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ローカル参詣鉄道が近郊通勤・通勤鉄道に変身?

−伊豆箱根鉄道 大雄山線−



TAKA  2006年05月07日




(JR東海道線ホームから見た伊豆箱根鉄道大雄山線ホーム)



 今回は「関東鉄道めぐり」ですが、GWに鉄道関係で何処にも行かないのも寂しいので(本当は5/4or5/6に富山に行こうと思ったが、4日に御通夜が入り、6日は帰りの「はくたか」指定席が取れなかった)5日午前中小田急線沿線で仕事だったので、「午後から小田急線沿線から足を伸ばせる路線」と言う事で、距離にわりに行き易い小田原近郊の伊豆箱根鉄道大雄山線と三島から延びる伊豆箱根鉄道駿豆線を訪問してみる事にしました。
 どちらも西武グループの伊豆箱根鉄道の路線です。伊豆箱根鉄道は西武鉄道グループの中でも「伊豆箱根地区の交通網を担う企業」であり、一連の「西武事件」で有価証券虚偽記載で東証2部上場廃止になるまで、西武グループで西武鉄道と並ぶ上場会社で、東急・小田急・西武の3民鉄グループの関連会社がせめぎ合う箱根・伊豆地域での前線部隊として活躍している会社です。
 そういう視点から見れば、西武沿線に住んでいる私にしてみたら、西武グループのローカル線ですから全く関係の無い路線と言う訳では有りません。そういう訳で今回は関東でも西に向かい、伊豆箱根鉄道の鉄道部門を担う2つの路線を訪問してみることにしました。

 「参考HP: 伊豆箱根鉄道㈱HP   伊豆箱根鉄道(wikipedia)   伊豆箱根鉄道大雄山線(wikipedia)
 「参考文献:数字で見る日本の鉄道2005((財)運輸政策研究機構)鉄道ピクトリアル96年4月増刊号-関東鉄道のローカル私鉄-」 


 ☆伊豆箱根鉄道 大雄山線訪問記

 5月5日こどもの日丁度GWの中日に仕事が入った事で今年のGWは遠出が出来なくなり、その代わりとして仕事の有った5日の午後に伊豆箱根鉄道の大雄山線と駿豆線の2路線を纏めて訪問する事にしました。
 今回は午前中に小田急線沿線で仕事があり、其れが終わってからしかも日帰り旅行なので、先ずは近い所からと大雄山線から訪問する事にしました。
 大雄山線は元々南足柄市にある 大雄山最乗寺 と地域の中心都市で東海道線が走っていた小田原市の小田原駅の間を結ぶ鉄道として、1925年に大雄山鉄道が小田原〜大雄山間を開業させたのがこの路線の始まりです。現在酒匂川西岸には小田急小田原線・伊豆箱根鉄道大雄山線が走っていますが、ほぼ同じ地域に1925年に地域の参詣輸送を目的とした大雄山鉄道が、 1927年に東京〜小田原間の都市間輸送を目的とした小田急小田原線が開通 と同じ地域に役割の違う2つの鉄道が開通しています。
 只実際は先に開業した大雄山線が小田原〜南足柄間を結ぶ県道74号線に沿って小田原〜塚原間で狩川の西岸を走り、小田急線が足柄〜開成間で県道720号線に沿って狩川の東岸を走ると言う形で微妙に役割分担が成立しています。
 本当ならば小田急線からのアクセス手段しての試乗方法としては「開成で降りてタクシーで大雄山へ移動(1,500円程度で10分も掛からない)其処から小田原へ向う」「小田原まで出て単純往復」の二つの方法が有り、今回は開成下車で行こうとしましたが小田急線急行で寝てしまい開成を通り過ぎてしまい、仕方なく小田原からの単純往復をする事にしました。

