このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください



『Ⅰ・N・G』







この時間が好きだ。

良く晴れた日の昼下がり、愛車に跨って走る海岸線。

俺は決まってヨットハーバー近くの喫茶店に立ち寄り、珈琲をオーダーする。

誰にも邪魔されない時間。そして、この女性と過ごしたい場所。

出会いはいつだっただろう・・・・。





〜第一話〜






一週間の早番が終わり、俺の好きな遅番の週になった。

理由? 9時近くまで寝られるし、前の晩遅くまで愛車と過ごせるから。

友人と遅くまで遊べるってのも理由の一つかな。

さ、今日も元気に仕事仕事♪





午前中の仕事をやり終え、遅い昼食を摂ったあと、俺は喫煙所に向かった。

当然タバコを吸うためだ。店の休憩室でタバコを吸えないので、四畳半ほどの

小さな喫煙所で吸うのがルールになっていた。

喫煙所にはうちのスタッフ以外に、他ペナントの従業員もいた。

話し相手になるのは、まぁうちのスタッフだよな。



「へ?なんで?」

おそらく俺(片桐悠)は、間抜けな顔をして答えていたのだろう。

「だから、最近早番じゃないのは何故って聞いてるんです」

職場のスタッフ(高橋幸子)が訊ねてくる。

細身で長身。性格はアッサリしているので馴染むまで時間はかからなかったスタッフだ。

「ん〜、俺の受け持つ部門の教育が一通り終わったから・・・かな」

タバコに火を点けながら答えた。

「早番にしてよ。片桐さんの朝ミーティング楽しいし、仕事も楽しく出来るから」

と高橋さん。

「そうそう。今や片桐さんは“時の人”なんだよぉ」

とスタッフ(村田佳代)。村田さんは少しポッチャリした体格で高橋さんとは対照的に

身長が無い。155cm程だろうか。

「どこからそんな話が出たんだ?」

高橋さん、村田さんに聞いてみる。

すこし驚いた。というのは、異性から口で評価されることが今までに少なかったから。

俺は先週のことを思い出してみる。

朝ミーティングじゃ、本部からの通達と今週の流れしか話してないし・・・。

やはり特別笑えるような話しはしていない。

「早番のスタッフ全員で言ってるよね」

「うん」

顔を合わせる2人。

なんだかなぁ、そう評価されるのは嬉しい限りだけど、釈然としないぞ(^^;

そんなことを考えながら職場へと戻る。

午後の仕事は・・・・売場とスタッフの指導か。

う〜ん、あんまり気乗りがしないなぁ。補正室でも行って、リフレッシュしよう!

売場をチェックしながら補正室へと向かう。

補正室は俺の憩いの場だ。優しい女性が二人もいる。しかもどちらも好み♪

年上なんだけどね(^^;

売場をチェックしながらスタッフに指示を与え、補正室へと向かう。

「・・・・さんに言ってくるね・・・うん」

中からスタッフ(成田和子)の声。

「う〜っす。どうでぃ、調子は?」

「あ、片桐さん。ちょうど良かった。北館さんが指縫っちゃって」

「大丈夫なの、北館さん」

「あ、うん。爪を貫通しただけだから」

北館さんは指にバンソウコウをつけて、縫いかけだったズボンを仕上げていく。

「気をつけてな。という俺も指縫ったけど」

「オイオイ(^^;)。今日の片桐さんタイミング良いね」

成田さんが笑いながら言い出した。成田さんは以前、美容室で働いていたらしく、

自分の髪は綺麗に整えている。30代らしいが、20代でも通る若さだ。

「ん?俺、何かやったっけか?」

「ほら、朝もタイミング良かったでしょう」

朝? あぁ、出勤途中に出会って、そのままバイクに便乗していったことか。

「バイクも良いでしょ?」

「冬に乗りたくはないよね」

と一頻り笑って、補正室を後にした。

(ん〜っと、バックルームに入って週末の計画を立てないといけないかな)

などと、この後やることを頭の中で考えていると・・・。

『業務連絡。片桐さん、お電話が入ってます。至急レジカウンターまで』

(タイミング・・・・ね)

