このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください




ご好評につき第二弾
バスで働くということ


   ■ 電車からバスへ…

 7月頃に普段通り駅で勤務していたら、助役さんに呼ばれて、「いのこう君、8月からバスの
営業所に行くことになるらしいよ。」と言われました。

 バスの営業所に行くのではないか、というのは噂にはなっていましたが、初めて言われまし
た。一緒に駅にいた大卒の同期は、技術職だったので、7月から車掌の研修に行くことが決ま
っていました。周りの同期に聞いてみても、誰も何も言われていません。「もしかして俺だけバ
ス…?」不安になりました。

 結局私の駅の助役が早耳だっただけで、文系の人間はほとんどバスの営業所に行くことに
なりました。私は海沿いのZ営業所に行くことになりました。今度は一人で配属です。


   ■ バスの営業所とは…

 バスの営業所というのは、なじみが無いと思いますので、少し解説します。

 バスの営業所は、以下のような組織になっています。

   所長 … 助役 … 事務主任 … 事務掛

             … 運行主任 … 運転士

             … 車両主任 … 整備掛

 意外に思われるかもしれませんが、バスの営業所にも助役さんがいるのです。

 助役と事務主任が、「運行管理者」の資格を持っていて、バスを運行している間は、必ず一
人は営業所に常駐していなければならない規則になっています。

 運行主任は、主に運転士の勤務管理や、運行管理をする人です。

 整備主任と整備掛は、「工場」でバスの整備をします。バスも電車と同じく、一定期間を過ぎ
ると点検をしなければなりません。また車検も受けなければなりません。営業所は、「車検指定
工場」になっていました。


   ■ まずは視察

 8月16日付で、一応Z営業所勤務になりましたが、期間は一ヶ月。何も出来ません。

 とりあえず所長から概況を解説された後は、助役さんに、「じゃあ、とりあえず全路線乗ってき
てもらおうか。」と言われました。

 助役さんにスケジュールを組んでもらい、一路線ずつ潰していきました。「のりつぶし」です。
一応「現場視察」なので、運転士に挨拶して一番前の席に座り、真面目に「視察」しました。

 バスの運転士さんというのは、大型2種免許が必要なので、トラックの運転士から転職してく
る人が多くて、面白い人がたくさんいました。いろいろと苦労話を聞かせてくれました。前は名
鉄バスで運転士をやっていたという人とは名古屋の話題で盛り上がり、ある運転士さんは、折
り返しの待ち時間にジュースをおごってくれました。


   ■ ダイヤを組む

 「視察」が終わると、次に待っていたのは、「路線バスのダイヤを組む」という実習でした。こ
れは本社から指示が出ていたらしく、単純な想像上の短距離路線のダイヤを作成する、という
ものでした。

 見た目は電車のダイヤと同じですが、制約条件がありました。

   ・運転士の勤務時間管理…一台のバスに一人の運転士が張り付きますから、運転士の
                    一日あたりの総勤務時間を管理することはもちろん、運行
                    開始前の点検時間・ハンドル時間(実際にハンドルを握って
                    いる時間)・折り待ち時間(労働協約上、折り返しの時に取ら
                    なければならない休憩時間)・途中の食事時間などを勘案
                    しなければなりません。また、運転士の勤務体系も、泊まり・
                    日勤・中断(朝勤務して、一旦自宅に戻って休憩して、夕方
                    からまた勤務するという独特の勤務)をうまく組み合わせなけ
                    ればなりません。

   ・使用するバスの管理…運転士とバスは一緒に動きます。(これはバス会社によっては
                  そうでない会社もあります。)従って、運転士が食事をするため 
                  に営業所に戻ってくるときは、バスも一緒に戻ってくるので、代わ
                  りのバスを出さなければなりません。

 これが意外と難問だったのですが、他にすることもなかったので、朝から晩までやっていた
ら、3日で一応完成しました。助役さんに見せると、「まあまあだな。でもこれでやることがなくな
っちゃっただろう。じゃあ、実際の路線でダイヤを組んでみるか。」と言われました。


 渡されたのはZ営業所でも最長の路線で、Z駅前から海岸線沿いに30kmほど南下していく路
線です。そして、さらに制約条件が加わりました。

   ・JR線との接続…Z駅はJR線の駅なので、JR線との接続を取らなければなりません。
              接続時間は7〜15分。しかしこれがクセもので、JR線が等時隔ダイ
             ヤになっていないので、「ここで5分早く着いてくれれば…。」とか、
              「ここで5分出発が遅ければ…。」という場面が続出しました。

   ・渋滞を予測…朝夕の渋滞を見込んでダイヤを組まないと、うまくダイヤが回りません。こ
            れは特に決まった運転時間があるわけではなく、目分量で折り待ち時間
            を多めに取ることにより対応します。(そんなの分かんねえよ…!


   ・途中折り返しの設定…この路線には、途中で輸送量が落ちたり、学校があったりして、
                  途中折り返しの便を設定しなければなりませんでした。これも
                  クセもので、途中で折り返してくるとうまくダイヤが組めなくなって
                  しまいます。

   ・バスターミナルの容量…「こんなことまで条件になるの!?」と思ったのが、バスターミナル
                  の容量でした。Z駅前のバスターミナルは縦列駐車しなければ
                  ならない構造になっていたので、例えば折り返しに15分取って 
                  いたとしたら、その間に同じ列を使う別系統のバスが発着したり
                  していると、その場に止まっているとその別系統は折り返しが
                  できません。これが鉄道のダイヤの駅の番線割り振りの二乗に
                  比例するくらい複雑で、頭がウニになりそうになりました。

 これらの条件に、前述の条件が加わり、最初は、「バスのダイヤなんか鉄道より単純だよな
あ…。」と思っていたのが、「う〜ん、何でこんなに複雑なんだ。助けてくれ〜。」に変わりま
した。

 当時この路線のダイヤ改正が予定されていて、助役さんと競争で作ったのですが、一週間で
ギブアップしました。結局正解が出たのは、「ラッシュ時の最大使用台数」だけでした。それでも
助役さんは、「まあ初めてにしては出来が良い。」と褒めてくれました。


   ■ 工場

 工場にも一日実習に行きました。いすずのつなぎ服を着せられ、バスのホイールを磨いて、
タイヤにコンプレッサーで空気を入れました。休憩時間に車両主任に、「バスってメーカーによ
って使い勝手に違いって無いんですか?」と聞くと、「面白いことを聞く奴だなあ…、慣れれば同
じだよ。」と言われました。


   ■ 回数券の山と格闘

 料金箱の現金の精算は、機会が自動でやってくれるので楽でしたが、問題は回数券でした。
機械が現金と回数券を分別して回数券の山を吐き出します。共通回数券は、精算の幹事をし
ている会社に送らなければならないので、その中から、自社の回数券と共通回数券を分けて、
共通回数券だけをよりだして集めなければならないのです。毎日回数券の山と格闘する
日々…、そのうちに夢に出てくるようになりました。



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パート2へ続く
いまだから話せる話
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