このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
長旅を終えて東京駅ホームに入ってきたひかり号は、再び西へ向かうために、始発駅を発車するのにふさわしい列車に生まれ変わる。
この清掃・整備作業にかかる時間はわずか10分前後。その素早い作業はまさしくマジックと呼ぶにふさわしい。舞台はひかり号車内、観客は次にその列車に乗ろうとする乗客達。
まずは車掌が車内を巡回して、寝過ごしている乗客を起こし、注意を促す。車掌の巡回が、舞台の幕開けである。
男女それぞれの制服を着た清掃・整備の係員がいつの間にか乗り込んでいて、まず座席を回転させる。進行方向が逆になるからだ。通路を歩きながら、両側の座席の背もたれに手を添え、リズミカルにバタンバタンと座席を回転させていく。
通路の反対側からは、背もたれのカバーをザックザックとはがして歩く。はがしたリネンがある程度手にたまると、まとめて座席においておく。これはあとから回収袋を持った人が、集めて回る。はがしながら回収袋に詰め込んでいくよりも、別々に作業を進めた方が効率的なのだろう。
と、思っていると、今度はゴミの回収だ。座席の上、背もたれのポケット、そして窓枠。新聞や雑誌、ジュースの空き缶などが次々回収されていく。
これとほぼ同時に、今度は背もたれのカバーが配置されていく。2列席の通路側背もたれの上には、2枚。3列席の方には3枚。サッサッという感じで、載せられていく。カバーをひとつひとつ設置していくのは、この配布が全て終了してからだ。これも別々に作業を進めていくのだ。
カバーが座席の背もたれひとつひとつにセットされれば、そろそろ作業は終わりで、ホームで待っている僕たちは乗ることが出来るだろう、何て思っているとこれがとんでもない話で、床が簡単に掃かれたあとは、灰皿の清掃、そして座席と肘掛けを座敷箒で吐いていく。
カバーがひとつ歪んでいたのと窓枠に忘れ物の煙草が残っていたのが気になっていたのだが、それもこの時にカバーが付け直され、忘れ物は回収された。
わずかに遅れて、トイレットペーパーを満載した鞄を持った人が車内を横切った。そして、それ以降車内から人影が消えた。
流れにのった見事な作業とはまさにこのことで、いったいひとつの列車を何人で担当するのか見当も付かないけれど、まさしくマジックだなと思った。
ホームからは見えないけれど、これらの作業と平行で、トイレの汚物抜き取りと、水の補給作業がホームの下で実は行われているのだ。
そろそろ扉が開くだろうと僕は荷物を持ち上げる。重いバックパッキングだから扉が開いてからよっこらしょと担ぐと出遅れてしまうからだ。
しかし世の中不思議なもので、僕が荷物を担ぐと、まわりの人たちも荷物を持ち始める。そんなバッグやショルダーや紙袋なんて、扉が開いてからひょいと持てば済むのに、何の根拠もなくザックを担いだ男(つまり僕)に影響されて、荷物をみんな持ち始めるのだ。
そうしてまもなく扉が開いた。マジックの幕は下りた。
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