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健論時報
  2001年1月  


■改正少年法に即して対応し、刑事処分相当とすべき

 北海道で轢き逃げ犯の17歳少年逮捕(12月3日)
 報道によると、北海道札幌市南区の路上で、同市南区石山一条の市立石山小学校3年生・真坂俊吾君(当時8歳)が車3台に轢き逃げされ死亡したで、北海道警南署は2日、業務上過失致死等の容疑で住所不定・無職の17歳の少年を逮捕した。警察の捜査によると、この少年は先月10日午後5時10分ごろ、 札幌市南区石山2条5丁目の市道で盗取した国産乗用車を無免許で運転。赤信号を無視して交差点に進入し、道路を横断中だった俊吾君を撥ねて死亡させ、そのまま逃走した。逃走後、少年は乗っていた盗難車を石狩市で乗り捨て、証拠隠滅のため車内に消化剤を撒いていた。逮捕された少年は容疑を認め、逃走した理由について「恐ろしくなって逃げた」等と話している。なお、 俊吾君は、後続の車2〜3台にも撥ねられているが、司法解剖の結果、最初の接触で俊吾君が死亡したことが判明したという。
 最近、交通犯罪に対する量刑の軽さが指摘され、法務省としても死亡交通事故で飲酒運転等運転者側の過失が大きい場合の量刑の引き上げについて検討しているという。逮捕されたこの少年も、結局は業務上過失致死罪(刑法第211条)、道路交通法違反(無免許運転等)で処罰されることになるが、業務上過失致死罪の法定刑は「5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に過ぎず、殺人罪(刑法第199条)が「死刑、無期又は3年以上の懲役」であることと比べても量刑が軽い。しかも、この加害者は少年であり、改正少年法(「少年法等の一部を改正する法律」、平成12年法律第142号)が施行されるのは来年4月である為(同法附則第1条)、改正で取り入れられた改善点はこの事件には適用されない。しかし、少年の犯行を見れば、これが改正少年法のいう「原則逆送」(刑事処分相当)であることは明らかであろう。家庭裁判所には、改正少年法に即した対応を求めたい。

■並行在来線を廃止・移管するな
 政府・与党、北陸・九州新幹線のフル規格化決定(12月9日)
 報道によると、政府と与党で作る「整備新幹線検討委員会」の作業部会は、8日、整備新幹線の平成13年度の新規着工区間として、運輸省が予算案で要求している北陸新幹線・上越−糸魚川間を富山まで、九州新幹線・鹿児島ルートを博多−船小屋間まで新規着工を認める取りまとめ案を了承した。また、これまでスーパー特急方式(在来線と同じ軌間1076ミリ、車両サイズ20メートルで路盤等のみ新幹線規格。全国新幹線鉄道整備法附則第6項第1号)として建設されてきた区間もフル規格(軌間1435ミリ)に引き上げ、両者合わせてフル規格新幹線として建設するため、北陸新幹線高崎ー富山間、九州新幹線博多ー西鹿児島間は全線フル規格新幹線となる。もっとも、運輸省は来年度予算で整備新幹線建設費として、本年度の4倍強の1500億円の予算を要求しているが、実際にどれだけの額を確保できるのかはまだわからない。また、来年度以降、政府が財政緊縮政策に転じた場合は、その後の建設費用が確保できるかどうかも不透明だという。
 今回着工が決定したことによって、北陸・九州の両新幹線はフル規格化が進んだ。地球環境保全を考えなければならない21世紀にあって、電気によって動く電車(電気鉄道)の役割はこれから増すべきものと予想され、鉄道の復権が見込まれる。既に、欧州諸国の大都市部では、かつて自動車交通の邪魔者扱いされていた路面電車がLRT(軽量鉄道交通)としてよみがえっており、「鉄道復権」が進んでいる。これは単に都市部に限らないのであり、そうした点からも鉄道交通の発達は望ましいことである。北陸新幹線の残った部分(京都ー金沢間)についても、既に北陸本線の特急需要がかなりあることから、利用の見通しは暗くはないだろう。
 但し、今回の整備新幹線2路線フル規格化によって、廃止又は第三セクター化される並行在来線については、その扱いを慎重にして欲しい。北陸本線は、在来線特急の他に福井ー金沢ー富山の都市間輸送や寝台特急列車の走行ルートともなっている「陰の東海道本線」であり、最も重要な幹線鉄道である。また、それは単に鉄道交通上重要であるというだけでなく、防災上あるいは(広い意味での)安全保障上の重要性も有する。更に、並行区間のみ第三セクター化したりすると、「規模の経済」が発揮できなくなり、運賃上昇や周遊きっぷでの利用困難といった弊害を招く。事実、東北新幹線延長に伴う東北本線廃止区間(第三セクターに移行)では、JR貨物やJR東日本の長距離貨物・寝台特急列車の通行に対して高い利用料の支払いを求めるという動きが出ており、移管の問題点が浮き掘りになっている。信越(長野)新幹線が開業した際、並行する信越本線横川ー軽井沢間を廃止したのは、同区間の特性上やむを得なかったが、それも従来の東京ー北陸間夜行列車を上越本線経由で運転できるからこそである。北陸本線や鹿児島本線は、そうした代替性は無く、無闇に廃止・移管すべきではない。採算があわないのであれば、政府からの補助も検討すべきであろう。国鉄の赤字ローカル線とはわけが違うのである。

