このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

岡山県警特車隊運用報告
報告001-00-01 部隊編成  Ver0.1

2004年8月 岡山県岡山市

「中央11より岡山中央。目標は県庁通りに向け移動中。指示願います」
「岡山中央より中央11。迎撃隊は県庁前に展開中。追跡を続行せよ」
「中央11より岡山中央。了解しました」
助手席に座った婦警は無線機を置くと、フロントガラスを透して前方を逃走中のレイバーを見据える。長い3本足が特徴の篠原重工製のレイバー。つまり<ぴっける君>。それが今回の追跡の対象であった。助手席の婦警は拡声器をオンにすると、
「前方のレイバー直ちに停まりなさいあなたの行動は刑法並びに道路交通法に違反しています。直ちに停車してこちらの指示に従いなさい
と、言ったところで既に数キロも逃走を続けている犯人が停まるわけもなく、彼女の行動は徒労に終わった。
「樹(いつき)ちゃん、こっちは只の追跡担当なんだからそんなことせんでもえぇぞ(しなくても良いよ)」
と、運転席の先輩警官が助手席の樹に言う。「でもぅ」樹は唇を少し尖らせる。少し子供っぽい態度だが妙に似合っていた。藤原樹巡査。つい最近岡山中央署に配属になった新米。小柄で女と言うよりは女の子と言った感じ。婦警の制服よりも高校の制服の方が似合うのではないかと思われる娘である。

 と、言っている合間にも犯人のレイバーと2人の乗るパトカーは県庁通りに入った。片側1車線の余り広くない通り。交通量は市街中心部としては大した量ではない。兎も角その通りを封鎖して暴走レイバーをくい止めようとしているのである。ここで警視庁管内なら「特車2課出動せよ!」となるのだが、ここは岡山。一番近いレイバー隊は大阪だ。テロの可能性がある会議の警備なら兎も角、突発的な事件には間に合わない。と、言う訳で・・・
「ワイヤーの設置完了しました!」
「総員配置に付きました」
「了解、すぐ来るぞ」
現場では道路を横断する形でワイヤーを張る。片方は棒に固定して、もう片方は電動ドラム(これで合ってたっけ?)に付ける。取り敢えずワイヤーは弛ませて気づかれないようにする。そして該当レイバーが来たらドラムを利用してワイヤーをピンと張る。そうしたらレイバーは転けてしまう。イングラムのような足の形なら兎も角、<ぴっける君>の脚なら転けたら終わりである。

「さてと、終わったけどこれからが大変なんだよなぁ」
数分後、あっさり転けた<ぴっける君>を見ながら迎撃隊の指揮官は言った。何故なら<ぴっける君>を起こさないといけない。そのためには民間のクレーンやレイバーに呼ばないといけない。おまけにワイヤーを張るために開けた穴を補修しなければならない。どちらも時間がかかる上にその間、道は封鎖されたままである。レイバー犯罪はとかく面倒がつきまとう。

 そして追跡を担当していた藤原樹巡査はというと、所属先である岡山中央署に戻っていた。パトカーから降りて署内にはいると先輩の婦警が声をかけてきた。
「樹ちゃん。課長が呼んでるよ」
「えっ!そうなんですか」
「なぁーんかやったの?」
「多分、何も・・・」
と、言いつつもいくつか思い当たることがあるのか声に勢いはない。とにかく課長の前に行くと怒っているようには見えない。
「藤原樹巡査。ただいま戻りました」
無言で頷くと課長は唐突に言った。
「藤原巡査。レイバー乗りにならんか?」

(Aパート終了)         

戻る  

このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください