14. 移動は波瀾の幕開けか 「ありゃま、出た出た」 事情はよく飲み込めないが、兎にも角にも遅延だ。 1週間のトレーニングも無事終わり、後半の Los Angels にてのトレーニングに備え移動中である。 早朝 Boston Logan 空港を発ち、いまは中継の Minneapolis 空港で何やら分からないアナウンスを 聞いたところだ。 ここで前半の1週間を振り返っておこう。 まず寒さだ。どうして彼等はあんなにも寒さ漂う空調のなか、半そで1枚のシャツで生活できるんだ! Nashua で行われた前半のトレーニングの間、私は凍えながら過ごした。 なんであんなに寒い部屋で平気な顔して過ごせるんだろう。そう言えば、冬の駅のプラットホームで 半そでシャツの外国人(白色人種の方)を見かけた事もあったな。おそるべしアメリカ。 更に加えて。君たち朝飯を食べるのも良いが、そのぅ、2個も3個もパンケーキ食べるのは止めようよ。 気持ち悪くならんのか? それともこれが寒さには効くのかい? だから太ってしまうんじゃないのかい?(米国のスーパーには Fat Free を宣伝する脂肪分 ゼロ商品がかなりの数で並んでいる。脂肪分ゼロの前にやる事があるような気が...) 閑話休題。 Minneapolis 空港は大きな空港だ。中継の空港としても国際空港としても利用されている。 そろそろ搭乗手続きの時間かなと待つロビーに、何やらがさつな気配を漂い始める。 アナウンスがしきりに流れ始め、どうやら便の遅延を知らせている様子。 相変わらず正確な意味はつかめない。 この頃ともなると、まるで英語すっかりOK!な格好がとれるようになっている。 まるでアナウンスを聞いて事情はすっかり飲み込めたかのごとく移動を始め、しかしそれとなく 周囲の乗客の様子を窺う。やはり遅れるみたいだ・・・。 しかし、どの位遅れるのだろうか。次もこのゲートからの出発なのか。全く分からない。 ジッと待っているヤツがいる。 土産もの屋に入るヤツがでた。 ハンバーガー片手に戻ってくるヤツもいる。 どうやら出発ゲートの変更はないようだ。時間はまたおいおいと分かってくるだろう。 周囲の客の動きに気を配りつつ、書棚を物色する。 「お!面白そうな本だな "White Shark" かぁ」 話しはできないくせに、本だきゃ読める。全く困ったもんである。 そうこうするうちに出発の気配。 急げ急げ。 そう、本当に困ったもんだ。 私は隣に座った女性と会話していた。我ながら不可思議な光景ではあるが、聞き取り易さと想像の つく内容の会話が幸いしている。 と、朝食のサービスがまわってきたでっかいスチュワーデスが私に問うた。 「朝飯だよん。お前さんはどのパンがいいんだい?」 てっきり「パンにする?それとも別のがいいかい?」ってな質問を予想していた私は答えに詰まる。 「あ・・・あ・・・・あん?」 「どのパンがいいんだい?」 難題だ。パンの種類なんて食パン、アンぱん、ジャムぱん、メロンぱん、かにぱん...思い描けど、 こりゃダメだ。 パンの種類を聞くには、え〜....。 「Which kind of bread ... え〜 ...what?」(どんなパンの種類が...なに?) スチュワーデス固まる。 目をやると、先ほどまでにこやかに会話をしていた女性も不審気な眼差しだ。 そりゃそうだろうよ、先程までペーパーブック "White Shark" 片手ににこやかに会話をしていた 男が「どのパンがいい?」程度の質問を理解できていないようなのだから。 「私が会話していた男はいったい何なんだ」 たとえ言葉は分からなくても気持ちは通じているぞ。安心召されい、御婦人よ。 やがて苛立ちを隠しきれない様子で、 「あぁ、じゃぁどれでも好きなのを食べな」 すべての種類のパンやパンケーキをトレイに盛り付けると、スチュワーデスは去って行った。 確かにこれなら言葉が分からなくても関係ない。妙案である。 食べ残ったパンは鞄に入れ、気持ち晴れやかに Los Angels へと向かう空の旅。 北米大陸中央部の乾燥した平野がどこまでも続いていた。 15. とにかく行け! Los Angels 国際空港もまたデカい!! 何しろさっきから探している出口が分からないくらいなのだ。 「いったいホテルゆきバス乗り場のある出口はどこなら〜」 それらしいところへ向かってはみるものの、ハズレの出口ばかりだ。 