 小田急線の終点である小田原は神奈川県西部の拠点であり、小田原駅にはJR東日本・JR東海・小田急・箱根登山・伊豆箱根の5社の鉄道路線と箱根登山・伊豆箱根の2社のバス路線が集まる一大交通拠点で、平成15年3月完成した自由通路 アークロード を中心に駅・JR駅ビル・駅前広場が一体整備され見違えるような素晴しい駅に変わっており、大雄山線の駅舎も橋上駅舎とバリアフリーの通路で結ばれると同時に駅前広場から入れる改札口も綺麗に整備され見違える様になっています。
 小田原駅周辺自体は仕事で何回も訪ねた事が有るので、先ずは写真を取る為に駅周辺を一周して直ぐ大雄山線に乗るために大雄山線ホームに入ります。大雄山線小田原駅はJR東日本に隣接して1面2線のホームが有りそれなりのターミナルと言う感じです。

  
(左:小田原駅駅前広場と箱根登山・伊豆箱根のバス  右:大雄山線小田原駅乗降風景)

 取りあえず停まっている列車に乗り、大雄山を目指します。列車は18m車3両編成の車両で乗った列車は転換クロスでした。伊豆箱根大雄山線の場合、車両も中古で無く自社製造で経年も10〜20年程度と比較的新しく、2007年にはPASMOも導入と言う事も有り小田原・大雄山の駅には自動改札も整備されていて設備的にはかなり整った鉄道であると言えます。
 小田原駅を発車すると直ぐに緑町駅が有ります。この間の距離はわずか400mで小田原駅を出るとすぐ到着です。緑町を出ると左にR=100の曲線があり、東海道本線・東海道新幹線をアンダーパスして進行方向を北西に変えて大雄山を目指します。大雄山線は緑町で東海道線と五百羅漢の先で小田急線と交差していますが接続しておらず、他社線との接続は小田原駅だけになります。

  
(左:緑町駅とR=100の曲線  右:五百羅漢駅と交差する小田急線)

 大雄山線は単線で箱根外輪山の東の裾野に沿いながら淡々と北西に進みます。沿線には富士フィルム・ アサヒビール神奈川工場 等の工場も有り産業も発展しており加えて小田原経由で東京への通勤も不可能ではないので、沿線には工場従業員・小田原通勤客・東京通勤客が住んでおりかなりの人口が定着しています。
 その為沿線は全区間に渡り殆ど住宅が途切れる事は無く、人口密度はかなり高いと言えます。実際松田〜小田原間の酒匂川西岸〜箱根外輪山東側に挟まれた地域は小田急小田原線・伊豆箱根大雄山線が走っており公共交通の便も良い事からかなり人口が集積しています。
 実際この地域の北側になる小田急小田原線の開成駅前の (西湘地区最大級の)駅前開発マンション が「小田原経由東京・横浜通勤客」等に順調に販売されている等の事も有るので、未だ今後とも人口増加の期待も持てる有望地域であると言えます。

  
(左:沿線の風景(飯田岡駅)  右:沿線の風景(右側は狩川の河川敷))

 列車は住宅地の中を淡々と進みます。途中五百羅漢・相模沼田・和田河原の3駅が交換可能で、この交換可能な3駅でフルに交換(+小田原駅で交互発着)する事でローカル線としては高頻度運転である12分毎運転を実施しています。
 大雄山線は相模沼田から南足柄市域に入り、塚原で狩川を渡ると南足柄市の中心部に入って行きます。中心の大雄山に近づくと正面の車窓に「金太郎」で有名な足柄山が見えてくると同時に、南足柄市に幾つも施設を持つ富士写真フィルムの施設が目立ってきます。富士写真フィルムは主力工場のひとつである 神奈川工場 が南足柄市にあり、この地域では富士写真フィルムは大雄山線に「富士フィルム前」と言う駅が有るほどの存在感が有ります。

  
(左:大雄山線沿線に有る富士写真フィルム施設  右:富士写真フィルム前駅と足柄山))

