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 健章時報 1998年6月 

インドが核兵器保有を宣言
 (5月16日)
 報道によると、インド政府は、先の地下核実験を受けて、公式に核兵器の保有を宣言したという。
 今回の一連の事態を機会に、現在の核拡散防止体制を再度検討しなおしてみるべきである。どう考えても、現在の5大国のみに核兵器の(合法的な)所有権が独占的に与えられる現在の体制は、矛盾を抱えている。インドが核兵器保有に踏み切ったのも、こうした矛盾を受容することができなかったからに他ならない。
 それにしても、今回の印パ両国の核兵器保有に際しては、国内各地の反戦・反核団体が抗議する声明を発表しているが、これらの団体の多くが、中国の核実験に際しては、これほどまで強い抗議姿勢を示さなかったのは、一体どうしてであろうか。

地下鉄サリン事件:林郁夫被告人に無期懲役判決
 (5月26日)

 報道によると、オウム真理教の地下鉄サリン事件を初めとする一連の犯罪に直接加担したとして、検察から無期懲役を求刑されていた、地下鉄サリン事件実行犯で元医師の林郁夫被告人に、東京地方裁判所は26日、求刑通り無期懲役の判決を下したという。
 今回の事件で、検察側は、同被告人が真摯に反省し、他のオウム事件の真相についても積極的に告白していることから、これをある種の「自首」と捕らえ、死刑ではなく無期懲役を求刑していた訳が、東京地裁がこの判断を追認した形となった。
 しかし、医師という、本来ならば人の生命を助けるという使命を自覚すべき人間でありながら、毒ガスを使って地下鉄構内という閉鎖空間で無差別・非道の殺人行為をしてしまった林被告人に対するこのような判決は、責任主義に反する極めて不当に軽い量刑であると言わざるを得ない。如何に東京地検が、今後の事件捜査の円滑化のために(つまり犯罪捜査の技術的要請のために)、「減軽」というニンジンを用意したいからといって、真実の発見(実質的真実主義)、法治社会の維持という理念にとって害悪となり兼ねない手段による捜査円滑化は、許されるべきではないのではないか。林被告人が本当に自己の罪を感じ、真摯なる謝罪の意志を持つ人物ならば、このようなニンジン無くしても捜査に協力すべきであるし、場合によっては、そうした減軽を狙い、他のオウム幹部に犯罪の責任を負わせるため、捜査に協力しているということも考えられる。しかも、今から10数年以内に、何らかの形で(例えば、皇太子妃御出産などで)恩赦が行われる可能性は高く、そうなれば林郁夫被告人が社会に復帰するのもそう不可能ではない。今後、司法取り引き的・処分権主義な手段によって減軽を狙う被疑者(被告人)が出る可能性が高いことを考えると、例え林被告人であっても、無期懲役の判決は量刑が軽すぎる。

パキスタンが地下核実験を実施
 (5月28日)

 報道によると、パキスタン政府は28日、同国がはじめての地下核実験を実施し、成功したことを発表した。これで、南西アジア地域で同時期に対立する2カ国(インドとパキスタン)が核兵器を保有したことになり、地域の一層の不安定化、核兵器の水平拡散が懸念される。
 ところで、今回のパキスタンの核実験に関して、我が国やアメリカからは、これを非難する声明が多数出され、経済制裁の発動まで議論されているが、果して我が国やアメリカに、果たしてかかる非難を行う資格があるのであろうか。
 現在、アメリカはなお数千発の核兵器を保有しており、戦略爆撃機、大陸間弾道弾(ICBM)、戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)は依然として警戒任務についている。そして、一旦国家安全保障上の危機があれば、大統領にはこれらの兵器を使用する権限が与えられている。つまり、アメリカは現在この瞬間においても、なお核兵器を有効な抑止力として保有し、その抑止力を行使しているのである。また、日米安全保障条約によってアメリカとの同盟関係を結んでいる我が国は、アメリカの保有する核兵器が作り出す抑止力の中で戦後50年間守られてきたのであり、そして今この瞬間も守られている。つまり、日米両国は、今この瞬間を、既得権としての核抑止力によって十二分に守られて、安全を享受しているのである。そのような我々に、他国の核抑止力を批判する資格は全く無い。そして、残念ながら、「被爆地の声」が世界に大きく伝えられれば伝えられる程、核兵器の悲惨さと同時にその軍事的有効性を世界に喧伝するのと同じ効果を持ち、潜在的核保有国に改めて核抑止力の重要性を認識させてしまっているのである。
 一方、パキスタンやインドには、米国や我が国のように、核抑止力の傘は及んでいない。彼の国々は、冷戦時代より一貫して核兵器から裸の状態で晒されており、しかもそれはソ連からだけではなく中国からの脅威も含まれる。インドとしては、丁度ソ連がアメリカに対抗して核兵器開発に全力を尽くしたのと同じように、中国の核兵器開発や核拡散防止条約等の既得権を認める不平等条約の強化に押されるかたちで、核兵器を開発したのであり、パキスタンも同様である。自国の存亡が関わる事態が進行している時に、核の既得権で守られた国々から何かしら非難されたり、経済制裁を受けたりしても、印パ両国が聞く耳を持たなかったのも当然ではないだろうか。少なくとも、世界唯一の被爆国であるはずの我が国が、つまり世界で唯一、一方的に核戦争を仕掛けられ、敵国のみが核兵器を持つと如何なる事態が生じるかを知っているはずの我が国が、パキスタンに「被爆国と同じ轍を踏め」などと言える立場にはない。パキスタンのシャリフ首相がテレビ演説の中で述べたように、パキスタン政府としては、自国が日本のように被爆してはならないよう、行動したのである。
 もっとも、建国以来緊張関係にあるインド、パキスタン両国が核兵器を保有したことは、一方で南西アジア地域の不安定化を助長する可能性があるが、他方で、両国関係の安定化を進める可能性も秘めている。何故ならば、両国が核兵器を保有したことにより、地域的な武力衝突であっても核戦争へとエスカレートする危険性を孕むこととなった(しかも、かつての米ソ両大国間においては、一方が他方にむけて核ミサイルを発射してから着弾するまで30分弱あったため、その間に先制攻撃を受けた他方が反撃することもできたが、インド・パキスタン間では発射から着弾まで数分しかないため、先制攻撃が極めて有利となっている)ため、否応無く外交的解決を迫られるからである。


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