このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください
交通機関におけるICカード等使用「強制」の問題点
エル・アルコン 2006年7月27日
JR東日本のグリーン車Suicaシステムの導入に伴い、事実上Suicaを所持していないとグリーン車の利用において料金面での不利益を被ることについては、先に
JR東日本のグリーン車における問題
で指摘しました。
とはいえグリーン車Suicaシステムは、Suica「強制」という部分を除けばよく出来たシステムであることも事実で、先日上京した際に利用したところ、利用者の大半がSuica利用者で、モバイルSuicaを使う中年女性や、「ほれ、ここをピッと...」と使いこなす老夫婦など、まさに老若男女に普及している以上、このシステムを頭ごなしに否定することは出来ないでしょう。
ただ、前回も指摘したとおり、共通化されているカードでの使用が出来ない問題は早期に解決すべきです。ところがJR東日本はモバイルSuicaに関してプリペイドで利用できてクレジットカード契約がいらない
EasyモバイルSuicaを10月から導入
しますが、小額決済ということでいくつかの機能が利用できなくなっており、定期券機能がないのはまだ判りますが、Suicaグリーン券の購入ができないというのには首をかしげるほかありません。
Suicaグリーン券はたかだか950円ですから、ある程度の距離を乗る乗車券よりも安いわけです。ですから金額の多寡で機能に差をつけている理由は成り立たないわけで、結局はハウスカード契約への誘導としか考えられません。
現金や他社発行カードだとサービスが充分に受けられない、というのは公共交通機関の姿勢として問題ではありますが、この自社発行カードへの誘導に関しては、もう一つ問題があるのです。
それは、Suicaのようなプリペイドカードは、JR東日本という私企業が発行する擬似通貨ということです。
Suicaを購入することで、鉄道運賃、料金の支払に加え、ショッピングにも使えるということですから、「電子マネー」の名の通り、通貨機能を有しています。
本来通貨は、政府がその信用で発行するものであり、我が国においても貨幣発行の黎明期から民間がこれを発行する「私鋳銭」はご法度でした。
ところが電子マネーの世界においては、いとも簡単に私企業が「通貨もどき」を発行していますし、その供給、流通量の管理も統一されていない状態にあります。
これに関しては中央銀行による金融調整能力への影響すら懸念されますし、現金の準備不足による影響まで指摘されています。
※電子マネー及び電子決済に関する懇談会報告書(1997年5月23日)
また発行体破綻時の問題がありますが、これに関しては「前払証票等の規制に関する法律」において、自家発行型でない場合は発行体の資本規制があり、また自家発行型を含めて未使用残高に対する保証金を定めていますので、ある日突然無一文になるということはありません。
しかしながら信用は共通利用が可能であっても発行体に属するわけで、身近な例で言えば「全国百貨店共通商品券」も、それぞれの百貨店が発行しているため、発行した百貨店の信用に懸念が生じると、「共通」と言いながら「XXデパート発行の商品券はご使用になれません」となるのです。
それでも経営破綻のような「大事」については法律のサポートがありますが、磁気SFカードからICカードへの切り替えのような技術更新により、既存のカードを切り替える必要が生じた時にも、実は問題が生じるのです。
つまり、既存のカードが使えなくなるにあたり、その時点での残高はどうなるのか、と言う問題です。
これまでカードはその会社でしか使えないことが多く、切り替えの案内があれば利用者はいつもの駅や営業所で淡々と切り替えればよかったのです。
しかし、共通化が進むと、遠く離れたエリアのカードの共通利用をしているケースも出てきます。この時に切り替えの受け付けをどうするのか。例えば東京での利便性を優先してSuicaを利用している関西在住の人が、ある日Suicaの切り替えが発表になり、JR東日本管内の駅で切り替えますと言われたらどうでしょう。
出張や旅行の機会があればいいですが、もし期間内にそういう機会が無いとしたら、わざわざ何万円も払って千円前後の回収には行けませんから、事実上「没収」です。
JR東日本が磁気イオカードを廃止した時にはそれでも相当な予告期間を置きましたが、一方で
奈良交通が磁気カードを廃止してICカードに切り替える時
は、実に8ヶ月半しかありません。しかも通用停止からはわずか4ヶ月で、それまでの間にも発行数が揃わず切り替え自体が進まなかったこともあっただけに、奈良交通営業エリア外で行く機会が無い人にとっては、破綻処理で割り引かれて返ってくるよりもひどい話になっています。
本来エリア外の人にも利便性を享受してもらうがための共通化ですが、それを逆手にとって、自社発行カードにエリア外も取り込もうとする流れになっています。
もちろんそれ自体はサービスの向上にもつながる話で否定しませんが、あまり露骨な待遇格差を設けるのも問題です。さらに、払い戻し(デポジット)、特にカード切り替え等によるケースについては、遠隔地での所有者のことを充分考慮した対応が望まれます。
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