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「適切な給与水準」を確保するコストは誰が負担するのか?
TAKA 2007年07月15日
エル・アルコン様や此処で「コミバス論」で給与について触れられた和寒様や私を含めての共通認識は「今の一般的労働者の給与水準は低いのではないか?」と言う点で有り「最低限普通の文明的な生活を営めるだけの賃金は保証されなければならない」と言う事は根本論で共通の認識は有ると思います。「一生懸命働いても生活保護より給与水準が低い・一生懸命働いても最低限の生活がやっと・一生懸命働いても家庭を維持できない」この様な今の労働者の状況が好ましい状況ではない事は、低賃金からの搾取で利益を上げている一部の人たちを除き、日本中の殆どの人が思っているはずです。
私個人的には「今の若者が結婚しない」「結婚しても子供を生まない」と言うのは「将来に自信を持てない」からであると思います。その結果が「
出生率1.24
」と言う数字であり、低下に歯止めが掛からない出生率で有ると思います。出生率は人口を維持できる「2」を1970年代から割り込んでいますが、今や完全にその低下を止められず「1.24」と言う数字は「(2人作る家庭が多いことから考えても)結婚しても子供を1人も作らない人が多い」と言う状況です。
この根底に有る物は何か?それは「結婚しても子供を育てるだけの給与を維持できるか?」と言う将来の収入への不安が大きいと思います。「リストラ・賃下げ」等々が今や珍しくない物になった時代ですからこの様な不安を抱く事は有る意味当然ですが、この様な「国民の不安」は日本と言う国家自体にに向け有れた物であり、今や日本は「国民が国家への希望を無くし」国家として「将来的には人口減で滅亡の道を歩んでいる」と言っても過言ではないと思いと思います。
●先ずはどの様に「好ましい水準」を設定するべきか?
では「最低限普通の文明的な生活を営めるだけの賃金」とはどれ位なのでしょうか?これを適正に図る事は難しいと思います。只今のように「賃金低下に歯止めが掛からず生活を維持できない」「ネットカフェ難民やマック難民など働いても最低限の生活が出来ない人が多数居る」と言う現状では、「働く限りその労働に報いる最低限のレベル」は労働者と言う「正当な弱者」を保護する為には必要で有ると思います。
其れでは如何するか?先ずは「最低賃金の引上げ」でしょう。今
最低賃金
は地域別の時給として設定されていますが、「東京で719円」と言う最低賃金は高校生のバイトより安く、単純に考え「1日8時間*年310日労働(日曜と正月・盆休みとして)*714円=1,770,720円」の年収、12で割れば月収15万円にも足りない金額しか最低賃金として補償されていない点が問題で有るといえます。この金額では今の日本で「文明的な生活を送れるか?」と考えるとNOと言わざる得ません。先ずこれを改めるべきでしょう。
只「どれ位引き上げればいいのか?」と言う計算は非常に難しい事ですが、一つの計算として「
生活保護の支給額
」が有ります。引用の例は山形県ですが「3人世帯で月額225,420円」の支給額が有ります。しかし山形県では1日8時間・月25日労働として最低賃金額は8時間*25日*613円=122,600円にしかなりません。「働いても生活保護より給与が低い」と言う悲しい現実は極めて好ましく有りません。これなら真面目に働く方が馬鹿を見ます。「生活保護の計算と最低賃金の計算どちらが正しいのか?」と言う問題も有りますが、「生活保護が『健康で文化的な最低限度の生活』の最低限の基準」で有るならば最低賃金もこのレベル以上にするべきです。少なくとも生活保護が『健康で文化的な最低限の生活(生存権)』を保証するレベルならば、今の最低賃金は「憲法27条の義務(勤労の義務)を果たしながら憲法25条の権利(生存権)を保証されていない(参照:
憲法条文
)」と言う『違憲状態』に有る事は間違い有りません。先ずこれを改めるべきです。
この基準から見れば、私の私見で述べれば先ずは「最低賃金基準の複数化」が必要で有ると思います。確かに学生等の「扶養の傘下に有る人の最低賃金」は今の水準orプラスαで良いかも知れませんが、独立した家計を営む人であれば「自分で勤労の義務を果たして汗水流して働く」訳ですから生活保護水準より多い金額を設定するべきで有ると思います。その上で「独立した家計の人」の最低賃金に加えて今は除外されている「家族手当」を最低賃金の織り込む事で家庭を持つ人へのインセンティブを与え、「家計を維持できる賃金を保証する」必要が有ると思います。
