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White Album



〜学園祭前の雪 第4話〜


 その後冬弥はテレビ観る訳でもなく、ぼけっとしていた。
もう由綺の歌は終わっいて、ヒットチャートを報じる番組が始まっていた。
冬弥はそのままベッドの上でチャンネルを変えることなく寝転がった。
プルルルルルルル・・・。
冬弥は子機に手を伸ばして、「由綺かい?」と。
『夜分恐れ入ります。緒方と申しますが、藤井君は・・・』
「あ、理奈ちゃん。俺、冬弥だよ」と、いきなり由綺の名前を出したことを、冬弥は恥かしく思った。
『その調子だとまだみたいね』
「…どうしたの?こんな時間に電話なんて。まだ仕事だったの?」
『そう、今帰ったところ。それでね、今日あの後に由綺と仕事が一緒になったのよ』
「そうだったんだ。お疲れ様」
『ふふっ。ありがとう』と、理奈は本当に嬉しそうに言った。
「でもなんでまた俺に電話を?」
『鈍感ねぇ・・・。由綺にね、藤井君に電話してあげなさいって言ったの。これでわかるわよね』
「あっ…」
『きっと藤井君の方からも電話をして、つながらなかったんでしょうね。だからさっき、由綺と間違えたのね』と、ちょっと悪戯っ子な理奈。
「すっかりお見通しなんだね」と、冬弥は電話をしながら頭をかく。
『由綺と藤井君って、なんだか本当に似ているから』
「でもその為に電話してくれたなんて、本当にありがとう」
『お礼なんていいのよ。ふふっ・・・そうね、今度デートに付き合ってもらおうかしら』
「ちょ・・・ちょっと理奈ちゃん・・・」
もうすっかり理奈のペースだった。
『ふふっ、冗談よ。でもそろそろ終りにしないと、藤井君につながらないって由綺が心配するかもしれないわね』
「そうかもしれないね」
本当にありそうだと冬弥は思った。
『それじゃあ今夜はこの辺で失礼するわね。藤井君お休みなさい』
「そんな。理奈ちゃん、本当にありがとう。それじゃあ、お休み」
『お休みなさい』 そう言って理奈は電話を切った。
受話器を置いた冬弥がもう少し起きていようかな? そう思った時だった。

