このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください

はじめに

 先の大戦で我が国が敗北し、そして占領軍の手によって新しい憲法が制定されてから、既に半世紀以上が経過している。この間我が国は、高度経済成長によって世界に冠たる経済大国にまで上り詰めた一方で、東西冷戦構造の中、既存の日本、独自の日本の部分を破壊し、社会変革を起こそうとする左翼陣営とそれに親密的な学者・文化人の間から、政府の安全保障政策が常に批判されてきた。中でも、(通説によれば)非武装を規定している 憲法第9条 に関する論議は、法律解釈論や現実的妥当性といった理性的な議論ではなく、事実上専らイデオロギー闘争の手段として利用されてきたように思う。冷戦時代においては、憲法に基づいて自衛隊を廃止し、安保条約を破棄することは、即ち西側自由主義諸国との決別、更には東側社会主義諸国への加担を意味した以上、それがイデオロギー闘争的意味合いを含んだのは致し方の無いことであったが、その結果我が国に於いては、現在でもその傷を引きずるかのような、所謂「念仏平和主義」的な思考をする知識人が多い。また、国民の間に、先の大戦の惨劇の記憶が強く根づいていたがために、その反動として、(自衛も含めて)一切の戦争を放棄してしまうことを是認するかのような風潮があったことは、非武装化による政権奪取を狙った左翼陣営を、冷戦終結後も長い間にわたって生存させる結果となった。
 しかし、以上のように我が国の政策問題としての安保自衛隊問題はよく論議され、よく知られている部分が少なくないが、こと憲法問題としての安保自衛隊問題に関しては、それが専門的な部分を含むために、政策論ほどにはよく知られていないのではないだろうか。また、知られていないが故に、現在の憲法学会では、政治の世界では一貫して否定されてきた「非武装平和」が、なお通説として罷り通っているのではないだろうか。
 この増刊号では、 憲法第9条 の背景や学説、そして判例について、国際政治学・安全保障論上の議論も参照しつつ、主に法的論議の観点からまとめたものである。但し、後述するように、憲法は最高法規であり「政治の法」であって、そこには一定の立法論=好悪の表明が入ってしまうのであり、論理を求める法的論議の枠内にのみ止まることは出来ない。そこで、著者の主観と法的論議を峻別するために、著者の見解については注釈欄か、法的議論の部分とは区別して表記し、かつ学会通説及び司法試験、公務員試験その他の試験の標準となる解釈については、憲法学習の基本書とされる芦部信喜『憲法』新版(岩波書店)から引用乃至援用した。学会通説、又は試験標準となる考え方については、「通説」と明示された部分を参照されたい。


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