このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください


  【金八先生考】
【金八先生考】#1 トモコさんの残り香とでもいおうか、研究室にはまだ彼女のいた余韻が漂っていた。 一文字君がテーブルの上の食器をかちゃかちゃと片付けている。 「折角のデートをこんなとこでしなくとも良いだろうに」 「いやぁ、たまにはこんなのも面白いかなぁって。それに博士にも一度会ってみたいって、彼女  言ってましたし」 一文字君の背中越しに勢い良く流れる水の音が聞こえる。 「お陰で、彼女も大変楽しんでくれたみたいで。今日は本当にありがとうございました」 「ふぅん、そんなものかね。ディズニーランドとか最近オープンしたディズニーなんちゃらには」 「ディズニーシーですか。先週行ってみたんですけど、すっごいですね。平日だっていうのに、  人でいっぱいですよ。チケットの引き換えからもう行列で大変でした」 「その反動の研究室見学デート?」 「へへへ。まぁそんなとこです。ふふ」 細い目を更に細めて嬉しそうな一文字君を前に、『平日だってのにカバがいっぱいでしたよ』な んてわけが無いだろう、とカバが溢れたディズニーシーを心のなかに描きつつ、私は雑誌に手を やった。一文字君の彼女トモコさんが忘れていった女性雑誌だ。表紙に、 『人間関係に効く!占い大特集』 の大きな文字が踊っている。花やら風車小屋だかがちりばめられたカラフルな表紙を捲ると、世 の中には色んな種類の占いがあることに気付かされる。それだけ人間関係に悩んでいる人がいる という事なのだろう。 「ところで人間関係と言えば、かつてTVドラマで流行った「金八先生」の名言があったろう。  『人という字はヒトとヒトが支えあって人という字になるのです』とかなんとか」 「ええ、有名なセリフですよね。僕らくらいの世代で知らない人っていないんじゃないですか」 手を拭きおえ、くたびれたソファに戻ってくる一文字君に私は言った。 「おかしいだろ、あれ」 「え?おかしい、ですか? とても分かりやすい良い説明じゃないですか」 「だって人と人が支えあって人という字になったのなら、人という字の『ノ』だけでもう人じゃ  ないのか。例えて言うなら、彼女の父親に向け『お、お父さんの事をお父さんと呼んでいいで  すか』『あほ、もう呼んどるやないか、ペシッ(スリッパ音)』と同じだぞ。  大体な、それなら入という字の立場はどうなるんだ?」                                    [
続く
]

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