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納税人年会報告

一九三九年四月十九日午後二時半
於グランド劇場

通過議案

(議長)
議案一、納税人名誉判事アラン・モソップ卿を議長に推薦せられたし。

(秘書)
議案二、J・W・アラン氏を本会の秘書に使命せられたし。

(議事進行規則)
議案三、本会の為、別添議事進行規則を採択せられたし。但しその効力は次期年会迄とす。

(地産委員会委員の推薦)
議案四、エリック・クローン氏を次年度地産委員会委員に推薦せられたし。

(公済医院董事の推薦)
議案五、A・C・コーニッシュ、G・A・ハリーの両氏及びT・B・ダン、W・B・パーソンズの両博士を次年度の公済医院董事に推薦せられたし。

(一九三八年度報告及び決算)
議案六、一九三八年十二月三十一日を以て終了せる年度に関する報告及び決算を採択せられたし。但し本会は滬西地区の状態に関する不満足なる諸点に遺憾の意を表明すると共に、次期参事会が現状の匡正の為全力を尽くさざることを衷心より要望す。

(一九三九年度予算)
議案七、前期参事会により提案せられたる予算中の一九三九年度歳出予算及び附属の諸建議事項を承認の上採択せられたし。従て之により、参事会に対し、その提案せる各種の捐税、課金並に料金を賦課、徴収並に追徴する権限を附与せられ度し。又、便宜上、参事会が自己の判断により適当なりと信ずる条件及び方法により、法幣一二、〇〇〇、〇〇〇元を超過せざる金額、若しくは、それと等価値の其他の貨幣額を、臨時支出予算に指定されたる目的の為に調達する権限を附与せられたし。

(納税人の出席者は二九七名、その代表する議決権は三九四票であった)

議事

C・S・フランクリン——淑女並びに紳士諸君、所定の開会時刻も過ぎましたから、ここに先ず、
議案一、「納税人名誉判事アラン・モソップ卿を議長に推薦せられたし」に付き、諸君に諮りたいと思います。(拍手)

E・B・マツクナフトン——淑女並びに紳士諸君、本議案に御賛成を願います。

C・S・フランクリン——議案に賛成の方は慣例通りの合図を願います。…反対の方は?…満場一致通過しました。
(アラン・モソップ卿、喝采の中に着席)

議長——淑女並びに紳士諸君、小職の最初の任務として、年会召集の通知を読みます。
(おわって、議長はフランクリン氏に議案二の提出を促す。)

C・S・フランクリン——議長、淑女並びに紳士諸君、ここに、
議案二、「J・W・アラン氏を本会の秘書に使命せられたし」、以上の提案を致します。

E・B・マツクナフトン——議長、淑女並びに紳士諸君。本議案に御賛成を願います。

議長——「J・W・アラン氏を本会の秘書に使命せられたし」との提案がありました。御賛成の方は慣例通りの合図を願います。…反対の方は?…満場一致可決しました。次にフランクリン氏が議案三を提案されることを希望します。

C・S・フランクリン——議長、淑女並びに紳士諸君、ここに、
議案三、「本会の為、別添議事進行規則を採択せられたし。但しその効力は次期年会迄とす」、以上を提案します。

E・B・マツクナフトン——議長、淑女並びに紳士諸君。本議案に御賛成を願います。

議長——「本会の為、別添議事進行規則を採択せられたし。但しその効力は次期年会迄とす」との提案がありました。誰方か本議案に対し御意見がありませんか。無ければ本議案を議場に諮ります。賛成の方は慣例通りの合図を願います。…反対の方は?…満場一致可決しました。

議長——次の議案は、
議案四、「エリック・クローン氏を次年度地産委員会委員に推薦せられたし」
 本議案は土地章程第六条A項の規定により、H・S・プルースン氏により提案され、E・トロック氏の賛成があったものです。誰方か本議案に対し御意見がありませんか。無ければ本議案を議場に諮ります。賛成の方は慣例通りの合図を願います。…反対の方は?…満場一致可決しました。

議長——フランクリン氏に議案五を提案して貰います。

C・S・フランクリン——議長、淑女並びに紳士諸君、ここに私は、
議案五、「A・C・コーニッシュ、G・A・ハリーの両氏及びT・B・ダン、W・B・パーソンズの両博士を次年度の公済医院董事に推薦せられたし」以上を提案致します。

