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−鉄道におけるデザインの重要性を考える−(みなとみらい線)



TAKA  2005年12月04日



 

 
(みなとみらい地区の夜景)


 先日大船近郊からバスで関内経由で中華街に向った時、ついでに関内〜元町・中華街間でみなとみらい線を利用しました。
 みなとみらい線(以下MM線と略す)は横浜市のMM21開発のアクセスとして、横浜〜元町・中華街間と言う横浜市街地の一番海側に建設された路線で、横浜高速鉄道㈱と言う第三セクターが整備・運営主体です。又鉄道マニア的には東急東横線横浜〜桜木町間を廃止し接続させた事で「都市内鉄道の廃止」と言う珍しい事例や、開業前試運転時の地下への車両搬入方法等で話題を呼んだ路線です。
 「 横浜高速鉄道概要 」「 MM21開発概要
 この鉄道は色々な側面で興味のわく鉄道です。例えば「第三セクター都市鉄道の経営の視点」や今までの鉄道に無い斬新なデザインでの駅等の建設と言う「デザイン」の側面でも興味の沸く路線です。今回は特に「デザイン」に注目しながら、ちょっと違う鉄道めぐりをして見たいと思います。

 ●MM線土木施設のデザイン

 MM線は鉄道建設・運輸施設整備支援機構(以下機構と略す)がP線事業として建設を行った路線です。機構は建設に際し日本大通り駅以外は地下の鉄道駅では珍しい「上下に空間を取る事で空間の広がりを作り出す」デザインを採用しています。他の地下鉄では殆ど見ない極めて優雅なデザインです。(強いて言えば 大阪地下鉄御堂筋線梅田・難波駅の建設時の姿 が空間の取り方等で似ている)  先ずは各駅のデザインの特長について見てみたいと思います。
 「 首都圏Expressみなとみらい線特集
 ※私の写真では足りないので此方の「各駅紹介」も御覧下さい。開業前に取った綺麗な写真が出てます。

 ・馬車道駅

 馬車道駅コンコース(改札前)
 
 
 この駅は駅のコンコースが吹抜のドームになってます。又駅ラッチの周りは吹抜の周りが一周歩ける様になっていて、下のコンコースを覗ける様になっています。又壁の主要部分は地下鉄駅では使わないレンガを化粧に使用しており、レンガ等で作られたレリーフと共に独特の雰囲気を作っています。

 ・新高島駅

 新高島駅ホーム
 
 この駅は相対式ホームで中央の線路部分が1フロア分吹抜になっています。この駅は普通しか止まらないため地下の通過列車で問題になる風の問題も軽減される機能性の側面もデザインだけでなく兼ね備えてます。又カラーリングも馬車道とは対照的な現代的イメージのシルバー系が多用されてます。

 ・みなとみらい駅

 みなとみらい駅ホーム(吹抜け部分)
   

 この駅はなんと言っても駅直上に有るクイーンズスクエアと一体化した4フロア分の大吹抜が極めて特徴的です。こんな煙突効果を発揮してしまうような吹抜を良く消防が認めたな?と言う疑問が残る位発想が斬新なデザインだと思います。(上の建物が乗り入れ先の東急が開発したから協力してくれたのだろうが)この吹抜けに立ち上を見れば他の日本のどの地下鉄で駅でも感じられない開放感に浸れます。又駅コンコースも天上空間を広く取り原色系を配置し斬新なデザインです。まさしく「みなとみらい」の駅名に恥じない極めて冒険的かつ斬新なデザインだと思います。

 ・元町・中華街駅

 元町・中華街駅ホーム
   
 
元町・中華街駅中華街口コンコース
 

 この駅はホーム中央に特徴が有ります。なんといっても大阪地下鉄もビックリの巨大ドーム上の天井とそこを突き抜けるエスカレーターです。特にこのエスカレーターは特筆物で上りはそうでもありませんが、下りはいきなりパッとホームの視界が開けてきて「これから列車に乗る」と言う事が上手く演出されており極めて特徴的です。又開港時のからの写真が壁に印刷されており、歴史の有る「元町・中華街」と言う日本中に知られたイメージを上手く演出しています。又中華街よりのコンコースもドーム上の独立した吹抜になっていて、そこに小さくホームへのエスカレーターの口が開いていて、何か別世界に入っていくような雰囲気をかもし出しています。

