筒直立3段膨張、3基3軸で、前部機械室に両舷機、後部機械室に中央機を収めています。
缶室は3室で、主缶を2基ずつ並置し、背中合わせに4基ずつ各室に収めていました。なお、缶室の横幅の関係で、第1・第2缶室前側に小型缶、後側に大型缶を配し、第3缶室はこれと前後逆としていました。
煙突は3本で、煙路導設は缶室ごとに分けていました。
伊海軍の偵察巡洋艦ニーノ・ビクシオNino Bixio級の機関部配置(缶−缶−機−缶−機−缶)は、本艦に影響を受けた可能性が有ります。
なお、本艦の国産化版イズムルードIzumrud級2隻が1904年にネフスキー造船所で建造されています。主機は4気筒直立3段膨張、3基3軸、外方回転で、シリンダは内径760mm+1160mm+1260mm(×2)、行程900mm、シリンダ配列は艦首寄りから高圧・低圧・中圧・低圧とし、蒸気分配は各シリンダともピストン弁によっています。弁装置はやはりブレム式と推定されます。主缶は片面焚きヤーロー式水管缶16基で、第1缶室に4基、第2・第3缶室に6基ずつ収め、使用圧力18.0atm (18.6kg/cm2)、総火床面積75.5m2、全伝熱面積4,550m2でした。
Russian Cruiser NOVIK. (Auther's Collection)
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