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里見電鉄四季物語〜神有月〜「里見信乃駅」
 

1 里見電鉄 里見信乃駅

 駅のホームを榛名は掃除していた。最もそれ自体は駅長でもある彼には日常の行動であったが、普段はお昼前にするのに今日は夕方であった。そしてゆっくりと道具を片づけるとホームにテーブルを並べだした。

2 里見電鉄 初瀬駅  

 小さな駅舎と待合室の他は屋根すらない小さな駅、初瀬。2人の少女が駅に現れた。由加里とめぐみである。2人とも走ってきたのか息を切らしている。最も陸上部の現役部員であるめぐみはまだ少し余裕がありそうだ。由加里は・・・敢えて言うのは止そう。
「・・・つ、疲れたぁ・・・」
由加里はたったそれだけを言った。これ以上は話せそうにない。
「由加里がのんびりするから・・・」
そう、めぐみが言ったとき電車が駅にやってきた。

3 里見電鉄 里見信乃駅 

 かすみは榛名の並べたテーブルに薄を活けた花瓶を置いていった。その横では文香がお皿一杯の団子を喫茶店から持ってきている。
「文香。別に何もしなくても良いのに」
「何だか落ち着かなくって。こうやって何かをしている方が私は落ち着くの」
「そう?そろそろめぐみ達も来るわね」
そうしていると汽笛の音がした。

4 里見電鉄 里見信乃駅 

 着いたばかりの電車からめぐみと由加里が降りてくる。榛名は、
「いらっしゃい。そろそろ始めようか」
と、言った。かすみは、
「まだ摩耶さん達が来てませんが」
「そうだね。仕事が忙しいんだろう。何、彼らなら呼んだ以上はきちんと来るよ。気にしないで楽しんだらいい。かすみちゃん、今日のバイトはここまで。月夜を楽しみなさい」
「はい。そうですね」
ささやかな月見の宴が始まった。

5 里見電鉄 里見信乃駅 

 ゆっくりと時が過ぎ明かりが消された駅の上、夜空は雲一つなく冴え渡り満天の星の輝き、透き通った十五夜の輝き。そして地上の駅にまた電車がやってくる。
「榛名さん、今晩は」
どうやら海猫さん達が来たようだ。最初に声をかけてきたのは摩耶だろう。