E・B・マツクナフトン——議長、淑女並びに紳士諸君。本議案に御賛成を願います。

議長——「A・C・コーニッシュ、G・A・ハリーの両氏及びT・B・ダン、W・B・パーソンズの両博士を次年度の公済医院董事に推薦せられたし」との提案がありました。本議案に御意見のある方はありませんか。無ければ、本議案を議場に諮ります。賛成の方は慣例通りの合図を願います。…反対の方は?…満場一致可決しました。

議長——フランクリン氏に議案六、「一九三八年十二月三十一日を以て終了せる年度に関する報告及び決算に賛成、これを採択せられたし」を提案して貰います。

C・S・フランクリン——議長、淑女並びに紳士諸君。私は前期参事会議長としてここに再び、議案六「一九三八年十二月三十一日を以って終了せる年度に関する報告及び決算に賛成これを採択せられたし」を提案する次第であります。

 さて、本納税人年会はここに又、工部局にとっての奮闘の一年を画した訳であります。その間、工部局はまことに多くの困難且つ複雑な非常時的諸問題に当面致しました。

 その中、主要なものとしては、難民救済、食料及び燃料統制、外灘荷揚設備、滬西住宅地区への工場蔟生、工部局の虹口地区行政の回復、及び、テロリズム等であります。その他、工部局が常に当面している日常問題については言う迄もありません。

 今日、此処ではその一々を説明することは致しません。その大部分は、一九三八年度工部局年報に詳しく載っています。興味のある方は御読みになることを希望します。そこで、私は此処では特に重要と認められるもの、若しくは特別の説明を要する問題に限定して置きます。

 これに関しまして、共同租界の特殊な国際的性質及び諸関係に鑑み、一般公衆に密接な関係を持つ多くの事柄を、公衆の立場から自由に討論することは、不可能ではない迄も、少なくとも実際的でない、と言うことをここに御断りして置くことが適当であると考えます。

 最近一般に特に目立った問題は、テロリズムであります。

テロリズム

 暗殺手段を政治的武器としてしようすることは、支那に限った訳ではありません。現在の様な所謂文明国の混乱期に際しては、政治的暗殺は各国に広くその例を見るところであります。

 暗殺は、秘密裏に欺瞞手段を以って行われる犯罪ですから、これを予防し、根絶することは不可能の事であり、近代的に訓練された強力な警察組織を持った諸国ですら、此の種の犯罪を根絶することが出来ないでいることは実例の好く示すところです。

 昨年中、共同租界内で行われた政治的暗殺は相当多くの件数に達しました。此種犯罪は単なる一党一派に限られず、又、その中の或るものは、今の世の中ではまことに奇異な感を与える中世紀的な心理をはっきりと想い起こさせる様な傾向を示しております。

 我々の多忙な警察が非常時に際して、共同租界内の政治犯を完全に予防する能力がなかった、と言うので、之に対して苛酷な、且つ、私の考えでは、不当な非難を加える向きもあります。だが、我々の警察は世界に類のない様な条件の下で活動してきたのであります。工部局警察は、戦争によって醸された執拗な憎悪感が裏面に沸騰している戦禍の地で職務を遂行しているのです。この地は人口極めて稠密であり、無数の狭い道路、横町、袋小路が交錯し、どの方向へも抜け易い地理的環境に置かれているので、暗殺犯人や暴力団の絶好の隠れ場所を提供している訳です。

 以上は、不愉快ではありますが、蔽うべからざる現実の一面であります。

 問題の深刻と困難とに当惑した日本当局から、テロリズム防遏に関し工部局警察と協力したい旨の申出がありました。

 工部局はその警察に向けられた非難を黙認はしませんでしたが、極めて友誼的な見地から、此の日本当局の協力の申出を承諾しました。但し、協力の実施に当たっては必ず警視総監(警務処々長)と協議し、その承諾を得ねばならないという条件の下においてであります(拍手)。

 此の意味は、現在軍事占領下にない共同租界の各地区においては工部局警察の絶対権力が保持され、又、工部局警察から独立した警察機能は該地区においてはその活動を許さないということであります。