しかしエル・アルコン様は[客観的な基準で、世代相応に衣食住の支出から子女の育成、進学などを考慮した標準的な「標準賃金モデル」をまず提示した上で、分不相応な賃金であるかどうか]([]内引用 以後も同じ)図るべきとの事ですが、これは国が示すべきでしょう。それに確かに「子女を大学まで進学させる水準の給与」と言うのも基準としては分かりますがチョット過剰すぎるかと思います。私はエル・アルコン様の[ただしこの問題は、近年国公立大学や公立高校の学費を急激に学費が上昇させた文教政策の責任も大きいが...]と言う意見に同感で、「健康で文化的な最低限の生活」以上に関しては「不平等緩和」と言う意味で「補助を与える」と言う形でフォローする事が好ましいと思います。ですから高校・大学等の高等教育で言えば意欲が有るが家計が苦しい人たちに「公立学校の学費を抑える(条件付無料化も)・奨学金等の補助を与える」と言う手助けをする施策が好ましいと思います。そうしないと「年収1000万円無いと世代相応に衣食住の支出から子女の育成、進学などを考慮した標準的な生活は出来ない」と言う非現実的な事になってしまいます。
けれどもどちらにしても、「今の水準」が好ましい事は決して悪くは有りません。逆に言えば「働いても「生活保護水準」以下の生活しか出来ない給与」を国が最低賃金として御墨付きを与える事は、前にも述べた様に「憲法違反」の可能性も否定できません。この状況に関しては即座に再検討が必要で有ると思います。
●しかし問題は「給与引上げに伴う生産性向上」が図れるか?と言う点
確かに今の状況では「最低賃金引上げ」による給与引上げは必要で有ると思います。しかし問題は「給与引上げに比例するだけの生産性向上・効率性向上」を図ることが出来るか?と言う点に有ります。
生産性向上・効率性向上を伴わない給与引上げが行われた場合、そのコストを誰が負担をするのか?と言う問題が残ります。今「中国経済のバブル」等に影響され資源価格・原材料価格が高騰していますが、そのコスト負担を今は価格に転嫁する動きも出てきてはいますが、コスト転嫁の値上げ(もしくは類する工夫)以上に「企業努力による吸収」が行われています。では材料価格に加えて賃金まで上昇した場合、誰がそのコストを負担するのか?と言う事がおきます。
多少であれば「企業が負担をする」と言う事も可能かもしれません。しかし値上げをしないで材料価格高騰のコスト負担を企業内努力で吸収している状況では企業に「コスト上昇分を負担せよ」と言う事は「死になさい」と言っているに等しい事になり現実的では有りません。
そうなると今度は「価格に転嫁」と言う事になりますが、価格転嫁をした場合間違いなく「物価上昇」が発生します。そうなると物価上昇で給与が上がっても物価も上がるから給与上昇に比して思ったより生活が楽にならない」と言う問題も有ります。又日本は基本的に「輸出により経済を支えている国家」であり「グローバルの経済の動き中に組み込まれ他の低賃金国家との競争に日常的に曝されている」と言う状況に有ります。その様な「グローバル競争」の中で「生産性向上・決定的な技術革新」が無い中で製品価格を単純に上げると「輸出競争力が落ちる」と言う問題が有ります。これは輸出に経済成長の原動力を頼る日本に取っては致命的なハンデとなる可能性が有ります。こうなると「価格上昇」を招く行為も又「日本経済の活力を奪う」と同時に「物価上昇で生活改善が思ったより進まない」と言う好ましくない結果を招く事になります。
この様な「極めて賃上げには厳しい状況」の中で如何にすべきかと言う事になりますが、本来であれば「労働生産性の向上」と「効率の向上」で賃金工場前と同一コストで賃金上昇分に見合う生産量を増やすと同時にその分を売り切れば賃金上昇分をペイする事が出来ます。しかしこれは「言うが安し行うは難し」と言う物です。例えば「賃金5割り増しにするから5割余計に生産しろ」と言ってもナカナカ出来る物では有りません。ましてや交通業界では生産性向上は非常に困難で有ると言えます。
例えば今回交通総合フォーラムで議論になっているバスの場合、賃上げがどのような影響を及ぼすか?概算で試算したいと思います。
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「バス運転手賃金値上げ前」
収入:運賃200円*乗客150名=30,000円(1台・1日当たりの収入)
原価:労務費 1200円/時*拘束16時間=19,200円/1名 燃料費・整備費・減価償却費・間接費 10,000円/日と仮定
収支:収入30,000円−原価29,200円=1台1日800円の利益が上がる。
「バス運転手賃金値上げ後」
収入:運賃200円*乗客150名=30,000円(1台・1日当たりの収入)
→運転手の賃金を上げると運転手の意識改善によるサービス改善の効果は有るだろうが、未知数の為乗客増には直接結びつかないと考える