後書き

榛 名「さて、里見電鉄四季物語のサブタイトルに月の名前を用いたお話は今回で最後です。月は12月しかないのですから。今
   回は『神有月』・・・出雲地方のみで使われる月名を使いました。これからのお話にどんな題を付けるかは決めかねていま
   す。それでは今月は祝1周年という事で始めの頃、四季物語の名物だった海猫さんとの対談を今回もしようかと思います」
海 猫「・・・ヤダ帰る」
摩 耶「・・・店長、何ぼけてんですか・・・(嘆息)」
海 猫「俺には今人の所の面倒みてる余裕はない!一切ない!何があってもない!誰がなんと言おうとない!」
摩 耶「・・・・・・」
海 猫「懐にも気持ちにも体調にもなおぶぅっ!」
摩 耶「(でっけぇハリセンをしまい込む)」
海 猫「こら!今何した!?聖のハリセンだろ!!」
摩 耶「こんな事もあろうかと借りてきてたんです」
海 猫「ちぃっ!今日は聖がいないと思ってたのに・・・」
摩 耶「はいはい、そんなことしてないで対談しましょうね」
海 猫「やめんか!俺はガキちゃうわ!!」
摩 耶「(無視)榛名さん、今日はお招きいただいてありがとうございます。今見たように店長はちょっとアレな状態ですケド」
榛 名「あ、これはどうもご丁寧に。いつもご面倒ばかりかけて済みません」
かすみ「摩耶さんのお久しぶりです」
由加里「えっ!摩耶さん達来てるの?こんにちは〜」
海 猫「けっ!外面良くしやがって・・・これじゃあ俺が単なる変な奴・・・おぐぅ!」
摩 耶「(こっそりと肘鉄砲をたたき込む)」
海 猫「お、おま、何をする!!?」
摩 耶「なんですか?」
海 猫「・・・・・・(こんにゃろ〜)」
摩 耶「こちらこそ、店長が迷惑かけてます」
海 猫「へっ、俺ぁ蚊帳の外かい・・・第一俺がいつ迷惑かけた?これだから日本の風習ってやつぁよおぶっ!」
摩 耶「(再びこっそりと肘鉄砲)((小声で)恥ずかしいから止めて下さい!)」
榛 名「摩耶さん、海猫さんは少しだけ素直すぎるだけ・・・なのかな?」
海 猫「そうそう!さすが駅長良いこと言う!!ちょっと自分に素直で自分に甘くてこう・・・欲望の翼をばたばたと(すぱぁぁん!)」
摩 耶「だから止めて下さいって言ってるでしょう!!!」
海 猫「お前こそポンポンポンポン人殴んなぁぁぁぁ!!!」
摩 耶「せっかくの榛名さんのフォローを無為にしてるじゃないですか!」
海 猫「いいじゃねぇか!ただちょっと欲望と想像の翼をこうばたばたと羽ばたかせただけじゃねぇか!」
摩 耶「それがいけないんです!もう少しおとなしくしてて下さい!!」
海 猫「自分を偽って何が楽しい!?」
摩 耶「それが大人って言うものでしょ!」
海 猫「大人?はっ!!それが大人になるってんなら俺はお断りだね!さっさと死んだ方がましだ」
摩 耶「店長だって6月頃はすごく真面目で格好良かったじゃないですか!それに・・・そんな事言う店長なんて嫌いです!」
海 猫「嫌いって・・・あ〜あ、行っちゃったよ・・・何なんだよアレ?」
榛 名「摩耶さん、追いかけたら。女の子を放っとくのは・・・ねぇ?」
かすみ「私も追いかけた方がいいかと」
由加里「追いかけなかったらろくでなしっ!決定!」
海 猫「何故!?どうして!?どうすれば!!?何でそういう結論に!!?」
榛 名「理屈無用!!うだうだ言ってねぇでとっとと行きやがれ!!・・・・・・ぜぇぜぇ」
由加里「あっ、店長さん切れた」
かすみ「本当に行った方がよろしいのでは?」
由加里「うん、そだね」
海 猫「わぁったよ、いきゃあいいんだろ!(走っていく)」

