このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


  【はっさく考】
【はっさく考】#1 春らしさに人々が新鮮みを感じなくなってきた頃、博士はスプーンを握り締め悩んでいた。 ハッサクを前にし...。 春先の学会も無事終わった。今回は茨城での開催。 第2K大学の酉島博士と鉢合わせた私は、例の如くに熱き論争を交わせていた。 いつもの事だ。彼は私の顔見れば、ひとこと言わずにおれぬ質のようで、必ず何か吹っかけてくる。 「すっかり年中行事の観、ですね」 毎年繰り広げられる私と彼の論戦を、これまた楽しそうに眺めている人がいる。酉島博士の横に立 つその女性、妹尾さんという。数年前から彼の下で助手を勤めており、我々の下らないやり取りを、 いつもふわふわと聞き流してくれている。 「妹尾クン、心外だなぁ。ボクはできることなら、彼とは口なぞ聞きたくもないのだよ」 何が「クン」だよ「ボク」だよ。 「そうですか? なんだか毎年楽しそうですよ、お二人とも」 本当に楽しそうなのは、当の妹尾さんでは。 もちろん「クン」なんて呼ぶ酉島を無視し、私はまだ笑顔を残す妹尾さんとの会話を楽しむのだ。 「年中行事って難しいんだ」 私の突然のセリフに驚かれたからって、気にしない。 「たとえば一年中行事(いち・ねんちゅうぎょうじ)と一年中行事(いちねんじゅう・ぎょうじ)。  ねぇ全く意味が・・・」 「ふじゃぴクン、止めてくれないかね! キミの話はいつもワケが分からなくなるんだよ」 ふふん、止めるもんか。酉島の横やりなんて無視だもんね。 「どこか、一年中何か行事が行われているふうだよね。最中(もなか)と最中(さいちゅう)の例も  そうだけど、やはり日本語に無理矢理漢字をあててしまった弊害というのがね・・・うおっ」 「さささ、妹尾クン。食事だ、食事行こう!」 ついに酉島め、私を押し退け強制的に妹尾さんを連れ出す作戦に出た。 (ふふふ、酉島クン! キミはまだ知らないな、彼女の事を・・・) 「年中行事と言えば、私の実家の地方では "八朔祭り" ってのがあるんですよ。御存じです?」 彼女はこう見えて「好奇心旺盛&マイペース」なのだよ。手を引く酉島をそのままに、予想通り、 私との会話に興味を持ってくれた...と.こ.ろ.で、 「ハッサク祭り? 何じゃ?」                               [
続く
]

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