※参考1:北陸新幹線建設状況

                     
 
 
 
S特急
建設中

 
今回
着工


S特急
建設中


今回
着工

フル
建設中

営業

 
                     

※参考2:九州新幹線鹿児島ルート建設状況

             
 西鹿
児島
S特急
建設中


S特急
建設中

S特急
建設中


今回
着工


今回
着工

 
             

■野党は安全保障政策を後退させるな
 民主党、自由・社民両党との連携で政権構想を表明へ(12月9日)
 報道によると、民主党は8日、来年8月の参議院選挙で選挙協力をすることになっている自由党・社会民主党の両党と共通の政権構想を掲げることを決定した。これについて菅直人民主党幹事長は、「自民党の現状維持型の保守主義の対立軸として、個人や経済活動の自由という自由主義と、セーフティーネットを用意する社会民主主義の統合を柱にしたい。」と述べ、自民党にかわる政権の枠組みを提示したい、としているという。
 元々、現在の民主党は、旧日本社会党系、旧新党さきがけ系、及び旧新進党系(旧民社党系及び旧民政党系)反小沢派の国会議員によって構成されており、他方自由党は旧新進党系を、社会民主党は旧日本社会党系をそれぞれ継承している存在であって、90年代の政界再編劇の間も「純潔」を守った日本共産党以外の野党三党間には、ある種の親近性がある。自由党を「民主党右派」、社会民主党を「民主党左派」とすれば、三党が連立政権を組むとしても、それほどの違和感や「野合」との批判はないだろう。
 もっとも、これは、逆にいえばそれだけ民主党内の「色分け」があまりにも幅広い「野党版自社さ連立」状態ということでもある。例えば、安全保障政策や憲法問題一つとっても、積極的な改憲論から旧社会党的な護憲論まで幅広く、「論憲」という以外でまとめられないでいる。これに、「普通の国」を目指す積極改憲派の自由党と、「変えさせないよ」の社民党が加わったら、一体どのように議論をまとめていくのであろうか。加えて、社会民主党は、先の衆議院総選挙で護憲・平和を訴えて議席増を果たしたことから左旋回しており、最近では村山富市内閣当時に掲げた「日米安保堅持・自衛隊合憲」の姿勢を「自衛隊違憲」に戻そうという動きすら見せている。PKO、PKFをはじめ我が国の軍事面を含めた積極的な国際貢献が望まれる21世紀にあって、20世紀の遺物たる「自衛隊違憲」なるイデオロギーを掲げられては、政権を委ねるわけにもゆくまい。仮に来年の参議院選挙で与党三党が敗北し、代って三党連立政権が誕生した際は、ぜひ安全保障政策を後退させないで頂きたい。

