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東 京 行 き 列 車 は 重 要 か ? 

− 寝 台 特 急 出 雲 廃 止 に つ い て 考 え る −



TAKA  2005年12月25日




  

(東京駅での寝台特急出雲・サンライズ出雲 12/22撮影)



 ※本記事は「 TAKAの交通論の部屋 」「 交通総合フォーラム 」のシェアコンテンツとさせて頂きます。


 皆さんこんばんはTAKAです。
 今現在東京〜出雲市間に運行されている寝台特急出雲について、来年3月18日のダイヤ改正で廃止し代替手段を講じるする旨がJR西日本から鳥取県に伝えられたという報道がされました。
 「 JR社長が寝台特急「出雲」の廃止、代替策示す (山陰中央新報)」
 「 寝台特急:「出雲」廃止へ JR支社長、県に伝える 「公共性無視」知事反発  (毎日新聞)」
 「 寝台特急「出雲」廃止も JR西、乗客減で検討  (共同通信)」
 「 「出雲」廃止を正式発表 JR西、サンライズで代替輸送へ (産経新聞)」
 「 平成18年春のダイヤ改正 (詳細)JR西日本HP」
 私は残念ながら出雲も利用したことも有りませんし、鳥取にも行った事は有りません。只一般的内容として、出雲と鳥取県を取り巻く状況として「寝台特急は利用率が低下している」「出雲は24系で運行されていて老朽化が進んでいる」「鳥取県自体は人口も少なく対東京への流動も多くない」と言う事は知っています。
 しかし今回の廃止問題では鳥取県知事や鳥取県議会は、新聞記事に有る様に反発し、鳥取県議会が「余部鉄橋改築の補助金予算に対して、出雲存続を求める付帯意見を付ける」等の事を決定したりしています。
 けれども出雲はそんなに必要な交通手段なのでしょうか?片山県知事は「強風による鉄橋の運行停止で定時性を守れないのはJR側の問題と指摘。作られた不採算で、公益性を考えているのか。憤りを感じる(上記毎日新聞より引用)」と言われていますが、鉄道たるもの公共性が有る物なのは当然ですが、その公共性は利用客の数に比例すると言う事はないのでしょうか?
 その様な「出雲廃止」と言う問題について、考えて見たいと思います。


 (1)鳥取と大都市(東京・大阪)を結ぶ交通事情

 先ずは鳥取を含む山陰各都市と大都市(東京・大阪)を結ぶ交通事情について、その概要を見てみたいと思います。

● 東京〜山陰各都市間
都   市航空機昼間列車(乗換含む)夜 行 列 車高 速 バ ス
鳥 取(人口 201,437人)4往復6往復(スーパーはくと+のぞみ)約5時間半1往復 約11時間1往復 約10時間半
米 子(人口 147,837人)5往復13往復(やくも+のぞみ)約5時間半2往復 約11時間20分(サンライズ)1往復 約10時間45分
松 江(人口 194,852人)13往復(やくも+のぞみ)約5時間50分2往復 約11時間40分(サンライズ)1往復 10時間半
出雲市(人口 148,746人)5往復13往復(やくも+のぞみ)約6時間20分2往復 約12時間10分(サンライズ)1往復 11時間半


● 大阪〜山陰各都市間
都   市昼間列車(乗換含む)高速バス(昼行・夜行計)
鳥 取(人口 201,437人)7往復( スーパーはくと )約2時間10分20往復 約3時間10分
米 子(人口 147,837人)15往復(やくも+のぞみ)約2時間50分18往復 約3時間半
松 江(人口 194,852人)15往復(やくも+のぞみ)約3時間15分8往復 約4時間40分
出雲市(人口 148,746人)15往復(やくも+のぞみ)約3時間45分8往復 約5時間半

