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「コミュバス」は驚くべき低コストバス?



TAKA  2007年 5月16日





 和寒様の「足立区コミュニティバス『はるかぜ』第Ⅹ弾の驚天動地」興味深く拝読させて頂きました。特に「利用者何名で成立か?」と言う項目は今までのコミュバス論に無い分析で興味深い内容だと思います。私も和寒様の立論を踏まえて、内容が被る側面も有りますがコミバスのコストとその問題点について自分なりに考えて見たいと思います。



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☆タクシー会社運営の「補助なしコミバス」は究極の低コスト路線バス?

 和寒様の「はるかぜⅩ」記事での原価分析、正しくそのとおりであると思います。タクシー業界の場合「歩合制」給与を取っている為、「歩合制」を採用していないコミュバスの運転手の給与をタクシー運転手の給与と一概に比較するのは困難ですが、タクシー会社の給与形態に近い給与形態で「はるかぜⅩ」が運営されている事は間違いないと思います。

 此処に5/19号の東洋経済がありますが、今回の特集「未来時給」と言う記事の中で「40歳時給番付」と言う記事が有ります。その中で交通関係で電車運転手・出札改札掛・営業用バス運転手・タクシー運転手の40歳時給・40歳年収が出ていますが、その時給・年収は下記の通りとなっています。

   ・電車運転手 → (時給)3013円 (年収)639万円
   ・出札改札掛 → (時給)2840円 (年収)627万円
   ・営業用バス運転手 → (時給)1777円 (年収)451万円
   ・タクシー運転手 → (時給)1521円 (年収)368万円

 このように格差は非常に大きい物があり、同じ交通業で見ても電車とタクシーの運転手の待遇差は倍近くあります。ですから電車・バス・タクシーで現業従事者の人件費を見比べるとタクシー会社の人件費は非常に低い事になります。

 バスにしてもタクシーにしても、原価コストで見れば人件費は大きなウェイトを占める事になります。そうなると1人当たり運賃200円のバスを運行するに当たり「1時間で256円もコストが安い」と言うのは非常に大きくなります。まして近年バス業界では嘱託等を活用した「勤務形態の柔軟化」も行われています。

 そのような給与体系・勤務体系両面での低コスト化はバス業界でも大幅に行われていますが、その点においては昔から「長時間労働ながら歩合制を活用して低コスト運営」を行っているタクシー業界の方がバス業界より「一日の長」がある事は明らかです。ましてや日立自動車のような独立系の中小タクシー会社であれば尚更です。その点では日立自動車が運営する「はるかぜⅩ」は和寒様が示したように「究極の低コスト路線バス」である事は間違いありません。



☆しかし「低コスト」に依存した運行形態が正しいのか?

 しかし和寒様も「補足というよりむしろ蛇足だが…」で御指摘されている通り、又上記で分析をしているようにコミュバスは「生活ギリギリの年収の運転手」に支えられている可能性が高いというのは、これらの推測から考えて多分間違いないといえます。確かに利用者の立場からすれば「低コストで高い品質の商品が提供される」という事は正しいですし、納税者の視点から見れば「最低限の税金投入で最大限の公的サービス」「民間の力を活用し税金投入を減らす」という考えは原則論としては正しいと思います。その点でいえば「はるかぜ」の運行形態は望ましいものといえます。

 けれども労働者の視点から見れば「労働者に対する搾取的労働が低コストをもたらしている」というのは問題であると言えます。そのように見れば「労働者の犠牲による低コスト運行」と言うのは労働者の視点から見れば好ましいものではなく、この問題はコミュバス運営だけで無く世間一般にある問題ですが、健全なものではないと言えます。

 まして問題なのは過去に交通総合フォーラムで 「すぎ丸は何故運賃100円なのか?」 という投稿で取り上げた事がありますが、「低コストがもたらした低運賃によるバス利用者間での不平等」と言う公平性に絡む問題もあります。大概の場合コミュバスは低コスト労働者と税金投入により、普通の路線バスの利用者より安い運賃で一般路線バス並みの輸送サービスを行っています。それは納税者間の公平性から考えると、コミュバス利用者は「一般の路線バス利用者より低価格でサービスを受けると言う恩恵を受けていて差別的だ」と言えますが、その差別的恩恵が「普通の路線バスより低い待遇のコミバス運転手と言う『労働者の犠牲』」の上で成り立っているとなると更に問題です。

 私は「横並び主義」を肯定するわけではありませんが、正規に労働をする以上、給与に対する労働生産性を提供するのは労働者の義務ではありますが、そのような労働を提供した以上は人間として最低限の「居・食・住」を保証し、家庭を持ち子供に将来を保証する教育を与えると言う「最低限の生活保障」をできる給与は当然の事ですが保証されなければなりません。そのような「最低限の生活を保障する給与が幾らか?」と言う非常に難しい問題はありますが、一般論で言えばコミュバス運転手も準じているであろうタクシー運転手の「年収368万円」で上記のような「家庭を持っての最低限の生活保障」が困難であろうと言うのは容易に想像できます。

 タクシー会社系列のコミバス運転手では世間一般より低運賃であり最低生活を保障されていない可能性が高いと言えます。そのような運転手の犠牲の上で普通の路線バスより安い運賃で運営されていているコミュニティバスと言うのが正しいのでしょうか? これは「労働者の保護」の側面と「利用者間での運賃格差」と言う二つの側面で好ましくなく極めてアンバランスであると思います。



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 今回和寒様が「はるかぜⅩ」で取り上げられたコストに関する問題は、交通論の側面では今まで取り上げられていなかった問題であるとは思いますが、その大元にある根は非常に深い問題であると言えます。今交通の世界では「低報酬労働で成り立つコミュバス」だけで無く「タクシー業界の過当競争の問題」「ツアーバスと高速バスの不平等な競争」等々、規制緩和の進展に伴い競争社会の負の側面が表面化しつつあると言えます。

 この問題は交通の世界だけでなく、労働者の待遇と言う今流行の「格差問題」的な側面も有る非常に社会的と言えます。しかし上述した交通での負の側面はどれも「労働問題」が絡んでいる問題であり、日本の社会の今の問題を見る限り「避けては通れない問題」であると言えます。交通の世界でもこのような「規制緩和の弊害」「労働者の搾取的状況」が表面化しだした今こそ、本来あるべき姿を考え「交通分野で如何にして健全な競争社会を作り出すか?」と言う問題に正面から向かい合う必要があるのでは?と改めて考えさせられました。





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