■各党の具体的改憲案提示を期待する
 自由党、「新しい憲法を創る基本方針」を正式決定(12月13日)
 報道によると、野党第2党の自由党(小沢一郎党首)は13日午後の常任幹事会で、自由党の憲法改正の指針となる「新しい憲法を創る基本方針」を正式に決定した。国際連合による集団安全保障体制に積極的に参加する方針を示す一方で、「戦争放棄」を謳った現行憲法第9条の「理念」を継承することとしており、来年夏の参院選での野党選挙協力に配慮したものとなっている。その他の内容としては「天皇制は現行制度を維持」、「憲法裁判所の設置」、「直接民主制による代議制の補完」、「憲法改正手続の緩和」を規定している。主要政党の中で、具体的な憲法改正の指針を作成したのは初めてで、自由党はこの「基本方針」を衆参両院の憲法調査会に提出するという。
 この改正案中、特に安全保障の部分については、一部を除いて既に国民の暗黙の合意がとれているものであり、改憲案として何等突飛なところがない。小沢氏の目指す「新しい保守主義」に合致した、極めてバランスのとれた案であるということが出来よう。憲法論議でなによりも大切なのは、単に現行憲法の問題点をあげつらうだけでなく、それにたいする具体的な改正案を持つことである。今後、憲法調査会の中で、自由党だけでなく自民党・保守党や民主党・公明党といった改憲・論憲政党の改正案の対案もぜひ見てみたいところである。

自由党「新しい憲法を創る基本方針」(第1次草案)(要旨)
1、国及び国民のあり方

 憲法に前文を設け、国及び国民のあり方について基本理念を明記。
 現憲法の基本原理を継承し、発展させるとともに、日本の文化・伝統を尊重し、自由で創造性あふれ、思いやりのある自立国家日本をつくることを宣言。新たな国家目標として(1)日本人の心と誇りを取り戻す。
(2)自己中心的な社会から、規律ある自由に基づく開かれた社会に改める。(3)経済の活力を回復し、誰もが生き甲斐を持って暮らせる社会をつくる。(4)地球の平和と環境に自ら進んで貢献する。
2、天皇制
 天皇は、国民統合のための歴史的文化的存在。国家元首として定着しており、現憲法の原則を変更する必要なし。ただし、「象徴」という表現に代わる用語の検討、国事行為に関わる規定の正誤の訂正等は実施。
3、国民の権利と義務
 国家権力と人権を対峙させる啓蒙時代の発想を克服し、個人の自由を国家社会の秩序の中で調和させる。基本的人権の保障を「国家社会を維持し発展させるための公共財」とも位置づけ。
 国民の諸権利と義務は、人類の普遍的原理・日本のよき文化と伝統を踏まえる。「公共の福祉」概念の明確化。政教分離原則の意義を明確化し、価値多元化社会に適応する自由を確保。国民の知る権利及びプライバシー権、外国人の人権保障とその合理的限界、犯罪被疑者と被害者の人権保護の調整等を検討。
 自由で公正かつ規律ある経済活動を確保し、勤労者の社会的権利の拡大と経済的発展によって国家社会の安定を図るものとする。
 教育、環境保全、社会保障については別項に記載する。
4、安全保障
 現行第九条の理念を継承。同時に、21世紀においては新しい安全保障の概念を創造する。日本の平和維持のためには、国際社会との真の協調を図らなければならず、もはや、個別的自衛権や集団的自衛権だけで自国の平和を守ることは不可能。そのためには、外交努力に全力を尽くし、国連による集団安全保障を整備するとともに、国連を中心としたあらゆる活動に参加。さらに、日本が率先して国連警察機構創設を積極的に提唱する。同時に、大量破壊兵器全廃を推進。
 自衛隊の権限と機能、内閣総理大臣の指揮権を、憲法に明記し、シビリアン・コントロールを徹底。日本が侵略を受け、国民の生命及び財産が脅かされた場合のみ武力により阻止することとし、それ以外の場合には自衛権の名の下に武力による威嚇またはその行使は一切行わないことを宣言する。緊急事態体制を整備。
5、立法権
 代表制民主制度を維持しつつ、直接民主制度による補完によって、形骸化した議会制民主主義の真の民主化を図り国民主権を確立。現行の参議院は間接選挙や推薦制度の導入を検討。両院の権限や機能の分担を徹底させ、参議院の役割を国政に対して大所高所から指導・進言するものとし、国政運営の民主化と効率化を図る。
 憲法の国会に関する実定法の誤った用語等について整備をはかる。議員の権限や責任、議事運営等について、全面的に見直す。特定の要件に限定して国民投票制度を導入。政治倫理の確立については、議院の自浄機能として憲法上の制度を整備。
6、行政権
 首相公選制は慎重かつ冷静な議論が必要。国家の最高権力者の選出は代表民主制度によることが日本の歴史や民族性から適切。中央政府の役割を国家の維持と発展に必要かつ最小限なものとする。危機管理体制を確立し、必要に応じ国、地方の権限を首相に集中できる体制を整備。
7、司法権
 司法制度改革の推進。憲法裁判所を設置する。最高裁判所判事を国会承認事項とし、国民審査を廃止。
8、地方自治
 税財源確保など自治体が独自の活動ができる根拠規定を設ける。
9、財政
 会計検査院を国会の機関とする。
10、教育及び文化
 教育の基本理念と教育・文化行政のあり方を明記する。
11、環境・社会保障
 基礎的社会保障(基礎的年金・介護・高齢者医療)を国の責任で整備することを憲法に明記する。
12、改正手続き
 「各議院の三分の二以上の賛成」という発議要件を「過半数」に改める。憲法改正手続法を整備する。