 プルルルルルルル・・・。
冬弥は子機に手を伸ばして「由綺かい?」と、さっきと同じ台詞を言った。
理奈からの電話もあり、今度は自信があった。
『わっ、びっくり。どうしてわかったの? 冬弥君』
「そりゃ由綺からの電話だからな」
さり気無く嘘をついてみる冬弥。
『へ〜。冬弥君すごいね』
「なんて嘘だよ。ついさっき理奈ちゃんから電話があったからね。その所為さ」
『あっ・・・理奈ちゃん、冬弥君に電話したんだ。それでつながらなかったんだ』と、ちょっと由綺が照れた様な、納得した声になった。
「どうした」
『あのね、理奈ちゃんが・・・最近私が冬弥君と話をしていないから、電話をしなさいって』
「ああ、理奈ちゃんから聞いたよ。それから彰からもね」
『えっ? 何を聞いたの?』と、心配そうになる由綺。
「俺とはるかがうらやましいんだって? なんだそりゃ?」
『ああ・・・そのこと・・・弱ったなぁ』と、由綺は困ったような声をあげた。
「なぁ、一体俺とはるかのどこが羨ましいんだ?」
『あのね、怒らないで聞いてくれるかな?』
「内容次第だなぁ」と、意地悪してみる冬弥。
『そんなぁ』
「まぁ、言ってみなよ」
『うん。あのね、はるかと冬弥君の間柄って言うのかなぁ・・・自然さがね、凄く羨ましいの』
躊躇いがちに、由綺は話し出した。
「よくわからないなぁ」
『あのね、はるかは冬弥君と付き合っている訳じゃないけど、凄く仲良しで自然で温かい関係だから』
「だから?」
『私が・・・もしも冬弥君と付き合っていなくても・・・あんな関係でいられたらな。って・・・』
「馬鹿!」と、冬弥は優しく由綺に言った。
『うわっ・・・怒らないでって言ったのにぃ・・・』と、なんだか泣きそうな声をあげる由綺。
「何を余計な心配をしているんだか・・・俺はお前の彼氏だ。由綺がアイドルだろうがそうじゃなかろうが俺はお前のことが好きだし、いつでもお前のことを思っている」
『冬弥君・・・』
「な〜にを甘えた声出しているんだか・・・。今は由綺の仕事が忙しいから会えなくて、話も出来なかっただけじゃないか」
『うん』
「大体俺とはるかなんて、ただの昔馴染みじゃないか。なにが良いんだか・・・」
『でも、やっぱりはるかは羨ましいよ。私の知らない冬弥君を知っているから。高校よりも前の・・・』
「でも高校に入ってからは、由綺といる時間の方がずっと長かったぞ」
『そうだよね・・・。私、しばらく冬弥君に会えなくて心配だったのかな。・・・だめだよね、こんなことじゃ』
「全く。いつだって電話してきたって構わないんだぞ。俺は由綺の彼氏なんだからな」
『そうだね。冬弥君・・・ありがとう。でも、会いたいよ・・・』と、由綺は甘えた声を出す。
「そりゃ俺だって会いたいさ。って、そうそう今度の学園祭。仕事空いているか?」
『えっと、いつなのかな?』
「今月。11月の29日と30日だ。どうだ?」
『まだちょっと分からない。けど、なんとかしてみるね』
「ああ、そうしてくれ。演劇部に美咲さんが協力しているっていうから、それを見に行こう」
『えっ、美咲さんが? 何を手伝っているの?』
「それは知らないけど。今度会ったら聞いておくよ」
『そうなんだ。美咲さん元気?』
「ああ、相変わらず誰にでも優しいところを発揮しているよ」
『まだ分からないけど、行けたらいいね・・・学園祭』
「違うだろ。行くんだよ」と、電話越しに力強く由綺を押す。
『そうだね・・・うん。なんとかしてみるよ』
「吉報を待つ」
『うふふ・・・何それ。まるで戦国時代の人か何かみたい』
「駄目か?」
『ちょっと冬弥君らしくないよ』
「ちぇっ・・・」
『うふふ・・・』
由綺は面白そうに笑った。冬弥にとって、久しぶりに聞いた由綺の笑い声だった。
「それはそうと、明日は早く起きるのか? あんまり遅くまで起きていて大丈夫なのか?」
『え〜っと、明日は10時まで寝ていても大丈夫だよ。うん』
「そうなのか。久しぶりにゆっくり寝ていられるんだったら、寝ておかなくちゃ」
『あ、でも・・・もう少し冬弥君とお話していたいよ』と、残念そうな声をあげる由綺。
「う〜ん、そうだ。明日の仕事、局で撮りとかあるか? 俺、ADのバイトあるんだけど」
『明日はあるよ。本当? 冬弥君に会えるんだ』
「よし。また明日話せるんだったら、今日はゆっくり寝ておけよ。勿体無いぞ」
『う〜ん・・・』
「うんじゃない。はい」
『は〜い』
「大丈夫だって。明日の俺は1日中ADのバイトだからさ」
『うん』
「良い返事だ」
『もう、冬弥君ったら』と、由綺も冬弥も笑った。
「ははっ。まぁ、夜更かしはするなよ。疲れているんだろうからさ」
『そうだね・・・心配してくれてありがとう。やっぱり冬弥君とお話すると安心するよ』
「こんな会話でよければ毎晩でも構わないんだけどもな。まぁ由綺次第さ」
『ごめんね、冬弥君』
「何を謝っているんだよ。由綺の夢に向けて頑張っているんじゃないか」
『うん・・・また明日、だね』
「ああ、ゆっくりお休み。由綺」
『うん。ありがとう。冬弥君、お休みなさい』
「ああ」
『それじゃあ・・・』と小さく、そう言ってから由綺の電話は切れた。

 「ふぅ」と、冬弥は溜息をついた。
それから冬弥は、何時に由綺はテレビ局で仕事があるのか、そのことを聞き忘れたことに気付いた。
確かに1日中ADのアルバイトなのは確かだが、時間を合わせられるように聞いておけばよかったと後悔した。
それでも会える確立の方が高い訳だから、今夜はもう寝ることにした。
歯を磨き、明日のバイトの用意をし、電気を消して蒲団に入る。
窓から漏れるわずかな光の中で、冬弥は由綺の事を考えた。
学園祭に由綺と行けるかどうか。由綺のこれからの仕事のこと。由綺とはるかのこと。
ただ明日、由綺の笑顔を見たいと思って冬弥は眠りについた。



〜あとがき〜



 この話は、ゲーム中での学園祭前のサイドストーリーです。
このままゲーム本編の学園祭へと流れて行きます。

 冬弥とはるかの関係は、近すぎるが故にお互いに気付いていない面があると思います。
幼馴染同士が「自分達は幼馴染だ」と初めて気付くのは、他人に言われた時ですから。
そして、自分の好きな人にそんな幼馴染がいたらどう思うでしょう? その幼馴染が、自分の友人だとしてもです。
ただでさえ寂しがり屋の由綺ですから、嫉妬にも似た憧れを持ってもおかしくないでしょう。
そんな由綺とはるかと冬弥の関係を考えながら書いていました。

 全員が深く係わりあっているこの「White Album」。
これ以上書くのは死にそうです。SS3作目。まだまだ修行を開始したばかりです。
それにしてもジャズに4312、定番すぎますね(笑)。
ハーベスのHL‐P5かB&Wの805にでもしておけばよかったかなぁ?
嫌いじゃないのですが、この場合イメージ的にBOSE101は却下です(笑)。



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