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不動産会社が鉄道を経営するニュータウンとは?

−山万・ユーカリが丘線−



TAKA  2006年12月17日





夜のユーカリが丘のショッピングセンター・マンション群とユーカリが丘線



 鉄道会社と不動産会社と言うのは気っても切れない関係に有ります。日本の場合鉄道会社が鉄道事業を始めるに当りその収支を内在化させる為と会社の収支を極大化させると言う目的の下で、鉄道事業と同時に不動産事業を行い鉄道事業でインフラに投資をした資本を保有した土地の値上がりで回収する為に都市民鉄を中心に中核的な副業として行われてきました。
 その様な鉄道会社と不動産事業の関係の象徴が阪急宝塚線沿線の開発や、東急東横線と田園調布の開発などであり、最大の規模で行われた成功例が田園都市線建設と区画整理事業を上手く活用した東急の多摩田園都市開発であり、この様な例は規模の大小の差は有れども大手民鉄では有る例で有ると言えます。
 しかしその逆と言う例も有ります。鉄道会社は公共事業を営む会社で有るので、社会的信用はかなり高いと言えます。その「鉄道会社」と言う名前を「看板」として利用する事で本業の不動産事業の社会的信用を高め他社との差別化ると言う「 紀州鉄道 」の様な例もあります。
 又この中間と言える「第三の例」と言える例も有ります。つまり土地を売る不動産会社が「看板」としてでは無く「自社の不動産開発の価値向上のツール」として、自分で不動産開発地の隣接鉄道会社を買収したり自分で不動産開発地内に鉄道を引いて運営したりする例も有ります。資本の流れ的に西武鉄道グループ(特にコクド)の大元である箱根土地と多摩湖鉄道の例は正しくこの様な関係で有ると言えます。
 
 正しく第一の例は「鉄道事業が主で不動産事業が従」と言う例ですし、第二の例の紀州鉄道のような例は「不動産事業が主で鉄道事業が従」である例と言う事が出来ます。又箱根土地と多摩湖鉄道の様な第三の例は「鉄道事業と不動産事業を総合的に取りまとめ相乗効果を狙う」形態と言う事が出来ます。
 今回はこの第三の例と言える「山万ユーカリが丘線」を取り上げる事にします。ユーカリが丘線は京成本線ユーカリが丘駅を起点に山万の開発したユーカリが丘ニュータウンの足として鉄道事業を運営されている鉄道で、その鉄道の運営母体はユーカリが丘を開発した不動産会社である山万㈱であると言う一風変った鉄道です。
 山万㈱自体は不動産会社であり、ユーカリが丘線はその不動産会社が経営している鉄道ですから分類としては「第二の例」とも言えますが、ユーカリが丘線の場合「山万の知名度・信用度」の為の鉄道では無く、ユーカリが丘内のコミュニティのアクセス機関として不動産会社が新交通システムを整備したという点が「鉄道事業と不動産事業の相乗効果を狙う」と言う第三の例の代表例として特徴的で有ると言えます。
 普通不動産会社は、自社が販売する分譲地へのアクセスを確保する為に、費用を出して近接の鉄道会社の路線に駅を作ってもらう事やアクセス用の支線を作って貰う事はよく有ります。(前者の例が中央線の国立駅・後者の例が 能勢電鉄日生線 )しかしユーカリが丘の場合そこで停まりませんでした。ユーカリが丘は開発に伴い京成のユーカリが丘駅が1982年に開設されましたが、山万はユーカリが丘開発の総合的な観点(駅から徒歩10分圏内を目指した山万ユーカリが丘線各駅の配置と言う考え方)から、都心へのアクセス整備だけでなく一歩進んでニュータウン内の交通機関を「ユーカリが丘線」と言う形で自前で整備します。総合的な計画の下で開発を行いその中で鉄道建設まで手がけると言う所まで徹底したと言うのはユーカリが丘が初めてでしょう。
 その様にユーカリが丘線は異業種の不動産会社がニュータウンの総合的計画の一環と言う明快なコンセプトで作られたと言う特徴の有る鉄道で有りながら、今までなかなか訪問する事が出来なかったので今回「鉄道を見ながら街を見る」と言うコンセプトでユーカリが丘を訪問をしてみる事にしました。