■米国の選挙制度・司法制度に疑惑が生まれた
 アメリカ大統領選挙、連邦最高裁の判決を受けブッシュ・テキサス州知事が勝利確定(12月14日)
 報道によると、21世紀最初のアメリカ大統領を決める大統領選挙で、フロリダ州での手作業集計を認めるかどうかを巡り争われていた訴訟は12日、米連邦最高裁が州最高裁に審理を差し戻す判決を下したことで民主党候補のゴア副大統領の敗北が確定し、ゴア候補は14日にテレビで「民主主義のために敗北を認める」と敗北を宣言した。また、これを受けて、ブッシュ候補もテレビを通じ勝利演説を行い、5週間にわたった大統領選挙の混乱は決着した。ブッシュ氏は父親のジョージ・ブッシュ氏以来8年ぶりの共和党出身大統領となり、第43代大統領に就任する。八年間続いた民主党政権が終わり、共和党は一九五二年のアイゼンハワー大統領の初当選以来、半世紀ぶりに行政府と上下両院の立法府を事実上支配することになる。
 今回の一連の騒動で明らかになったのは、民主主義の母国・アメリカにおける選挙制度と司法制度に対する疑惑である。まず、大統領選挙が実は「大統領選挙人」を選ぶ選挙であり、「winner takes all」原則の下各州毎の選挙人獲得数によって大統領候補を決めるという方法それ自体、世界中の人々が疑問に思ったに違いない。我が国のように間接民主制を採用しているなら格別、事実上の直接選挙であるアメリカで、果たしてこのシステムを維持する意義はどこにあるのであろうか。下手に州毎に選挙人を割り振れば、各州毎の「1票の格差」にも微妙な違いが生ずるし、その州の選挙人を全員独占するというのもおかしい。更に、如何にアメリカ合衆国においては地方政府の権限が強いとはいえ、投票用紙が全米でまちまちであったり、手作業による再集計が不公正な形で行われるというのは、選挙制度そのものが問題を抱えていることを意味する。穴が完全に開いていない「えくぼ票」を巡る問題についても、何故これを投票結果に参入するのか、一度その穴を選択して穴を開けようとしながら、迷った挙句棄権した有権者は何故想定されないのか、といった疑問も残る。更に、そうした根本的矛盾について深く審理しないまま「手集計」を命じたフロリダ州最高裁のあまりにも政治的な判決は、アメリカ司法制度の政治性(これは、陪審制度等で既に十分語られていることだが)を感じさせるに十分であった。