 ※時間・本数は手元に有る05年6月時刻表から探し出した物です。

 こう見ると、山陰各都市間で以外にも鳥取が一番人口が多いが、対大都市への公共交通が一番劣っているのは鳥取で有るとも言う事が出来ます。これは航空は米子・松江・出雲3都市で2空港を併用し、鉄道は米子・松江・出雲3都市を「やくも」がカバーしている為に、鳥取・倉吉(人口 約53,000人)の需要だけに対応の鳥取空港・スーパーはくとに比べて有利いう条件が有るからだと言えます。
 しかし鳥取が山陰各都市に比べて、大都市との地域間公共交通で多少本数等が少なくても、決して劣っている訳では有りません。山陰〜東京では主力は航空機であり、航空機の本数が劣っている訳では有りません。又対大阪で見れば本数で劣っていても、直通2時間半のスーパーはくとが有るため、高速バスの充実振りと合わせて見ると、山陰都市間では劣っている訳では有りません。
 地方の対都市間公共交通では「空港(飛行機)・新幹線(高速鉄道)・高速道路(高速バス)」が三種の神器と言える存在ですが、飛行場は各都市整備されていますし、新幹線は各都市有りません(ただし陰陽連絡の高規格鉄道の 智頭急行 が有る分鳥取が若干有利)。各都市で差がつくのは 高速道路の整備状況 だけです。鳥取は今整備中の高速道が出来ても高速道で大都市と直結できない分、高速道路の整備が明らかに遅れていると言えます。
 けれども今回主題の対鳥取〜東京輸送で見れば、主力の航空機では対等の状況で、寝台特急でサンライズが無い分劣り、新幹線連絡ではスーパーはくとの接続が悪い分若干劣ると言う状況です。
 決して高速道の整備状況以外は、鳥取が山陰内で比べれば、対大都市輸送で決して遅れている状況に有るとはいえないと考えます。


 (2)寝台特急出雲とサンライズ出雲の利用状況

 では今回の廃止問題で話題になっている「出雲」と「サンライズ出雲」の利用状況に関しては如何な物でしょうか?実際に12月22日夜東京駅に利用状況を見に行ってきました。
 「 出雲・サンライズ出雲 概要 (wikipedia)」「 出雲 (JRお出かけネット)」「 サンライズ出雲 (JRお出かけネット)」
 
 12月22日は、21:10発出雲・22:00発サンライズ出雲の状況を見る為に、21時前に東京駅に到着しました。寝台列車の発着する10番線に上がった時には、既に出雲は入線していました。出雲は列車運行であり、機回し線が無い東京駅での折り返しである為、普通より折返し時間を多めに取っているのかも知れません。
 出雲は24系寝台車で9両編成で運行されています。(電源車*1・フリースペース(元食堂車)*1・A個室*1・B寝台*6)一般的な寝台の編成と言えども、人気が有る寝台列車は個室が主流になりつつある状況を考えると劣る状況ですし、昔の長大編成で運行されていた時代から振り返ると寂しい限りの編成です。
 既に乗車が始まっていたので、ホームには9番線の列車に乗る通勤客以外は、乗車を急ぐ人が居るのと廃止を聞いて来たと思われる鉄道ファンが数名要る位です。早速ホーム上から利用客数を数える事にしました。(利用する訳ではないので車内には入れない)

● 出雲利用者数
列車名A寝台B寝台合計定員乗車率
出 雲6名72名78名214名36.4%

 実際のノリホを手に入れている訳ではないので、正確の数字は分かりませんが、上記表の数字は年末の3連休の前日と言うちょっと普通とは違う日の下り列車と言う事を考えると、なんともコメントできないと言えます。只東京時点で上記表の利用客・利用率の数字は、上記報道で挙げている「最近は乗客が平均約80人(共同通信)」「県によると、出雲の乗車率は約3割(毎日新聞)」と言う数字と合わせて考えると、実態を示している数字なのかも知れません。
 確かにこの数字が出雲の一般的利用客の数字であれば、極めて厳しい乗車率で有ると言えます。

