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シーランド公国
人口:4人
1942年 イギリス軍が北海の沖合約10kmの地点に海上要塞を建設
1945年 終戦でイギリス軍が海上要塞を放棄
1967年9月2日 ロイ・ベイツ氏が海上要塞を占拠。シーランド公国の独立を宣言
「独立国を作って王様になりたい!」と思ったら、どうしたらいいでしょう?
基本的に、どこかの国が領土の一部(または全部)に対する領有権を放棄してくれて、そこで独立宣言をすればいい。植民地はそうやって独立したのだが、見ず知らずの外国人に頼まれて、領土を放棄してくれる奇特な国があるとは思えない。一九世紀ならロシアがアメリカへアラスカを売却したように、金で領土を売買することもよくあったが、今の時代ではまず無理。もう一つの方法として、まだどこの国にもなっていない土地(無主の地)を捜してそこに住み、領有宣言をすればいい。ただし南極は、南極条約で領土主権、請求権の凍結が取り決められているからダメ。大航海時代ならいざ知らず、偵察衛星が飛び回っている現代に、どこの国にも発見されていなかった無人島が存在するとも思えない。
でもとりあえず「無人島」をうまく見つけて独立宣言をしたのが、イギリス沖合にあるシーランド公国だ。面積は207平方メートルで人口は4人、国家元首はロイ・ベーツ公というイギリス人。
シーランド公国の「領土」は、第二次世界大戦中にイギリス軍が作った人工島の海上要塞で、戦争が終わり放棄されていたが、1967年に元英軍少尉で海賊放送局を運営していたパティ・ロイ・ベーツが占拠した。ベーツは放送法違反で訴えられていて、イギリスの法律が及ばない場所として領海(当時は3海里)の外(約6海里)にある海上要塞に目をつけたのだった。そしてシーランド公国の独立を宣言し、さっそくイギリス政府に訴えられたが、裁判所は翌年「公海上なので司法の管轄外」だとして訴えを退けた。イギリスは領海を12海里に広げることを宣言したが、時すでに遅しだった。
こうしてパティ・ロイ・ベーツは国家元首のロイ・ベーツ公を名乗り、1978年にドイツ人投資家のアッヘンバッハを首相に任命してカジノを作ろうとしたところ、ロイ・ベーツ公の息子・マイケル皇太子を人質に取られてクーデターを起こされ、公国から追放されてしまう。しかしロイ・ベーツ公は元英軍少尉だけあって、20人の武装した友人たちを率いてヘリコプターで要塞を急襲し反乱を鎮圧。アッヘンバッハたちはオランダへ追放され、シーランド公国から「反逆罪」として7万5000マルクの罰金支払いを命じられた。この事件について西ドイツ政府はイギリス政府に善処を求めたが、イギリス政府は68年の判決を理由に「管轄外」だと無視したため、西ドイツ政府はシーランド公国へ外交官を派遣して交渉したところ、ロイ・ベーツ公は「わが国が西ドイツ政府によって承認された」と喜んで、罰金支払い命令を取り消した。この後、アッヘンバッハはシーランド公国の「枢密院議長」を自任して、西ドイツで亡命政府を樹立。今もアッヘンバッハの「後継者」が正統政権を主張しているとか(※)。
※シーランド公国の亡命政府は1989年に「憲法改正」を行い、公国としての国体は維持するものの、国家元首は空位だとして当分の間は枢密院議長が元首を代行することを決めたとか。ちなみにシーランド公国の公用語は英語だが、亡命政府はドイツ語と英語。シーランド公国では切手(なぜかベルギー宛の郵便だけには使えるらしい)やコイン(米ドルと等価のシーランド・ドル)を発行したほか(※)、これまでに106人に市民権を与えてパスポートを販売した。しかし亡命政府が発行したパスポートも出回り犯罪事件に使われたため、ロイ・ベーツ公は1997年にそれまで発行したパスポートの無効を宣言している。※1976年にルクセンブルグでシーランド・ドルのコインを製作していた3人が「偽造貨幣製造」容疑で逮捕された。しかしルクセンブルグ警察がロンドン警視庁に問い合わせたところ、シーランド公国はイギリスの管轄外だと言われたため、「イギリスの偽コイン」であることが立件できず起訴を断念した。シーランド公国はこの1件も「我が国が独立国家である証拠」だとしている。すでに80歳を超えたロイ・ベーツ公はイギリスで暮らし(イギリスはシーランド公国の独立を承認していないので、ロイ・ベーツ公はイギリス国民として暮らせる)、シーランド公国は息子のマイケルが跡を継いで、タックスヘブンに加えてインターネットのデータへブン、つまりインターネットに関するいかなる規制も受けない国として売り出そうとした。ところで、シーランド公国は果たして独立国と言えるのだろうか。1933年のモンテビデオ条約によれば、国際法で認められるべき国家の要件は、(1)国民、(2)領土、(3)政府、(4)外交能力の4つとされている。シーランド公国の場合、国民と領土、政府は存在しているし、外交能力についても1978年の「西ドイツ政府との交渉」を根拠に条件を満たしていると言えそうだ(ただし、西ドイツ政府は国家として認めて交渉したわけではないと主張)。
しかし1982年に締結された国連の海洋法では、島について「自然に形成された陸地」と定義しているので、人工島は領土として認められず、人工島だけを支配するシーランド公国は、領土を持たないから国家とは認められないということになる。
シーランド公国と同じようなことを考えて、失敗した人たちについては こちら を見てくださいね。
※シーランド公国は2006年6月23日に発電機から発生した火災によって廃墟と化し、住民(留守番をしていた守備兵1名)はイギリスの救助ヘリに助けられて病院へ運ばれた。その後、シーランド公国を「借用」していたインターネットの会社によって復旧作業が進められたが、マイケル皇太子は2007年1月にスペインの不動産会社を通じて、シーランド公国を売りに出すと発表した。マイケル皇太子は「売国」に踏み切った理由を、「ロイ・ベーツ公は85歳となり、自分も54歳で、シーランド公国の将来には若い力が必要だから」と説明しているが、「シーランド公国」という国名は変更してはならず、購入者はこれまでの法や国体を維持することという条件付き。となると、ベーツ家が今後もシーランド公国の王家を続けることになるわけで、国を売ると言うよりテナント募集といった感じ?
で、肝心なお値段は、6500万ポンド(約149億円)だの、7億5000万ユーロ(約1175億円)だの、50億4000万ポンド(約1兆1600億円)だのと様々な値段が言われていて、果たして買い手は見つかるのか?それとこれを機に亡命政府が巻き返しを図る???
●関連リンクThe Principality of Sealand シーランド公国の公式サイト(英語)
Principality of Sealand シーランド公国の紹介サイト。シーランド公国の写真や切手、コインがあります(英語)
Heven Co Ltd シーランド公国で新しく始めたデータへブンの会社(英語)
The Imperial Collection - Principality of Sealand シーランド公国のコイン(英語)
Sealand and Havenco Photo Gallery シーランド公国の現在の写真がたくさんあります(英語)
Principality of sealandnd シーランド公国亡命政府の公式サイト(英語)
This is Sealand シーランド共和国の写真や図面、イギリス軍の要塞時代の写真や建設法についての資料があります(英語)
HARWICH LIFEBOAT STATION 炎上するシーランド公国の写真(英語)
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