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第七回
猫に秋刀魚

 キンモクセイが咲く頃、サンマが旬となります。

 北の海でプランクトンをたくさん食べて太ったサンマは、8月になると親潮の刺激を受けて南下します。
 9月中旬から10月下旬にかけて東北海域にまで現れ、これを昔からよく食べているのです。

 人の食文化に深く関わる猫の食生活も、昔からサンマをよく食べていたことでしょう。
 サンマは塩焼きにして大根おろしをたっぷりと添え、はらわたも食すのが一番です。すると苦みの中にも旨みを感じ「さんま、さんま、さんま苦いかしょっぱいか」の佐藤春男の「秋刀魚の歌」の一節を思い出すのです。
 でもこれはサンマの味覚ではなく、独り食卓に向かう男の様をうたったものです。

 ところで猫がサンマを食べたらやはり苦いのでしょうか。
 猫は人間同様、酸味、苦味、塩辛さ、甘味の順で味を感知出来ると解剖学上考えられています。従って苦味もしょっぱさも分かるのです。さらに舌表面の糸状乳頭と呼ばれるザラザラは、魚の身を小骨から剥いだり、毛づくろいや水を飲むのに都合の良いしくみになっています。
 実は猫にしてみれば食べられるかどうかが重要であって、味覚は二の次となっているのです。

 猫は体蛋白質に組み換える必須アミノ酸を食事から摂取する必要があり、1日のエネルギー所要量の12%を蛋白質から摂取しなければなりません。これは犬の4%からするとかなり高い価です。
 狩りをするのも生きた餌物から必須アミノ酸を得るためで、捕食した小動物や魚の内臓も好んで食べるのはそのためです。そこには豊富な必須アミノ酸が含まれおり、美味しいだけでなく健康維持に欠かせない栄養素が含まれているのです。

 近年、キャットフードによって味覚や栄養の面では満たされていますが、それでは肉食動物本来の食べ方が出来ていません。
 猫は本来2〜3回奥歯で噛みちぎって飲み込むもので、それが柔らかな食べ物によっていつも早食いを続けてしまっているのです。つまり子猫の時から柔らかなものを食べ続けているために顎の発達が衰えたり、変形して歯の形成にも支障を来たしているのです。従って子猫の時から自然な食材をバラエティーに与えることがベストなのです。
 そこで、この時期、サンマは何よりの食材です。何故ならまず味覚で四季を感じ、新鮮な蛋白質から必須アミノ酸を十分に得られるからです。
 もちろん猫はそんなこと考えていないでしょうが、忘れかけたこうした御馳走に飼い主のポイントも上がること間違いなしです。その証拠にサンマの刺身などには走り寄ってきてクンクンものです。
 もちろんわさびや生姜を避け、一気に食べてしまいます。

 猫はそもそも単独を好む動物です。
 「秋刀魚の歌」の「苦いかしょっぱいか」の意味は、とっくの昔から理解していたことでしょう。と言うか孤独になった人間があまりにももろいということでしょうか。

 猫こそ本当のサンマの旨みを理解している動物なのかも知れません。
「ドギー&キャッツ」 2003年10月号掲載

第八回に続く

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