 「山万鉄道事業部 主要指標 (数字でみる日本の鉄道2003・2005・2006より)」
年度営業キロ駅数平均駅間距離輸送人員輸送密度営業収益営業費用営業損益客車走行㌔職員数
H13年4.1km6駅683m702千人958人/日214千円286千円▲72千円389千km28名
H15年4.1km6駅683m675千人911人/日208千円261千円▲53千円413千km27名
H16年4.1km6駅683m711千人964人/日210千円290千円▲80千円376千km27名

 (参考HP) ・ 山万株式会社HP  ・ ユーカリが丘HP  ・ ユーカリが丘線(山万鉄道事業部)HP  ・ ユーカリが丘の開発理念

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 ☆ 山万ユーカリが丘線試乗記 (06年9月13日)

 仕事の関係上なかなか一部の土曜日と日曜日以外に休みが取れず、加えて仕事の移動と絡ませてこの「関東鉄道めぐり」を書いている為に、なかなか仕事の用事が無い千葉・埼玉方面を訪問する事が出来ない私ですが、この日は偶々午後西船橋で仕事があり仕事の移動が西船橋がラストになったので、千葉方面を訪問する時間が取れたので、この後15〜17日に名古屋訪問時に同じ様な「ニュータウンに有る新交通システム」の桃花台新交通を訪問する事が決まっていたので、其れとの対比を兼ねて近くに有るユーカリが丘線を訪問してみることにしました。
 西船橋からだと東葉高速〜(勝田台乗換)〜京成本線と言うルートが一般的ですが、このルートは本当はパスネット使用なのでコスト感覚には乏しい私でも躊躇うほど東葉高速の運賃が高額なので、総武線〜(船橋乗換)〜京成線のルートで目的地のユーカリが丘を目指す事にしました。しかし船橋で京成に乗り換えても特急が来るとやり過ごすかもう一度乗り換える必要が有ります。こう考えるとユーカリが丘は「一度乗り換えないと都心に行けない(勝田台で東葉高速or京成特急に乗換が必要)」と言う点では「便利なニュータウン」とは言えません。
 しかし京成線随一と言える環境の良く開発されたニュータウンを抱えているユーカリが丘でも、周囲駅と乗降人数を比べると「勝田台(52,306人):志津(17,984人):ユ−カリが丘(21,732人):京成臼井(25,681人):京成佐倉(21,961人)」と言う結果になり、ニュータウンの開発は進んでいても其れが乗降人数に結びt類ているとは言えない状況です。まして京成にしてみれば「自社開発のニュータウンでは無いから、利用者が増えなければ特急を停める価値は無い」と考えるでしょう。この様な鉄道事業者と土地開発者が別事業者だと、アクセスの鉄道のサービス向上が鉄道会社の利益にならない(最終的に受益者は土地を持つ開発者と開発者から住宅を買った住民で、受益を土地を持たず利用者増だけに頼る鉄道事業者は最大の受益者とはなり得ない)為にニュータウン開発に取ってはマイナスが発生する可能性が有ると言えます。そういう点では「鉄道事業者と不動産開発者が一体=鉄道会社の住宅開発」と言う形態が一番好ましいのかもしれません。

 京成線の快速列車でユーカリが丘に着いたのは17時頃で、ユーカリが丘では学生などが中心となり平均すると10名/両程度の降車客が有ります。降車状況を見ると統計の乗降客数が示すように、手前の志津と比べてそんなに降車客は変わらない感じです。
 しかし京成ユーカリが丘駅の橋上駅舎を降りて、ユーカリが丘線に乗る為に北口に出て見ると明らかに他の京成線の駅とは別世界が広がっています。駅前広場は整備されていてその上にはペデストリアンデッキが整備され歩車分離が図られていて、その駅前広場の周りにはウイシュトンホテル・ユーカリプラザ等の商業施設等が集積されており(参照: ユーカリが丘駅前構想図 )極めて整然とした開発された町並みが広がっています。この様な立派な町並みが出来ているのは「計画の有る街づくりの素晴しさ」であると思います。
 駅前をチョットふらふらしていたら雨が降っていて段々暗くなってきたので、ペデストリアンデッキを歩いてユーカリが丘線の駅に向います。駅は順天堂大学ヘルスプロモーション・リサーチ・センターとユーカリが丘インフォメーションセンターとユーカリが丘防犯防災パトロールセンターと言う3施設が併設されています。只駅には作られた時代を反映してかバリアフリー的施設が見当たらなかったのは残念に思えました。