■21世紀日本外交のためにも、軽空母導入実現を
 防衛庁、次期中期防衛力整備計画(次期防)の原案を自民党に提示(12月14日)
 報道によると、防衛庁は13日、来年度からスタートする新しい中期防衛力整備計画(次期防、5年間)の原案を自民党に提示した。この中で防衛庁は、IT革命への対応や災害即応体制の整備の他、陸上自衛隊用として現90式戦車を小型化・軽量化した新型戦車の開発、ゲリラ戦対策用の新型武装ヘリコプターの導入、海上自衛隊用としてP−3C対潜哨戒機の代替機開発、7700トン型イージス護衛艦(TMD関係)2隻の導入等を挙げているが、目玉となるのが海上自衛隊の大型ヘリコプター護衛艦導入である。これは、現在護衛隊群の旗艦を務めているヘリコプター護衛艦「はるな」「ひえい」(基準排水量5000トン級)の退役に伴う代艦で、基準排水量は1万3500トン、MH-53E大型掃海ヘリコプター(海上自衛隊が保有する最大のヘリ)4機の同時運用が可能とされる。注目の艦型について防衛庁は「未定」としているが、飛行甲板を前後に分けては運用上も非効率的であることから、「おおすみ」型輸送艦(基準排水量8900トン)と同じ全通飛行甲板を備えた空母型になる公算が強いという。今のところ、運用するのはヘリコプターとしているが、ハリヤーⅡ垂直離着陸戦闘機や米英両国で開発中のJSF(次期統合戦術戦闘機)の垂直離着陸型を導入すれば、有力な洋上航空戦力となる。
 東西冷戦の終結を迎え、新たな日米関係がスタートし、我が国が独力で国際社会に積極的に貢献する必要性が高まっている今日、その一有力手段としての「安全保障上の貢献」のための手段の整備が急がれている。現在、我が国が実施可能な貢献策はODA等の経済協力、国際緊急援助隊やPKO協力法上の支援に限られているが、これではいくらODAを世界中にバラ撒いても、それだけで我が国の国際社会における地位を上げるものではない。最終的には、国連平和維持軍だけでなく、多国籍軍のような集団的安全保障に基づく軍事行動(多国籍軍は国連憲章上の「国連軍」ではないが、憲章第7章の定めるところにより安保理によって武力行使を許可されているという意味では同じである)にも積極的に参加する必要があるが、その前提となるべき海外展開能力が、我が国には全く不足している。「専守防衛」の建前がある以上当然とも言えるが、状況は変化してきている。少なくとも、我が国が自衛隊に海外展開能力を与えたからといって、我が国が再び侵略戦争をはじめる等ということは、国民の意識としても、軍事的観点からしても全くあり得ないことであり、他国領土の保全と独立に脅威を与えるものではない。こうした観点から、海上自衛隊の新型ヘリ護衛艦建造は望まれるものであり、その実現を強く期待したい。「事実上の空母だ」という指摘もあるが、今日、海上戦力の主力は空母と原子力潜水艦であり(それをはじめて実践してみせたのが他ならぬ旧日本海軍である)、また空母という軍艦は、中国以外の国連五大国の他、イタリア(1隻、2万トン級をもう1隻建造中)、スペイン(1隻、国産艦)、インド(英海軍から2隻輸入したうちの1隻、将来国産予定)、アルゼンチン(英海軍から購入した旧式艦1隻)、ブラジル(英海軍から購入した旧式艦1隻、及びその代艦としてフランスの2万トン級空母「フォッシュ」を購入予定)、タイ(1隻、スペイン製)等が保有しているものであり(この他に我が国計画と似たような2万トン級「多目的艦」をオーストラリアが建造中)、原子力弾道ミサイル潜水艦のように格段に特殊な、攻撃的なものではないのである。

