このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

里見電鉄四季物語 〜秋〜 「朝日昇る頃」

1 日本国有鉄道 夜行急行車内

 小倉駅から乗り込んだ夜行急行は案の定がら空きであった。九州の鉄道を尋ね廻った旅も終わり、14系座席車のみの新大阪行き急行に乗る。余りにも寂しい車内。空気輸送とは良く言ったものだ。まぁ混むのなら特急用の14系でなく定員の多い急行用の12系で編成しているに違いない。たかだか急行に特急用車両を充当するなんて言う破格のサービスをするからにはそれなりに理由があると言うことか。最もこの車両を夜行に使うのは少々戴けない。何故なら14系の座席は簡易リクライニングシートなのだ。簡易と言うところがみそで、リクライニングがロックしない。ウトウトするまではきちんとリクライニングするが寝た途端、体はリクライニングのことを忘れて力を抜き結果として、がたんとリクライニングが戻り起きてしまう。結果として寝るために体をあっちにやったり、こっちにやったり、ウトウトしたらもう5時過ぎ、最後の目的地と決めていた里見電鉄への乗換駅秋篠駅に着く直前であった。このまま新大阪まで寝ていようかと思ったが、秋篠に来るなんて事は早々ありそうにないので降りることにした。

2 日本国有鉄道 秋篠駅  

 秋篠で降りたのは私1人だった。元々11両編成なのに4両で十分な客しか乗っていなくて、停車駅は岡山の片田舎の小都市では降りる人間も余りいないだろう。さてどうしたものか。里見電鉄の始発までは後30分はある。ホームでぼぉーと考える気にもならず取り敢えず国鉄の改札を出た。川と線路に挟まれている駅前広場は余り広くなく、線路沿いに商店街が出来ているらしい。取り敢えず線路の反対側にある里見電鉄の駅に行こうと思い、線路沿いに行けば踏切があるだろうと商店街の中を歩いていった。

3 秋篠駅前商店街

 秋篠の商店街は小規模だったが、新しげなアーケード街であった。とはいえアーケードの周りの店は前からあったものらしく古びたものが大半であった。「萬雑貨取扱 畑山商店」、「皆丘鮮魚店」、「定食 真神」いかにもな感じの古びた看板にはこんな店名が記されていた。人影のない商店街を歩きながら、ここも夕方になったら混むのだろうなと、ふと思う。

4 里見電鉄 秋篠駅
 
 線路沿いをぐるっと回って里見電鉄の駅にたどり着こうとする頃、里見電鉄の踏切が鐘の音を鳴らし出した。下りの始発電車がやってきたらしい。いかにも地方の小私鉄的なバラバラのサイズの車両たちで扉も2扉車があれば3扉車もあるという、雑多な3両編成だった。よく見れば真ん中の車両はダブルルーフ(二重屋根)ではないか。ダブルルーフは初めて見た。来た甲斐があったなと私は思った。

5 里見電鉄 始発電車 車内
 
 折返し列車となる3両の内、ダブルルーフ車に乗り込んだ。意外なことにロングシートでなくクロスシートであった。よくよく私を驚かせてくれる車両である。車内はニスの匂いがプンとにおう。古びているが車内は良く整備され、なかなか居心地が良さそうだ。座席に座ってのんびりしていると、電車はゆっくりと走り出した。スピーカーから少し割れた音で車掌の放送が聞こえてくる。それを聞きながら私は船を漕ぎ出したのであった。 


後書き
 今回はふた昔ほど過去の物語です。時期的には新幹線が博多まで伸びた1975年からの数年間の何時かです。一度こんなムードのお話も書いてみたいと思ってましたので今回書かせていただきました。
 ご感想等御座いましたら掲示板なりメールなりで知らせていただけると有り難く、かつやる気が出ます。

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