  
左:ユーカリが丘線の起点「山万ユーカリが丘駅」  右:街中を走るユーカリが丘線(山万ユーカリが丘〜地区センター駅)
  
左:車内の状況(地区センター→公園前 17時半頃)  右:ユーカリが丘線の車両@中学校前

 早速ユーカリが丘線に試乗する為に切符を買ってホームに上がります。駅には自動改札がありますが、機械が旧式の物でありパスネットが使えません。まあ地域利用が主体の鉄道なのでパスネットが使えなくても問題は無いとは言えますが、実際パスネット・パスモを導入するとサービスは向上しますがコストも掛かります。その点から考えると「直通運転の有無」「利用者のニーズ」等で割り切りながら独自の考えでパスネット・パスモ導入を考える姿勢も必要では無いかと考えさせられます。(例えばりんかい線がSuica・パスネット両方導入したのは良く分からない。Suicaだけでよかったと考えるが・・・)
 ホームに上がると丁度列車が入ってきました。ユーカリが丘線は「山万ユーカリが丘発山万ユーカリが丘行き」のループ運転で、その根元である山万ユーカリが丘〜公園間は棒線になっています。只ユーカリが丘線自体は朝晩7〜8分毎・昼20分毎と言う運行本数なのでこの施設で十分でしょう。(可能性は低いですが)都市計画上存在する駅反対方面への延長構想が実現した時にウィシュトンホテルをかわす様に駅を再構築しここで交換できる様にすれば対応できるでしょうから、その点で言えば「必要最低限」の設備で上手く機能していると言えます。
 取りあえず列車に乗り何処かの途中駅まで行って見ることにします。(参照: ユーカリが丘線駅概要 )列車の中には流石に未だスーツ姿のサラリーマンの帰宅者は多くは無いですが、中・高校生などの学生や私服姿の学生・勤労者や買い物帰りの客等が3両編成で20名程度乗っています。山万ユーカリが丘を発車して直ぐの地区センターでも数名の乗車が有りラケット型の路線の根元である山万ユーカリが丘〜地区センター〜公園前が利用客数で最大になります。

  
左:列車乗降風景@中学校前  右:住宅街の中に在り閑散としている中学校前駅

 公園前で「ラケットの先っぽ」に当たるループルートに入ったので、取りあえず一番奥に有る駅の「中学校前」で降りてみることにしました。山万ユーカリが丘でユーカリが丘線に乗った乗客の大部分の目的地がループルート各駅と言う事も有り、女子大前・中学校前で数名ずつ客が降りていきます。時間帯も有ってか降車客ばかりで山万ユーカリが丘に向う乗車客は少なく車内はだんだん閑散としていきます。
 試しに降りてみた中学校前は住宅街の中に有る駅で、駅の照明が明るく灯されているのですがそれ以外は駅の前に直ぐ住宅が広がっている事も有り殆ど真っ暗の状況です。ユーカリが丘線自体が「ユーカリが丘住民の暮らしの足」と言うコンセプトで、買い物等の商業施設はユーカリが丘駅周辺に集約させてユーカリが丘線ループ区間各駅は完全な住宅地して開発すると言う様に完全に役割分担をさせ、その結果ループ線各駅地域は完全に戸建て中心の住宅地となっています。
 丁度中学校前に降りた時に携帯電話が鳴り一言「持っている見積FAXで送って!」と掛かってきました。仕方なくコンビニを探し徒歩数分の表通りまで出てローソンを探しそこでFAXをしましたが、せめて駅前にコンビニ程度は有っても良いのかもしれません。実際(和洋女子大の)学生狙いでしょうが女子大前駅にはセブンイレブンが併設されています。今から変えて行くのは難しいかも知れませんが、ユーカリが丘線の各駅にコンビニや Y・Mメンテナンス の保育所や警備拠点などを置いて、駅を地域の小さなコミュニティ拠点にすると言うのも、街づくりの一つの方策で有ると思います。