職員俸給

 次に、一般の関心を広く喚起し、又、少なからざる批評の的となったのは、工部局職員の俸給及び手当の改正に関する工部局の処置に就いてででありました。

 昨年中、法幣の為替相場の下落その他事変によって齎された諸条件によって、共同租界の生活費は一般的に高騰し、従って工部局は?々職員の俸給額に就いて考慮致しました。六月、及び引続いて七月に、外支人の下級職員に対する特別物価手当が支給されました。然し、年末に至っても状勢の悪化は改善されず、実情のより詳細な調査が必要になりました。この調査が必要とされたのは、更に又、工部局の俸給支給上における所定外国貨幣換算率の低位が原因となり、技術員並びに各種専門家の補充に関して工部局が益々困難な問題に逢着したこと、及び同様の理由によって高級専門職員の或る者が退職しようと考えていることが工部局当局の耳に入ったこと、等の理由もあったのであります。

 銓叙(人事)委員会は以上の問題全般に亙って、適当な審議をなした結果、次の様な決定をなし、工部局の承認を得ました。即ち生活費高騰に関する現状からみて、下級職員に対する小額の物価特別手当の再支給、及び、A級職員に対する本俸三分の一に該当する為替全額補償金の支給がなされるべきこと、又、この決定は一九三六年度銓叙(人事)委員会決議の単なる実行に過ぎないものであるということでありました。これらの措置が、上述の様に、職員の生計費の増加を充分補償するだろうと考えられた訳でありますが、他方、これらの措置によっては問題の他の一面は未だ解決されるものではないこと、即ち、工部局業務の魅力を回復し、これによって適当な人物の補充を容易にし、又技術家及び専門家に蔓延した深刻な辞職増加の可能性を除去する為には、更に他の措置が必要であることが感じられたのであります。問題の此の面を解決する為、工部局はその二十乃至三十の地位に対する給与の外国貨幣換算額が事実上改善される様な提案に賛意を表したのであります。

 冗長かも知れませんが、私は此の問題に関して一般に普及している誤解を一掃し、又、上述の上級職員に対して提供された特別条件の目的は、生活費の増大を補うのにあるのではなく、少なくとも工部局の或る種の俸給を、上海と同じく世界各地で、同等の能力を有し、同等の責任を負っている人々が取っている俸給並みに引上げ、そして、現に工部局の仕事を再び魅力あるものたらしめる為に何らかの貢献をするのである、ということを明確にしておきたいと思うのであります。

 此の問題を御研究になり、そして、世界の各地で上級公吏の得ている俸給を御承知になった納税者諸君は、必ずや、現在特に重要な責務を負わされている我工部局の上級職員の収入が、今なお各地の同僚より低く、又、上海において同等の責任ある地位についている人々の収入よりも遥かに低いと言うことに御気付きになるでしょう。

 此等の提案が発表されると同時に一般に多くの批判がなされました。そして、納税人の意見を出来るだけ確かめる為、実業家の小委員会が工部局の決定に関して調査し意見を発表することを求められました。此の委員会の仕事については、工部局並びに納税人の大いに感謝するところでありますが、その報告は極めて迅速になされ、最下級職員に関して工部局のとった決定には事実上の賛意を表し、又、A級職員は全部既に工部局の承認を得た磅補償以外に物価手当を支給さるべきである、と勧告した訳であります。

 工部局は此の特別委員会の勧告を承認し、この勧告は直ちに実施し得ることになったのですが、それは、上級職員が忠実にして且つ賞賛すべき態度をもって、彼らの権利を自発的に放棄したからであります。その権利は服務条件に附随しており、彼らの不利益になる様に俸給又は服務条件が変更される場合には六ヶ月の予告をもってしなければならない、と定められているのであります。

 工部局は以上の特別委員会の勧告を採用した訳でありますが、ここに納税人諸氏が銘記しなければならないのは、その特別委員会は、工部局の基本的な給与の率の適当であることに関しては何等の意見を表明しない、と述べたことであります。現在の給与率の基礎を銓叙(人事)委員会の勧告にあるのですが、その銓叙(人事)委員会が開かれたのは此の国の長期に亙る為替安定の充分正当な見透しのあった時であり、俸給はこの仮定と、当時の支配的な諸条件とに基づいて決定されたのです。どんな給与率でもあらゆる条件に適合する様なものはありません。殊に、昨年の様に、貨幣価値及びその他の一般的な条件が急激に変化した様な場合においてそうです。土地章程によって、或る責任は納税人が負い、又、或る責任は工部局が負わされております。工部局の負う責任は、職員の任命、俸給、賃銀、手当の決定であります。