■なぜ東古市駅に安全側線が無かったのか
 京福電鉄越前本線で列車正面衝突事故(12月17日)
 報道によると、福井県松岡町にある京福電気鉄道越前本線で17日午後1時半頃、本来本線には進入しないはずの永平寺線の永平寺ー東古市間の区間列車が東古市駅を通過して進入し、福井駅発の下り勝山行き電車(モハ1101形)と正面衝突した。この事故で、支線を運転していたモハ251形の運転士佐々木忠夫さん(57歳)が死亡、乗客乗員24人が重軽傷を負った。乗客の証言によれば、事故を起こした永平寺線の列車は、永平寺駅発車直後からブレーキが利かなくなり、本来停車すべき永平寺線内の3駅を通過して東古市駅に侵入、暴走をはじめてから約12分後に下り本線列車と衝突したという。
 今回の事故で解せないのが、何故東古市駅に安全側線が設置されていなかったのか、ということである。安全側線とは、単線区間の行き違い駅で本線と待避線とが合流する地点に、本線とは別の方向に向けて設置される側線のことで、仮に停車中の列車が勝手に動き出しても、分岐器が安全側線側に開く為反対側からやってくる本線の列車に正面衝突せずに済ませることが出来る(通常、安全側線の長さは数メートルで、列車はその数メートルを乗り越え外側に強制的に脱線させられるようになっている。このため、安全側線の短いものは「脱線転轍機」と呼ばれる)。こうした装置は、単線区間での合流点の他、時として複線区間で待避線と本線(通過線)とを結ぶ部分にも設置され、最悪の事故を防ぐようになっている。しかし、今回、報道された映像を見る限りでは、事故車両が通過した東古市駅には、本線同士の合流点、永平寺線と本線との合流点のいずれにもこの安全側線は設置されておらず、結果として事故車両の本線進入を許してしまった観がある(地理的構造上も無理そうではなかった)。報道によれば、事故をおこした車両(日本車両製の京福オリジナル車両)の台車は1928年製、車体は1958年製と老朽化しており、事故の第一原因はこうした老朽化車両の不完全なブレーキによるものであると見られているが、加えて京福電鉄側の、安全側線設置等の事故予防策が事態を大きくしてしまったといえよう。
 京福電鉄は、福井県に越前本線(福井ー福井口ー東古市ー勝山)、永平寺線(東古市ー永平寺)、三国芦原線(福井ー福井口ー三国港)を、京都府に京都線、嵐山線をそれぞれ持つ私鉄で、路線延長は71.5キロに及ぶ。しかし、京都市内の路面電車的な路線である京都線・嵐山線にしても、嵐山線の廃止が決まる等経営は苦しくなっており、福井県側の3路線では主に阪神電鉄や南海電鉄等の大手私鉄の中古車両を購入して運行していた(事故に遭った本線の車両モハ1101形は、元々は車体が阪神電気鉄道モハ5101形、足回りが豊橋鉄道1900形を再利用した中古車)(新型車両の5001形2両にしても、車体だけ新品で足回りは廃車発生品を使っている)。また、私は実際に京福越前本線と永平寺線に乗車したことがあるが、いずれも軌道の整備状況はあまりよくなく、大都市の私鉄通勤列車と比較しても揺れがひどかったのを覚えている。それでも、ここ20年ほどは大きな事故も無かったようだが、いずれにせよ赤字路線であることは変わりない。そうした地域の交通手段をどう維持していくのかを考えるのが、今後の政府と福井県庁の行政としての責任であろう。