  
左:地区センター駅のホーム(左の施設は「 アクアユーカリ 」)  右:ユーカリが丘の中心街を走る列車@地区センター

 中学校駅で途中下車をしたあと、再びユーカリが丘線に乗り今度はユーカリが丘の中心街であり色々な施設が有る地区センター〜京成ユーカリが丘駅周辺を目指します。偶々中学校前から乗った列車が夕方の増発用の送り出しの始発列車だった事も有り、中学校前から乗った客は私だけで井野・公園前からも合計で数人の乗車しかなく寂しい状況で地区センターに着きます。地区センターでは既に逆行きの列車を待つ人たちがホームで待っています。取りあえず築センターで降りてみることにしました。
 地区センターで降りて列車を見送った後、ホームの上から駅の周囲を見てみることにしました。地区センター駅から公園前方面を見ると一戸建ての低層住宅が広がっていますが、ユーカリが丘駅方面を見ると写真のように高層マンション・商業施設が広がり綺麗な夜景が広がっています。
 その夜景の中を山万ユーカリが丘発の列車が来ました。丁度6時半チョット前になっていたので駅発の列車には通勤帰りのサラリーマンもチラホラ見える様になってきていて、車内はかなり賑やかに見えました。やはりベットタウンと言う事も有り夕方〜夜になると賑やかになるようです。又地区センターからも買い物帰りの客が乗車して立ち客が出るほどの賑やかさで列車はループ線区間へ進んでいきました。


 ☆不動産会社が鉄道を経営するメリットとは?(総合的な街づくりと「施設」としての鉄道の存在について)

 ユーカリが丘線を地区センターで降りた後、地区センター〜ユーカリが丘駅周辺のユーカリが丘の中心地区を歩いて見ることにします。ユーカリが丘自体の都市計画では「駅前の立体開発地区」と位置付けられており、地区計画制度を活用して「 ユーカリが丘駅周辺地区地区計画 」が定められ一戸建・工場・倉庫は原則として建てられない様になっていると同時に建築物敷地面積の制限等の規制で、中心市街地として適当な大規模マンション・商業施設が立地できる様になっています。
 その為地区センター〜ユーカリが丘駅の地区は地区センターに隣接して立体駐車場が有り其処からスカイプラザ(低層階にサティや文化センターやクリニック・上は高層マンション)・ユーカリプラザ(商業ビル)・駅前広場・ウィシュトンホテルユーカリ・京成ユーカリが丘駅等の中心市街地として相応しい中心商業施設・交通拠点が置かれていて、それらがペデストリアンデッキで結ばれていて完全な歩車分離がなされています。加えて地区センター駅脇のアクアユーカリ・ユーカリボウルやユーカリプラザ内のシネコン等の娯楽施設も揃っていて、ユーカリが丘の中心として「此処で何もが揃う」街が造られています。

  
左:ユーカリが丘の大型SC サティ内部  右:ユーカリプラザ内部

 今回雨が降っていたことも有り、買い物はしなかった物の地区センター〜ユーカリが丘駅間の移動にスカイプラザ内のサティ・ユーカリプラザのペデストリアンデッキを通り抜け、小休止にユーカリプラザ内のマクドナルドでお茶を飲んだりして18時半〜19時過ぎの時間をこの「ユーカリの中心市街地」で過ごしてみました。
 雨が降る平日の夕食時と言う事も有って、私が訪問した時にはこのショッピングエリアから出てくる人やペデストリアンデッキを通り過ぎるサラリーマンは多く見かけましたが、サティの中も閑散としており買い物客も多いという感じでは有りませんでした。しかし店の構成等を見てみると「船橋・津田沼まで出る必要は無い」レベルの店が揃っていますし、立体駐車場等が上手く地区外郭に備えられており地区内の客だけでなく周辺の客も吸収できるように街が作られています。
 ユーカリが丘自体は昭和46年開発開始・昭和54年分譲開始と言う開発が始まってから未だ34年程しか経過していない程の若い街です。しかしこれだけ計画して街が作られ「中心市街地地区は集積が進むような計画」が策定されている為に、人工的な街でも此れだけの商業集積を集める事が出来街に賑やかさを演出していると言えます。

