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里見電鉄四季物語 〜三冬月〜 「犬懸駅」
1 里見電鉄犬懸駅
お昼過ぎ、犬懸駅の待合室で4人の少女達が立ち話をしていた。
「ねぇ、かすみ。本当に行かないの」
ロングヘアの女の子が、かすみに尋ねる。
「うん。アルバイトが有るし」
「行こうよ。ねぇ、行こうよ。せっかくのイヴなのにさ。ねぇ、かすみ」
「でも」
「ほら、もう止めなさいよ、由加里」
ショートカットの女の子が、ロングヘアの女の子をたしなめる。
「メグぅ、良いじゃない。ねぇ、行こうよ、かすみ」
「でも、私」
「だからぁ・・・・・」
「由加里っ!かすみが困っているじゃない。行きなよ、かすみ。バイトにさ」
「めぐみ・・・・・」
「いいって。いいって。かすみのことは、よーく知ってるもんね」
「ごめんね、めぐみ。それに由加里、文香」
「しょうがないですね。また今度、岡山に遊びに行きましょう」
「ま、そーゆうこと」
「しょうがないなぁ。今度は絶対だかんね、かすみっ!」
「うん」
「さぁ、電車も来るし行こうか」
「じゃ、かすみ。またね」
「さようなら、かすみさん」
「じゃあね」
「さようなら、みんな。それじゃ」
そういうとかすみは、彼女たちとは反対方向の電車に乗るべく、隣のホームに移動した。
2 喫茶「微風の通り道」
ゆっくりとながら時は流れ、もう日も暮れた。そして1人のお客さんが席を立った。
「高村先生。もうお帰りですか」
かすみの声に彼は、
「そろそろ帰らんことにはな。これでも待っている人くらいはいるのだよ」
「そうですか。お会計は380円です」
そういうと高村先生は支払いを済ました。
「有り難うございました。また来て下さいね、先生っ」
そして、店にお客さんの姿が居なくなった。
「−−−今週の第1位。先週と変わらず、飯山みらいで『素顔のままで』です。この曲は−−−」
しんと静まり返った店内にテレビの音だけが聞こえる。
「今日、イヴなんですよね・・・・・」
かすみが、ぽつりと言った。数日前に彼女は、榛名に対して店にクリスマスの飾り付けをしようと提案した。しかし、榛名は余りいい顔をせず、結局の所、店内は普段どうりのままだった。榛名はぷいとカウンターの奥に消え、その直後にテレビの音声を流していたスピーカーは、少し前に流行ったクリスマスソングを流し始めた。かすみの顔は、ぱぁっと明るくなったのだが、その直後電話のベルが鳴った。
「はい。−−−−−えぇ。−−−−−−そうですか。分かりました、はい」
電話が切れると、榛名は駅長帽をかぶりカンテラを持って現れた。
「店長さん−−−」
かすみが声をかけようとするが、
「かすみちゃん。店番頼む」
そういうと、榛名は駅の外へかけていった。
3 里見電鉄里見信乃駅
ホームの上に立っている榛名。赤く光るカンテラを高く掲げている。急行電車はゆっくりスピードを落とし、駅に止まった。運転士が窓から顔を出す。
「榛名さん、どうしたんです。電車を止めて」
「あぁ、野上さん。この先の県道で崖崩れがあってね。ウチにも被害が出てるかもしれないから抑止せよと言われてね」
「抑止に格上げですか?さっきの連絡では注意だったけど」
「以外と大きいらしいんだ。それで調査のために犬懸から1本出すから、それが来るまで抑止だって」
「どれくらい待ちそうですかね」
「10分程度らしいけど」
しばらくするとヘッドライトの光もまぶしく電車がやってきた。どうやら線路には支障がないらしい。無線連絡が送られ、少しすると発車の許可が運行管理室から送られ、榛名は青く光るカンテラを掲げ、車掌は笛を吹き、電車は駅を離れていった。榛名は掲げていたカンテラを下げ駅舎、正確には店に戻ろうとした。しかし、ふと冷たい物を感じ、空を見上げた。
「かすみちゃん。外においで」
榛名の声に、かすみは「何かしら」と思いつつ外に出た。
「わぁ、雪だ」
かすみは空を見上げ歓声を上げる。雪は静かに降り、差しだしたかすみの手のひらでゆっくり溶けた。かすみの本当に嬉しそうな横顔を見ていた榛名は、何かを想い出したかのように、ポケットの中を探り始めた。その気配はかすみにも伝わったらしく不思議そうに榛名を見つめる。榛名は捜し物が見つかったようだ。それをかすみに押しつけるように渡した。
「かすみちゃん。これを上げよう」
「あっ、プレゼントですか。でも何故」
かすみは榛名の態度から貰うはずの無さそうな物を渡され不思議そうな顔をした。榛名はそれに答えず、頭をかいている。
「かすみちゃん。もう帰って良いよ。お家の人によろしく」
そう言うとさっさと榛名は中に入ってしまった。かすみはゆっくりと中身を出した。そして小さな駅にオルゴールの調べが流れた・・・・・
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