そればかりか出口へ向かっているはずが、また元の位置へ戻ってきていたりする。 う〜っむ、こうなったら空港関係者らしき人物を捕まえ出口を訊ねるしかあるまい。 前方に働く男性発見!! 早速捕まえ、 「なぁなぁ、ホテルゆきのバスが出る出口ってどこ?」(を英語で) 「☆◆○□せめせめころころりん」(もち英語で) 「ホワッ?」 「せめせめすっちょちょり」(も英語で) 「あん?」 「せめせめすっちょちょり、れがれが」(たぶん英語なんだろうな〜ははは) ...もっと、ゆっくり、言えん、のんか、のぅ.....さっきあから More Slowly 言うとるじゃろ?な? ごごごごごごチュドーン!! 「のぅ!さっきから言うとるじゃろうが。お前早過ぎて何言うとるか分からんのよ、の? あん?じゃけ、分からん言うとるんじゃろうが、こら! はぁもぅどこでもええわ。 出口教えぇ言うとるんじゃ。おっどりゃ!」 可哀相なアメリカ。私の中でまた1つ州が消えた。ボゥッ!! 表情を見て取ったか言葉に詰まる男を置き去りに、私は自力脱出を決意した。 20分後、ようやく私はホテルの名前の書かれたミニバスを発見。 「このバスってこのホテルへ行くんよね?」 もはや日本語ばりばりである。宿泊予約FAXを見せながらの確認。ところが...。 「え?どこ?ええ?どこのホテル?」 貴様ら〜、バスん横にデカデカ名前書いといて、そりゃないだろ。 「どこのホテルって...ここのホテルじゃろうが。違うんか!」 「ああ、行く行く」 かなりガラの悪い日本人ひとり、ホテルゆきのバスに乗り込む。 (後に聞いて分かった事だが、そのホテルは本館の他にいくつかの別館があるらしく、運転手は 「どこのホテル(棟)だい?」と聞いていたらしい) 16. 歩く 早めのチェックインと相成り、時間が余った。 もちろんこんな時は未熟な英語力もさておき探索である。 そうして、とにかくこの日は歩いた。 後に地図にて確認したところ、15〜16kmは歩いたようだ。 Los Angels は計画されて作られた街だけに、道路が碁盤の目の様に縦横に走り、縦の通りと 横の通りの名前が分かれば大体目的地へたどり着ける。現に電話帳には、各通りの短縮名称を キーとして店の位置などが分かるように書かれている。 その事に気が付いたのは歩き終わった後の話である。 まずは電話帳の広告欄に載せられている略図を元にショッピングモールを目指そう。 道すがらいろいろなものを見かける。 ・ノースロップ社飛行場(今は合併しちゃった) F-5 や F-20 いないかな〜としばし眺める。 ・やたらに「Break」と書かれた看板が目につく。 ブレーキ修理か。つまりは自動車修理板金屋さんらしい。 ・寿司屋や牛丼屋がある。でもファミリーレストラン的なのはあまり見かけない。 ・道が広い!車線も多い!でも人が歩いていない!! ・壁に孔・・・ん? 壁に、孔が、穿たれて、る...おりょりょ? 17. 壁に穴開く〜の跡 もうお気付きの方もいらっしゃるだろう。 白い漆喰の壁に穿たれたいくつもの孔。 そう、それは銃弾の跡。 たくさんの孔とその周囲の白い塗装が剥げ落ち、薄い茶色が剥き出しになっている。 適当に歩くうち、私は地元住民の暮らす界隈へと足を踏み入れていたのだった。 「ひょぇ〜〜〜!なんじゃこかぁ〜!!」 驚いたって、後の祭りである。 「日本人会社員無謀な探索旅行!銃社会の恐怖」 「邦人行方不明!殺害の恐れも?」 新聞見出し文字が頭の中を踊る。 Los Angels は区画によりはっきりと Mexican Down Town と Hollywood 的高級住宅地とが分かれ ているようだ。ある通りから南と北とでは全然光景が違っていたりする。 私がいるのは南部に広がる Mexican Town。かなりやばい御様子。 帰国後にTV放映されていた銃撃戦のニュースでは、まるっきり私が歩いた光景そのものだった。 はっきり言って無謀な行動である。 銃弾の跡も生々しい壁の奥から響く Rock'n'Roll !! 同時に数軒先の家では、芝生の小庭でささやかパーティー! そりゃもぅデッカい車の停まっているモーテル! ・・・・・・・・・・・・・・ ああ、バスの乗り方さえ分かるならバスで帰るのにぃ〜...。 私は Down Town を歩き続け、そうして兄弟に出会う。 |