このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください





新「三種の神器」としての避けがたい流れ



エル・アルコン  2006年11月 8日





 日本におけるATの普及、そしてミニバンの流行ですが、クルマに対する「国民」の意識の表れともいえるのかもしれません。確かにMTのほうが運転していて楽しいし、クルマの性能を充分に引き出すことや、燃費の面から言うとMTに分があるのも確かです。しかし、一方でMTのほうが「難しい」ということは残念ながら論を待たない話であることも確かです。少なくとも2本の足で3つのペダルを操作するということは、簡単とはいえません。

 もちろんATも2つのペダルを2つの足ではなく1つの足で操作するわけですが、これは「左足ブレーキ」をする人もいることは承知していますが、2つの足が同時に別の、異なった(正反対の)作用をするペダルに掛けることに何らかの危険性を見出しているともいえます。MTの場合はこの点においては2つの足が同時に別のペダルに掛かっていても危険性は少ないです。とはいえ、正反対の作用をするペダルですから、ATは基本的に1つの足で1つのペダルを操作するわけで、MTの場合は2つの足で2つのペダルを操作するという意味では操作が増えるため、「難しい」と感じるのは自然といえます。



***

 こうした「難しい」という障壁が大きくなり、燃費その他のメリットを犠牲にするというのは、結局「移動の道具」として広く普及しているということでしょう。まさにクルマは「冷蔵庫」になりつつあるのです。もっぱらプロが運転するバスやトラックの場合は、一定以上の技量がある前提ですから、燃費や保守維持コストといった経済的メリットを優先してMT中心ですが、さまざまなレベルで使われる自家用車レベルの場合は、運転が平易ということが第一の基準になるのです。

 このあたりは、クルマが生活必需品である米国がAT中心であることとリンクしていますし、さらに我が国の場合、渋滞や信号交差点の多さから来るゴーストップ回数の多さ、土地の狭さから細かい動きが要求される車庫入れ、山がちな地形から来る勾配区間でのゴーストップなど、ATでの運転に分があるケースが多い事情も見逃せません。

 MTにはMTの良さがあることは確かですが、「移動の道具」としてみた場合、ATの普及を否定する理由にはならないでしょう。燃費の問題にしても、結局はトランスミッション方式よりも、運転スタイルで決まる部分が大きく、かつATでもシフトチェンジを積極的に行うことでカバーすることは可能です。

 こうした視点で見ると、我が国の自家用車がAT中心になることはどちらかというと自然な流れであり、それに棹差す事態にはなりえないと思います。最終的には、運転技量があるプロが使うトラックやバスなどの車種か、一部のマニアックなユーザー向けのモデルとしてMTは存在するようになるでしょう。

 メーカー側の姿勢も、こうした「意識の変化」に対応した結果といえます。ミニバンのスタイルの変化も実はその一環です。当フォーラムでもクルマのサイズが大きくなる風潮について 過去に議論しました が、2003年10月にホンダが7人乗りミニバンの火付け役ともいえる「オデッセイ」のフルモデルチェンジをした際、車高を80mm下げ、標準的な立体駐車場の制限である1550mmに抑えました。これはまさに先の議論で論点になった、自家用、公共を問わず駐車場というインフラの基本スペックに合わないという、ユーザー側の問題意識をメーカーが反映させたわけで、「移動の道具」である以上、「道具」に合わせてもらうのではなく、合った「道具」を提供するというスタンスに変えざるを得なくなったということです。

 ちなみにホンダが2000年に上市して大ヒットした5ナンバーサイズの7人乗りミニバン「ストリーム」、トヨタが全長、全幅、全高をミリ単位で全く同じにした「ウィッシュ」を後発させて市場をさらって「話題」になりましたが、2006年7月のフルモデルチェンジで「オデッセイ」と同じコンセプトで車高を50mm下げて1545mmに抑えており、流れが変わってきています。



***

 クルマが「冷蔵庫」となるのはクルマに対する思い入れがある人から見たら耐え難い事態ですが、そもそもクルマはいわゆる「新三種の神器」であり、「三種の神器」である「冷蔵庫」と同じになるのも、実はある意味当然の事態といえます。逆に「新三種の神器」なのに、実用性を極める方向に進まなかったほうが異例かもしれません。

 ただ、そういう意味では、「三種の神器」の洗濯機がクルマに近い動きをしたのでしょうか。性能面、経済面、さらには機構面でも優れている二槽式洗濯機を、「楽な」全自動洗濯機が圧倒しているなかで、メリットを重視するコアなユーザーが二槽式に拘っています。MTを二槽式洗濯機に喩えるとは、とお叱りを受けそうですが、広く社会に普及する道を選んだ以上、避けがたい流れでは無いでしょうか。





※ブラウザの「戻る」ボタンでお戻りください





このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください