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2004年11月
■法曹人口の増加だけでなく法学部教育の改革も必要だ
法務省、司法試験の最終合格者1483人を発表(11月10日)
報道によると、法務省司法試験委員会は10日、今年度の司法試験の最終合格者を発表した。司法制度改革の一環で法曹人口を増やす政府の方針により、最終合格者数は過去最高の1483人(前年度比313人増)に達し、合格率は3.42%(前年度比0.84ポイント増)となった。大学別では、東京大学と早稲田大学が同率1位で226人(早大の第1位は1983年以来)、2位が慶應義塾大学の170人で、以下、京都大学147人、中央大学121人、一橋大学57人、明治大学46人、大阪大学45人、神戸大学33人、同志社大学30人、東北大学29人、名古屋大学26人等となっているという。
司法試験の合格者数については、政府の司法制度改革審議会が2010年に3000人とする意見書をまとめている。今回の合格者数の大幅増加はこれを反映したものであるが、法学部教育(法科大学院を含む)の改革は果たして着実に進んでいるのであろうか。例えば、憲法・行政法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法は現在法学部の主要な科目になっているが、これらの科目編成と実際の社会生活における重要性とは大きなズレがある。即ち、民法の親族・相続編(身分法)や民事訴訟法等は一部の家族法専門の弁護士以外は縁遠い存在であり、刑法も(法哲学的な観点を除けば)極めて特殊な行政法(法務省の所管法令)の一つに過ぎない。むしろ、実際の法律の世界で多く見られるのは、財産法・商法やいわゆる各種事業法等の行政規制、行政刑罰(行政法令中に規定されている刑事罰)であろう。また、法曹の業務は実社会における紛争や法感情と密接に関わるものであるはずなのに、法社会学や法史学は「司法試験の試験科目には無いから」という理由で学生の間で軽視され、しかも、あろうことか司法試験合格者を自分のゼミから出したい一部の大学教授がこの風潮に乗じている。もし、法学部や法科大学院が、アカデミズムを忘れて新司法試験を突破するためのテクニックの伝授に堕しているのであれば、これを潔く廃止して高等専門学校に格下げすべきである。■防衛出動(武力攻撃事態対処)手続きの簡素化を
政府、ミサイル防衛時の防衛出動発令を迅速化へ(11月20日)
報道によると、日米防衛首脳会談のため訪米中の大野功統・防衛庁長官は20日、平成19年度のミサイル防衛(MD)システムの導入に伴い、我が国にむけて発射された弾道ミサイルを迎撃するため、既存の防衛出動の発令手続きを簡素化する自衛隊法改正案を来年の通常国会に提出する考えを示した。また大野長官は、現在日米で共同研究が進められているミサイル防衛システムについて、来年中に開発・生産段階に移行させる考えを併せて示したという。
自衛隊法第76条 では、防衛出動について、「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 (平成十五年法律第七十九号)第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。」と定めている。しかし、実際には、武力攻撃事態法(武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律、平成15年法律第79号)に定めるところにより、政府が対処基本方針を定め、閣議決定し、ただちに国会承認を得る必要があり(第9条)、数分〜十数分で着弾する弾道ミサイルには全くもって対応できない(ばかりか、通常の日本有事の際にも冗長に過ぎる法制度となっている)。政府の法案提出は至極当然のことであり、早期成立が望まれる。
これについて、一部報道では、「シビリアン・コントロールの観点から批判が予想される」等としているが、本件改正案は自衛隊部隊等の長に迎撃ミサイルの発射権限を移譲するものではなく、国民の民主的政治代表である内閣総理大臣が防衛出動を命令する(そしてその発令に対する政治的責任をとる)という原則は変らない以上、文民統制(シビリアン・コントロール)と抵触する等ことはあり得ない。文民統制とは、民主的に選出された政治代表が国家の軍事力を管理するということであり、一つ一つの行動について国会や国民の承認を得るということを含意するものではないからである。無論、事態の重要性によっては、通常の防衛出動のように内閣総理大臣に加えて国会の承認を加重要件とすることも考え得るだろうが、本件で問題となっているのはあくまで我が国に向けて発射された弾道ミサイルの撃墜であり、内閣限りで発令しても我が国の外交・防衛に著しい変化を与えるものではなく、国会承認を加重要件とする必要は全くなかろう。■在外公館の警備体制は改善されたか
在イラク日本人外交官殺害事件から一周年(11月29日)
29日、在イラク日本国大使館の奥克彦大使と井之上正盛一等書記官が殺害される事件が発生してから、ちょうど1年を迎えた。あの衝撃的な事件から1年、イラク情勢はいまだ混迷を続けているが、サマーワに派遣された陸上自衛隊イラク復興支援群は、多国籍軍の一員として着実に復興支援活動を進めている。これは、戦後の日本外交にとって特筆すべき前進であるが、これもやはり、奥大使、井之上一等書記官の尊い犠牲の上に成り立っていると言えよう。改めて、心から御両名の冥福を祈りたい。
事件直後、逢沢一郎外務副大臣は、在外公館の警備に自衛隊部隊を導入するための法改正につき検討することを表明したが、その後政府部内の検討で、海外での武力行使は禁じられているとする憲法9条の政府解釈との整合性もあり、立ち消えになっている。無論、ウィーン外交条約上、大使館の保護は第一義的には接受国(大使館の所在国)の責任なのだが、だからといって派遣国(自国)側の警備を疎かにしてよいということにはならないし、CPA統治下のイラクのように、接受国側に十分な警備体制を敷く余裕が無い場合、結局派遣国側で何らかの手当てをしなければならない。実際、アメリカは、イラクだけでなく世界各国の大使館を、海兵隊が警備している。在外公館の警備は警察的作用であり、憲法9条の趣旨と真っ向から対立するものではない以上、早急な手立てが望まれるところである。自衛隊の武装した自衛官が非戦闘地域にしか派遣されず、非武装の外交官が戦闘地域に派遣されるのは、如何にも矛盾ではないか。
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