榛 名「やあっと行ったか。困った人だ・・・」
かすみ「そうですね」
榛 名「でも、分からないでもないな。自分の気持ちさえ分からないことが多いのに、人の気持ちなんか分かりっこないんだ」
かすみ「店長さん・・・」
榛 名「相手のことを全部知っていると思っている恋人同士でも知っているのはせいぜい1割程度だそうだ。だから人の気持ちは絶対分からない。でも分からないと放っとくのではなく少しでも相手のことを知ろうとすることが大事じゃないかな」
由加里「店長さん、真面目だね」
榛 名「あのねぇ、それじゃ私が普段、全然真面目じゃないみたいじゃないか。それにしても、うまくいけばいいけどあの2人」
 聖 「こんばんは〜♪」
榛 名「あっ・・・・・・。(なにげに間合いを取ってから)聖さん、いらっしゃい」
由加里「お参りの時(里見電鉄四季物語『睦月』参照)に会った赤い着物の人だぁ!」
かすみ「聖さん、こんばんは。何かご用ですか?」
 聖 「いやね、店長が来てるはずだと思ったんだけど・・・」
榛 名「摩耶さんが途中で感情過多になりまして。走って此処を出ていったので追いかけていきましたけど」
由加里「と、言うより追いかけさせた」
 聖 「・・・・・・・・・そう。じゃあとりあえず私が代わりにいようかしら」
榛 名「それは良いですけど何を話します?」
 聖 「そうねぇ・・・何話そうかしら?店長の悪口?」
榛 名「いえ、此処は海猫屋本舗じゃありませんし・・・」
 聖 「あのね、何か誤解してない?海猫屋だったらOKって・・・あそこは治外法権ある訳じゃないんだから(^^;」
榛 名「海猫さん自身が自分のところでやる分には気にしませんけど。此処でやると又変な噂が・・・」
 聖 「ああ、それなら大丈夫。誤解じゃないから」
海 猫「誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 聖 「店長!?(振り返るがいない)・・・いつの間に怪しい技術を?」
榛 名「あまり変なことをされると・・・。此処はあくまで20世紀の日本であって、剣と魔法の世界でもSFの世界でもないんだから」
 聖 「それは理解してるんだけど、店長人間じゃないから(-_-ゞ」
海 猫「俺は人間だ!」
 聖 「はっ!また!?・・・腕を上げてるし・・・」
榛 名「人間かも知れないけど・・・・・・。人間離れしてない時々?」
かすみ「それにしても摩耶さん大丈夫かな?そろそろ戻ってこないのかな」
由加里「こんな所に変な事しに来ないでさっさと摩耶さん連れてくればいいのに」
榛 名「まぁまぁ、押さえて由加里ちゃん。それにしても遅いな海猫さん達」
 聖 「あ〜多分帰ってこないと思うわよ。ああみえて摩耶って足速いから。まぁ、全力で逃げることはないと思うけど・・・店長って馬鹿だもん」
榛 名「ふぅ。全然対談になってないじゃないか。はぁー」
かすみ「しょうがないですよ。多分・・・」
 聖 「うちの店長と対談なんて無謀よ無謀。今までもちゃんとなったこと無いでしょ?」
榛 名「いや、結構対談した回もあったと・・・思ふ」
 聖 「そうだっけ?・・・でもどうせうちの店長だから大騒ぎでお終いでしょ・・・それよりかすみちゃん」
かすみ「何ですか?聖さん?」
 聖 「あんた駅長の事どう思ってんのよ?(ひそひそ)」
かすみ「えっ!何聞いてるのですか?別に店長さんとは変わったことはありません!ただの店長とアルバイトです」
 聖 「ふぅぅぅぅぅん(何となくおばさん入る聖)」
かすみ「だから何も聖さんが期待しているようなことはありません!」
 聖 「あっそうなの。あっそう・・・ふぅん・・・そうなんだ・・・へぇ・・・」
かすみ「だからぁ、何にもないです」
由加里「なぁーに話してるのかな?かすみ」
 聖 「あ、由加里ちゃん、ちょっと聞きたいんだけど(ひそひそひそ・・・)」
由加里「別に何もないみたい。つまんないよね」
 聖 「そうなの・・・つまんないわよね・・・」
榛 名「何話してるのかな?本当にあの二人帰ってこないし、ここらでお開きかな?」
 聖 「お開きにするわけ?私は構わないけど・・・まぁ確かに大分時間経ってるものね」
かすみ「それじゃ、お終いですね。聖さん何のお構いも出来なくってご免なさい」
 聖 「私は別に構わないわよ。それより店長ね。お招きにあずかっといて・・・後でとっちめとかなきゃ」
榛 名「あまり過激なことはなさらないように」
 聖 「大丈夫、あれで結構頑丈なの。私や摩耶よりも頑丈なのよ、信じられる?」
榛 名「はぁ、そうですか」
 聖 「そうなのよ。おまけに意味不明に強いし・・・お陰で私達の存在意義良く分かんないんだから」
榛 名「そうなのですか?なら大丈夫なのでしょう。それではお疲れさまでした」
 聖 「ええ、お互いにお疲れさま(苦笑)それじゃ私も帰るわね。ま、最近の店長はいつもに増して壊れてたから、今度、落ち着いてる時にでも呼んで上げて」
榛 名「そうですね。かすみちゃん店閉めるよ」
かすみ「はい、分かりました」
 聖 「じゃっね☆」
 
 

海 猫「俺はまともだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
榛 名「説得力・・・有るのかなぁ?」
 

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