 此の点に関して、よく記憶されねばならないのは、共同租界なるものの行政の国際的性質であります。工部局行政の水準を維持することは工部局の責務です。工部局が基本的給与率の中のあるものを改正しなければならなくなるかも知れない、と言うことは納税人諸君に是非認めて頂きたいことです。工部局の如き大規模な業務においては、消耗と云うものも亦大きいのであります。死亡、退職、解職等により、新規採用は常に必要であります。そして、有能な新規採用者によってこそ工部局の重要な業務が遂行されるのです。欠員が生じた場合には、工部局はかかる欠員の補充に努力せねばなりません。若し現地で採用出来ればよし、出来ない場合には海外から招聘せねばなりません。工部局が海外に人を募集する場合には、現在の様な基本給与率では満足な人物を得ることが不可能であろうと云うことは充分想像されるところであります。

 私は、特に重要な専門的、技術的地位を補充する人々についてそうであると思います。若し、斯かる場合が生じた時には、工部局は基本給与率を適当に上げることを考慮しなければならなくなるでしょう。但し、法幣価値が実質的に改善されれば別ですが、これは現在においては全然見透しのないことであります。

 私は、工部局の最高職員に属する二人が退職したことについて注意を喚起しない訳にはゆきません。

事務総長(総弁)

 フェッセンデン氏と工部局との関係は前例のない程密接なものでした。同氏は一九二〇年に参事会員に選挙され、一九二九年迄引続きその職にあり、同年、高級行政職員に任命されました。一九二二年から一九二九年迄の期間、同氏は参事会議長であり、従って参事会は一九二五年から一九二七年に至る危機の年を同氏の先導の下に過ごしたのであります。

 事務総長としてのフェッセンデン氏の業績の大部分はその性質上秘密なものでありまして、納税人諸君の間にその詳細はあまり知られていないのであります。然し工部局の仕事に密接な関係をもつものには同氏の仕事がどんなに価値あるものであったかが判ります。歴代の参事会議長に対して、事務総長はその右腕であり、重要な顧問でありました。非常時に処すこと常に冷静、その判断は常に賢明且つ、将来を見透しておりました。まことに、フェッセンデン氏の業績は、共同租界にとって計ることの出来ない程の価値あるものでした。

 同氏は上海の歴史に関する造詣が深かった為、過去に続出した危機から得た教訓を、次に起こる事変の措置に利用することが可能でありました。工部局の問題は?々非常に錯雑を極めることがありますから、賢明にして力量あり、且又、法律的な仕事に実際の経験を有する有能な法律家を高級職員に擁することは工部局にとって甚だ幸なことでありました。工部局の高級職員として、吾々の事務総長は参事会員及び工部局の同僚に対して種々助言を与えてくれました。同氏は総ての人々から尊敬と忠実と愛情の念を持たれて居りました。

 ここに次年度より同氏がこの納税人大会に、職員としての資格においてこの壇上にその姿を表さないことを知りまして、真に残念に堪えない次第であります。だが幸にして、フェッセンデン氏は上海を去る御考えはなく、又、友人として従来どおりの助言をして頂くことの出来ることはまことに愉快なことであります。(喝采)

財務処々長(Treasurer and Controller)

 財務処々長フォード少佐も亦、夏季休暇前に工部局の職を退かれることになるでしょう。フォード少佐は一九二四年に、前任者が特許契約改正に関する特殊な任務に就いたのを機会に代理処長に就任され、一九二八年、同処の処長となられました。

 フォード少佐が処長でおられる間に、財務処の責務は非常に増大しました。一九二八年の収支予算は経常費臨時費の総計が三千八百万元であったものが、一九三九年には殆んど八千二百五十万元になりました。一九三二年に捐務股は総務弁から財務処に編入され、それに伴って、財務処長の責務は極めて増大したのです。

 フォード大佐の在任中に、工部局は各種の公共事業会社との間に至極重要な契約を締結しました。即ち、一九二九年における電気処の拂下、一九三〇年における上海電話公司への電話営業特許の移譲、一九三五年における大英自来火有限公司への営業特許、等々を揚げることができます。フォード少佐は、工部局の主席財政顧問として、以上の契約に当たって重要な役割を果たされました。

