このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |
房総半島横断鉄道を辿る 〜〜いすみ鉄道・小湊鉄道乗車記〜〜
TAKA 2005年 6月 2日
3.いすみ鉄道・小湊鉄道の取るべき道は?
いすみ鉄道・小湊鉄道の「房総横断鉄道」に関しては、上記の千葉県の活性化プログラムでも残念ながら「生き残りの切り札」とは言えない状況です。現況では特にいすみ鉄道は「座して出血死を待つ」だけですから「活性化プログラム」から一歩でた方策を考える必要が有ります。以下においては具体的生き残り策について私見ですが考えて見たいと思います。
「1」先ずはできる所から合理化して支出を減らすと同時に増収策を考える。
今のいすみ鉄道・小湊鉄道の現状はそのままで存続できるほど甘くはありません。特にいすみ鉄道は大多喜〜大原間も簡単に存続できるほど良い状況ではありません。その様な状況では「安全性を絶対的に確保できる範囲での限界までの合理化」が存続の為の最低条件になります。
又今回の僅かな訪問でも、特にいすみ鉄道に「無駄な状況」が散見されました。正直言って「濡れ雑巾」です。その部分に関しては徹底的に見直しを行い、少しでも鉄道を生き残らせられる様にしなければなりません。先ずは徹底的な努力が必要です。
具体的には下記の項目は今直ぐにでも、いすみ鉄道・小湊鉄道両方に合理化が出来る要素が存在すると言えます。
・無駄な動力費の削減→駅停車中のアイドリング・無駄な増結運転等は直ぐに辞め動力費を減らす。(いすみ鉄道)
・保有車輌削減→運用合理化で保有車輌の削減を行う。出来ればいすみ・小湊両鉄道で車輌の融通し予備車輌削減を行う
・駅務の合理化→乗降客の少ない駅員常駐駅の見直しを行い券売機導入等で無人駅化する。(小湊鉄道五井〜上総牛久)
・運転のワンマン化をする→末端区間の利用者数の少なさから車掌添乗を見直し人件費を削減する。(小湊鉄道)
以上の項目はそんなに困難無く実施可能で有ると考えます。只削減できる経費は少ないとも言えますが、それでも厳しい経営状況から考えると無駄な話ではありません。先ずは安全性を最大限担保しながらできる所から収支改善の最大限の努力をすべきで有ると考えます。それが経営改革の第一歩でると考えます。
又同時にいすみ鉄道では「従業員意識の改革」が必要です。乗車日の5月8日はJR西日本の尼崎事故の後で鉄道に厳しい目が向けられて居た時期ですが、大原〜大多喜間で乗った列車で(好ましいことでは有りませんが)初めて「膝を組みながら運転する運転手」を見ました。昔の旧国鉄末期を見ているような感じでした。この様な従業員のレベルでは経営の自主的改革は出来ません。
この様な状況がまかり通っている事自体が問題ですが、この現状はいすみ鉄道の従業員には鉄道マンとしての最低限のレベル・意識すら確保されていないと言う事を示す可能性があります。収支改善の合理化と同時に従業員意識の改革も必要で有るとも、この低レベルさを示した現状から見ると言えます。
その様な意識改革・合理化策の後それだけでは縮小均衡になってしまうので、可能な限りの増収策を考える必要が有ります。しかし上記の「房総半島横断鉄道活性化プログラム」でも観光客へのアピール等の方策は打ち出されています。それらも観光客等の定期外客の増加と言う意味で増収策にはなります。
しかしそれ以外にも打てる策はあります。此処では増収策として「観光客誘致」以外の増収策について考えたいと思います。なかなか「抜本的増収策」が有るわけでは有りませんが、今回の訪問で次の2点はそんなに手間もかからず実施できる方策ではないかと感じられました。
・大多喜〜上総中川間(国道297号線との交点付近)に新駅を設置する。(いすみ鉄道)