 富士写真フィルムを過ぎると直ぐに大雄山の駅です。大雄山の駅は丁度大井松田IC・開成駅から伸びてきた県道74号線とぶつかる所に有り、大雄山最乗寺・南足柄市役所・アサヒビール神奈川工場への玄関口に辺り南足柄市の中心部に当たります。
 その為駅周辺も整備されており、駅脇には(何故か箱根登山系の)ホテル・南足柄市女性センター・市営駐車場が入ったビルがあり、又駅から県道74号線を跨いだ先にはユニーが入った再開発ビルが有り、駅脇にはバス・タクシーターミナルもありこの先のフィーダー路線になるバス等が発着しています。
 しかし近くにある小田急線開成駅(新宿まで直通)へはバス路線が有りません。小田急線開成駅は区画整理が完成した事も有り近年開発が進んでいて南足柄市に工場がある 富士写真フィルムの研究所が開成町にできる 等の開発が進んでいます。ですから色々なしがらみ等が有るのでしょうが、それを超えて開成〜南足柄(大雄山)間を結ぶ民間のバス路線を誘致するとか2自治体合同でコミュニティバスを走らせる等の方策が必要ではと感じました。

  
(左:大雄山駅構内  右:大雄山駅駅舎と南足柄市女性センター)

 大雄山まで全線乗った後、本当なら大雄山線最大の目的地である「大雄山最乗寺」を訪問しようとも思いましたが、流石にバスで片道10分の所まで行ってしまうとこの先の予定が苦しくなるので、駅周辺の写真を取った後(時々仕事でこの辺りには来るし、上の写真にある「ホテルとざん大雄山」は2〜3回仕事で泊まった事がある)、停まっている電車で小田原方面へ折り返して途中の五百羅漢駅でチョット途中下車をする事にしました。

  
(左:五百羅漢駅駅舎とマンション  右:県道720号線(信号が県道74号線・720号線の分岐でガードは小田急線))

 五百羅漢駅は丁度小田急線との交差地点にあり、小田急線足柄の駅からも遠くない所(徒歩数分)に有ります。駅は県道720号線に面していて 玉宝寺(五百羅漢) も近くに有ります。只住宅は有る物の店舗が殆ど有りません。只小田原まで自転車でも行ける距離ですし、大雄山線がこれだけ頻繁に走っていれば小田原駅前までちょっと買いに行けば良いのですから不便な所は無いのでしょう。
 駅は賃貸マンションと合築されており、2階以上は賃貸マンション・1階道路寄りは昔はコンビニで今は事務所になっていて、駅舎は賃貸事務所の奥に小さく目立たない形で有ります。大雄山線では和田河原も駅舎と他の建物の合築で有りますが、この様な方策は比較的都市化の進んだローカル私鉄では資産の有効活用として有効な方策であると言えます。
 五百羅漢駅で乗降の状況を見ましたが、小田原方から結構な利用があり、小田原行きには1列車辺り数人の降車が有り、小田原行きにも同じ様な乗車が有ります。小田原⇔五百羅漢間は距離にして2.3kmで6分130円です。この手軽に移動できる区間でそれなりの利用が有るという事は、大雄山線は近距離の下駄履き利用的な利用が多いという事を示しています。


 ☆伊豆箱根鉄道 大雄山線を訪問して 〜普通鉄道で出来る都市内・郊外輸送の可能性とは?〜

 今回久しぶりに大雄山線に乗りましたが、(前回乗ったのは2〜3年前)休日昼間に乗ったのは初めてですが、思ったより乗客が乗っていたと言うのが第一印象です。小田原での乗降状況を見ると小田原到着列車は3両編成で立ち客が出るほどで、出発列車も座席がサラリと埋まるほどの利用客があり、人口198,379人の 小田原市 と人口44,037人の 南足柄市 を結ぶ都市近郊鉄道であり、12分間隔運転と言う頻度を考えるとかなり利用されていると言えます。

  
(左:小田原出発時点の大雄山線車内状況  右:大雄山到着時点の大雄山線車内状況)