原価:労務費 1500円/時*拘束16時間=24,000円/1名 燃料費・整備費・減価償却費・間接費 10,000円/日と仮定
→本来は整備費・間接費にも賃金上昇のプラスコスト要因が有るが計算単純化のため除外
収支:収入30,000円−原価34,000円=1台1日4,000円の赤字になる。
→賃金を上げて収支均衡にするには原価34,000円/運賃200円=170名 要は今までの150名から20名の乗客増が必要である。
※バスの場合、バス1台運転手1名で規定の路線を規定の速度で走る以上、生産性向上(1台1名当りの運行本数を増やす)事は殆ど不可能
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本来は複雑になる原価計算を分かり易い様に試算をした為に、収支の黒字・赤字が明白になりましたが、この様な状況の場合「バス会社にコスト負担」をしてもらう事はできませんし、製造業の様な「生産性向上・効率向上」も出来ません。(1台1人当たり運行本数を増やす→運行速度向上→バスの場合スピードoverで逮捕!?)又賃金を上げた場合運転手の意識改革が進みサービスが向上して乗客が増える可能性も十分有りますが、それを図る事は困難で有り未知数の物であり、経営的には当てに出来る物では有りません。
こうなると方策は「運賃値上げで賃金値上げ分を吸収する」or「赤字を出して公的セクターから運行費補助を得る」といった方策しか見出せない事になります。しかしどちらも問題は「最終的にはその負担は利用者・納税者である労働者に戻ってくる」と言う点に有ります。値上げの影響を受けるのは利用者ですし、税金による運行費補助であれば最後に影響を受けるのは納税者です。つまり値上げor公的補助しか方策が無い事業者で有るバス事業者の場合、運転手の賃金値上げは最終的に「蛸が自分の足を食べる」形で間接的ですが労働者に戻ってしまうと言う点に有ります。
この様に考えれば「生産性向上を伴わない賃金引上げ」は最終的に廻り回って社会全体の労働者に負担を強いると言う事になります。ですから問題が有る事は事実ですが、「賃金が低くても物価が安い」と言うのも一つの世の中の形態としてバランスが取れている事にもなります。
しかし問題の状況を引き出したのは、バブル崩壊後今まで「物価も下落したがそれ以上に実質的賃金が下落した」と言う状況が有りその状況が低い所で固まってしまい、加えて雇用形態が流動化多様化して不安定な形態になった事が今のアンバランスで正しく無い状況に輪を掛けたと言う事ができます。
この様に賃金を上げて社会的に正しい状況に現状を修正する必要が有っても、必ずしも「賃金を上げる事だけが全ての解決策にならない」と言う点です。生産性向上を伴わない賃金上昇の場合そのコストを誰が負担をするのか?この命題を解消しない限り「賃上げ」をしてもその結果が必ずしも好ましい結果にならないと言う点がこの問題の解決の難しさを示していると言えます。
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今色々な所で「格差」「低賃金労働者」の問題が取り上げられています。これが深刻な問題で有る事は明らかで、(殆ど話題にはなりませんが)「フルに一生懸命働いても最低賃金しか貰えず生活保護以下の給与しかもらえない」「しかも税金や社会保障コストも払わなければならない」と言う人も多数居るのは大きな問題で有ると言えます。
一つの考えとして今若年人口の減少と景気が回復の影響で労働関係の需給環境がタイトになってきており、特に東京などの都市部で若年者を対象とした求人では賃金上昇の気配も出てきております。その点では「市場調節に任せれば自然に調整される」と言う考え方もできると思います。
しかしこの「市場原理万能主義」的な考え方がすべてにおいて当てはまる事では無いのは、今まで述べてきたバス業界等の事例を見れば明らかです。バス業界で賃金を市場調節に任せていたら、人手不足or賃金コスト上昇で苦しい経営を行うか路線廃止等の合理化・効率化を図るか運賃値上げで利用者に転嫁するかの選択を図る事になるのは今までの分析で明らかです。こうなると「市場調節に任せる事が万能ではない」と言う事は明らかです。
この様な「相反する命題」を上手く解決して、「文明的な最低限の生活を行える賃金」を保証しつつ、「原価を逓減して企業が収益を上げると同時に低価格かつ困難なサービスも提供する」と言う事も実現するか?公共交通を含め日本全体が求められている「命題」であると言えます。
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