  
左:(手前から)ユーカリプラザ・ウィシュトンホテルユーカリ・ステーションタワー  右:ショッピングモール・ジョイナード及び立体駐車場と一体の地区センター駅

 それ以上に凄いのはこれらの商業施設の大部分が「山万プロディユースで所有も山万」と言う事です。加えてウィシュトンホテルユーカリ・アクアユーカリ・ユーカリボウルは山万グループで経営していると言う様に、まさしく「すべてが山万」であり「山万の息が掛かっている」状況に有るという点です。
 山万も不動産会社ですから、不動産賃貸物件を持っているのは有る意味当然の話です。しかし地域の商業施設の全てを所有していると言うのは有る意味驚きです。その様に土地開発者が商業施設のビルを所有している為、乱開発を防ぐ事が出来て地域の魅力を高める商業施設を集める事が出来ます。加えてホテルの様に「採算性に疑問の有る」為に誘致がしづらい施設も直営に踏み切る事により揃える事が出来ます。住宅主体のニュータウンであるユーカリが丘にホテルは採算的には厳しいと言えますが、ウィシュトンホテルの場合山万の関連会社経営のため採算性が厳しくても「街のツール」としてホテルを作ることが出来ます。その様な中核たる施設の多様性も又千葉に有るニュータウンの中でユーカリが丘の価値を高めている根源で有ると言えます。
 この様な「街の多様性の為に採算的に厳しい施設も一通り揃える」と言う考えは、鉄道にも生かされています。「山万鉄道事業部 主要指標」で示しているようにユーカリが丘線は慢性的な赤字体質で毎年数千万円の赤字を出しています。しかし「廃止」と言う事にならずに今まで維持されてきていますし今後も維持され続けるでしょう。これも山万が「鉄道も街のツールで有る」と言う考えで維持している事が大きいと言えます。確かにユーカリが丘線を廃止してしまえば「全ての御宅まで徒歩10分以内」と言う宣伝文句も使えずに山万がユーカリが丘内に持っている住宅地の価値も下がる事にもなり、不動産販売上もユーカリが丘線が必要な事は間違い有りません。しかしそれだけで毎年数千万円の赤字を出す鉄道を維持できません。其処に山万の「街の魅力を高めるツールとして公共交通機関が必要」と言う考えが根底に有るからこそ、ユーカリが丘線は維持されていると言えます。
 しかしこれらの「街のツール」としての採算性の低いor赤字の施設を維持するには、他で収益を上げて内部補助をしなければなりません。ユーカリが丘の場合その原資が「分譲販売」と同時に「商業施設賃貸収入」になります。つまりユーカリが丘線の場合建設費だけでなく運営費まで不動産事業に支えられていると言う事になります。良くニュータウンの鉄道建設の場合「廻り回って鉄道建設費が住宅価格に上乗せ」と言う事が有りますが、ユーカリが丘の場合「山万が街トータルで上げる利益で鉄道を維持」と言うスキームが出来ているからこそ、赤字の地域内鉄道を維持する事が出来るのです。

 これぞ正しく「不動産会社が鉄道を経営するメリット」でしょう。これが鉄道会社が経営しているのであれば、主力事業の鉄道事業(の一部分の赤字路線)を不動産事業でカバーと言う訳にも行かないでしょう。又「域内公共交通を軌道系でする」と言う発想も浮かんでこないと思います。(鉄道会社のニュータウンではまずバスで駅まで輸送と言う形態になるでしょう)
 それに対して不動産会社の山万は「街づくり」を総合的に考えて、「街には域内移動の軌道系公共交通が必要」と言う考えの下でユーカリが丘線を作ったと言えます。そこで真に驚くべきは「其処までのコンセプトを持って都市開発をした」と言う点でしょう。これは鉄道会社の開発したニュータウン・不動産会社の開発したニュータウンと言う問題でなく、山万の「ニュータウン開発への発想」の素晴らしさと言えるでしょう。
 例えばユーカリが丘を開発したのが京成でユーカリが丘線を京成が運営していたらどうなるでしょうか?鉄道事業者ですから新駅こそ造れどもニュータウン内の域内交通鉄道を作る発想が出て来るとは思えませんし、もし作っても今の段階で「ユーカリが丘線」が残っているか不安です。又見方を変えれば鉄道会社・不動産会社を見回して見ても「山上の不便なニュータウンへのアクセスに域内アクセス機関を整備した」例は有りますが、ユーカリが丘まで色々な意味で総合的に考えたニュータウン開発は殆ど無いと言えます。そういう点で考えると昭和50年代に宅地開発だけでなく商業集積や地域内公共交通やそれらを支える採算スキームまで先を考えてニュータウン開発をしていた山万と言う会社は「凄い会社」と言えるでしょう。