→近くに大型ショッピングセンターと小規模団地が有る。無人駅であれば設置費用はそんなに掛からないのだから、少しでも利用が望める地域には積極的に新駅を設置すべきである。又ショッピングセンターとの提携(買い物をしたら帰りの運賃を値引く等)等の方策もあわせて検討すべきです。
・駅の集客を高める為に駅にコンビニ的な売店等の設置を行う。(いすみ鉄道大多喜・大原 小湊鉄道光風台・上総牛久等)
→小湊鉄道五井〜上総牛久間の殆どの駅は有人駅であり、いすみ鉄道も大多喜は駅構内に本社があり職員が常駐しているのですが鉄道業務だけに専念している形です。此れは非常に勿体無いと言えます。せっかく駅員を置くのならせめて売店等を置いて多少の増収策になるようにしたい所です。具体的には無人駅だが利用客の多く周りにコンビニの無い大原や有人駅だが環境が似ている大多喜・上総牛久や利用客も多く周りに住宅がありしかも道路が通っている光風台は、比較的売店を作っても需要が有るような気がします。この様な駅は積極的に副業を行うべきであると言えます。
この様な「自助努力で出来る収支改善・経営改革」策を実施すべきで有ると考えます。現況で収支均衡状況である小湊鉄道は未だ良いですが、いすみ鉄道はこの様な改革策をしても「焼け石に水」の状況です。しかし何もしないわけにはいきません。少しでも病状が回復する努力をすべきです。
その上で未だ色々な方策が有りますが、本当に地方交通として必要な区間(いすみ鉄道で言えば大多喜〜大原間)を維持する為に公的な欠損補助を求めるにしても、可能な限りの方策を取った後でなければ、税金投入の支持は受けれないといえます。その為にも自助努力でのできる限りの改革は必須で有ると言えます。
「2」取捨選択をハッキリさせる。
私は基本的にはいすみ鉄道・小湊鉄道を活性化させる方策は、上記の徹底的な合理化・可能な限りの増収策の後に、県の方策より抜本的な所に踏み込んで、残念ながら房総横断鉄道の維持は諦め「壊疽している部分を切除して、残りの部分を救う」と言う方策、つまり部分廃止→一部代替バス化による採算性改善しかないと考えます。
上記のⅠ〜Ⅲの区間の中で今のままでも鉄道として維持できるのはⅠの小湊鉄道五井〜上総牛久間だけです。少なくとも現況で路線収支的に黒字なのはⅠ区間だけでしょう。小湊鉄道の鉄道事業は最初に紹介したとおりほぼ収支均衡です。駅利用客数から見て「五井〜上総牛久間は黒字・上総牛久〜上総中野間は赤字・全体で収支均衡」と言う状況で有る事は間違いありません。沿線も住宅がそれなりに立ち並び、沿線のバス会社が同じ小湊鉄道の為平行国道の297号線にはバス路線が運転されていません。その為沿線の住宅地の需要を主体に公共交通として小湊鉄道が利用されておりその存在感は無視できない物が有ります。
又この地域は五井の乗換時間を考慮しても最遠の上総牛久から千葉まで50分強・東京駅まで1時間45分程度で行く事が出来、東京の通勤圏として十分通用する地域です。地価下落から都心回帰が進んでいる今日この頃でも急に人口・鉄道利用者が減少するとは考えにくく、少なくとも環境的にはローカル線でも良いレベルに有ると言えます。その点から考えても「特段の対策を打たなくても鉄道存続が可能」と言う事が出来ます。
それから簡単には廃止できない区間はⅢのいすみ鉄道大多喜〜大原間です。この区間は大原・大多喜・大多喜女子の各高校の通学需要を中心に手堅い需要があります。少々古いデータですが94年度で通勤定期利用客で大原〜西大原間で1192名・上総中川〜大多喜間で832名の利用客が有ります。(上記鉄道ピクトリアル特集より)大多喜〜小谷松間では331名に減少する状況から見ても、いすみ鉄道の中では大原〜大多喜間の需要は突出していると言えます。