 フォード少佐が一九〇八年に工部局の職に就かれた当時と現在との対照に至っては、更に一層、驚くべきものがあるでしょう。当時、工部局の経常収入は約三百万元であり、資産は約千二百万元に過ぎませんでした。今日、我々は、経常収入約二千八百万元、資産約一億七千万元を有しております。

 今日、工部局の財政的信用は幾多の波瀾を乗越えて極めて確固たるものがあります。我々はこの点に関しては財政処々長に負うところ極めて大きいのであります。

 工部局の活動は、或は直接に或は間接に、その多くは財政問題を包括しています。工部局がフォード少佐に期待したのは単なる財政の技術的問題のみではないのであります。同氏は一九三六年に参事会員に選ばれようとしたのですが、工部局の要請によって今年迄現職にとどまったのであります。我々は皆同氏の退職後の幸福を希望してやみません。(拍手喝采)

決算

 さて、一九三八年度決算については、御手許に当該年度の財政報告が御座いますし、財政処々長報告書の中に包括的な説明がありますから、私は、此処では、その中に述べられている財政状況の中、極く重要なものを指摘して置くにとどめます。

 一九三八年度経常予算の最終的赤字は、一、八六〇、二四四元で、予期していた欠損よりも七八二、六九八元少なかった訳です。かかる財政状況の改善は、主として、同年度の下半期に起こった収入の激増に依るものでありまして、上海がその復興に当たって非常な底力をもっている証拠であります。

 収入増加に貢献した原因は、滬西地区工業化の拡大と蘇州河南方地区における異常な家屋需要とによる地代、家賃の高騰傾向及び建築熱の勃興であります。

 不幸にして、収入の激増は、法幣の価格下落を主因とする支出の激増によって帳消しとなりました。為替相場下落の影響は、決算の普通支出の項に著しく現れました。即ち、養老金並びに其の他の退職手当に関する経費が非常に増大したのであります。

 通貨の現状が原因となり、物価は騰貴し、職員に対する臨時手当、帰省旅費換算等の形における経費が激増しましたが、之に対する予算の準備はなかったのであります。

 各部処の業務、特に工務処の仕事は或程度制限され、情勢がもっと好転するまでその施行を延期されたので経費は反って減少しました。但し、衛生処の経費は予期以上に上がりました。直接難民救済に要した費用の一部は娯楽税(Voluntary Enter tainment Levy)収入からの割当が充当されました。

 臨時収支に関する説明書を御覧になれば、新規事業計画が又も制限を受け、重要な公共施設だけが施工されたに止まったことが御分かりでしょう。年度中、変則状態がずっと継続しましたので、工部局は予算を甚だしく超過した緊急事変支出を行うのやむなきに至りました。

 御承知の様に一九三八年度の財政状態は公債発行によって資金を公募する迄には至りませんでした。年度初に、定期預金を担保に資金を調達する便法が講じられ、この短期金融の成功は財務処長報告所載の統計によく現れています。新規事業経費は、此の財源から得た資金によって調弁されたものが多いことは注目すべきことであります。

 以上の説明により、私は、議案六「一九三八年十二月三十一日を以て終了せる年度に関する報告及び決算を採択せられたし」、以上を提案したいと思います。

E・B・マツクナフトン——議長、淑女並びに紳士諸君。本議案に御賛成を願います。

議長——淑女並びに紳士諸君。ここに議案第六が正当に提案され、賛成者を得ました。御討議を願います。

E・F・ハリス氏——議長、淑女並びに紳士諸君。茲に提案された議案は、『本年度に関する報告及び決算を採択せられたし』でありました。私は本議案に修正動議を出し、次の句を追加したいと思います。即ち——「但し本会は滬西地区の状態に関する不満足なる諸点に遺憾の意を表明すると共に、次期参事会が現状の匡正の為全力を尽くされることを衷心より要望す。」

 諸君の中、滬西地区に住宅を持っておられる方々、又は、お気の毒にも其処に住んで居られる方々は、私が此処に言おうとする状態に就ては良く御承知の筈ですから、そう多くを言う必要はないと思います。憶定盤路(エヂンバラ路)を一度歩かれるかドライブされれば、曾ては住宅地域として好適であったのが、修羅の巷とでも言う様な状態になっているのに御気付きになる筈です。