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 今回ユーカリが丘線とユーカリが丘ニュータウンを見てきましたが、正直言ってこれだけ「優れたコンセプトを持ったニュータウン」は他にはないでしょう。それだけ素晴しい街づくりで有ると言えます。
 山万自体は年商161億47百万円と言う不動産会社としては決して規模の大きい会社とは言えません。又ユーカリが丘自体も世帯数5,122世帯・人口14,562人と言う数字を見ると決して規模の大きいニュータウンとは言えません。又知名度・イメージで見ても東急の「多摩田園都市」等と比べても優れた物では有りません。そういう数字とイメージだけで見ると「平凡な不動産会社が開発した平凡なニュータウン」と言う事が出来ます。
 しかしユーカリが丘の素晴しさはその様な尺度で見ても分かる物では有りません。ユーカリが丘の素晴しさは今まで見てきた様な「街づくりのコンセプトの素晴しさ」と言う点に尽きると思います。山万は「自然と都市機能が調和した21世紀の新環境都市」「千年優都・・・ユーカリが丘 シティミレニアム」と言うコンセプトでユーカリが丘の街づくりを行っていますが、それだけでなく今でも将来を見据えて他のニュータウンでも社会的な問題になっている「 街の成長管理 」と言う事について積極的に考え、計画的な分譲や ユーカリが丘内での住宅買取・マンションへの買替促進等の施策 を行っています。
 この様な優れたビジョンや先進性がユーカリが丘の最大の魅力で有ると思います。「街の成長管理」と言うテーマは「1999年度日本不動産学会業績賞受賞」テーマで有り、この様な賞を受賞したりテレビ東京のワールドビジネスサテライトで取り上げられる等各方面から注目を集めています。この様な先進性の有る都市開発で有るからこそ開発開始から34年、私とほぼ同い年の都市ですが段々老いを感じつつ有る私と異なり未だにその若さを維持しているのではないかと思います。
 その先進的なビジョンに加えてその都市の中で「鉄道(公共交通)もツールで有る」「都市の総合的な力でツールを維持して行く」と言う恒久的なスキームを作り出したと言う点も、ユーカリが丘が「社会に示す先進性」であると思います。

 街づくりは正しく「一朝一夕では成らない物」です。何年にも渡る開発・その後の何十年に渡る人の営みの中で作られていく物です。しかし今まで特に公的セクターの開発では「開発」が重視されその後の「人の営み」の中で「街を如何するか?」と言う視点で街づくりがされる事は乏しかったと思います。しかし山万の場合「ユーカリが丘が飯のタネ」と言う理由も有るでしょうが、「人の営みの中で成長しつつ事業的にも成り立つ街づくり」が行われていたのが、今になり成果を上げてきたと思います。
 今日本中に「高齢化が急速に進むニュータウン」や「公共交通が赤字で廃止されたニュータウン」など、開発だけでは解決できなく営みの中で解決すべき問題が発生しているニュータウンが出て来ています。しかしこれらの問題には解決策が無いわけではありませんでした。「でした」と言う過去形表現になるのはその様な問題点はニュータウン建設時点から有る程度計画的に将来の問題を解決するスキームを埋め込んでおかなければならない問題でした。「高齢化」の問題も「計画的な分譲で入居世代を広範囲に散らす」等の方策が必要ですし、「公共交通が赤字で廃止されたニュータウン」と言う問題には「賃貸収入の確保等でニュータウン全体でツールを資金的に支えるスキーム」等の計画を持ったビジョンが必要です。
 その様な問題にも「未来を見据えて計画を立ててきた」と言う点がユーカリが丘の魅力で有ると思います。民間企業が開発したニュータウンだからこそこの様な素晴しいニュータウンが出来たと思いますし、鉄道会社のニュータウンではなく特異な不動産会社のニュータウンだからこそ「新交通システムを域内交通に使った」先進的なニュータウンが出来たのだと思います。ユーカリが丘線の場合鉄道だけを見ても良く分からない、街と一体に見てこそユーカリが丘線の素晴しさが分かるのだと今回訪問して感じさせられました。





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