この旅客の流れは私が乗車した時にも見る事が出来ました。「バスで輸送できる量」と言う点では、この区間はYesになりますが(Ⅰの区間は国道の混雑も懸念されるし、かなりの本数が必要になる可能性が高い)平行国道のネックポイントの存在や2両連結が必要な通学需要の集中や大多喜の街としての過疎対策としても鉄道に存在意義は有ると言えます。
その様な状況から考え、この区間は「社会的観点から考えても鉄道存続の意義は有る」と言う事が出来ます。
問題は中間のⅡの区間です。この区間は沿線の人口は極めて少なく地域の大動脈国道297号線からも離れている区間です。元々「需要の有る地域を目指して」作られた路線ではなく、「房総縦断・横断を目指して線路を引きやすい地形の所を引いていたら偶々双方がぶつかりそこで計画を断念してしまった」と言う形で作られた為、元々沿線には人口集積が無くその為に需要が極小であると言う地域です。
実際的に駅前にそれなりの家が有るのは養老渓谷・上総中野だけであり、駅の周りに家が見えないと言う駅が多数有るのがこの区間の現実です。又「房総横断鉄道」と言う位置付けからしても、上総中野で実際に接続しているのは5往復で、私が利用した時にも乗り換えて利用したのは私だけ、大多喜から対千葉・東京では大原周りの方が早いと言う現実からして見ても、その意味は無いと言うことが出来ます。
この様な状況では「鉄道として存在意義は有るのか?」と言えばNoと言う事になります。又この地域は国道297号線から離れた平行道路が県道の状況です。養老渓谷と言う観光地が控えていると言えども観光客は車の方が多い状況で、現実問題の判断として「鉄道を維持するのか」「その投資を道路に振り向け、公共交通はバスに任せるか」と言う2者択一の中から選択をしなければならない状況に追い込まれていると言えます。
この様に全体を状況から分けた区分で見て見ても、表題の命題「果たして鉄路は維持できるのか」にたいして、結論から言えば書いて有る様に「半分Yesで半分No」と言う事になります。少なくともⅠ・Ⅲの区間に関しては鉄道として生き残る方策は有るだろうし、そのための対策をすれば未だ生き残る価値は有ると言えます。しかし問題はⅡの区間です。この区間を鉄道として存続させるには「如何に沿線人口を増やし」「如何に観光客を呼び込むか」と言う努力がかなりのレベルで必要です。
元々基礎数字が少ないのですから、鉄道会社が幾ら努力しても利用してくれるパイが無ければ何も意味を成しません。基礎数字を増やさなければ如何にもなりません。しかしそれが出来れば「過疎で大多喜町は苦しまない」と言う事が出来ます。その様な状況では「このまま座して出血死を待つか」「壊疽している部分を切り捨てるか他を救うか」と言う究極の選択を迫られていると言えます。少なくともⅡ区間ではその様な究極の決断を迫られている状況に有ります。
その為に「出血死」ではなく、「壊疽しつつある」上記のⅡの区間小湊鉄道上総牛久〜いすみ鉄道大多喜間を廃止して、この区間は代替バスに任せて鉄道はⅠの通勤区間とⅢの大多喜市街地〜大原町連絡の区間のみ残して利用客の多い区間に特化すると言う事です。そうすれば現況より採算性は改善され、小湊鉄道に関しては大きな投資部分を除き自立する事が可能でしょうし、いすみ鉄道に関しても赤字が減少して存続に明るい見通しが出てきて次の方策を生み出す余力が出てくると思います。
「3」残った部分に関してはそれ相応の投資をしてレベルアップを図る。
その様に区間廃止と言う「外科手術」をして「合理化も行った後でも、現状では残りの区間に関して生き残れるほどレベルの高い状況ではありません。特に線路等のインフラのレベルに関して言えば「安全運行が出来る最低限のレベル」で有り、小湊鉄道の場合車輌等も入換の時期が迫っています。長期的に生き残らせるにはインフラ部の保守向上は安全性確保の為にも必要です。「壊疽している部分」を切り捨てる代わりに、生き残れる最低限の投資は必要不可欠です。