 出雲出発後、駅構内の喫茶店で時間調整した後、21:40頃もう一度9番線に上がり、サンライズ瀬戸・出雲の状況を見に行きます。少し早めに上がってみたら、未だサンライズは入線はしていません。案内放送によると「入線は21:50頃です」との事です。入線〜発車まで10分と言うのは長距離列車としては短すぎる感じもしますが、電車特急の折り返しと考えれば普通です。電車並みのフレキシブルな運転が出来るのは電車寝台のメリットです。
 段々ホームに「いかにも長距離客と言う人々が増えてきたな?」と思った矢先に、サンライズが入線してきます。7両*2編成=14両編成ですから、かなり長大編成で15両対応のホーム一杯になります。長大編成が「途中まで併結運転・目的地近くで分割」と言うサンライズの効率のいい運行体制を作っていると言えます。
 早速サンライズも乗車人数を数えてみる事にしました。しかし個室主体のサンライズの為、見える所から乗車人数を数えても実数がつかめません。時刻表の席番案内によると、のびのびシート・シングルデラックス・サンライズツイン以外は真ん中の通路から対象の席配置で、それ以外のシートはホームからカウント可能と言う事で、「のびのびシートは実数、それ以外はホームからのカウント数*1.7(見えない所の乗客数を少なめに計算)で概数を算出」と言う計算で全体の乗客数の算出をしてみようと思います。(ノリホが有ればこんな事をしなくて良いのだが・・・。一鉄道ファンの限界を感じます。)その結果は下記の通りです。

 ● サンライズ瀬戸・出雲利用者数
列車名のびのびシートその他その他部修正数字(その他*1.7倍)合 計定 員乗車率
サンライズ瀬戸10名34名58名68名158名43%
サンライズ出雲24名41名70名94名158名59%

 この数字から見ると、瀬戸より出雲の方が利用率が高く、出雲とサンライズ出雲を比べると、乗車率自体はサンライズの方が良いですが、利用者数で見るとサンライズ出雲と出雲の利用者数はそんなに変わりません。出雲は兵庫県北地域・鳥取・倉吉が対象地域でサンライズ出雲は米子・松江・出雲市が対象地域であるという差を考えると、絶対的利用客数では意外に出雲は利用されていると言えます。逆に最新鋭で個室主体の寝台特急で、しかもターゲット地域は有効時間帯に適合しているサンライズが、これだけの利用率しかない事に驚きを感じます。
 但し客車寝台の効率の悪さを考えると、出雲は効率が悪いと言えます。その点サンライズは電車利用の運転効率の良さが運行の採算性を上げている可能性は高いと言えます。


 (3)出雲の廃止問題について考える

 この様な利用率の中で、今回出雲は廃止されることになりました。確かに1列車の利用率として3分の1程度と言うのは鉄道会社としては効率が悪い数字で有ると言えます。その点では今回のJR西日本の決断は間違えては居ないと思います。
 只本来一番出雲廃止の影響を受けるのは、鳥取県内ではなく、兵庫県北部地域特に香住・浜坂の両地域で有ると言えます。少なくとも鳥取に関しては、「鳥取21:45発〜上郡23:10サンライズ乗換の接続列車を運行(山陰中央新報)」との事であり、乗換の手間は出るものの所要時間が約1時間短縮され、決して不利な条件では有りません。
 まして鳥取〜東京間の移動の主体は既に飛行機に移行していると言えます。出雲は最終飛行機より鳥取を約30分遅く出て始発飛行機より約3時間半早く東京に着く列車(上り)であり、その点では飛行機よりかも特に鳥取の住民にとっては利用価値の有る列車です。
 しかし現実としては絶対数では飛行機の方が利用されているはずです。普通のビジネスマンであれば「最終飛行機に乗り遅れた」と言う様な事が無いと利用しないはずです。
 (片山知事に、「出雲廃止を反対されるのならば、東京出張が多い知事は出雲を利用された事は有りますか?」と聞きたいです。普通ならば余程の事が無いと利用されないのでは有りませんか?)
 