■精神病扱い・医療少年院送致で「正義」は回復されるのか
 豊川夫婦殺傷事件、大分一家六人殺傷事件の犯行少年、いずれも医療少年院送致処分に(12月26日)
 報道によると、今年5月に愛知県豊川市で17歳・高校3年生の少年が筒井喜代さん(当時64歳)を惨殺し、更に筒井弘さん(68歳)に重傷を負わせた事件で、少年のに対する審判を行っていた名古屋家庭裁判所(岩田嘉彦裁判官)は26日、「理不尽な着想や欲求を満たすため、何の落ち度もない被害者を殺害し、殺害の態様も悪質。刑事処分とすることも十分考えられる」としながらも、「少年に高機能広汎性発達障害(アスペルガー症候群)が認められ、善悪を判断する能力が著しく減退した心神耗弱の状況にあった」として、少年を少なくとも5年以上医療少年院に送致する保護処分を決定した。一方、今年8月に起きた大分県野津町の一家6人殺傷事件で、当時高校1年だった少年(15歳)に対する少年審判が同日開かれ、大分家庭裁判所(久我保恵裁判官)は「最初から育て直すようにして未熟な自我の発達を促しつつ、命の尊さを教えることが不可欠。重症の行為障害であることも考慮し、相当長期間にわたり専門的・個別的な治療と教育を行う必要がある」等として、医療少年院送致とする保護処分の決定を言い渡したという。
 豊川の事件では、少年は見知らぬ筒井さんを金づちで殴り、包丁で数十カ所を刺して殺害。更に夫の弘さんも刺した。犯行後JR名古屋駅前の交番に自ら出頭、逮捕直後には「殺人は社会的に悪いことだが経験することが必要だった」「若い未来のある人はいけないと思った」等と供述。捜査段階の鑑定は「殺すこと以外に、ほかの目的のない純粋殺人」であったと判断していた。また、大分の事件では、少年は農業経営の岩崎万正さん(66歳)方にサバイバルナイフを持って侵入。自らの下着泥棒の口封じのため一家を襲撃し3人を殺害、3人に重傷を負わせた。
 こうした事件を起こした犯人達が、いずれも少年であるというだけで刑事免責され、「行為障害」「発達障害」があった等として「医療少年院送致」なる行政処分(その本質は、運転免許停止と同じである)で済まされていることに戦慄を覚える。一体どこまでが「正常」で、どこからが「精神病」なのかを一度しっかり確認しなければ、下手をすると逸脱行為に及んだ全ての人間が「精神病患者」とされ、刑事免責されてしまう可能性すらある。特に、豊川事件の少年は、「アスベルガー症候群」なる診断を受け手の送致となったが、専門家の解説でも、この病気は「対人関係にみられる広範な発達障害で、人への共感性に乏しく感情を認知するのが難しいことや、興味や行動が狭くなる特徴がある」ものの、「アスペルガー症候群だから罪を犯す、ということはない」とされている。つまり、この病気と犯行との間には、一般論として因果関係は無いのであり、いわば「犯人が犯行時たまたま風邪をひいていた」のと同じということになる。「アスペルガー症候群だから罪を犯す、ということはない」のであれば、それを理由として刑事処分を避け、医療少年院送致とする理由は無いのではないだろうか。「逆送して少年刑務所に入っても精神医療的な処遇ができず有効に刑を執行できないので、この選択は最適」と発言する専門家も居るが、そんな問題は、少年刑務所に精神医療的な処遇が出来るように予算をつければ解決する問題であり、本質的な問題ではない。
 無論、その少年が非行少年であろうとなかろうと、精神上の障害があるのであれば、場合によっては社会的な費用負担で入院させ、治療を受けさせることは必要である。また、大分の事件では、犯行に及んだ少年は15歳で、少年法上は刑事処分に付すことが出来ない以上、大分家庭裁判所の出した結論は、現行法上もっとも重いものだったのであろう。しかし、無実の人間を「人殺し体験がしたい」といって殺したり、自らの破廉恥な行為を隠蔽するために6人を殺傷し、家庭を破壊したことが「罪」にならないのであれば、そもそも客観的正義としての「法」の存在意義そのものが問われかねない。これらの事件は、犯人の少年が少年院送致となったことで「解決」されたとは到底言えず、紛争の傷跡はそっくりそのまま残っているといえよう。


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製作著作:健論会・中島 健 無断転載禁止
 
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