[41]いすみ鉄道軌道(西大原〜上総東) [42]いすみ鉄道軌道状況(総元〜西畑) [43]小湊鉄道状況(月崎付近)
写真ではイマイチ分かり辛いですが、軌道のバラストは既に多くの箇所でやせ細り墳泥が出ている所も多々有り自然芝生軌道の所も結構多くあります。又木製枕木は朽ち果てつつある所も多く50km/h程度の走行でも前にも述べたように「車内から写真を撮ろうとしても列車のゆれで写真がぶれる」状況です。この様な状況では抜本的改善策を取らないと長く鉄道を維持する事は困難になると考えます。
又いすみ鉄道では「
いすみ鉄道経営改善計画(平成16年度〜平成20年度)
」を策定していますが、その中で「(4)鉄道施設(土木構築物・電路・線路)の老朽化に伴う修繕の効率化」と言う項目で平成16年度〜20年度の修繕計画は下記の様になっています。
・橋梁調査結果により早急に修繕が必要と判断された「此華橋梁」の修繕は、安全確保を図るため速やかに修繕工事を実施。
・繰り延べされている大原駅及び上総東駅の分岐器の重軌条化工事については、磨耗が著しいため、先端軌条部のみ施工。
・上記以外の鉄道施設にかかる抜本的な修繕工事については、原則として本計画期間内には実施しないこととする。
・鉄道の安全輸送を確保する為に必要な修繕については、原則として通常の修繕費の範囲内(23百万円〜37百万円)で実施。
率直に言って、「経営改善の為にインフラ修繕を先送り」と言う計画です。今の状況では安全性が阻害されないのならば経営改善の為に仕方ないでしょうが、現状のままでは平成20年度以降も大規模修繕の原資が出てくる可能性は低いと言えます。その様な状況ではどんどんインフラは痛んで行き最終的にはインフラが崩壊して行き運行すら危なくなっていきます。
この様な危惧を回避する為にも、かなりのレベルでインフラ改善は必要です。それには先ずは原資をひねり出さなければなりません。その為にも壊疽部分を切離し足しロウでも収支を改善し原資をひねり出す必要が有ります。
又この状況は小湊鉄道も同じような状況に有ると言えます。収支は小湊鉄道の方が健全では有りますが、車輌の経年が28年〜40年以上経っていていすみ鉄道の車輌の経年17年と比べると深刻な状況です。やはりいすみ鉄道と同じように(有る意味それ以上に)小湊鉄道も路線・車輌・駅舎等の改善にかなりの金額の投資が必要で有るといえます。
しかし此れだけ痛んだインフラの改善には多額の投資が必要になります。「外科手術」による採算性の改善だけでは費用が捻出できるとは必ずしもいえません。その為に
近代化補助
等の活用や一歩進んだ
群馬型上下分離方式
の採用等も考慮に入れて総合的にインフラ改善策を考えて進めていく必要が有ると言えます。
この様に長々となりましたが、いすみ鉄道・小湊鉄道の「房総半島横断鉄道」の試乗記を今回書きましたが、改めて思うことはこの路線が「存続の厳しいローカル線」であると言う事です。
しかし地域の状況を考えると簡単には「全線廃止」と言う事も言えないし、都市近郊鉄道から山間ローカル線まで、一応一本で繋がっているルートの中で複数の状況が共存している現状が複雑にしているとも言えます。
又この前2回見に行った会津鉄道等に比べると、鉄道存続に対する地域の危機感も鉄道会社自身の改革意識も低いと言わざる得ない状況です。其処に別の意味での問題の深さが存在していると言えます。
今回も色々と書いては見ましたが、やはり地域と鉄道の関係について考えることは難しい物であると改めて感じました。それは行政や鉄道会社も同じように戸惑い難しく感じているのかもしれません。しかしそれでは前には進みません。その様な状況から脱出できる一助になりいすみ鉄道・小湊鉄道が存続しより発展すれば、それに勝る物は無いと思います。
このページは、2019年3月に保存されたアーカイブです。最新の内容ではない場合がありますのでご注意ください |