 実際少々データが古いですが「90年の利用客数9,046千人・94年の利用客数9,162千人」「緑町〜井細田間21,019人/日・相模沼田〜岩原間14,167人/日・富士フィルム〜大雄山間5,871人/日」「大雄山線の営業収益55,390千円」(鉄道ピクトリアルより引用)と言う数字から見るとかなり成績のいい鉄道であると言えます。
 鉄道の立地的には「ローカル線にしては多い人口と産業」「対小田原では道路が混雑(県道720号線小田原市街地)して移動が不便」と言う恵まれた条件がある反面「大雄山線の駅勢圏は箱根外輪山の東斜面と小田急小田原線に挟まれ狭い」と言う不利な条件も有り決して恵まれているだけとは言いません。しかしその中でこの利用客の数は「鉄道として単独で生き残れる最低ライン」を超えており「ひとまず安泰」と言う事が出来ます。

 それだけ「安泰」と言えるほどの利用が存在しているのは「小まめに利用客を拾う各駅とも1km程度の駅間距離(穴部〜飯岡田1.2km・塚原〜和田河原1.9kmを除く)」「毎時5本12分毎の運転と言う高頻度運転」「全線でも9.6kmと言う遠くない距離と21分と言う所要時間」が理由であると言えます。
 要は都市内鉄道+郊外鉄道として住民が普段の足として利用していると言う事が、短距離ローカル鉄道でこれだけの利用率がある秘訣であると言えます。大雄山線は駅勢圏自体は狭くても沿線の人口集積・産業集積は比較的多いのでその乗客を小まめに拾っていると言う「LRT的な使われ方」が大雄山線の安泰の秘訣であると言えます。
 実際大雄山線は普通鉄道ですから LRTの定義 に当てはまらずLRTとは言えませんが、富山・高岡等の例を見れば「郊外需要を拾い都心へ運ぶ」と言う意味では、大雄山線の輸送形態はLRT的であると言えます。富山では普通鉄道の富山港線をLRT化して 富山ライトレール を造りましたが、沿線の状況(大都市の近郊で人口集積・産業集積もかなりあるので大都市へ輸送するのが主力)や輸送形態を見ると輸送の器はLRTで一部は軌道を走っていますが、実体はLRTと普通鉄道の中間と言う事が出来ます。
 しかし大雄山線は普通鉄道でも恵まれた条件を「小まめの客を拾う駅間距離」「(適正な交換設備設定による)高頻度運転」等を上手く活用する事で生かし、普通鉄道でありながら都市内・郊外輸送の実情に合わせた高レベルの輸送体系を築いています。それが大雄山線が此処まで利用されている秘訣であると思います。
 只この様な高頻度輸送は比較的高コストの体質を持つ物です。実際運行頻度を上げれば人件費・車両費が掛かります。実際大雄山線の場合無人駅が多い物の未だ有人駅もありますし、ツーマン運転であり未だコスト的には削る余地があると言えます。未だ普通鉄道で高頻度運転と言う高コスト運転形態を支えるだけの利用率が有るから良いですが、将来的にもこれだけの利用率が維持できるとは限りません。その為にもより一層のコスト体質改善が必要です。
 只そのチャンスは07年度に導入予定のPASMO導入です。大雄山線ではPASMO導入の為に自動改札の導入を進めていて、小田原・大雄山では既に自動改札の設置が進んでいます。多分PASMO導入時には中間駅ではカードリーダー設置で対応するつもりでしょう。しかし此処で一歩進めて各駅に自動改札と 無人駅管理システム を導入し、中間駅の無人化と列車のワンマン化を進め合理的運賃収受を実施しつつLRT並の低コスト運営を確立すれば、(新線建設でなければ)比較的高コストの普通鉄道でもある程度の利用客が有れば「高頻度で細やかに客を拾う」輸送形態が築けて、大雄山線もより安泰になる事でしょう。




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