 これらの各駅で余裕と広がりを演出している空間は、駅建設時に開削工法で掘り下げ本来工事完了時に埋め戻す空間を埋め戻さず上手く利用していると推察します。この考え方はデッドスペースになる空間をデザインに取り込み、しかも(耐震性の側面から構造物の補強が必要になるだろうが)埋め戻しの費用を削減できた(であろう?)一石二鳥の効果が有ったのではないかと推察します。
 コストの面では別にしてデザイン面ではこれらの各駅は極めて高い評価を得ていて、土木学会賞を始め土木・鉄道・デザイン各分野の各種の賞を受賞しています。
 「 横浜高速鉄道報道資料
 この後建設の地下鉄ではTX秋葉原駅等で「大きな吹抜空間」は採用されていますが、何故か各駅で個性的なデザインの採用と言う大胆なデザインの冒険を行っているのは後にも先にもMM線だけと言えます。確かにデザインに凝ればコストはかかります。上記の「埋め戻し費用の削減」も実際には大きく無く、それ以上にデザインを凝った事によるコスト増が大きかったのかもしれません。
 しかし単純に「石を張り高級感を出す」と言うのはバブル的な発想です。土木的要素を考えずに建築的デザインだけで考えれば、仕上系の物で目先を変えるしかなかったのだと言えますが、MM線の場合土木的な構造の分野も巻き込み空間を広げる事でデザインを変え、その上で空間の広がりを上手く演出する建築的仕上げを行ったと言う意味で極めて高い評価をするべきであると言えます。
 良くこの業界では「土木は土木」「建築は建築」と仕切って考えてしまう場合が多く、建築的要素の強い鉄道施設(駅舎等)だとデザインに冒険をする場合も有りますが、土木的要素が強い鉄道施設の場合「機能重視」で考え構造の段階でデザインを考える事は橋梁等を除いて多くは有りません。まして「地下駅で吹抜」などと言う発想はなかなか出てきません。
 そういう意味でMM線の駅デザインは鉄道施設を作る時に出来る垣根をブレークスルーした物と評価できます。その垣根をブレークスルーした鉄道建設・運輸施設整備支援機構に拍手をしたいと思います。この駅デザインは各種賞で評価されて当然と思います。

 ●MM線の車両デザイン

 MM線は開業時に基本的に東急電鉄の5000系系列と同一仕様のY500系を増備しています。その為東横線・MM線内では東急5050系と横浜高速Y500系を良く見ますが、これがイメージが全然違う感じがします。これは車両のカラーリングに起因していると言えます。
 
 写真右 東急5050系 ・ 写真左 横浜高速Y500系
   

 「どちらが好きでどちらが嫌い」「どちらが優れていてどちらが劣っている」と言うのは個人の好みの話なので此処では述べません。しかし事実として言える事は「どちらの車両も違うのはカラーリングだけ」と言う事です。
 
 横浜高速Y500系のカラーリングは「外観は、「ヨコハマの海」をイメージしたネイビーブルーと「躍動感のある都市」をイメージした黄色のグラデーションおよび、「伸び行く都市」をイメージしたメタリックブルー色による新鮮な塗装デザイン」と言うコンセプトでデザインしたそうです。
 「 Y500系概要(東急車輛製造)
 しかしこのコンセプトが「赤主体の塗装(ラインテープ)」が主体の東急線の中で、対象色の青系塗装のY500系を特別に目立たせている事になります。(京急の話が参考になります)「 車両の塗装と車体広告について考える
 それに加え東急はステンレス車体にラインカラーのテープを張るだけでステンレスの素地が目立つ形になっていますが、Y500系はかなり大きく色をつけているので(多分先頭と屋根は塗装で車体はカッティングシートだろう)ステンレスの素地が目立つ車両が多い東急線の中で一層引き立っていると言えます。

 此処ではどちらのデザインが優れているかを問題にはしたくありません。(個人的好みではY500系のデザインは大好きで「関東でもきわめて優れたカラーリング」と思っています)此処で私は横浜高速はカラーリングと言うデザインで東急との差別化に成功したと言う点を評価したいのです。
 本来なら8両*6編成=48両も作るのですから、自社設計をして別の車両にすることで差別化を図っても良いのです。(東京臨海高速鉄道はJR205系を基にしながらデザインを敢て変えている)しかし「自社検車設備を持たない為東急へ委託するのに東急と同じ車両が好ましい」「自社設計してコストアップは出来ない」と言う車内事情を考えつつ、「車両を作りそれが東京まで走るのだから、横浜をアピールできる差別化をしたい」と言う車内事情の中でカラーリングを変えると言う選択肢が出てきたのだと思います。

 有る意味苦肉の策とも言える独自カラーリングかも知れませんが、実際利用者の目で見てもそのカラーリングゆえ車両が「東急の車両でない」と認識されていると思います。
 例えば南北線で「メトロとSRと東急の車両」3種類走っていますが、どれもそんなにアクが強いデザインではないので「どれが何処の車両」だか分からない人は多いと思います。しかし「赤+ステンレス素地」が主体の東急の車両の中で「青+黄+ステンレスのシルバー」のカラーリングのY500系がくれば、「別の車両が来た」と認識されるでしょう。その様に多くの人に特別な認識を与える事も又デザインの世界では重要なことです。それをY500系は実践していると言えます。


 今回は珍しく経営の話でなくデザインの話に終始しましたが、鉄道に取りデザインも重要な要素です。デザインは直接収支には結びつきませんが、会社のイメージを代表する物です。会社のイメージがよくなれば利用者も増える可能性が高くなります。
 汚く狭苦しい駅を好き好んで使う人は居ません。又センスの悪い塗装の車両を好きになり積極的に使用する人も居ません。その様な事で嫌悪感を抱いた人たちは鉄道から逸走してしまいます。正直言って土木や鉄道の分野でデザインは今まで軽視されてきたと言えます。それは機能性や効率重視と言う視点では正しいのかもしれませんが、これからは「低コストだが機能性だけでなく遊びを加えた個性的な物」が評価される時代だと思います。それにはデザインが重要です。
 鉄道や土木の世界にも、これからは機能性・コストと並んでデザインのセンスが重要だと言う事を横浜高速鉄道の施設・車両は教えてくれていると思います。





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