このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

自衛隊に国内重要施設の警備任務を
〜対テロ警備こそ自衛隊の本務〜

中島 健

 報道によると、村井 仁・国家公安委員会委員長は14日、与党内から自衛隊に在日米軍基地の警備ができるよう 自衛隊法 の改正を検討する声が挙がっていることについて、「治安維持や米軍の警備は、一義的には警察が任に当たる。今、警察が全国の米国関連施設の警戒を強化しており、何が不足なのか。何で自衛隊が出なければならないのか、正直分からない」等として、否定的な見方を示したという。また、田中節夫・警察庁長官は9月20日、アメリカ同時テロ攻撃事件を受けて与党3党がまとめた自衛隊に米軍基地警備任務を与える 自衛隊法 改正案について、「在日米軍基地のほかに、国政にかかわる中枢施設の警備を自衛隊にゆだねることを可能にするなどの問題点がある。今後、防衛庁などと検討を進めたい」と述べ、同法の改正に慎重な姿勢を示したという。なお、この問題では21日、宮澤(「一度やったら一生やめられなくなる」)、橋本(「宮中も自衛隊が警備するのか」)、河野(「かんぬきをはずすのはダメだ」)の3人の総理・総裁経験者も揃って慎重姿勢を示した他、野中広務・元自民党幹事長が「恐ろしいことだ。国会議事堂や官邸に自衛隊が銃を持って、日本国民を前にして立つことがあっていいのか。日本の警察はそれほど軟弱ではない」「しっかり警備に取り組んでいる警察への侮辱」等と述べたという。
 だが、これは今回のテロ攻撃事件の実態や重大性に対する認識を欠落させた、あまりにも平和ボケした見解と評する他ない。ブッシュ大統領も言明したように、これはアメリカという国家と大規模なテロ組織(亜国家)との戦争状態なのであり、自らの生命の危険(自殺)を覚悟して強烈な意思の下に攻撃をしかけてくる彼らテロリストはまさに軍人なのであって、平時の法秩序の範囲内で治安を維持する警察作用では到底これを防ぎきれるものではない。拳銃しか携帯していない日本の警察官は、 警察官職務執行法 の定めるところにより、 正当防衛緊急避難 の場合でなければ相手に危害を加えることはできず、それに違反すれば「殺人罪」すら適用されてしまうのである(これは、自動小銃を配備しても同じである)。この事件が極左暴力集団やオウム真理教のような国内騒擾事件などではなく、「21世紀の新たな戦争の形態」であることを正しく認識していれば、「治安維持には一義的には警察があたる」等という発言は出てきようはずもない。村井委員長の発言は国内治安維持を担当する警察庁の事務当局の見解を代弁したものとも取れるが、そうであるとすれば村井委員長は解任に値すると言わなければなるまい。野中前幹事長は同法改正案を「しっかり警備に取り組んでいる警察への侮辱」と評するが、これは「満州撤兵は皇軍将兵の流した血に対する侮辱」等といって冷静さを欠いた軍事作戦を転換した旧陸軍と変わらないもの言いではないか。十分な武器も法制度も無い警察官に死者が出てからでは遅いのである。

 

▲重要施設警備を巡り権限争いが発生した防衛庁(左)と警察庁(右)

 また、田中長官がどういった点で自衛隊に警備任務を与えることに「問題点がある」とするのかわからないが、それが「国内治安任務を防衛庁・自衛隊に奪われたくない」という縦割り行政、自衛隊に対する偏見に基づいているとすれば、同長官は厳しく批判されなければならない。今回のテロ攻撃事件や北朝鮮特殊部隊による軍事行動に対して警察力で対応することが不可能なのは明らかであり、国民の生命・財産を守ることが出来ない。村井 仁・国家公安委員会委員長もそうだが、冷戦も終わった昨今、警察当局の高官がこのような言動を吐くこと自体、不見識と言えよう。いわんや、自衛隊に対するアレルギーや偏見すら感じられる野中元幹事長の言動は全く理解不能であり、今回の事件の深刻さを何等理解しておらず、国民の生命・財産を守ろうという気概が感じられない。警察官の数には限りがあり、一方で自衛官は普段は駐屯地で訓練をしているだけで人手は余っている。今回のテロ集団は言わば「軍事力のみによって構成された亜国家」であり、その対処は自衛隊の主要な任務のはずである。第一、自衛隊員らが「対面」するのは国民ではなくテロリストではないか。
 こうした意見を受けて自由民主党の山崎 拓幹事長は22日、 自衛隊法 改正案において皇居や首相官邸、国会の警備には自衛隊を投入しないとする規定を設けると表明している。だが、これではまるで自衛隊が皇居に近づけてはならないやましい集団のようではないか。原発や在日米軍その他の施設に自衛隊を警備として出すのは、警察力で対処できないようなテロ攻撃を効果的に防ぐという実際上の目的があるのであって、その目的に合致するかぎり官邸でも皇居でも警備の対象になるのは当然である。むしろ、かつて近衛師団が皇居を警備していたように、警察力以上の実力が必要であれば自衛隊こそ皇居や国会を警備すべきであり(海洋国である我が国としては、警備任務は海上自衛隊が好適である)、「自衛隊による警備の対象でない」と明示することで却ってテロを誘発する虞もある。「恐ろしいこと」なのは 自衛隊法 改正ではなく省益で動く野中元幹事長らの認識そのものである。

中島 健(なかじま・たけし) 大学生


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