 眼に写る限り、工場、藁小屋、棺桶、その他あらゆるガラクタが山積し、眼に醜いだけでなく、騒音、悪臭に充ちています。クリークは工場の不潔物で汚れ、それは二哩もの長さに及んでいます。此の地区に充満している藁小屋には大火事が三回あり、多数の人命を失いました。焼跡が取片付けられるのを御覧になった方はあるでしょうが、多くの人命が失われたことを御存知の方は非常に少ないでしょう。かかる状態が続くことは生活に対する脅威であるだけでなく、健康にも害があります。

 かかる状態はまた、これを改善すべき義務のある当局者に対して非難を投げかけているわけでもあります。この問題に関しては工部局には何等の権限がない、と言われて来たことは、よく承知していますが、報告書を御覧になれば、工部局にその権限があり、且、現実に、その地区に或種の権力を行使していることが判明するでしょう。

 然らば、何故、適当な権限に基いて、その地区に権力を行使しないのか、工部局は、該地区に権力を行使し得る事実上唯一の権力者です。又、工部局はそうすべきです。私は、工部局は如何なる責任当局からも殆ど何等の反対を受けないだろうと確信しております。その地区で就業している人間は非常に多いから人道的見地から現状に満足すべきではないかと質問されたこともありましたが、私も、実状を視察する迄はそんな理由もあるかも知れないと考えていました。

 私は或る工場に行って、一九三七年の事変勃発前は何処にあったのかと尋ねたところ、「閘北に」との答えを得ました。更に、「何故復帰しないのか」との問に対しては、若し復帰すれ自分等は各種の捐税を納めなければならないし、又、生産物にも課税される。ところが滬西に工場を建てれば、労働者には廉い藁小屋を建ててやればよいのだし、労賃は極めて低廉で、年二〇〇%の利益をあげることが出来るが、一方、閘北では三〇%の利益しか得られないという答でした。納税人諸君に考えて頂きたいことは、我々の本国政府が軍隊を派遣して此の地方に配備した目的は、決して、以上の様に、附近に居住する者の健康と生命に影響を与える様な産業開発を保護する為ではなかったと言うことです。

 私は以前に、工部局の為し得る一つの統制方法は、工部局のもっている電気供給権を利用するにあることを指摘してきました。而も、上海電力公司は工部局から受ける提案なら何でも歓迎し、これに留意することは明瞭であります。若し、上海電力公司が未だに工部局の一部署であったとしたら、現在の様に「魔窟」みたいなところに電力を供給するなどと言うことは全然考えられないところです。此処に御出席の事務総長は上海電力公司との契約の責任者でありましたし、その契約の中には、工部局がその希望しない方面に対する電力供給に関して全権力を留保することが規定されていることは確かです。

 総長がかかる措置を採られなかったのなら、今日此処に御出席なさらなかった筈である。本年は参事会員選挙がありませんでした。その理由は重要なる政治的理由によるものと聞いておりますが、或る意味ではそれは非常に不幸なことでした。何故なら、以上の重要な問題に関する各立候補者の意見を聞くことが出来なかったからであります。私が確信することは、以上の状態の改善に賛成するものが当選したであろうということ、又、逆に、賛成しなかったら当選しなかったであろうということです。そこで私は工部局に対して、以上の地区に於ける現状を改善し、之を統制することは工部局に与えられた不文の特権であると言いたいと考えます(拍手)。

(以上の修正は、E・S・リットル氏により賛成を受けたが、同氏は同趣旨の発言をなすことは希望しなかった。)

議長——淑女並び紳士諸君。議案六、に対して只今E・F・ハリス氏から修正動議が出され、之に対しE・S・リットル氏の賛成がありました。修正は次の通りです。——「但し本会は滬西地区の状態に関する不満足なる諸点に遺憾の意を表明すると共に、次期参事会が現状の匡正の為全力を尽くされることを衷心より要望す。」——議事進行規則によりまして、修正案を最初に致します。誰方か発言の御希望があるなら、只今より修正案の討議に移ります。参事会議長は之に対して発言なさいますか。

フランクリン氏——議長、淑女並びに紳士諸君。私は、納税人諸君に対して、昨年度の前期参事会は、只今、ハリス氏によって指摘された問題については実に慎重なる考慮を払ったということを誓いたいと思います。又次期参事会も以上の問題の改善については前年と同様出来る限りのことをするのだと確信します。

議長——修正案に対して他に発言者がないならこれを議場にはかります。御賛成の方は平常の方法で合図願います。反対の方は? 大多数を以て可決しました。

(以下続く・・・・かな?)
 



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