 これが「東京〜鳥取間の飛行機が減便」と言うのであれば、大反対するのは分かります。又余部鉄橋の架替費用の大部分(約6割5分)を出し、近接の但馬コウノトリ空港から東京への航空便が無い兵庫県が「県北の対東京輸送を確保する」と言う名目で出雲廃止に反対するならまだ分かります。
 しかし鳥取県が廃止に反対し、「利用率が低いのは余部鉄橋の強風での運転抑止による、作られた不採算」と主張するのは、余部鉄橋の架け替え費用を1割5分強しか出していない事から考えてもイマイチ説得力に欠けます。鳥取県に取り出雲が対東京の大動脈であり、そのネックが余部鉄橋であると自覚しているのなら、もっと費用負担をするべきです。その様な負担が無くて只廃止反対を主張しているのでは説得力に欠けます。
 この様なことから考えると、鳥取が出雲廃止に反対する真意は「東京行き列車がなくなる」と言う事、その物に反対しているのではないでしょうか? 今回極端に利便性の低下しない代替案をJR西日本が用意しているにも関わらず、鳥取が強行に反対している真意は「代替案では東京行き列車が無くなる」と考えているからではないでしょうか? 私にはその様にしか考えられません。
 確かに地方にとって見れば「東京行き」列車は「地方と東京の一体感を熟成する」と言う側面からも、イメージ的に極めて重要な物であるかもしれません。昔戦争中になりますが、東京が何回も大空襲を受け、東京駅への列車の運行が困難になった時に、軍部は「東京行きの列車を絶対運行しろ。東京行き列車が空襲で運休で横浜行きになれば士気に影響する」と主張したそうです。その様に東京行き列車のイメージは昔から地方にとっては非常に重要だったのかも知れません。それが今まで残っていても可笑しくは有りません。
 しかし現在はそんなイメージ論を言っている時代では無いと思います。実態として長距離の殆どの客が航空機を利用する時代では、「代替交通手段が有り不採算で有っても公共性の側面から東京行き列車を維持しろ」と言う主張が通るというのは可笑しな話です。
 JR西日本はもし鳥取県が抵抗を続けた場合、最悪は天秤に掛けて、余部鉄橋架替補助金4億8千万円を返上しても、赤字垂れ流しの出雲廃止を強引に実行する可能性も有ります。そうなった場合JR西日本と鳥取県の関係は拗れてしまい、中長期的に鳥取県の交通体系を考えて見れば損害の方が大きくなってしまいます。

 私は鉄道に関しては、一鉄道ファンで有ると同時に、自称「(相対的)採算性重視論者」でもあります。鉄道ファンとしては確かに出雲の廃止は残念な物が有ります。しかし冷静に考えれば、これだけ利用率が低く現代のサービス水準から取り残された、出雲の廃止は有る意味至極当然で有ると言えます。又JR西日本が接続列車の運行と言う提案もしており、JR西日本は冷静に考えれば効率性と公共性を考えた上での提案をしていると感じます。逆に反対する鳥取県に感情論が見られます。
 本来は公共の立場も冷静な立場に立ち対極的な判断をしなければなりません。「利用率が低く」「車両も老朽化しており代替客車導入も困難でしかも機関車の老朽化が進みつつある」「非電化の為サンライズ車両(285系)導入も困難」と言う状況で、既に出雲の梃入れ策は無い状況に有ります。
 この様な状況の中で、総合交通体系の中で如何にその存在を代替して、全体の利便性を維持するべきかを、自治体は考えなければなりません。此処でJR西日本を出雲から開放してあげれば、その不採算の負担から開放された分他に投資する余力が出てくる可能性も有ると言えます。その点から考えれば、出雲廃止を接続列車確保を条件に飲んで、代わりにスーパーはくとや鳥取〜米子間の山陰線昼行特急・快速の増発や因美線鳥〜郡家間高速化への協力を求めた方が、鳥取県全体の交通体系を考え場合に重要で有ると言えます。
 ですから鳥取県は「既に存在意義を失いつつある東京行き寝台特急」に固執する事は止めるべきであると考えます。補助をつぎ込んで残すにしても、JRに強く迫り赤字を負担させて残すにしても、デメリットしか残りません。この廃止反対運動が「条件闘争」と言うのなら未だ分かります。それならば引き時が有るはずで、それも既に引き時が迫りつつ有るかな?と感じます
 今回のこの問題に関しては、JR西日本の対応を評価すると共に(只構想の段階でも良かったので、根回し的にもう少し早く鳥取県に伝えるべきだったかも知れないが・・・)、鳥取県には大所高所に立った判断をする事を期待したいと思います。





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