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自衛隊のイラク派遣延長は当然だ 
政府、自衛隊のイラク派遣期間延長を閣議決定(12月9日)

菊地 光

 報道によると、政府は9日午後、臨時閣議を開き、イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(平成15年法律第137号)に基づき、14日で期限が切れるイラク派遣自衛隊部隊の派遣期間の1年間延長を閣議決定したという。小泉純一郎首相は、閣議決定後に記者会見を開き、派遣延長の必要性などについて説明した。
 自衛隊のイラク派遣延長問題については、これまでに与野党や一部マスコミが「延長反対」を主張してきている。先月9日には、今年1月の国会承認を欠席・退席した与党・自由民主党の加藤紘一元幹事長、古賀誠元幹事長、亀井静香元政調会長の3人が小泉首相慎重対応を要請した。また、野党・民主党は、第161臨時国家に「イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法を廃止する法律案」を提出(審議未了で廃案)。岡田克也・同党代表は11月6日、イラクに「非戦闘地域」はなくなっていること、ロケット弾などが自衛隊宿営地に撃ち込まれるなど安全性が失われていること、現地に日本の無償資金協力で建設された給水プラントで活動が行われていること等から、派遣延長に反対する姿勢を示した。同党の鉢呂吉雄国会対策委員長も11月9日の記者会見で、「国会においてですね、単に政争の具ということではでなく、与党の心ある、良識な、そしてまた平和を愛する、そういった議員の皆さんの賛同を得る必要があるのではないか」と延べ、この問題で与党議員へも働きかけていく考えを示している。
 しかし、以下に述べる諸事情を勘案すれば、政府の決定は妥当であり、むしろ派遣延長反対論こそ根拠を欠くと言わなければなるまい。
 そもそも、イラクにおける自衛隊部隊による復興支援事業はまだ終わっていない。実際、今回の派遣「延長」問題は、現行の派遣計画が期間をとりあえず1年と区切っていたからこそ議論になっているに過ぎず、復興支援事業の進展や現地の治安状況とは何等係わり合いのないものである(その意味で、私は、殊更に今回の延長問題を強調する一部野党・新聞の論説が理解できない)。サマーワ地域は依然として民間人の渡航が困難な地域であり(無論、だからといってサマーワが「戦闘地域」だということにはならない:後述)、だからこそ自衛隊の部隊による事業が求められている。現在、陸上自衛隊のイラク復興支援群は1日約250トンの飲料水を供給しており、市民約5万人が供給を受けている。来年3月にはODAで建設された浄水施設が稼動するが、学校等の公共施設の復旧・整備は依然残っている。少なくとも、今の時点で復興支援事業を打ち切れるものではない。
 実際、イラクの人々は、自衛隊の派遣延長を望みこそすれ、撤退は求めていない(これは、米英軍とは大きな立場の違いであろう)。例えば、11月5日、自衛隊の駐留するイラク・ムサンナー県のアル・ハッサーニ知事が小泉首相を表敬訪問したが、この中で同知事は、「今回の訪日は日本国民に感謝の念を伝えるためのものであり、自衛隊をサマーワに派遣した総理の決定を高く評価する」「ムサンナー県の情勢は安定しており、自衛隊の人道復興支援はサマーワの安定に一層寄与するものである」「自衛隊は治安維持そのものには関与しているわけではないが、各種のプロジェクトを通じ、治安状況の維持・安定に貢献している」と述べ、自衛隊の活動を高く評価している。また、今月5日、大野功統防衛庁長官がサマーワを視察した際も、アル・ハッサーニ知事は「治安の状況は以前よりさらによくなっている。自衛隊は住民から歓迎されている」と述べ、自衛隊の派遣延長を求める手紙を大野長官に手渡したという。11月11日には、現地サマーワで、市民ら約140人が自衛隊の活動を支持するデモ行進(その際の様子が陸上自衛隊のホームページ「http://www.jda.go.jp/jgsdf/iraq_index161112.html」で公開されている)を行っている。更に、イラク暫定政府のゼバリ外相は、11月22日に第16回アジア太平洋経済協力(APEC)閣僚会議に出席するためエジプトを訪れた町村信孝外相と会談した際、「サマーワにいる自衛隊はすばらしい働きをしている。日本がイラク国民とともにあるというシンボルであり、政治プロセスが完了するまで自衛隊にはイラクにとどまってほしい」と述べ、少なくとも来年末の正式な政府発足までは、自衛隊部隊による復興支援を継続してほしい旨要請している。今、この時点で、日本国内の法制度を理由に自衛隊を撤退させれば、これらの人々の日本に対する期待と希望を裏切ることになる。
 法的にも、派遣延長には十分な根拠がある。そもそも、イラク復興支援法の定義によれば、サマーワは無論のこと、ファルージャも含めてイラク全土が非戦闘地域なのであって、これを根拠に自衛隊派遣に反対する議論を展開することはできない(詳細は、 健論時報2004年11月号 を参照されたい)。第一、現地のイラク人自身(ムサンナー県知事)が、再三に渡って治安情勢が安定していることを説明しているではないか。また今年6月には、国連安全保障理事会が決議第1546号を全会一致で採択しているが、在イラク多国籍軍はこの決議に依拠するものであり、国際的な正当性を十分有している。実際、イラク多国籍軍には30カ国が派遣しているが、。国連決議に従うことを対米追随と批判するのであれば、国連中心主義の外交も何もあったものではない。
 無論、派遣延長は、対米関係を考える観点からも重要である。現在、米英両国をはじめ多国籍軍参加各国は、来年1月の国民議会選挙、そして正式な政府発足を支援すべく治安の回復や復興事業に力を傾注しているが、ここで我が国だけが1人自衛隊を撤退させ、イラクの民主化プロセスから半歩引いた姿勢を示せば、日米関係が大幅に冷却化することは避けられない。そして、アジア太平洋地域の安定という共通の国益を持ち、北朝鮮や台湾海峡といった緊張要因に対して軍事的プレセンスを以って不安定化を防いでいる米国との関係が冷却化するのは、我が国の国益に反する事態である。
 派遣延長に反対する意見の中には、「出口が見えない」という主張もある。しかし、派遣が100年続くのであれば格別、我々が本当にイラクの復興や国際貢献を望むのであれば、イラクの復興にある程度目途がつくまで駐留を続けるというのが「出口」であり、はじめから1年や2年と期限を区切れるものではない。

 菊地 光(きくち・ひかる) 本会会長


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