俺は苦笑しながらレジへと向かった。

カウンター内には久保くんが待っていた。

「誰から?」

「蓮見店長からです」

「ん。はい、片桐です。」

『あ、片桐くん。悪いけどPCから帳票出して、家にFAXしてくれない?』

(家に?・・・って事は直帰するつもりかな、また)

「はい、かしこまりました。で、店長、当然今日は店に来るんですよね(半ば脅迫)」

『まだ東京だっちゅ〜に。店は大丈夫なんでしょ?』

「えぇ、まぁ」

『ならOK。じゃ、あとヨロシク』・・・・・・・ガチャ。

店長・・・店を放棄しないでよ、頼むから(泣)。

泣く泣く店長室へ行くと、PCは小野寺君が使っていた。

小野寺君は俺の同期で、妙にクールな人だ。公私を分けてるって言えば良いのかな。

仕事じゃ良き相談相手だな。

「今日、店長は直帰するってさ」

「またぁ? ま、僕は早上がりだから良いけどね♪」

「勘弁してよ。これで5連チャン残業。死ぬるぅ〜」

「ほら、片桐くんはスタッフから信頼されてるから」

「はぁ。慰めになってないぞ」

「稼げ、稼げ〜♪」

小野寺君は笑って言う。

(ちなみに『稼げ』ってのは店の共通言語みたいなもので、頑張れの意)

人事だと思ってぇ〜!

遅番で早上がりって出来ないものかな。

PCを弄りながら、そう考えたりする。無茶な話でもあるが・・・。





「・・・・というわけで、明日は休館日です。ゆっくり体を休めてください。以上!」

お疲れ様でした。という号令で今日の仕事が終わる。

結局残業がついて、家に帰るのは10時位だろう。はぁ、溜息しか出ない(苦笑

今日の報告とPCの締め処理、明日の引継ぎと事務処理を終える頃には

スタッフは誰も居ないといった悲しい状況になる。

「ま、一人で居るのは嫌いじゃないから良いけどね」

と独り言。

「でも、一人は寂しいでしょ?」

不意に後ろから声がかかる。北館さんだ。普段、仕事場では髪をポニーテールに

してしるけど、今はその長い髪を下ろしていた。

俺が思うに、ここまでポニーテールの似合う女性も少ないだろう。

「ふっ、かもね。指は大丈夫?」

「うん。ちょっと痺れる程度」

どういう訳か俺に接する時のスタッフ(全員)は敬語を使わない。

店長や小野寺君には敬語を使うのに何故だろう?

「相棒(成田さん)は?」

「ん?子供が待ってるから、先に帰ったよ」

そう、成田さんは既婚者で二児の母。無論、手を出そうなんて考えちゃいない。

気の合う仲間。それで十分。

「そっか。・・・・・・うっし、後はシャットダウンして・・・」

シャットダウンして電源が切れるようになるまで数分かかる。

「タバコ吸いに行く?」

北館さんを誘う。

「うん」



喫煙所では色々な話しをした。

仕事のこと、仲間(スタッフ)のこと、美味しいお店のこと。

歯切れのいい声と話し方。真剣に話を聞いてくれる姿勢。

大和撫子ここにあり!って感じだ。

北館さんと話していると、精神的に癒される。

この人がいるから、仕事が、職場が楽しくなる。

ルックスも、そこら辺の美人より秀でたところを感じさせる。

当然、彼氏が居るんだろうな。

俺は意を決して聞いてみた。

「北館さんて、独身?」





















あとがき

久しぶりのSSです。しかも恋愛&オリジナル(^^;
どこまで書けるか解りませんが、終わり方は決めてるからイケルかな。
出来れば年内に第二話を出したいところですが、いかんせん仕事が・・・。
小山内さんには写真を掲載してもらっているのに、さらにSSまで掲載して
もらってます。改めて感謝を。「ありがとうございます」
また、下手なSSを読んでくださる読者さまにも、「ありがとう」

2001・11・14 恭平


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